若い頃は人と違うことをするのが怖いもので、自分に人と違うところがあれば、それを隠そうとしたりした経験があります。
人と違うことをしたり、感じたりすることに何か正解ではないような感覚を覚えていました。
世の中の王道の意見に左右されにくくなったのはずいぶん遅くですが、そう思えたのは自分が平凡な人間であるということを受け入れた時なのかもしれません。
世の中の主流の考え方や多くの人が向かっていく方向へ向いて、競い合うと力の強い方や、より頭の良い方が勝利をおさめる。
それよりも別のステージを自分で見つけて、その場所にいる方が自分には合っていると考えられるようになるには、自分には能力がないと悟った凡人の知恵なのかもしれません。
でも、そういうふうに考えられるようになったのは多くの人が省みることのない万年筆と出会ってからで、万年筆そのものが、それを使うお客様方の多くから教えられたことなのだと思います。
店を始める前に訪ねた方に孫子の兵法を読みなさいと言われて、30代後半にして始めて孫子の兵法を読みました。
私たち力の弱い者が勝負に勝つ、あるいは最後まで立っているための知恵が書かれていて、それは今までの人生で体得してきたこともありましたが、はっきりとした文字にして示されたものを読んで自分の考えがひとつの方向に向く助けになりました。
もし他のお店が向かう方向に当店も向いていたら、消耗戦に巻き込まれて、体力のない当店はすでに立っていられなかったかもしれないと思います。
幸い違う方向を向き続ける助けになって下さるお客様や仲間に恵まれてこうしていられる。これからも荒波は繰り返し私たちを押し流そうとすると思いますが、当店が向くべき方向をしっかりと見つめていれば立っていられる。
ポイントを上げたり、相手にダメージを与えることが大事なのではなく、最後まで立っていることが最も重要なのだと改めて思う今日この頃です。