元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

コカコーラのヨーヨー

2012-10-26 | 仕事について

小学生の頃、コカコーラが仕掛けたヨーヨーブームがありました。

コーラたスプライト、ファンタなどのブランド(?)名が入ったヨーヨーを皆が持っていて、私も母にねだって黄緑色のスプライト柄のものを買ってもらいました。

犬の散歩やブランコなどの技をものにしようと外でも、家の中でも、学校でも皆で練習していたけれど、一番上手い子ほど上手くはなりませんでした。

その子はコカコーラ柄の一番高価な、大きくて重いヨーヨーを使っていて、それを使えばもっと上手くなるのだと思い込んでいました。

あと駄菓子屋さんでヨーヨーの紐も売っていて、どこの店の紐が良いとかといった本当かどうか分からない情報交換も行われていて、皆それがテクニックの修得に必要なものとして、道具にはかなりこだわっていました。

皆が持っているから、自分も欲しいと思ったり、そのものを手に入れたら何かが変わると思うのは子供だけかと思ったらそうではなくて、大人になっても変わらない、あるいはひどくなっていることを最近自分で気付いて可笑しく思いました。

電車に乗るとほとんどの人が携帯を見ているし、知っている人の多くがスマートフォンに替えています。

フェイスブックもスマートフォンならいちいちパソコンを立ち上げなくても、すぐに見ることができて、写真を撮って書き込みやすい。

スマートフォンが欲しい、これがあれば仕事がもっと良くなると思い込んでいましたが、冷静に考えるとせっかくのささやかな楽しみである行き帰りの読書の時間がなくなってしまう。

あれは自分が使うべきものではないとその想いを断ち切ることができました。

でも靴は違っていて、次から次と欲しい物ができてしまう。

WRITING LAB.の仲間達、駒村氏もH兄もいろんなものに凝っていて、その全てについていくつもりはないけれど、靴だけは私の心をとらえて、二人と話したり、二人の履いているオールデンを見ていると、自分もコードバンの靴が無性に欲しくなって、自分の仕事にはどうしてもその靴が必要だと思いさえしている。

それはヨーヨーを欲しがった子供の頃の気持ちと一緒で、説得しないといけない相手が母親から妻に代わったというだけでした。

でも、


なくても困らないけれど、あると嬉しいもの

2012-10-20 | 仕事について

工房楔の鉛筆エクステンダーコルト https://www.p-n-m.net/contents/products/category2-14.html は鉛筆の補助軸というには短すぎるし、鉛筆がかなり減らないと使うことができませんので、実用的ではないかもしれません。

しかし、コルトには使ってみたいと思わせる可愛さがあって、作り手の遊び心を感じます。

このコルトは私たちが作りたいと思っていること、やっていることの象徴的なことだと思います。

私たちが扱っているものはなくても困らないものばかりで、生活必需品などは一切ありませんし、生涯で関わることのない人が大半かもしれません。

もし今戦争になったら、当店は間違いなく存在できなくなるだろうし、世の中の歯車に嚙み合っていない、勝手に回っている感じは常日頃感じています。

なくても困らない、私たちが扱っているもの、店の存在ですが、あると毎日が少しだけ楽しくなるし、仕事などに張り合いが出ることもあります。

仕事を楽しくしようと思ったら、良い結果が出るように一生懸命になればいいと思っていますが、意思が弱い私は、書き味の良い万年筆やノートなど、こういうものの力を借りてモチベーションを上げようとしています。

