元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

~それぞれの昭和~ たこ焼きの岸本(蓮見恭子著)

2022-02-07 | 実生活

 

大学生の時、下町育ちの子と付き合っていた。
元気のいい子で、何か買い物をした時にはいつも大きな声で「ありがとう」と言っていた。
お店の人にありがとうと言ったり、外食して店を出る時にごちそうさまと言うことをその子と一緒にいて覚えた。

今もあるブラジルという喫茶店で、たばこの煙の中で長い時間彼女や友達としゃべっていた。
ブラジルは4,5人用という大きなパフェや定食があった。
お金のない時は山陽そば、ある時は増田屋の寿司。本屋さんも3軒あったし、レコード屋さんもちゃんとあった。
小さな垂水の町の中に楽しみはいくらでもあった。

バス停のローターリーはまだなくて、山陽電車の高架下にバス停が縦に並んでいた。
バスが走る商大筋は狭く、曲がりくねっていて、慣れていない車が蓋のない側溝で脱輪しているのを何回も見た。そのためにバスには車掌さんが乗っていた。バスを降りるときは停留所の前で車掌さんに言ってバスを停めてもらう必要があった。
彼女は「次降りまーす」と大きな声で言えたけど、私はシャイで車掌さんと目が合うのを待っていた。
今では商大筋は長い直線の坂道になっていて、バスはワンマンカーになっている。

垂水漁港の駐車場は1日とめて500円で安かったけれど、満車になっていることが多く、バイトに遅れそうな時は一度家に帰って原付で出直した。

大学が地元だったせいで、昭和の終わりの大学時代はずっと垂水の町中にいたような気がする。
でもそれで楽しいと思って満足していたので、バブル景気に沸く外の世界を知らないというのはめでたいと思う。

垂水でもあんなに賑やかだったのだから、きっと日本中が賑やかだったのだと思う。
そんな垂水もきれいにはなったけれどあの頃の活気はなくなっている。

蓮見恭子先生の「たこ焼きの岸本」、続編の「涙の花嫁行列」はその物語の舞台の住吉大社近くの商店街に行ったことがないのに、自分が若いころ歩き回った風景を重ね合わせて読みました。

大らかで、活気があって、慎ましい昭和の暮らし。
日本中にこんな風景があって、小さな暮らしがあった。
この本を読んだ人は、それぞれの昭和を思い出すのだと思う。
今の世の中はきれいで、ちゃんとしているけれど、私は昭和の時代が懐かしいと思う。

この本を読んで、久し振りに若い時のことを思い出しました。
順番通り、「たこ焼きの岸本」を読んで、「涙の花嫁行列」の2冊を読んでください。