元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

パイロットキャップレス ~初めて万年筆を使う人にも~

2012-04-29 | 仕事について

万年筆は独特の良い雰囲気があるので憧れを持っている。使ってみたいと思うけれど、書くことがほとんどないし、何に使うのか目的がないので手を出しにくい

万年筆を使っていない人は、万年筆に良いイメージを抱きながらもそう言われることがよくあります。

でも私も万年筆と出会っていなかったら、紙に書くということがほとんどなかったかもしれません。

ほとんどないとは言え、手帳を書いたり、打ち合わせなどでメモをとることくらいはあって、皆無だったわけではない。

使う用途がないと思っている人はきっと、手紙を出すとか、原稿用紙を書くとかという大げさに、書くということを捉えているのかな?と思います。

またゆっくり机に向かって、何かを書くということが毎日の仕事の中でない、1日中お店に立っているとか、外回りで常に移動しているという人も万年筆には及び腰になってしまうかもしれません。

でも私も書いているもののほとんどは立ったままや、移動中の電車の中で書いたもので、そういうシーンで便利に使うことができる筆記具やノートにはかなり意見を持っています。

キャップレスなら、立ったままの姿勢でも片手で使い始めることができるので、仕事中や移動の車内などでも煩わしくなく、手軽に使うことができると思います。

キャップレスはボールペンのように尻軸をノック(回転式もあり)するとペン先が出てきて、書き始めることができるという独特の機構を持っていますが、書き味は他の万年筆と変わらない、むしろキャップレスの書き味は良い部類に入ります。

キャップレスの18金のペン先は柔らかくて気持ち良く書くことができると、評判が良い。

便利で書き味が良い万年筆キャップレスを使わない理由があるとしたら、便利すぎて他の万年筆が使えなくなるということになり、それはキャップレスが初めて万年筆を使う人にも万年筆を使い慣れた人にも使いやすいものであること証明していることに他なりません。

様々なところでよく提案されている初心者用万年筆の代わりにキャップレスもその候補に入れて欲しいと思っています。

 

軽くて携帯に最も便利なキャップレスデシモhttps://www.p-n-m.net/contents/products/FP0249.html
渋い艶消しキャップレスマットブラックhttps://www.p-n-m.net/contents/products/FP0295.html
筆記バラスを考慮したキャップレスフェルモhttps://www.p-n-m.net/contents/products/FP0307.html


杢との出会い

2012-04-27 | 仕事について

温かみがあって、使うごとに艶を増す木の良さから、さらに深化した楽しみが杢を観るということです。

その木本来の模様である木目が自然の中で何らかの影響を受けて特別な模様を成す。

鳥の目のような模様がたくさん出るバーズアイがたくさん出るもの、縞模様が見る角度によって浮き出たように見える縮み杢、あるいは波杢などなど。

杢を感じて楽しむのは木目を感じる以上の何か嗜みに似た、粋な世界だと私は思っています。

杢との出会いは本当に一期一会で、二度と同じものに出会うことはできない。

また出会った時、素晴らしい杢だと思ってももしかしたらもっと良い杢と出会えるかもしれないとも思うけれど、出会えないかもしれない。

それはまるで男女の出会いのようなスリリングなものだと言うと大げさなのだろうか。

でもこれも男女の出会いと同じなのかもしれないけれど、一度出会って惚れて、自分のものにした後はいたすらそれを愛でて、手をかける。

手をかけることによって、杢はさらに自分にとって美しく変わってくれる。

出会いの時のインパクトの強い感動から、緩やかで落ち着いた心のあり方愛着へと変わっていく。

そんな心に作用する杢をまとった銘木の品々。

工房楔のコンプロット10は、木工家永田篤氏が特に良いと思った杢が、比較的大きな面積で取れる選りすぐりの素材を使って作られています。

もちろんその模様は当店に納品されるたびに違っていて、でも入ってくるたびにそれらひとつひとつのものを私たちは好きにならずにはいられない、見せ所が必ずあるものばかりです。

また新たに、美しく華やかな花梨こぶ杢(https://www.p-n-m.net/contents/products/SF0137.html)と抑えた味わい深いちぢみ杢のウォルナット(https://www.p-n-m.net/contents/products/SF0051.html)が入荷しました。


研ぎの美しさ

2012-04-26 | 仕事について

マニアック過ぎる話なので、今まで避けてきたイリジュウムの研ぎの話。

自分が書きやすいと思った万年筆のペン先をルーペで見る癖があったのは、ペン先調整をする前からでした。

たくさんのペン先のイリジュウムの形を見て思ったのは書きにくい理由は見えるけれど、書きやすいと思ったものには様々な形があるということでした。

どのような形にすれば最上の書き味になるかはまだまだ探究中ですが、さまざまなペン先の研ぎの中で最も美しいと思っていて、許されればそれに近付けたいと思っているのは角研ぎ以前のペリカンのイリジュウムの研ぎ方です。