何もなくてもがんばれる人は素晴らしいけれど、私たちが提供するものが自分も含めた多くの人の毎日に何かを滴らせることができたらといつも思っています。


ダイアリー

2012-10-16 | 仕事について

商売は出し入れだ。

もう10年くらい前に前の職場の上司が言った言葉は真理で、印象に残っています。

シーズンやタイミングに応じて店の資産である商品やイベントを出しては引っ込めを繰り返す。

全ての商品を全面に出すことはできない。

今ステーショナリーを扱っているお店が全面に出すのはダイアリーで、お客様方の興味がそちらに向く頃だから、それを無視することはできません。

文具業界においてダイアリーは1年の売上の中で相当な比重を占めていて、8ヶ月間はダイアリーがお店の目立つ場所に陳列されています。

実は他の国の人のことは分からないけれど、日本人はダイアリーなど手帳が好きだと思っています。

9月頃でも手帳売場にはたくさんの人がダイアリーの下見をしているし、1シーズンに2,3冊のダイアリーを買って試してみる人もザラにいます。

私たちが手帳に惹かれるのは、それは自分の仕事や暮らしをもっと良くするのに役に立つような気がするからだと私は思っています。

そう思わせる手帳というものの存在は、多くの人にとっていつも持っておかないと落ち付かない、それがないと仕事にならないほど重要なものになっています。

実際手帳を書くことで、仕事について考えて、気付くことも多くあるので、結果的に仕事を良くしてくれるに違いない。

私がずっと若い頃経験したのは、手帳を書くことが楽しくなれば仕事が楽しくなって、その結果が良くなるということで、手帳本体だけでなく、それに使う筆記具も重要であり、万年筆が最も手帳書きが楽しくなるものだと思いました。

でも、手帳が好きで、書き方にこだわっている人は、もともと仕事が好きな人が多く、仕事が好きならそれが良くなるに決まっているように思います。


オリジナルダイアリー https://www.p-n-m.net/contents/products/category2-2.html ができてからそれがメインになって、どのダイアリーを使うか迷うことはほとんどなくなりました。

もちろん自分の店でオリジナルとして発売しているものだということもありますが、自分たち(当店、分度器ドットコム、大和出版印刷)使いたいと思うものを実現したものだから、他のものを使う必要がないからです。

でもダイアリーは今最も皆様が注目しているステーショナリーのひとつですし、一人でも多くの人に商品を買っていただいて、関わり合いたいから、当店らしいダイアリーの選び方をしています。

エイ出版が本気で作ったダイアリーのシリーズESダイアリーなど文庫本サイズ(A6サイズ)には、カンダミサコさんの文庫本サイズノートカバー https://www.p-n-m.net/contents/products/KM0055.html を、同じくエイ出版が新しく発売したA5サイズのダイアリー、ノートのシリーズSOLA http://www.ei-publishing.co.jp/product/es/sola/ に合わせるカバーもカンダミサコさんに依頼していて、これは11月下旬か12月初めの完成予定。

カンダミサコさんのA7メモカバー https://www.p-n-m.net/contents/products/OG0069.html に合わせる小さなダイアリーも用意しています。

多くのお客様がダイアリーに注目する季節だから当店も多数揃える。決して私が個人的な興味で仕入れたわけではありません。


万年筆で美しい文字を書こう教室作品展開催中(10月13日~11月2日)

2012-10-13 | 仕事について

今回のテーマは漢詩を書くでした。

私は漢詩ではないけれど、十七条憲法を行書で書きました。

文字同士が繋がった連綿ではないので、一文字一文字を力強く書きたいと思い、いつもペン習字に使っているシルバーンの柔らかいペン先を生かして、線の強弱をつける。なかなか書いていて楽しいと思いました。

皆さん本当に楽しそうに、集中して書かれていた成果。

ぜひ観に来てください。

 


自分のやり方を貫く

2012-10-11 | 仕事について

引退した阪神の金本選手は同い年で、故障や年齢とも戦いながら、常にフルスイングを貫き、第一線で活躍し続けたことに勇気をもらっていました。

私たちの年齢になると、リーダーシップをとっていかなければならないけれど、相当努力しておかないと体力やスピードで若い人に劣ってしまい、頭でっかちのお荷物になってしまいます。

本当に厳しいプロ野球の世界で21年間も生き抜き、しかもリーダーであり続けるには、テクニックや素質だけではなく、心の強さが何よりも物を言ったのだと思います。

仕事をし出して20年以上も経って、40歳も半ばになると、どんな音楽を聞けば自分を奮い立たせることができるかに始まり、自分なりの思考法やモチベーションの上げ方、仕事のやり方などが分かり始めてきます。

