元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

母を労う

2013-02-26 | 仕事について

家のことをしながら働いている人は本当に大変だと思います。

例えば朝9時から夜7時頃まで仕事があったとしたら、帰って食事の用意をして、9時に食べて、10時に風呂に入る。12時に寝て、6時に起きる生活だったら、いつ掃除して、いつ自分のことをするのだろう。

私には妻がいて、起きたら朝食があって、帰ったら掃除ができていて、ご飯ができていて、風呂が沸いている。

これを全部自分でしないといけないと思うと、考えるだけで恐ろしくなります。

母のことを思い出すと自分は恵まれていると改めて思います。

私が中学生の頃、母は公文式の教室をしていて、プリントがたくさん入った大きな風呂敷包みを持ち、愛用の使い込んだ革のハンドバックを下げて出掛けていました。

垂水から高槻まで1時間半ほど電車に乗って、さらにバスに乗る。

始まりは遅いけれど、帰りも遅く9時くらいだったと思う。

休みの日は新大阪にある本部で研修などがあるので顔を出さないといけない。

その時の私は部活から帰ってきて、自分の晩御飯をどこで買うかという心配しかしていなかった。

母のその生活は認識していたけれど、それを心に留めていませんでした。

本当に大変だったと今なら思え、その有り難味もすごく身にしみるけれど、当時全く気に掛けなかった。

労いの言葉をかけたいと急に思ったけれど、もう20年前にいなくなっていました。


浜田恵子さんライブのご案内

2013-02-24 | 仕事について

お客様のジャズオルガン奏者浜田恵子さんのライブが、3月16日(土)大阪ミスターケリーズで開催されます。

浜田さんは万年筆もお好きで、当店に何度かご来店いただいています。

お話していてとても楽しい、チャーミングな方で、誰もが一度お会いするとその人柄に惹かれるのではないかと思います。

万年筆を通して、こういう方と知り合うことができて、繋がりを持つことができていることがとても嬉しいしと思います。

自分が調整した万年筆が少しでも浜田さんのクリエイションの役に立てたら、それは光栄なことだと思っています。

 


昼抜き

2013-02-24 | 仕事について

昼食は食べないと言うと驚かれることが多く、みんな昼食は食べるのだと改めて思います。

店を始めたばかりの頃は、妻に弁当を作ってもらって持ってきていたけれど、昼食べると腹の中にいつも何か入っているような気がしていました。

グーグー音が鳴ってもいいから、胃袋が空っぽになる時間があった方が自分の体質には何となく良いような気がします。

私の仕事時間中のほとんど座ったままの作業による運動量では1日3食は多すぎる。

よく1食抜くと胃が次いつ食べることができるか分らなくなるから吸収が必要以上に良くなるから太ると言われるけれど、体重も変わらないし、このサイクルを体が覚えていると思うのでその心配もないのだと思っています。

そうする方が体の調子も良いので、自分には合っている。でも他の人に合っているかどうかは分りません。

昼を抜こうと思った理由は他にもあって、昼食を食べようと思って用意していても、何らかの理由で食べることができなければ、それがストレスになるけれど、なければそのストレスもないという、店ならではの事情によるものです。

さすがに忙しい日など、夕方になると何も考えられなくなって、ポカばかりするようになるけれど、それはチョコレート1粒で解決することが最近分りました。

昼食を食べない分、夜たくさん食べるので私の食習慣にダイエット効果は全くないけれど、何も変わっていないからいいのだと思っています。

でも私の父方も母方の家系もどちらかというと背が低くてコロッとしている人が多い、典型的な日本人体型なので、もう少し齢をとると太ってくるかもしれないと覚悟しています。

関係ない話になるけれど、食事中あまり話さず、テレビも見ずに食べることに集中しなさいと言われて育ったからか、食べるのが非常に早い。

食事会など、楽しくおしゃべりしながら食事を楽しむような場面でも、黙々と食べてしまうことに気付いたのも最近のことでした。


人生が変わるもの

2013-02-17 | 仕事について

万年筆の良さ、自分にとっての必要性を理解してくれない若者に話す時、若い頃の自分に話しているように思え、とてもイライラします。

年上の人でしたら途中で諦めてしまいますが、年下で、これから世の中に出て行くような若い人なら根気強く、今分らなくてもいずれ思い出してくれるかもしれないと思って話す。

私の言葉だけ聞くと強制に聞こえるかもしれないけれど、そこには本当にその人の人生がもっと良くなればという想いしかない。

もっと言うと、その人にとって万年筆が必要なものだということは私の方がよく分っている。

万年筆がその人にとって良い影響をもたらさないことなど考えられない。

何でもいいから、年上の男の言うことを聞け、と言いたくなるのを我慢して、書くことが楽しくなるよと優しく話し出して、最後には人生が変わるから、ほらこんなに書きやすいから騙されたと思って使ってみてよと締めくくる。

