元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

工房楔イベント開催 3月28日(土)29日(日)

2015-02-22 | お店からのお知らせ

茶道で使われるほとんどのお道具には正面があって、お点前では必ずそれをお客様に向くようにすることになっています。

土ものの模様のない茶碗でもそこに景色を見出して、見所を表にする。

作家ははっきりとそこが表だとしてその作品を仕上げているし、使う人もそれを尊重します。

作品を見てどこが正面だとか、趣向などの作り手の意図について考えるのはとても楽しいものだと思っているし、作り手にそれを確認することはほとんどの場合できないけれど、もし自分が間違っていたら、修正しなくてはならない。

工房楔の永田さんの作る木製品を見る時に、茶道具を扱うのと同じように考えている自分に気付きます。

例えばパトリオットボールペンはクリップがありますのではっきりと正面が分かるけれど、でもクリップ側にその材の景色の中に見出せる正面があるような気がしますし、万年筆用ボディこしらえやペンシルエクステンダーなどの正面の手がかりのないものにも、永田さんが意図している正面が存在します。

使われる方が好きに楽しんで下さればいいとして、永田さんはそういうことは一切言わないけれど、聞けば答えてくれる。

ひとつひとつのものに違う景色、見所を見出せるものが私たちが日常で手にするものの中にどれくらいあるだろうと思います。

それぞれ違う素材の、それぞれの見所をそのモノの中に表現した作品が、工房楔の木製品だと私は思っています。

年2回開催しています工房楔のイベントを3月28日(土)29日(日)に開催いたします。

 

 

木のものはその素材についての知識を深めればとても楽しく、愛着もより湧いてきます。

木に関しての情報は主にインターネットで調べていましたが、創業からの付き合いのあるお客様いT橋さんが地元伊丹の書店で見つけられた「原色木材加工面からわかる樹種事典」(誠文堂新光社)は永田さんがよく扱う材の多くが載っているものだと思いました。手間と情熱をかけて作られた本だと思いました。当店でも扱っています。

 


石の宝殿

2015-02-15 | 仕事について

建国記念日の日、家族3人で高砂の生石神社(おうしこ)に出掛けました。

祝日で混雑しているところには行きたくないということで、色々検討して、香道師の森脇直樹さん(2月28日に聞香会あり)が以前に勧めてくれていた場所で、行ったことのない場所だったので行ってみました。

兵庫県内の名所のようなところは行き尽したと思っていましたが、こんなに行って楽しいと思えるところが残っていたとは。

でも私はどこに行っても楽しめる自信があるけれど。

京都などの有名神社にはない趣があり、ここにしかない個性のようなものがありましたが、一部の地方の寺社にこういうふうに感じるところがたまにあります。

ご神体であるとても大きな石は山門をくぐってすぐのところにあり、その存在の異様さに歴史のロマンと迫力を感じました。

神社のある宝殿山は登ることができて、簡単に山頂に行くことができます。

岩山から高砂の街が一望でき、時間を忘れていつまでもいることができました。

なぜか岩山を登りながら、楽しい気分になってくるのは子供の頃の遊び場を思い出すのか、それともこの場所がパワースポットと言われているところなのか。

垂水の自宅から30分くらいで行くことができて、近くに鹿嶋神社もあります。

近所に面白い所がまだまだあるのかもしれません。

 

H田さんがまた買ってしまった。ペンタックスFA77㎜。同シリーズの広角と標準も持っていた。


変化を見極める

2015-02-10 | 仕事について

学校で流行っているもの、友達が皆持っているものをなかなか買ってもらえませんでした。

流行っているものを買ってもらえなかったりした代わりに、ステッドラーの鉛筆やダックスの鉛筆削りなどは、頼まなくても買ってくれた。

今ならその母の意図はすごくよく分かり、そういったものによって、多少目は肥えて養われたものはあるのかもしれません。

小学生の頃から、ずっと変わらずに使い続けられているものを与えるというのは、もちろん意図したものではないけれど、店をするための英才教育になっていたような気がします。


何もかもが変化せずにずっと同じだったら、いろんなことがとても楽なのではないかと思うことがあります。

でも現実は世の中のいろんなことが常に変化し続けていて、変化が速くて複雑なので、漠然と変化していることは分かるけれど、何がどのように変化して、これからこうなっていくということがなかなか言葉にできません。

当店は常に変わらないもの(こと)を見極めて提供していきたいと思っているし、世の中が変わった途端につまらなくなるものは提供したくないと思っていますので、世の中の変化をいつも見極めたいと思っています。

いろんな要因があるのだと思いますが、変化はどんどん速くなっていて、複雑になっているので、以前に自分たちが感じた分かりやすいものではなくなっているのかもしれません。

