改めて。六月大歌舞伎@歌舞伎座。
今月は、「小川家・襲名&初舞台披露」であった(笑)。
五代目時蔵が初代萬壽(まんじゅ)、
四代目梅枝が六代目時蔵を名乗ることとなり、
新・時蔵の長男大晴くんが五代目梅枝として初舞台。
また、獅童の長男次男がそれぞれ、初代晴喜(はるき)・初代夏幹(なつき)
としてこちらも初舞台、……ということで昼夜とも御披露目の公演となった。
私が歌舞伎を自分の意思で見るようになった二十代の初めの頃、
五代目時蔵は、とっくに時蔵であった。
先代が早くに亡くなったのもあり、五代目は若々しい青年時代に
時蔵を襲名し、そのまま、私の印象の中でトシを取らなかった。
「父は、亡くなるときまで時蔵だと思っていた」
と四代目梅枝(新・時蔵)が各所のインタビューで言っていたが、
それは観客としての私も全く同感であった。
その美しい時蔵のまま初代萬壽となった今回の御披露目が『山姥』。
孫の大晴(新・梅枝)と共演したいと、たっての希望であったそうだ。
9歳の梅枝は、花道で見得を切る姿が既に立派な役者。
怪童丸(のちの坂田金時)の踊りも大変に頼もしかった。
幼い息子の旅立ちを、涙を浮かべつつも誇らしく見送る山姥の姿は、
そのまま、今の萬壽であろう。
萬壽によると、梅枝というのは幼名なので、これを孫に名乗らせたい、
息子もまた十分に立派になって、時蔵を継がせるときが来た、
と考え、今回の襲名となったとのことだ。
一方、獅童の息子さんたちは『魚屋宗五郎』の丁稚役で初舞台披露。
7歳の晴喜・4歳の夏幹はまだまだ小さいが、どちらも笑顔がいいし、
大きなお声で立派に務めていて、実に天晴れであった。
獅童は獅童で、今月は昼も夜も初役が多くて八面六臂の大活躍。
『魚屋宗五郎』の宗五郎、『上州土産百両首』の正太郎、
いずれも江戸前で、獅童のシャープな容貌と持ち味が生きていたと思う。
特に私は、正太郎の一本気な熱さが気に入った。
その『上州土産百両首』、菊之助の牙次郎が私の大きな目当てだったのだが、
やはりプリンス菊之助の当たり役と、確信を深めた。
おぼつかない足取りで花道から登場し、正太郎を訪ねてきて、
家にあがるところでいきなり蹴躓いて草履を吹っ飛ばす形が最高で、
「あれれ、草履がどっかにいっちゃった」。
がじ@菊之助は、あまりにも愛らしく、いとおしい。
近年、菊之助のふとした面差しに「昔の旦那(菊五郎)さんにそっくり」と
思うことが増えて来ていたのだが、この「がじ」の柔らかさは異色で、
当代菊五郎とは全く違う味わいだ。
しかしそれとは別に、今回のは、前に芝翫の正太郎で見たときより、
明らかにBL味(爆)が感じられたのだが、何が理由だったのだろうか。
天使である牙次郎に色恋が無いのは当然としても、
いい男の正太郎が、おそで(米吉)という可憐な娘がそばに居ながら、
結局「あじゃがじ」のことしか眼中に無いなんて(^_^;。
この正太郎と牙次郎は、つまり魂の恋人同士、相思相愛ですよね!?
ゆえに黄泉路までも、ともに。夫婦は二世(にせ)、……違いました!??
七之助が『宗五郎』の女房おはま役で出ていて、
これがまたぴたりとはまったいい味であった。七之助の充実ぶりは素晴らしい。
私は観ながら、大昔、菊五郎旦那が初役で宗五郎をしたとき、
七之助の祖父の七代目芝翫が務めていた「おはま」を思い出したりした。
七之助の顔立ちはまさに成駒屋だ。
そこに若々しい感覚があって、姿が良いうえに相手役との呼吸も見事、
実にいい女形になったんだなあと感慨深いものがあった。
新・時蔵の御披露目は『妹背山婦女庭訓 三笠山御殿』の「お三輪」。
「通し」で観る機会のあるような芝居でないので、
全体としてどういう話になっているのか、実は私にはよくわからないうえ、
代々の時蔵の襲名披露の演しものと言われても、痛めつけられるお三輪では、
感覚的にどうも「寿(ことほ)ぐ」気分にもうひとつなれなかった。すみません。
しかし大役であることは間違いないし、時蔵のきめ細かな芸があってこそのお役で、
しかも、清らかな田舎娘の設定でありながら、
心身ともに「いたぶられる」姿に堪えられない色気があるというのは、
なかなか深い境地ではあるよな、と感じ入った。
この演目での金輪五郎今国の松緑は芸の大きさが際立っていたが、
『宗五郎』の鳶吉五郎では軽妙に明るく見せていてこれも流石だった。
菊五郎・又五郎・歌六・錦之助・魁春と、
このたびの華やかな襲名披露に相応しい顔ぶれで、実に贅沢であった。
中でも仁左衛門の豆腐買おむら、御馳走過ぎた(笑)!!
八犬伝で勢揃いした若手たちも色とりどりで、
この世代はまたいい役者が揃っているのだなと、将来が楽しみになった。
男寅は兼ネル若手という感じだが、女形に力点を置くのだろうか?
そういえば新・梅枝は、親の名とは逆に立役がやりたいと主張しているそうで、
見得を切るのが大好きという話がイヤホンガイドの幕間インタビューで出ていたが、
さてこちらは今後どうなるのだろうか。
左近も松緑とは持ち味が異なるし、声も太くないようなのだが、さてさて…。
何であれ各々、自分の演りたいものをこそ、演れるようになって欲しいし、
立役・女形には関係なく、「いい役者」になって欲しいばかりだ。
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