筆記角度やペン先の向きなど限定されるので多少調整で合わせるか、書く人がペンに合わせるかしないといけなくて、今の丸研ぎのペン先の方が扱いやすいのかもしれませんが、角研ぎのルーペから見える美しさは丸研ぎの比ではありません。

角研ぎの中でも60年代から70年代前半まで作られたペリカンM60のペン先はほとんどのものが美しい。

もちろん書き味も素晴らしい。

ペリカンM60は総14金張り(キャップだけ金はM30といいます)のあまり大型ではないボディにあまり大きくはないペン先の吸入式万年筆です。

デザインなどそれほど優れたものではないと思っていますが、その書き味は秀逸です。

もちろん書き味は好みがあるものですので、押し付けはできませんが、私は良い書き味のひとつの正解をこのペリカン60に見ます。

委託販売に2本のペリカン60が今揃っています。売れてしまった時は悪しからず。34000円です。


旅の扉更新しました

2012-04-24 | 仕事について

WRITING LAB.のブログ「旅の扉」(http://writinglab.jp/)更新しました。

仕事が終わりや、1週間の終わりに自分をリセットできるような場所がボンクのように私にもあればいいなと思います。

でも、もしかしたら日曜日の閉店後、暗く人通りもない場所にある当店の中で書き物をしたり、調べ物をする一人だけの時間は、自分をリセットする時間なのかもしれないと思います。

 

WRITING LAB.って何?とよく聞かれます。

当店と京都山科にあるインディアンジュエリー・ステーショナリーショップ「RIVER MAIL」との共同ブランドで、皆で集まって話し合いを重ねて出来上がったものを具体化していく集まりです。

私は仕事が遅い上に引っ込み思案な性質がわずかにあるために、オリジナル商品のアイデアがあってもなかなか実現しなかったり、そのままアイデアで終わってノートの肥やしになってしまうことがよくありました。

でも「RIVER MAIL」の駒村氏が良き理解者として私の背中を押してくれるような感じで話が進むことが多く、自分が日頃良いと思っていたものを実現することができています。

サマーオイルメモノート(https://www.p-n-m.net/contents/products/WL0002.html)は私が革を裁断して自作して使っていたメモ帳を商品化しています。シンプルで素材感丸出しの仕立ては私が理想としている物作りです。

そう言えば地図柄のキャバス地ノートカバーも私の地図好きを反映している。(目盛り好きは反映されていないけれど)

要はWRITING LAB.においてもやりたいことはやらせてもらっていて、何不自由なく仕事ができていると皆様にお伝えしたいと思っていました。そして、暖かく見守っていて欲しいと。

きっと私が相棒とする駒村氏のことを自分の会社を成功させて、インディアンジュエリーのお店も立ち上げたヤリ手のビジネスマンと紹介したために、資金的な支配関係があってWRITING LAB.に当店の意見が反映されていないのではないか、など心配して下さっている方もおられるのかもしれません。

そう言えば当店を始めた時、ル・ボナーさんが当店のスポンサーになっているという噂も一部であったそうです。

スポンサーがいて、それで仕事を始めると資金的には不自由しないけれど、他の部分で不自由になります。

それでは何のために独立して店をしているのか分からない。

私は誰かにお金を出してもらって仕事を始めるよりも、自分でお金を借りてする方をこれからも選ぶと思います。


話を元に戻すと、駒村氏と初めて会った時、どこかで会ったことがあったかな?と思いました。

何か他人ではないような親近感を覚えたのですが、それは駒村氏の中に自分を見たからだと後で気付きました。

何もかも違うにの、なぜそのように思ったのか分かりませんが自分が違う形になった感じを駒村氏から受けたのでした。

当店は5年間、非常にマイペースでやってきましたが、駒村氏が参加してくれるWRITING LAB.はちょうど良い刺激になっていて、今までやろうと思っていてもしていなかったことなどを実行できるようになりましたので、WRITING LAB.の活動は私にとって良い張り合いになっています。


理想の文房具

2012-04-22 | 仕事について

世界中の中でも最も選択肢の多い日本の文房具ですが、種類はあるけれど学用品的なものが多数を占め、大人の人が仕事で使うには物足りないということが多いと思います。

文房具は安くなければいけないという業界の固定概念のようなものもあるので、良いものを作ることが難しい。

安く売るためには、たくさん作って、たくさん売るようにしないといけないということにどうしてもなってしまいます。

安く作る大量生産品ではバラつきの出る自然の素材は使いにくい。

良い素材ほど丁寧に扱わないといけないデリケートさもあるので、どこにでもデリバリーすることができないなどの理由で文房具には握り心地や使い込む楽しみのあるものは非常に少ない。