重大な変化が起きているのに気付かないということが一番恐ろしく、余程肌感覚を研ぎ澄ましておかないと知らないうちに世の中が変わっていたということになってしまう。

世の中の変化を知る時に、外にばかり目を向けるけれど、意外と自分の心の変化がそれを投影していることがある気もします。

なかなかはっきりと投影しないけれど、世界の国々に興味を向ける時に、欧米への興味が薄れていることに気付きます。
それよりも自然が厳しい地球の果てのような場所に興味があります。

そんな場所の人々の暮らしはいつまでも変わらずにあって欲しいけれど、そういった場所も世の中の変化の波にさらされていて、もしかしたら私たちよりも深刻に影響を受けているのかもしれない。

いるものいらないものが混ざったたくさんの情報が速く伝わり、変化も速い世の中で、変わらない価値を持ち続けることはとても難しいと思うけれど、人の心はそう簡単にひっくり返るものではないと思いますので、人の心に忠実なものはそう簡単に変わらないと思います。

黄金以外のそういうものをいくつ知っているかがお店の値打ちを決めるのかもしれないと思ったりします。


読書

2015-02-08 | 実生活

何日も本を読まないと焦りに似た気持ちになります。

好きですることなので、暇があれば何か読んでいるので、実際何日も本を読まないということはありませんが、何のために自分は本を読むのだろうと思うことがあります。

若い頃は漠然としていて分かっていなかったけれど、40歳を過ぎたあたりに、自分の場合は答えを探していたのだと気付きました。

仕事での答えを探していることもありましたが、多くの場合生き方を探していたのだと思います。

自分が理想とする生き方を見つけて、それに習いたいと思って様々な人の人生観のようなものを読みたかったのだと思います。

それらはとても参考になったけれど、どれも自分には立派過ぎるように思いましたし、承服できないこともたくさんありました。

生き方について、一人の男が生きていく上でとるべき態度などは結局本ではなく、実際の人から学んで、それを消化して、自分なりのものを見出さなければならないのだと気付きます。

人の生き方など千差万別、正解などないし、それを教える本などはなかったのです。

でも本を読むことの一番の効用は自分の考え確立することに役に立つということなのかもしれません。

それは雑誌の記事を読むようなことでも得られることがあって、この人の考えは好きではないなど、自分のとりたい立場がはっきりとする。

知識を得るための読書と違って、その成果を人に披露することはできないけれど、一番の理由はただ好きだからしているという、実は理由がないのかもしれません。

でも、知らないうちに書くことが読んだものの影響を受けていることがあって、以前読んだ本を読み返したりしていると、自分と同じ考えに出会うことが多く、自分のオリジナルの考えだと勘違いしていることのほぼ全ては、本を読んで得られたもので、そうでなければ人と話していて聞いた話なのだと思いました。

私が書いているものは、読んだり、聞いたりしたことを自分の中で消化して、自分の意見のようにしているだけで、私の中でゼロから生まれたものでないことに気付きましたが、考えや教訓などはそうやって伝えられていくものなのだと、開き直っています。


紺屋の白袴

2015-02-01 | 実生活

茶道教室に、30歳で独立して40年間眼鏡店をやり通した商売の大先輩がおられます。

今まであまり仕事について語り合うことはなかったですが、先日生田神社での初釜があり、時間がありましたので少しお話しさせていただきました。

最初にその方がお道具の拝見の時に掛けた眼鏡を私が褒めたのがきっかけでしたが、その方は「紺屋の白袴ですわ」と言われました。

良いものは全部売ってしまうから、自分の手元には何も残らないとのことで、確かに私もそうで、自分が欲しいと思うものはだれっかに買ってもらった方が仕事のために絶対にいい。

調整に関しても、自分のペンは後回しで、ほとんど手を付けていない。我慢して書いて慣らしています。

それが仕事と道楽の分かれ道で、自分の欲しいものからお客様に勧めるのが商売人です。

私は70歳までは必ず仕事をしていたいと思っているし、可能であればもっとやりたい。
同級生が80歳まで現役の美容師でいると言っていたのに感化されて、80歳までは現役でいたいと思うけれど、65歳頃には世の中の流行のようなものが全く理解できなくなっていると言われました。

もし店をもっと続けていきたいと思っているのだったら、世代交代を早めにしておいた方がいいとのことで、それには他にも理由があって、お客様との関係性についてでした。

お客様の年齢はたいてい店主と同じくらいか、少し上であることが多く、店主が齢をとるとお客様も齢をとっていき、さらには亡くなっていってしまうので、次の世代のお客様を受け入れるには、世代交代が必要だとのこと。

眼鏡というファッションに連動するもので、流行を理解することはとても大切だけど、万年筆店は少し事情が違うので、私には当てはまらないかもしれないけれど、大先輩のお話は重みを持って聞こえました。

70歳、80歳まで現役でいようと思うと、若い人の感覚を利用でき、とても頭を柔らかくしておく必要があって、それは自分が思っている以上に難しいことだと知りました。