これ以上の言葉は思いつかない。

でも若い頃の自分ならあまり頭ごなしに言われると余計に反発してと思うし、優しく言われても気付くかどうか分りません。

私が20歳くらいの頃、「人生が変わるから」と言って近寄ってくるのはネズミ講の勧誘くらいで、良い会社に就職してとか、サイドビジネスで一山当てて不労収入のような話しか、人生が良くなる話はなかったような気がします。

私は多分20歳の自分に一番万年筆を勧めたくて、万年筆に興味がなさそうな若者を見ると、ムキになってしまう。

 

息子は時々万年筆を使っているから、日常的に使うようになるまでもう一息だと思っています。

書くことが楽しくなるという私の話を「また始まった」という苦笑いを浮かべながらも、黙って聞くことは聞いている。

4月からの進路も岡本にある大学に決まり、家族一同ホッとしています。

 

若者たちの人生を良くしたいと強く思うのは、万年筆のことを信じているのと、自分が出遅れたことの反省から来ています。


靴談義

2013-02-16 | 仕事について

靴は男のロマンだ!と言うと、女性にとってもロマンだと言われるかもしれない。

靴は鞄、服について語り合うのはなぜこんなに楽しいのだろうと思います。

もちろんペンなどのステーショナリーの入る余地もあるのだけど。

私にとって靴はまさに足を踏み入れたばかりの新世界で、興味ばかり、知らないことばかりです。

幸い色々教えてくれる先輩方に恵まれて、皆さん自分からは話し始めないけれど、聞くと何でも教えてくれる。

そういう話を聞くのはとても楽しいし、自分の靴の話をするのはもっと楽しいです。

以前、スーツを着て仕事をしていた時にこんな風に靴に凝って、来る人来る人と靴の話ができたら良かったのにと思いますが、当時靴に凝るどころか、履き替えする靴さえ持ってなくて、1足だけを履き潰していました。

皆そうだと思っていたし、それ以外の靴の世界があるとは思いませんでした。

若いのに、靴どころか服などの様々なモノについてすごく詳しい、中学生の頃から知っているSさんが来られました。

今ではモノの話を楽しく盛り上げる、本当に良い大人になっていて、楽しく幸せな時間を皆で過ごしたのでした。

Sさんはスピーゴラの鈴木幸次さんが作ったとても美しいエレファントコンビの靴。

なかなか良い写真だと思います。

 


イングランド紀行上・下(プリーストリー著 岩波文庫)

2013-02-15 | 仕事について

あまり大きな国ではない、しかもイングランドのみをまわったわりには長い紀行文でした。

それだけ、イングランドを隈なくまわったのと、ひとつひとつの町での考察、報告が細かくされています。

世界恐慌に突入して、その煽りをもろに受けている1930年代のイングランドを憂国の想いで描いています。

不況はなぜ貧しい人の暮らしから奪っていくのか、隆盛する産業に従事する労働者はなぜ危険できつい労働のわりの見返りを受けていないのか。

その恩恵を受けるのは中央なのに、中央はなぜそのリスクを負わされることがないのか。

1930年代のイギリスが舞台ですが、読んでいるうちにこれは今の日本にも当てはまる。

そのまま日本のことが書かれていると思うと、80年以上前の違う国の話しに入り込んでいきました。

この国に住む全ての人に幸せに暮してもらいたいと著者は願っているけれど、イギリスはそういう国になっていけたのか。

本の中でどん底と表現されている、イギリス地方都市の景気は少しは良くなっていったのか。

でも少なくとも私たちが子供の時、イギリスはまだ長い不況の中にいると言われていました。


音楽

2013-02-12 | 仕事について

Flamenco Guitar. Barcelona street music (HD)

若い頃、音楽のない生活などとても考えられないと思っていましたので、両親が車に乗る時以外音楽を聞く習慣がないことに、味気なさを感じていました。

邦楽の歌謡曲から始まって、ビートルズ、ローリングストーンズからブルースを遡りました。

最も自分に合った音楽はシカゴブルースだと思っていました。

大学時代の生活はブルース一辺倒で、バイト代で買ったレコードで車くらいは買えたかもしれません。

仕事に行くようになって、音楽を聞く時間がなくなりました。

たまに休みの車の中で聞く音楽も、同乗者がいるとブルースはマニアックなのでかけることもなく、相手が好む音楽をけなしながら聞いていた。

自分の生活から音楽がなくなって、気付いたら両親と同じになっていたけれど、味気ないと思うことはありませんでした。

なぜか店を始める前から、JAZZを聞くようになって、今では店でもJAZZを中心にかけているけれど、店の雰囲気にはJAZZが一番合っているような気がします。

前にブルースをかけたこともありますが、全く似合わず、ブルースはやはりタバコの煙でくもったバーのようなところが一番似合うと思いました。

JAZZを聞いていて、音楽は自分をシャンとさせる効果があると気付きましたが、しばらく忘れていました。

最近毎晩、You Tubeで聞いている音楽はたまたま見つけたもので、とても気に入っています。

スペインは、マカロニウエスタン(古いけれど)のイメージからか、埃っぽい荒野が続く中にオレンジ農園が点在するイメージを勝手に持っていましたし、街はスリだらけという根拠のない思い込みを抱いていました。