日々文房具を使っている人が使わなければならないから我慢して使っているものを満足して使えるようにする、ということが商品を考える時の考え方だといつも思っています。

本当は理想のものがあるのだけど、これしかないから我慢して使っているもの。

工房楔のカッターナイフ(https://www.p-n-m.net/contents/products/category2-12.html)は、そんな我慢して使われている人が多い文房具であるカッターを銘木で仕上げています。

握り心地も自然の木を良い腕、丁寧な仕事で仕上げていますのでとても良いし、木の魅力を一番感じられるエージングすることの楽しみ。

使い込むうちに木は艶を増して、何とも言えない良い光沢を持ちます。

そういった文房具はお仕事をより楽しいものにしてくれるし、仕事が楽しくなると1週間のほとんどが楽しくなります。

新品の時が一番美しいものは使ってボロくなっていくのを見るのが辛いですが、使うごとに良い変化をしてくれるものを使いたい。

実用的には何も変わらないけれど、良いものを使いたいという自分のこだわりに叶ったものを少しずつでも増やしていきたい、毎日使って気付けばとても艶やかになっていたウォールナットのカッタナイフを手に取るたびに私は思います。


渋い商品

2012-04-17 | 仕事について

販売員のスキルの高さは商品知識の豊富さで、それで武装することが、自分の身を守ることだと先輩方に教えられました。

それを武装と言っていいのか、身を守るとは何から守るのか意味は不確かですが、商品知識は店に立つ人間にとってその能力を測るものになります。

ただ店にある商品のことを知っていたり、数多くの商品を知っているだけではだめで、顧客の求めに応じて商品を示すことができる力、引き出しの多さが商品知識だと思います。

商品知識はただカタログをパラパラとめくっているだけではなかなかつかず、一番それが身に付くのは興味を持って調べることです。

個人的にでも、仕事の上でもいいけれど、こんな商品があればいいなあと思ってカタログを調べまくる。

私がよくやったのは、自分が使いたいと思うもの、こういうものがあればもっと良いのにという自分が思いついた仕様の商品を調べるということで、それによって商品知識が身に付いていきました。

調べまくってなかったものをオリジナル商品として企画したりできるので、出発点は個人的なものだけど仕事の上でも有意義になる。

結局自分が仕事で扱っている商品について個人的に興味を持つことが販売員のスキルを上げる素質だと言えます。

ただこの商品知識の開示の仕方にも美学があって、お客さんに品番で話すようなそれを誇示するようなマニアックな販売員はスタイルに合わない、いつもお客さん側の立場で考えたいと思っていました。

商品知識に長く使えるものと、そうでないものがあるとすると、ヒット商品ではないけれど、玄人好みの渋い商品をどれくらい知っているかは長く使える商品知識だと思っています。

何の演出もなく、B5サイズの200字詰め原稿用紙を綴じただけのノートですが、他に類似するものがありません。

ブログの下書きを書くのにも、原稿用紙の代わりに使え文豪気分に浸れる。

ライフの原稿ノートも玄人好みのなかなか良い商品だと思っています。

 

ライフ原稿ノート https://www.p-n-m.net/contents/products/NM0120.html

 

 

 


“万年筆で美しい文字を書こう”教室展示開催(5月6日まで)

2012-04-16 | 仕事について

ペン習字教室“万年筆で美しい文字を書こう”の展示を本日から5月6日(日)まで開催いたします。

百人一首の中から好きな季節に合う歌を選んで堀谷先生にお手本を作ってもらい、練習して書き上げました。

難易度の高い連綿の文字をノートに何度も練習して、気合一発の耳つき和紙はがきへの清書はなかなか緊張感のあるものでした。

ペン習字は、いろいろ万年筆を取り替えて、その作品に合ったもの、書きやすいものを選びながら書くのが楽しい。

ペン習字に使うことができる細字の万年筆が、シルバーン、ブライヤー、M300、シガー、742と、気付いたら5本もありましたが、ノートへの練習の手応えと、一発勝負の失敗が許されない状況でしたので、結局いつものシルバーンを選びました。

ブライヤーとシガーも良い太さでしたが、はがきサイズの作品にはインクの出が多すぎると思いました。

今回清書用に使ったはがきは、3月から多可町加美にある杉原和紙研究所(http://www.takacho.jp/sugiharagami/)で仕事すようになった、紙司の浦部喜代子さんから、教室で使ってほしいと提供していただいたものでした。

