元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

レトロなビルで

2006-04-28 | 万年筆
大阪本町の農林会館ビルにある有名なステーショナリー雑貨店“F”さんに行ってきました。
雑誌などでは見ていましたが、実際に行ってみるのは初めてでした。
エントランスから雰囲気たっぷりで、エレベーターホールも写真のように、古い映画に出てきてもおかしくないような昔のままだと思われる造りでした。
“F”さんは思ったよりも小さなお店で驚きましたが、他では買えないものがたくさんあり、とても楽しい時間を過ごすことができました。
農林会館ビルは他にもクリエイティブな人たちがいて、とても刺激に溢れた場所でした。
あんな所で仕事をしてみたいと思いました。

夢のあるペンを作りたい

2006-04-24 | 仕事について
ある国産万年筆メーカーの方に新製品を作る時に、ターゲットの設定やコンセプトを決めているのか聞いたことがあります。
国産の万年筆にそれが一番欠けていると思っていたので、意地悪な質問だったと思いますが、やはりそういったことの企画部門からのアナウンスはないとのことでした。
確かにターゲットを絞ってしまうと広い層の方々に受け入れられないという危険性を感じるのはよく分かりますが、今の時代に万人受けを狙ったものは誰からも支持されないことを意味するように思いますが、その辺りが数をたくさん作らなければならないメーカーの難しい立場なのかもしれません。
先日発表した白いペンは、物の価値が分かり、文化的なことにも興味のある30代大人の女性をターゲットにした昨年の黒いペンのカラーバージョンです。
昨年のモデルは、今まで万年筆を愛用されていた方にも受け入れていただきましたが、嬉しかったのはターゲットとして狙った人たちが初めて使う万年筆としてそのペンを選んでくれたことでした。
そのような人をもっと増やしたいという想いと、昨年のモデルに対してカラーバージョンのリクエストをたくさんの人たちから受けたことも、白いペンを実現させた理由です。
ターゲットである30代の女性を昨年以上に意識して、ボディカラーを抑え目の白、金属部分にピンクゴールのメッキをしたことにより、華やかな印象のペンになると思います。
これらの色の取り合わせは、ファッションの動向を昨年よりかなり注意して見ていましたので、今の色を取り入れることができたと思います。
まさに今の世相を反映できたペンに仕上がっています。
昨年末、万年筆メーカーSから、黒い限定万年筆そっくりなペンが出ましたが、デザインやサイズだけコピーして、コンセプトやターゲットが明確にされていませんでした。
黒い限定万年筆が既存のパーツを工夫して、シンプルなデザインを心がけたことにより全く印象の違うペンができたということがそのメーカーには魅力的に映ったのだと思います。
でもデザインだけ真似ても、そこに夢が込められていなければ魅力は少なくなってしまいます。
私たちは夢のあるペンを今年も作ることができたと思っています。

散歩

2006-04-19 | 万年筆
天気がよく、暖かかったのでホームグランドである垂水の街を久しぶりに散歩しました。
垂水駅周辺は地方都市風の商店街があり、25年間この街を見続けていますが、全く変わらない庶民的な佇まいを見せています。人々の生活を支える街らしく、買い物の人たちでいつも商店街は賑わっています。
駅から少し離れると、閑静な住宅街があり、その入り組んだ狭い道を昔歩いたようにゆっくりといろんなものに注意を向けながら歩きました。
前にここを歩いたのは、17年以上も前であの頃の気分を思い出しながら、懐かしい気持ちになることができました。
いつもこの街を一緒に歩いた彼女は今どうしているんだろうか?
あの頃は、時間がいくらでもありましたが、自分に何ができるのか分からず、一人になると将来に不安を感じていました。
今ではあんな気持ちになることはありませんが、忘れかけていた若い頃の思い出です。

ペン先調整が全てなのに

2006-04-16 | 万年筆
どんなに値段の高い万年筆でもペン先調整が上手くできていないと書き味が悪いどころか、実用に支障をきたしてしまいます。
逆に値段の安いステンレスのペン先のものでも完璧に調整すれば書き味は良くなります。
それほどペン先の仕上げは重要であり、万年筆を作るにあたって最も注意しなければならない部分ですが、生意気を承知で言うとどのメーカーも完璧と言うにはまだまだだと思っています。
私が店頭に並べるペンはどれも正常な状態に調整して並べています。
国産万年筆メーカーが全国で行っている万年筆クリニックに持ち込まれることが多い万年筆はペリカンだと言われています。
それだけたくさん売れていると解釈することもできますが、持ち込まれてくる原因がどれも同じなのは問題があります。
書き出しが出ないという現象です。
それは、切り割りの内側(私たちは内面といいますが)を削り取りすぎていて、強く押えないと紙にインクがつかないことが理由です。
またペン先が不揃いなのもよく見受けられます。
パーカーデュオフォールドは切り割が紙面側よりも反対側の方が広く空いてしまう背開きというよくない現象をよく起こしています。
これでは普通に書くときよりも、ひっくり返して書いた方がインクの出が多くなってしまいます。
またイリジュウムの磨きが甘く、書き味がザラザラするものが多いようです。
他のメーカーもそれぞれ決まった悪い現象を起こしており、それは国産メーカーでも例外ではありませんが、上記のペンは私も好きなすごくいいペンなので、それらを買われた人たちを、最終の仕上げのつめの甘さでがっかりさせてほしくないと思いました。