でもこんな音楽に出会えるのなら、バルセロナにも行ってみたいと思いました。

激しさと光と影、哀愁と生活などが一緒になって、心を動かしました。


天気のせいにしない

2013-02-10 | 仕事について

たまに自分に言い聞かせておかないといけない心掛けのようなものに「天気を言い訳にしない」というものがあります。

店の売上が悪かった時に、今日は雨が降っていたから、という理由で天気のせいにした途端に解決策を考えなくなってしまう、というお店ではよくある話です。

天気というのは、自分たちの力ではどうすることもできないことの象徴的な意味で、店や会社の業績を自分たち以外のところに見出そうとした時に解決策ではなく、言い逃れを考えていることになる。

もしかしたら本当に世の中の流れで売上が悪くなったのかもしれないけれど、自分たちに何かできるわけではないので、そんなこと考えても仕方ない。

でも実際、大きな会社でもない限り、特に当店のような個人商店で世の中の仕組みから外れている店が、世の中の景気変動に連動しているはずがないと、思うようになりました。

業績が悪くなったら、自分たちに原因があるに決まっていて、何か改善策を見つけるようにしないと、何もせずに流されていく。

そんなのはつまらないと思っています。

考えてみると、とても簡単なことで、なかなかの実感ですが、この考えに気付くまで時間がかかってしまいました。

 


やりたいことを見つける

2013-02-07 | 仕事について

もしそれが見つからなかったら私は今もまだ同じ場所にいて、家と会社の往復を淡々と繰り返していたのだと思います。

本当はちょっとした考え方ひとつで人生の景色は変わるけれど、そのきっかけは私の場合は万年筆と出会った。正確に言うと万年筆を使う人たちに出会ったということになります。

やはり人との出会いがその人に何らかの影響を与えて、人生の切り口が変わったりするのだと思います。

でも最後に変わろうと思うのは自分の意思なので、自分との対話によって気付く。

自分より若い、毎日を感動なく繰り返している、20代の私のような人には、教えてあげられることはいくつかはあります。

あの時の自分のような人に気付いてもらうために、いろんな言葉を発信しているようなところがあります。

私は気付くのが遅れて、この歳になってしまったけれど、それが私のタイミングだったのだと思います。

子供の頃から何をするのも人より遅かったので、それが大人になっても変わっていないことが可笑しいけれど、同い年の人よりも5年くらい後を歩いていると思うことがあります。

今年めでたく40歳になった駒村氏がちょうど5歳下なので、私は駒村氏と同い年ということになります。

でも駒村氏はもっと若い30歳頃には、自分はこれで生きていくと決めてインディアンジュエリーの商いを始めているので、10年早く自分がやるべきことを見つけている。

そう言えば「鞄談義」 https://www.p-n-m.net/contents/products/LS0073.html のル・ボナー物語でも書かれていましたが、松本さんは19歳で鞄職人を志して上京しているので、ものすごく早く自分の生涯の仕事を見つけたことになります。

私が遅れた理由は、成長が遅いことの他に勘違いがありました。

生き方には正解があるのだと思い込んでいました。

具体的な答えを探して、本を読んで見つけようとしていました。での本にも自分が求めている正解は書かれておらず、人それぞれ正解は違うのだと気付いたのは何年もたった後でした。

でも生き方が正解かどうかというのは大した問題ではなく、自分はどうするのかということが大切なことでした。

それに気付いただけでも44年間生きてきた甲斐はあったのかもしれません。

 

 

 


WRITING LAB.の時間

2013-02-03 | 仕事について

土曜日の夜、打ち合わせと称して毎週集まって何やかやと話し合っています。

ほぼ毎週集まっていて、議題のある時もない時もありますが、何かが生まれる私たちにとって大切な時間だと思っています。

商品の企画や販売のこと、そのほかWRITING LAB. http://writinglab.jp/ に関することなど。

仕事の話を一通り話した後、雑談の時間になったりして楽しんでいます。

よく今欲しいものの話になって、ペンや靴の話になることが多い。

靴は皆共通の話題で、情報交換をしています。

駒村氏もH兄も靴の先輩で、一通りの良いものを知っているので、とても刺激になります。

オーダーの靴も一足で終わらせたくないし、オールデンを持っていないのは実は少しうしろめたい。

昨日お客様のY室さんが履いていて話題になった20年ほど前のジョンロブのラバーソールのブーツは素晴らしいと思い、パラブーツが恋しくなったり。

万年筆は、皆用途の決まった実用的なものは手に入れてしまっているので、新たに手に入れたいと思うものは、バランスが悪く、使い勝手が悪くてもいい、持っていたいと思うもの、いつまでも眺めていられるようなものが欲しいと思っている。

そこまで思わせてくれるものは、そうたくさんはありませんがたまにある、そういうものを目標にもう1ヶ月が経ってしまいましたが、今年1年も楽しみながら仕事をしていきたいと思っています。

この土曜日の時間がないとしたら、何て味気ない1週間だろうとおもうことがあるほど、土曜日の打ち合わせは私たちにとって、楽しみのようになっています。