浦部さんが美濃時代に漉いたもので、耳つきの和紙の風合い、色合いのまま、万年筆でもにじみなく書けるように仕上げたものでした。

その良い書き味、美しいインク映えなど、それは丁寧に作られた和紙作品だと思いました。

“万年筆で美しい文字を書こう”教室は次回5月4日(金・祝)は、ひとまず楷書をまた書いてみようという予定になっています。

初めて参加される方用に、常に楷書のお手本を堀谷先生がご用意して下さっていますので、お気軽にご参加ください。

万年筆を使うことが、より楽しくなる教室になっていると思っています。 


共に良くなる

2012-04-13 | 仕事について

靴、革小物工房Quadrifoglio(クアドリフォリオ)のブログ(http://ilquadrifoglio.blog53.fc2.com/)をブックマークに追加しました。

Quadrifoglioの久内ご夫妻と食事に行きました。

当店での打ち合わせに来て下さったことは何度もありましたが、こうやって外で食事をするのは初めてでした。

リラックスした中で、仕事の話は抜きにお互いのことを理解できるようにしようという想いで食事に誘いましたが、穏やかで楽しい時間を過ごすことができたと私は思っています。

お二人はフィレンツェで4年間、ご主人の淳史さんは靴工房で、奥様の夕夏さんはしぼり技法の革工房で修行して、1年前に日本に帰ってきました。

お二人の作品はまだそれほど多くのお店に置かれているわけではありませんし、たくさんの注文を受けているわけではなく、工房としてはこれから大きくしていかなければいけませんが、私はお二人を見ていて良いなあと思うのは、お二人とも本当に朗らかで明るい。

 久内さんは好きなことを仕事にできている毎日が楽しいと言っていて、それがよくあらわれています。

店でも工房でも、私たちのような仕事は楽しんでいないとお客様の共感を得られない。

お二人を見ていて、私は一緒に仕事をしたいという思いをより強くしました。

当店は始まってまだ5年足らずの新しい店で、力も弱いので、まだまだ誰かを応援するという立場ではありませんが、工房楔の永田さんやカンダミサコさんとのように、お互い高めあって、良くなっていくようなことはできると思います。

何とかお互いのためになって、お客様にも支持していただけることを今は考えています。

 

お二人の話を聞いていて、言葉も分からないままイタリアに発ち、外人ばかりの工房で修行したという久内さんの若き日の行動力と経験が正直羨ましく思っています。


白いご飯

2012-04-10 | 仕事について

神戸市西部や明石市周辺では春先からイカナゴのくぎ煮を炊くという習慣があります。

高槻から垂水に引っ越してきた時に、遠くに来てしまったと子供心に思ったのは、このイカナゴのくぎ煮を炊くという習慣がこの地方にはあると知った時でした。

3月終わり頃になると住宅街ではくぎ煮を炊く甘い香りがそこここからしていて、私たちはそれで春の訪れを実感するのです。

ご飯を食べるために全てのおかずがあると豪語(?)するほど、白いご飯が何よりも好きな私はイカナゴのくぎ煮さえあれば何杯でもご飯が食べられるというのは決して大袈裟に言っているのではありません。

ご飯と言えば、毎晩ご飯を大きめの茶碗に3杯食べますが、それを見ている妻は私の身を案じています。

昼食を摂らないので、そんなものだと思うけれど、彼女から見ると明らかな食べすぎに映っている。

白いご飯に具を乗せてしまう丼はあまり好きではなく、私の分だけご飯と具はセパレートになっています。

これはご飯を白いまま食べたいという美学(?)の追究からだと自分で分析しています。

 


万年筆に冷めないように

2012-04-09 | 仕事について

万年筆を使い出して10年も20年も経つと万年筆に対する興味とか喜びがなくなり、冷めていくかもしれません。

でも万年筆を初めて手に取るような人の反応を見ていると、何か万年筆に対する気持ちが若返るような気がします。

例えば私がコンプロット10に入れている万年筆を初めて万年筆を使うという人に書いてもらってみると、書きにくいという人はほとんどいません。

万年筆が書き味が良くて、書くことが楽しくなることは誰もが分かることです。

私はその誰もに良さを分かってもらえるところが、万年筆の最も優れているところだと思っています。

万年筆というのは、こんなにも書きやすいものなのですね、と言われると誇らしい気持ちになります。

非常にたくさん色数があるインクも、驚いてもらえるに足るもので、黒だけでもメーカーによってこれだけの種類があって、どれも微妙に違うのです、と言うのが色見本を初めて見る人に対する常套句となっています。

当店は初めて万年筆を使うという人がよく訪れます。

その人たちの万年筆への反応とか、喜びを見ているから、私の万年筆への情熱も冷めないような気がします。