元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

自分らしさ

2011-02-22 | 仕事について

若い頃は人と違うことをするのが怖いもので、自分に人と違うところがあれば、それを隠そうとしたりした経験があります。

人と違うことをしたり、感じたりすることに何か正解ではないような感覚を覚えていました。

 

世の中の王道の意見に左右されにくくなったのはずいぶん遅くですが、そう思えたのは自分が平凡な人間であるということを受け入れた時なのかもしれません。

世の中の主流の考え方や多くの人が向かっていく方向へ向いて、競い合うと力の強い方や、より頭の良い方が勝利をおさめる。

それよりも別のステージを自分で見つけて、その場所にいる方が自分には合っていると考えられるようになるには、自分には能力がないと悟った凡人の知恵なのかもしれません。

 

でも、そういうふうに考えられるようになったのは多くの人が省みることのない万年筆と出会ってからで、万年筆そのものが、それを使うお客様方の多くから教えられたことなのだと思います。

 

店を始める前に訪ねた方に孫子の兵法を読みなさいと言われて、30代後半にして始めて孫子の兵法を読みました。

 

私たち力の弱い者が勝負に勝つ、あるいは最後まで立っているための知恵が書かれていて、それは今までの人生で体得してきたこともありましたが、はっきりとした文字にして示されたものを読んで自分の考えがひとつの方向に向く助けになりました。

もし他のお店が向かう方向に当店も向いていたら、消耗戦に巻き込まれて、体力のない当店はすでに立っていられなかったかもしれないと思います。

 

幸い違う方向を向き続ける助けになって下さるお客様や仲間に恵まれてこうしていられる。これからも荒波は繰り返し私たちを押し流そうとすると思いますが、当店が向くべき方向をしっかりと見つめていれば立っていられる。

ポイントを上げたり、相手にダメージを与えることが大事なのではなく、最後まで立っていることが最も重要なのだと改めて思う今日この頃です。


もうひとつの1日

2011-02-20 | 仕事について

その日の営業時間が終わったら、それからはもうひとつの1日だと思うようになりました。


今までは前の日と次の日がつながっているように感じて生活していきましたが、店を始めてから、もうひとつの
1日というふうに仕事が終わってからの時間を考えるようになって、1日が二部構成、三部構成になってとても長くなりました。

もうひとつの1日といっても、別に華やかなライフスタイルがあるわけではなく、静かに閉店時間を迎えて、片付けて、いつもの電車で家に帰って、日記をつけたり、メモ帳に文章を綴ったりする日常です。


しかし、このもうひとつの
1日の存在で1日がリセットされて、新たな希望を持って次の朝を迎えることができています。

もうひとつの1日がそういった日常とは違う、特別なものになるのは、たまに催している食事会の時で、月の3,4回はそういう機会があります。


先日、
2日連続でそういう機会がありました。

“万年筆で描こう”教室の後、講師の神谷利男さんとお客様方と神谷さんの同級生の方が経営されるハンター坂の居酒屋うえ山へ行きました。

お客様方と食事に行くことはあまりありませんが、なかなかスムーズな楽しい時間を皆さんで過ごすことができて、ぜひこれからもしていきたいと思いました。


昨日の聞香会の後、香道師の森脇直樹さんとポートタワー通りにあるインド料理プージャへ行きました。

森脇さんとは本当にいろんな所に食事に行っていますが、プージャは特にカレーが美味しくこの日も二人で大満足して帰りました。

森脇さんは、次回の聞香会は春の訪れの喜びを表す特別なものにしたいと考えておられるようで、326()15時~17時の次回の聞香会が楽しみです。


もうひとつの
1日と考えて充実するのは休日でも同じで、以前いつも通りの休日の時間を過ごした後、夕方から京都の蒔絵師さんを訪ねたことがありましたが、こういった2部構成は1日を本当に充実させます。


1
日が短いと思った時、もうひとつの1日を作ると少し長く感じられます。


Friday Workshop“万年筆で描こう”

2011-02-19 | 仕事について

昨晩開催いたしました、Friday Workshop“万年筆で描こう”の模様が講師の神谷利男さんのブログで紹介されています。http://blogs.yahoo.co.jp/kamitanidesign/11193961.htmlFriday

Workshop“万年筆で描こう”は、6月に展示を予定しており、ワークショップに参加されている方以外の方の作品も展示したいと思います。
タイトルは”万年筆のある風景”です。
B5サイズの紙に、万年筆で下絵を描き、水彩絵の具(私たちは透明水彩絵具を使っています)で色づけしてください。
参加ご希望の方はぜひ当店までご連絡ください。

尚参加には額代2200円がかかりますので、ご了承ください。


レッドウイングチャッカブーツ

2011-02-15 | 仕事について

ビルケンシュトックの靴をいつも履いていますが、少し形の違うものが欲しいと思い始めて、チャッカブーツというものが、なぜか欲しくなっていろいろと想いを巡らせていました。
靴の本などを買い込んで調べたりしました。

何か欲しくなると、まず雑誌などを買ってきて、いろいろ調べて自分の好みに合いそうなものを絞り込んでいく。
そしてこういうものが自分の好みで、これが欲しいと決まっても買うことはなく、それで終わってしまう。
今までそういうことを何度も繰り返してきて、実践のない知識だけは増えていったけれど、本当に実践したことがなかったと、ふと思いました。
車、楽器、鞄、靴、洋服、時計などなど。様々なものに興味を持って本だけは増えていったけれど、それらを手にしたことはなかったかもしれない。

ある日、よく行くお店のスタッフ用のカタログを見せてもらっていて、レッドウイングのチャッカブーツを見つけました。
ちゃんとメイドインUSAのものでした。

全然知らないお店でお金を払うのなら、多少高くてもいいから馴染みのお店で買物をしたいといつも思っているので、ここでチャッカブーツを買うことができればとても嬉しい。やっと耳学問を卒業して、実践派に成長することができると思いました。

