元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

一年に一度の顧客

2017-11-26 | 実生活

一度当店に来られたお客様には、万年筆やステーショナリーに関する用事は全て当店に任せてもらいたいと思います。

それが理想で、一人一人のお客様との関係が長く続けばと思いますが、実際はそうではない方もおられます。

しばらく来ていただいていたお客様が突然来なくなるような時は、何か失礼があっただろうかとか、嫌な想いをさせたのではないかと色々理由を見つけようとします。

そういうことがあるから店は良くなっていくのかもしれないけれど。

いつも来て下さるお客様に飽きられないようにし続けるために、新しい商品を入れ続けるような努力はしようとします。

でもそれをやり過ぎると店の型が崩れてしまうし、在庫の山の中で潰れてしまうことにもなりかねない。

ある程度は、お客様は流れて行ってしまうものだということを半ば諦めのような気持ちで思っています。

そのお客様が求めるものが当店になかったり、行動範囲が変わったりなど、理由は様々でお客様の顔ぶれが変わってしまうのは仕方ない。

他所のお店はそれを少しでも食い止めようとポイントカードなどを発行して、お客様の囲い込みをしようとしているけれど、私は個人的には面倒でポイントカードを作ってもらうことはほとんどありません。

日用品などの消耗品などはポイントカードでお客様還元できるようにすることは有効なのかもしれませんが、お客様が離れていく理由が他にある限り、いくらポイントを発行しても、囲い込んだことにはならないような気がします。

話が少し反れてしまいましたが、ある程度お客様が流れていってしまうのは仕方なくて、それよりも新しいお客様に来ていただいて、新たに万年筆を使っていただけるようになれば、当店の役割のひとつは果たしていると思っています。

 

年1回、だいたい今くらいの時期に必ず来て下さるお客様方がおられます。

当店は正方形のオリジナルダイアリーを発売していますので、それを毎年使って下さっていて、それだけをいつも買いに来て下さる。

そういうお客様だけだと困るけれど、年末近くになると決まってダイアリーを買いに来て下さるお客様も有り難い。

一年本当に早いですねと言い合って、また来年と言って帰って行かれる。

 

考えてみると当店は、かなりの間隔を空けて、用事のある時だけ来られるお客様がたくさんおられる。

3年に一度くらい、新しい万年筆が欲しくなったら来られて、じゃあまた数年後と言いながら帰って行かれる。

万年筆は当店で買うと決めて下さっている。

お客様それぞれ当店との距離感があって、皆様に支えられていると実感します。

 


垂水の夜

2017-11-19 | 実生活

今朝の垂水区

 

自分の仕事において、自分の経験の中でつかんだことだけが真実で、本を読んだり、講演会で語られる成功体験は自分にとって正解とは限らない。

そういった話を聞いて、考えるきっかけにはなるけれど、そのまま鵜呑みにしてはいけない。

そんな自分の仕事に関する話とか、理念の話ができたことも嬉しかった。

旧友だけど、高校時代を懐かしむ話には興味がなくて、お互いの今や未来を夢を持って語り合えた夜でした。

高校の同級生 楫貴彦くんと連絡を取り合って、商大筋から霞ヶ丘にあがる坂道の途中にある洋風串料理のお店OWLで食事をしました。

楫くんは美容院を私より8年早く創業し、経営している。

ひとつの店の店主で、子供も同じ大学の同級生だったなど近い立場で、共感し合える、親近感が最も持てる同級生です。

でも楫くんは本当に立派にやっていると思う。

金髪の外見からは分かりにくいけれど、誰に対してもその姿勢は謙虚で、気遣いに溢れている。

私たちのようなサービス業は、その表現の仕方は様々なだけど、お客様に対していつも優しい気持ちを持っていないといけない。

優しい気持ちを持てないと続けることができないと思っているけれど、楫くんも同じように考えていて、彼はそれがきっと自然にできる人だと思いました。

高校1年生の時、よく一緒に遊んでいたけれど、あの頃の私たちは学校のことさえまともにできないクズだったと思う。楫くんはどう思っていたか分からないけれど。

楽しく遊びながらも自分将来の姿が全く見えなかったし、やりたいことも分からなかった。

自分の居場所がないような感覚を持っていて、長い間一番思い出したくない時代でした。

今は自分のやるべき仕事があって、それに夢を持って、でも日々の売上に一喜一憂しながら、もがきながら毎日立ち向かっている。

自分にとって最低な時代の友達が、今こうやって50歳を前にしても夢を語り合える友達であることが不思議な感じがしました。

でも、こういう人と自分が最も興味があり、情熱を傾けている仕事の話をすることは本当に楽しい。
自分の正しい心の持ちようを修正できる同級生がいることを誇りに思っている。