でもたまに 「考え方のコツ」(松浦弥太郎著)のような本を読んで自分の得になればと思ってしまう自分の骨のなさに少し嫌になりましたが、考え抜いた自分オリジナルの考えを持つことの勇気を伝えようとしていたのだと思いました。

謙虚さは絶対に必要だけど、人それぞれ自分の仕事の仕方、考え方があっていいと思います。

自分の時間を20年も使って知った、自分の仕事を治める自分らしいやり方に自信を持つべきです。

自分の仕事は自分のやり方が合っているに決まっていて、他の誰かが説くやり方をその通り実践しても上手くいきにくい。

自分のやり方を貫くというのは、時には不安になることもあるかもしれませんが、それを貫いて積重ねていくこと、そして人の真似をしないオリジナルのアイデア、考えを持つということ。

どちらも勇気の要ることですが、長く仕事を続けるのに必要なことなのだと教えられたのでした。

 

 


イベントの朝

2012-10-06 | 仕事について

当店1周年の記念イベントとして、永田さんがイベントを開いてくれてから恒例のイベントになって、今でも最も集客力のあるイベントが、工房楔のイベントです。

毎年開店記念の日、9月23日周辺で開催していましたが、カレンダーと永田さんの都合で今年は10月開催になりました。

でも来年はまた元の日程、9月23日頃の開催にしようと言い合っています。

4年前の永田さんの最初のイベントで、小さな店のイベントの仕方のようなものを感覚的につかむことができました。

それまでこの店でどのように催しのようなものをしたらいいのかイメージできずにいましたし、そもそもイベントという考え方も希薄だったような気もしますので、イベントのやり方を永田さんに教えられたのでした。

 

永田さんは前日入りしていて、昨晩ペン習字教室の後、堀谷先生や香道師の森脇さんという両先生方に手伝ってもらって搬入、什器の移動作業を終わらせていましたので、今朝は少し余裕があります。

以前、永田さんが朝の5時に羽島を出たにも関わらず、大渋滞で11時に到着するということがあって、それは今も笑い話としてよく言い合っていますが、それから前日入りすることが多くなりました。

今回は、イマジネーションが降ってきて、今までで一番多くの種類の商品を作ったと永田さんは言っています。

かなり見応えのあるものになっています、ぜひご来店ください。

 


工房楔イベント直前  ・・・木工家永田さん

2012-10-05 | 仕事について

当店を始めて半年くらい経った時に、工房楔の永田さんをル・ボナー松本さんに紹介されました。

松本さんは丹波の木工家難波さんに永田さんを紹介されたので、人の縁というのはどう繋がっているのか、本当に不思議だと思います。

木や革など、自然の素材をステーショナリーに取り入れる場合、全く新しいものをひねり出すのではなく、今多くの人がそれしかないから我慢して使っている、よく使われているものを素材を変えて、愛着を持って使うことができるものにすることが、最も確実な方法だと思っていました。

永田さんと出会った時もその特長が最も表れているパトリオットボールペンなどの筆記具などよりも、カッターナイフを作ってほしいという話をしたのはその成功体験と、公式が自分の中にあったからです。

後から聞いた話だと、それは永田さんとしては不本意な始まり方でしたが、永田さんからお預かりしていたパトリオットボールペンを来られたお客様に見せると非常に評判がいい。すぐにボールペンも扱うようになりました。

15年ほど文具店に勤めていて、商品知識だけは豊富で頭でっかちだった私には、杢という新たな魅力を持ったものの良さがすぐには分からなかったのです。

永田さんと出会って使い始めたコンプロット10やカッターナイフが日常の使用だけで手によって磨かれ、店のテーブルが日々の雑巾がけで奥行きのある美しい杢を見せ始めて、やっとその良さを知ることができ、永田さんがいつも言っている杢の魅力を自分自身の経験として感じることができました。