でもレッドウイングは、この店のオリジナルでも別注でもなく、卸してもらっているので、客注キャンセルはダメ、試し履きだけではダメとそのカタログにはスタッフ用の注意事項が書いてあって、お店の担当の方もあまり乗り気ではありませんでした。

靴で試し履きできないと、サイズがメーカーによって様々なのでとても怖い。万年筆のペン先ならある程度は目をつぶれるけれど、靴はそういうわけにはいかないので、その場は諦めて帰ってきました。

それでも靴は欲しくて1週間毎日同じ本ばかりを見ていました。

火曜日の晩、家に帰ると担当の方から葉書が届いていました。
レッドウイング、会社にかけあって取り寄せたので試し履きだけでもしに来てほしい。買わなくても結構です。という内容でした。
次の日、厚手の違う靴下を2足持って出掛けました。

試し履きして、問題なく履けたら買わないわけはなく、私の靴のサイズを見極めて賭けにでた担当の方の勇気に恐れ入りました。

履き始めたばかりのれレッドウイングはまだまだ革が硬く、自分の足に馴染んでいないけれど、良いものとはこういうもの。メイドインUSAの作りこまれたものの良さを実感していますが、これは万年筆のペン先やペン芯が馴染んでいくのを待つような感覚に近いのかもしれません。

次はオールデンに別注したモデルが欲しいかもしれない。  




私たちの世代

2011-02-11 | 仕事について

映画「白夜行」を見て、自分達の世代について考えていました。

生まれた時、日本はすでに高度成長期で、自分達の成長とともに暮らしがどんどん便利になっていきました。

こうやって日本はどんどん良くなっていくのだろうと、意識、無意識のうちに思ってきたところがあります。
物心ついた時には、車を持っている家はお金持ちだけでしたが、小学校高学年の頃には近くの家にサバンナRX-7やフェアレディが停まっていたりするようになりましたし、私たち庶民の家の多くにも小型のセダンが標準装備されました。

バブル経済という狂乱の時代も、翻弄されながらも楽しんで、その崩壊後さえも普通に仕事をしていれば、私たちの生活は必ず良くなっていくと信じていました。
経済の繁栄が自分達の暮しの豊かさに繋がっていると思えていたから、そう信じていたのかもしれません。
しかし、企業の繁栄が私たちの暮しを良くしていると思えなくなったのは、いつ頃からだろう。

いろんなものが開発されて、生活が便利になっていることを私たちは、人類の進化と勘違いしているところがあって、時代が進むとともに私たちは高度な文明を手に入れていると思ってきてしまいました。

 

最近では、業績好調な企業の一部がしていることは、その勘違いさえ感じさせず、日本の国民をダメにして金儲けしているとしか思えないものもあります。

人類が本当に進化するということが強く、賢くなるということだと考えると、コンピューターの発明でさえ、文明が高度になったのではなく、ややこしくなっただけと思ってしまいます。

自分が生まれて、生きてきた時代について考えるとそんな虚しさを感じ、私たちが万年筆に惹かれる理由も見えてくるような気がしています。


映画「白夜行」

2011-02-10 | 仕事について

映画「白夜行」を観てきました。
あらすじは申し上げませんが、読書家の妻などは原作との違いに違和感を感じたようですが、私はとても気に入りました。

主人公が私たちと同世代の設定のため時代が同じように流れていき、そういったところも共感、入り込みながら観ることができた理由だと思います。
私が子供頃、あんな家が近くにあったし、大学生の頃あんな髪型の女の子が多かったなど、今40歳前後の方は懐かしい時代感も見所です。

話の内容がそうだからということもありますが、日本の映画独特の全体に流れる沈鬱な空気が実は大好きで、この気分を感じたいがために日本の映画をいつも観たいと思います。

いまだに後味の悪さというか、気分が映画に支配されたままですが、それほど入り込むことができる映画だと思います。


聞香会

2011-02-01 | 仕事について

1月29日、香道師の森脇直樹さんが当店で聞香会を開催して下さいました。
5人に対して、お香のお手前はもちろん、お香の説明や、聞香の仕方、つなぎの世間話などを堂々とされていました。

森脇さんは、私の大学のずっと後輩ですが、私が森脇さんくらいの時はこんなにしっかりしていませんでした。
ただ毎日楽しく友達と過ごしていて、一人になった時にふと自分の将来について考えて暗い気持ちになるような日々を送っていました。
自分が何をやりたいのか、一体何ができるのか全く分からずにいましたし、就職活動での仕事の探し方もやりたいことではなく、どの業種が安定しているかということばかり考えていたように思います。

そんな自分の大学生の頃と比べると、森脇直樹さんの姿はものすごくしっかりとしていて頼もしい、将来楽しみな若者です。
森脇さんは、万年筆もその中のひとつですが、大学生の年頃では興味を示さないような、高価な良いものを知っていて、アルバイトをして貯めたお金でそういったものを買って使っています。

若い頃から良いものに触れることはとても良いことで、物を見る目が早くに養われます。
そういった目が養われることは、森脇さんがこれで生きていくと決めたお香にも、直接的な良い効果があると思っています。

聞香会の後に、工房楔の永田さん、大和出版印刷の多田さんたちと行った焼肉満月では、聞香会での姿とは違う若者らしいところを見せてくれたりしていて、森脇さんが現役の大学生だということを思い出させてくれます。

森脇さんをはじめとして、すごい才能の方々がこの店に来てくださって、盛り上げてくれる。
時計ライターのNさんが指摘して下さった、絶妙な立地も含めて、この店は本当に恵まれていると思っています。