ペンと出会った時

2006-04-11 | 万年筆
ある人とメールのやり取りをしていて、思い出したことがありました。
以前の私は繊細さとは無縁な、芸術らしいことも理解できない、無骨で感性とは程遠い人間でした。
それが変わってきたのは、万年筆と出会ってからだとはっきりと分かります。
それまで万年筆を使うには使っていましたが、特にそこから感じるものはありませんでしたが、ペンを仕事にするようになって、自分の中で少しずつ何かか変わり始めました。
文字を丁寧に書くようになり、手紙を書くようになりました。言葉をたくさん知りたくなって、本を読むようになりました。
もちろん繊細な感性を持つ、物静かなたくさんの素晴らしいお客様方の影響もありました。万年筆を愛用する人たちのお話を聞いていて、たくさんのことを教えてもらいました。
そんなことを繰り返しているうちに本当に自分が変わっていきました。
以前からの私をよく知る身近な人は、別人のようだといいますが、私はペンと出会った時に変わったのでした。

雑記

2006-04-11 | 万年筆
仕事をする環境が変わって、周りにいる人たちの支援をすごくありがたく感じています。
ペンなどのメーカーや問屋の方々は、予算が少なく私の扱う金額が少なくなったにも関わらず、今までと変わらないどころか、今まで以上に力を貸してくれて、何とか私の売り場を盛り上げようとしてくれています。
社内でも力になってくれている人たちがいます。
インクの色見本を作ったり、売り場作りの知恵を貸してくれている同じ店のパート社員の女性たち。
手が空いたら、来てくれてディスプレイや装飾について工夫を凝らしてくれる販促担当のアーティスト。
新しい商品やペンに合うものを見つけては教えてくれたり、取り寄せてくれる、いつも私のことを気にしてくれている他の店の女性。
もしかしたらこの人たちは今までも私を支援してくれていたのかもしれませんが、それに気付かないほど、私は驕っていたのかもしれません。
でも私が周りが見えるようになったときにいつも手を差し伸べてくれるこんな人たちがそばにいてくれることがとても幸運だと思っています。

再会

2006-04-04 | 万年筆
私のいるフロアーにWさんがわざわざ来てくれました。
Wさんは前日大阪で講演会を行っており、私の上司に会った後5階まで上がってきてくれたのでした。
かなり強い雨の降る日曜日で私はのんびりと模様替えをしていましたが、上司から電話があり、Wさんがこちらに来られることを聞きました。
大慌てで片付けている所に、エレベーターがチンと鳴り、Wさんが降りてきました。
一昨年9月に4人くらいで喫茶店でお話をさせていただいて以来1年半振りの再会で、二人だけでお話をさせていただくのは初めてでした。
前回お会いしたり、その後電話でお話させていただいたときの印象通り、かなりちゃんとした、きめの細かい心遣いをされる方と感じました。
本を書いたり、ホームページの運営、社長業などかなりお忙しいと思いますが、たくさん人たちに支持されているお仕事振りは、すごいと思っていましたし、皆さんもご存知ですね。
私はあまりは話をするのは得意ではなく、Wさんのお話をお聞きするような形になりましたが、共感し合え、ビジネス抜きで協力していきたいと約束し合えた再会でした。
最後にこの日の再会を形にしたくて、Wさんの著書に独特のサインをしてもらいました。

加藤製作所の万年筆

2006-04-01 | お店からのお知らせ
加藤製作所の万年筆は、手作りでしか(イタリアのメーカーはコンピューター制御で削りだしていることを自慢していますが)作ることのできないセルロイドの軸が有名ですが、そのデザインから製作まで全て一人で担当している職人加藤清さんのセンスが随所に散りばめられていることにスポットを当てる人は少ないと思っています。
それはきっと加藤製作所のペンが、昔からそこに存在していたかのような、馴染みのある雰囲気を持っているからなのだと思います。
しかし、加藤製作所の代表的な8500円の万年筆を手に取ってみると、キャップリングの並べ方、キャップがボディを包み込むような尻軸への入り方、手にフィットするボディの太さなど全てが自然で無理のないことが分かりますが、加藤さんにそのことを聞いてみると、それらは全ていくつもの試作品を作っての試行錯誤によって決められていくようです。
加藤さんが長年の付き合いのある、筆記具のパーツメーカー、ドイツのシュミット社のペン先とペン芯も加藤さんの万年筆と非常に良い組み合わせに思われます。
スチールの安いペン先ですが、少し調整すると本当に良い書き味に変わるのは、そのペンの素質が良いからです。