杢の良さをなかなか理解しない私に辛抱強く付き合ってくれた永田さんは、本当に一本気な人だと思います。

木に対する姿勢もそうですし、常に誰もやっていないことをし続けないといけないという使命を自分に課していて、人の真似は絶対にしない。

私は永田さんの常にオリジナルでありたいという姿勢、生き様に、もしかしたら一番共感しているのかもしれません。

好きな色であるオレンジをドルチェ・ビータを手始めに様々なもの(万年筆に限らず)で揃えた時は、ほんの少しだけ引いたけれど、永田さんらしいと思いました。

私はもちろん万年筆とそれを使う人が好きでこの店をやっているけれど、モノに対する興味の範囲は広く、浅い。

それが店に反映されていると思いますが、永田さんのものはそこに深さを与えてくれていて、なくてはならないものになっています。

 

工房楔イベント「楔の奏でる木の文具」6日(土)~8日(月祝)開催いたします。

 


「小説に書けなかった自伝」(新田次郎著)

2012-10-03 | 仕事について

その人の仕事が理想というロマンを追い求めながら、採算という生活していくための現実的な問題と両立させようとするところに私は魅力を感じます。

ただ好きだからという理由で始めた仕事を生活の糧にした時に、それはその人の生き方になり、生きていくためには続けていかなければならないという凄味がそのモノに出てくると思っています。

これからも買ってもらうために下手なことはできない。むしろ常に自分が提供できる最高のものを提供し続けないといけない。

私もそうだけど、当店に関わってくれている誰もが作り続けないと生活できないし、売り続けないと生きていくことはできない。

生活がかかっているというと悲壮な感じに聞こえるけれど、それが生きていくということですし、それがあるから皆が作るものには魅力があるのだと思っています。

 

新田次郎は生活のために小説を書き始めた人でした。

気象台の技師と小説家との二足の草鞋を小説家として世に認められてかなり経ってからも続けていましたが、それは生活していけるか自信がなかったからだということが主な理由でした。

新田次郎の本は、中学生の時に読んで力も教養だと思った「強力伝」くらいしか知りませんでしたが、一人の作家の生活や考え方が分かり、面白すぎて一気に読んでしまいました。

たくさんの小説を書き、名前も知られている新田次郎により良い作品を書かなければならないと思わせ続けたのは、生きていけなくなるのではないかという危機感でした。


大人とは

2012-10-02 | 仕事について

44歳になります。

中年と言われる世代に突入してもう何年にもなりますが、大人になったという自覚を持たないといけないと心掛けないとしっかりしていられないのは困ったものだと思います。

私くらいの齢になると、仕事で関わってくれる人たちも多くが年下になって、しっかりと自分がリーダーシップを執らなければいけないと思うことが多くなってきました。

同い年で会社で仕事をされている方は、係長や課長とか責任のある立場になっている場合が多く、やはり同じように思っておられるのではないかと思います。

子供の頃、44歳以上の人を見たらすごい大人に思っていたし、10代の頃は自分の全く見えてこない将来を憂いながら、自分の人生を確立している大人たちを羨ましく見ていました。

自分は本当にこの人たちのように自分の仕事を持って、毎日を積重ねるような生き方ができるのだろうかと思っていましたし、その齢まで無事に、立派に生きてこられた方々のようになれるのか自信が持てませんでした。

自分が何をしたいとか、どのように生きたいとかが見えず、毎日漠然と不安を抱えていました。

その頃は人生はを切り開くのは自分だという自覚がなかった、誰かが助けてくれる、誰かに助けられないと切り開けないと甘えた気持ちがあって、何もせずに不安を持ち続けていたことが、今なら分かるけれど。

若い頃よりも少しは成長したと思うけれど、いざ自分がその齢になってみると、若い頃に思ったほどその生活は磐石ではなく、43年も生きてきたという後ろ盾のようなものもないことを知りました。

ただ、自分は何をやって生きていくのだろう、未来に自分はどこにいて、どうしているのだろうという、いつも曇り空のような不安はなくなり、前に向かって進んでいくしかない、自分で切り開いていくしかないという覚悟のようなものは備わっていました。