元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

プラチナブライヤー

2009-04-30 | お店からのお知らせ

大変な品薄で、品切れしておりましたプラチナブライヤーが入荷してきました。
私は昨年の初め頃からブライヤーの中字を使い出しましたが、できれば細字と太字も揃えたいと思うほど好きな万年筆になっています。
ブライヤーの複雑な木目は、拭き漆という最小限の表面加工しかしておらず、使い込むと(つやふきんで磨くと)木目が際立ってきて、とても美しいものになっていきます。
しかし、そういった天然の木の特性以上にこの万年筆を気に入っているのは、程よい重量感と硬くもなく柔らかくもないペン先のフィーリングという実用的な部分です。
メーカー出しの状態よりも少しだけペン先を柔らかく、インク出を少し多めにチューニングすることによって、筆圧を掛けても耐えるプラチナ本来のコシの強さに軽い筆圧でもインクが十分出てくれる柔らかさを併せ持つものになり、それを使い込むことによって馴染んできて手放せない万年筆になりました。
他の万年筆は交代で使っていますが、プラチナブライヤーは常に持ち歩いていつも使っています。
https://www.p-n-m.net/contents/products/FP0021.html


二人の男の生き方

2009-04-29 | 万年筆
祝日と定休日が重なったため、家族で国立民族学博物館と大阪城へ行ってきました。
民博では茶道宗家に道具を納める職人家、千家十職展が開催されており、とても興味を持っていました。
千利休が築いた茶湯の美学に則った道具を見て、秀吉に自刃させられても残った利休の影響力の強さと、茶湯の精神を改めて感じました。
どこまでも広がっていく大阪の街を見下ろすことのできる天守閣では、朝鮮出兵の失敗で失意のまま死んで逝き、大坂夏の陣で落城してしまい、秀吉の作ったものは跡形もなく消えてしまった、権力の座の儚さを思いました。
利休と秀吉、二人の男の生き方の対比について考えた一日ではありましたが、一日中物思いに耽っていたわけではなく、家族3人で暖かいゴールデンウィークの初日を満喫しました。

日々の100 松浦弥太郎著 (青山出版社)

2009-04-25 | 万年筆
いつも何かあると期待して、よく休日に立ち寄る店で、表紙を見ただけで読みたいと思いました。
暮らしの手帖の編集長として知られている著者は同年代で共感できることがたくさんありました。
素朴な写真と短いのにシーンがイメージできる文章で、著者が大切にしている日常の100の道具を紹介しています。
この本からは長く使うことのできる良いものを選ぶということと、ただの物でも人とのつながりにまつわる物であればそれは特別な物になるということを再確認しました。
何回も、いつまでも読んでいたい本に出会えたと思いました。

M450バーメイル/トートイス

2009-04-15 | 仕事について
先日、ひょんなことからお下がりで手元に来た金張りのアウロラ88ゴールドで、今まで使ったことのなかった金ぴかの物への抵抗は完全になくなってしまいました。
M450は発売された時から気になる存在でした。
ペリカンの最も伝統のあるM400のバーメイルキャップのデラックスバージョンで、最もペリカンらしいトートイス柄のボディを持っている。
何となく名品然としていて、マニア受けするというか、玄人好みというか、なんとも良い雰囲気の万年筆だと思っていました。
それでもこのM450は30代の頃の私には、持つのに相当勇気のいるもので、とても自然体で持つことのできるものではありませんでしたが、最近私と年齢の近いお客様が二人、このペンを買われました。
それを見ていて、このペンと私たちの年齢について話していて、このペンに特別な気持ちを持ってしまいました。
2年目の確定申告が無事に終わったという、強引な理由をつけて4月から使い始めています。
ペリカンの多目のインクフローが味わいたくて、Bを選んで雑記などの使っています。
最近よくあることですが、店でお客様にペンを勧めていて、それを買って喜んでおられるところを見ると自分も欲しくなってしまいます。
自分はプロで、売る側の人間なのでかうことはあまりないと言った覚えがありますが、欲しいものができるとテンションが上がるというか、気分が高揚するというか、毎日がとても楽しくなります。
それは手に入れてからも同じで、新しいペンのおかげで、書くことが楽しくて仕方ないといった具合で、仕事の手数も多くなるという良い効果があります。

エスプレッソが沸いた

2009-04-13 | 万年筆
唯一のイタリア人の友人とは、1年に1,2度は会って話すようにしていて、今回は半年振りの再会でした。
前日、レストランラミで一緒に食事をしましたが、今回は神戸に泊まるということで、翌日も店に顔を出す予定でした。
大手の輸入商社を退社し、一時期職安にも通っていた彼は今月から、某万年筆メーカーで仕事をすることになりました。
研修の帰路、週末の休みを利用して神戸に来てくれたのでした。
会うとたいてい仕事の話になりましたが、万年筆業界をもっと盛り上げたいと考えていた彼の理想を持った、地味だけど確実な活動はなかなか理解されず(現場で働く人たちからの評判は良かったですが)、彼の顔色が冴えない日が続いていましたので心配していました。
しかし、就職先が決まり、しかもまた同じ筆記具業界で仕事ができるということで、彼も気持ちを切り替えて前向きになっていましたし、出会って8年にして始めて彼女を紹介してくれるということで、特別な彼の来神だったのです。
彼の故郷トリノに本社があり、日本では北野に支店のあるチョコレート屋さんカファレルのお菓子を持って、二人は現れました。
店はバタバタとしていましたが、その間二人は静かに話したり、担当者のひとりごとの本を二人で読んだりしていました。
物静かで大声で笑ったりしない彼と、明るくかわいらしい彼女は店の長椅子に座り、優しい時間を醸し出していました。
お客様方の用事が終わり、二人だけになったので彼がイタリアから買ってきてくれたエスプレッソメーカーでエスプレッソを作ってくれました。
出来上がるまでの原理を説明しながら、エスプレッソを沸かしてくれました。
箸の持ち方も私より上手く、性格も穏やかで繊細な彼がイタリア人だということを忘れそうになりますが、バブル期の日本に一人で来て20年近く、もう少しでイタリアで過ごした年月よりも日本にいる時間の方が長くなりますので、彼の日本人よりも日本人らしい振る舞いは、真面目で努力家な彼の性格が表れています。
夕方二人は新幹線に乗るために帰っていきました。
大きなお世話ですが、故郷を出て20年、彼にかわいくて優しい彼女がいてくれて、本当によかったと思いました。

一乗寺の辺り

2009-04-12 | 万年筆
京都に行った時に、よく立ち寄るのが一乗寺にある恵文社です。
私が読もうと思う本などはどこの本屋さんにでも置いていて、わざわざここに来なくても良さそうなものですが、若い芸術系の学生さんたちが多く、アーティスティックなこの店の雰囲気が好きで、つい足を伸ばしてしまいます。
今回は出町柳から叡山電鉄の小さな電車に乗りました。
嵐電と同じくらいローカル線ぽい叡電に初めて乗りましたが、こちらも駅舎を含めて、なかなか味わいがありました。
一乗寺近辺は20年ほど前、妹が下宿していてよく遊びに来ました。
大学には入っていましたが、将来の夢や目標もなく、ただ毎日流されるように過ごしていた私にとって、この一乗寺辺りの住宅地の風景は、当時近くに豚舎があり、そこの放つ異臭とともにとても陰気に写りました。
妹が学校に出掛けた後、この辺りをブラブラと散歩したりしていましたが、その頃と風景は全く変わっていないように思います。
来年自分が何をしているのかもイメージできずに不安に思っていた頃の気持ちをよく思い出して、絶対あの頃に戻りたくないと思い、あの頃と関わりのある場所、人とをできれば忘れたいと思って20年間生きてきたような気がします。
一乗寺辺りを今歩けるようになったのは、その頃の記憶がだいぶ薄れてきたからですが、何も変わっていない町の風景を見て、あの時の気持ちを久しぶりに思い出しました。

ペントレーディング東京4/11(土)12(日)

2009-04-10 | 仕事について
私は非常に残念ながら店の営業があるため、行くことができませんが、ル・ボナーの松本さんと楔の永田さんが一緒にブースを設けることになっています。
松本さんは昨年から、ペントレにぜひ出店したいと言っておられましたので、念願が叶って実現させたというところだと思いますし、永田さんはペントレが終わるまでは他の仕事が目に入らないほどの気持ちの入れようです。
松本さんは当店でも人気のある、フラソリティーバイルボナーの3本差しと1本差しのペンケース、先月末に完成したばかりのコラボメモカバーを販売されます。
永田さんは銘木のペン類と、話題商品コンプロット10を用意するとのこと。
どれも現物は関西でしか見ることができませんので、関東の方はまたとないチャンスだと思います。
松本さんと永田さんのブースでは、グラフィックデザイナー神谷利男さんが出版された名著「My Favorite Fountain Pens」の販売もいたします。
ペントレーディング東京に行かれる方、ぜひお二人のブースを覗いてみてください。http://pelikan.livedoor.biz/

神谷さんとの1ヶ月

2009-04-08 | 仕事について
3月は神谷利男さんの著書「My Favorite Foutain Pens」の写真と絵の展示をしていて、今まで当店に来られたことのなかった神谷さんの人脈である、デザインの業界の方々が多く来られて、華やかな1ヶ月でした。
売れっ子デザイナーであり、デザイン会社の社長でもある、幅広い人脈を持つ神谷さんのような人の作品の展示、書籍の単独販売のような大役を任せていただけたことは、私の人生の宝物となる経験でした。
多くのデザイナーの方々との出会いで、外から見ると自分の才能で活躍することのできるとても華やかな世界に感じられるものですが、実は枯渇しそうになる自分の才能への不安との戦いであることが分かりました。
そして、私たちの仕事と同じように、人と人とのつながりによって、たくさんの仕事が成り立っていることも分かりました。
神谷さんの日常のハードワーク、非常にスピーディーな仕事の進め方も垣間見ることができましたし、デザインなどのクリエイティブなビジネスの先端の世界を見ることができました。
昨年後半から続く不況の中で、年始に今年は何でもいいからアクションを起こし続けて、前に進みたいと誓いを立てた私を何かの力が神谷さんと出会わせてくれていたとしか思えないほどのタイミングでした。
神谷さんの著書のプロモーションのために行ったイベントでしたが、実はその経験、出会った人たちなど、この店にとって掛け替えのないものになりました。
このような企画は私一人がしようと思ってもできるものではありませんが、これから何年も続いていくと思われるこの店が人と人との出会いの場であり続ける限り、神谷さんとの仕事のような劇的なイベントをまた行うことができると思っています。
ご来店いただいたたくさんのお客様、神谷さん、本当にありがとうございました。

タワーからの眺め

2009-04-03 | 万年筆
4月1日~3日まで春休みをいただき、1日と2日は京都に行ってきました。
京都の桜は、神戸よりも早く平地に咲いているものはだいたい見ごろになっていたように思います。
入学式の初々しいスーツ姿の大学生などもたくさんいて、春の雰囲気をのんびりと満喫してきました。
大徳寺、銀閣寺、一乗寺方面、三条通りなどあちこち行ってきましたが、一番心が動かされたのは、生まれて初めて登った京都タワーでした。
京都に行くたびに、見ようとしなくても目に入る京都タワーでしたが、上ってみるという発想がありませんでした。
でも今回は時間と気持ちの余裕があったため、タワーに登りたいと思い、わざわざ四条河原町からバスに乗りました。
妻も息子もそれほど強く街の全景を見たいと思っていたわけではありませんでしたし、高い所から景色を見ることが私ほど好きではないようですが、私が高い所から街を見て、その街に住む人の暮らしを想像することが好きだと分かっているので付き合ってくれました。
外観から分かる通り、360度自由に見て歩くことのできる構造で、大きな双眼鏡も自由に使うことができて、それを見ながら建物ひとつひとつを特定することができるほどでした。
タワーすぐ北のビルがたくさんあって賑やかな、三条や四条の辺り、山の中腹に見える清水寺、街の中にポコンと出た吉田山と船岡山、昼間訪れた大徳寺、2月に行った妙心寺、竜安寺、山の中にたくさんの車が消えていく国道9号線、西南西方向を見ると大阪のビル群が見えました。
数年前、嵯峨野をあてもなく、半ば道に迷いながら歩いた時にこの京都タワーが小さく見えて、そこが京都の中心から遠く離れた所にあると実感して寂びた気持ちを抱きました。
私たち二人がとてもちっぽけな存在に感じ、心細くなりましたが、こうやって街の中心からの景色を見ると、京都に暮らす人について考えます。
少し感傷的な気持ちを持ち続けて、妻子に呆れられながら、夢中でタワーから見える景色を見続けていました。

3月の予定と臨時休業のお知らせ

2009-04-03 | 仕事について
3月は、いつも通り毎週水曜日を定休日とさせていただきます。
毎月1回の延長営業日は3月20日(金曜日、祝日)となっております。
現在神谷利男氏の本「My Favorite Fountain Pens」発売を記念した絵画と写真展を開催しておりますが、3月8日(日),15日(日),22日(日)は神谷さんも店にいますので、ぜひ会いに来て下さい。
絵画はテーマとなったペンで実際に書かれていますので、それぞれのペン先の感じなども見ることができて面白いと思います。
なお、絵画と写真展は3月31日(火)までとなっております。
4月1日(水)から3日(金)まで臨時休業とさせていただきます。
近場での旅行に行ってきます。
よろしくお願いいたします。