 

 


修理 

2017-11-18 | お店からのお知らせ

靴底はメーカーによりますが、3,4日おきに履いたとして1年半くらいでかかとを交換して、3年くらいで全ソール交換することになります。

そのたびはお金がかかるけれど、信頼できるリペアのお店と出会ってから、靴を修理に出すことが楽しくなりました。

外でも着れるけれど、店の中で着るジャケットがあり、手をテーブルの上に置いて作業するので、袖口が擦り切れてきた。

他はどこも何ともないのでもったいない。

本当に直るか分かりませんでしたが、ここだと思った服修理専門店に持って行くと直ると言います。

靴も服も修理できると思うから、思い切り使うことができる。修理できないものだと怖くて使うことができません。

それに、愛用しているものが、少しシャキッとした姿で修理から戻ってきた時の愛着のような感覚は、新品を手に入れた時とはまた違う喜びがあります。

そういった自分の体験があって、古い修理できなくなった万年筆の修理を何とかしたいと思っていました。

今までだと修理を受けたらそのままメーカーに出していて、古くてメーカーに部品がなければ修理できませんでしたと、そのままお返しするという状態だったので、万年筆専門店と言いながら、お客様に申し訳ないことをしていました。
でも、考えてみると、部品がないから修理できないという部品交換だけの修理ならメーカーでなくてもできるような気がする。

修理はできた方がいいことは分かっていたけれど、修理をし始めると私自身がやりたいことができなくなるし、そういった作業自体あまり好きではないと避けてきましたが、需要があることは分かっていました。

ちなみにペン先調整と修理とは違い、ペン先調整は販売するものをより良くするための、万年筆販売において当店の標準装備のサービスです。
お持込の万年筆のペン先調整は、その延長だと思っています。

もう2年になりますが、スタッフMが当店に入ってくれて、彼の適性を見てきました。

私と違って地道な作業を根気強く、粘り強くできる人間だということが分かった時に、当店の課題だった修理を任せることができると思いました。

古い万年筆の修理だけでなく、別件でも修理が大きな鍵となると思い、全てが符合した。これに関しては何を言っているのか分からないと思いますが、いずれ分かる日がきます。

まだまだ二人で勉強中だけど、スタッフMも独学で知識を吸収している。中にはお断りするものもあるけれど、直る万年筆が増えたことは当店の万年筆店としての専門性を上げることにつながっています。

 


北川浩文くんの勝負

2017-11-05 | 実生活

クラウドファンディングという言葉を最近よく耳にします。今の時代らしいお金の集め方で、思いついた人はすごいなと思いますが、自分の仕事のやり方とは違うと思っていました。

フェイスブックをたまに見る時に、クラウドファンディングで出資者を募る記事をたまに見掛けます。すぐに流れていってしまうフェイスブックの記事の中で、中学高校の同級生だった北川浩文くんが元町商店街で食堂を開くための準備をしていて、開業費600万円のうちの広告費50万円の出資を募っていること知りました。 詳細はこちら。

あればいいに決まっているけれど、お金が集まらなくても食堂は開くだろうと思うので、皆さん出資して下さいという宣伝ではありませんし、北川くんも私がそんなことをすることは望んでいないと思います。

高校を卒業してから30年以上も経つけれど、たまに行き来をして顔は合わせていましたし、この店にも何度か来てくれて万年筆も買ってくれました。

起業したいという話は数年前から聞いていて、本当におせっかいな偉そうなことを先輩面して言ったこともあった。
そんな時でも北川くんはうんうんと真摯な態度で話を聞いてくれた。そんなヤツなのです。


中学3年の時のクラスは、仲の良いとても思い出深いクラスで、勉強は嫌だったけれど、毎日楽しかった。

北川くんは、1年間通してそのクラスの全員賛成の委員長でした。

すごく勉強ができたわけでもないし、強いリーダーシップを発揮するわけではないけれど、彼が困っていると助けたくなるような存在で、皆に愛されていた。
いつも皆のことを気にかけていて、面倒見のいいところがあって、皆がそれをよく分かっていたからだと思います。

卒業してからの34年間、北川くんはそのクラス全員の連絡先を把握していて、一人ずつと交流を持ち続けて近況も理解している。

自分のことしか考えていなかった私はそれを聞いて半ば呆れたけれど、彼の面倒見の良さと優しさを表しているエピソードだと思います。


接客業、サービス業を長くして分かったけれど、その仕事の一番の資質は優しさだと思う。

店は人が優しくないとお客様が来てくれないし、長く続けることができない。

お客様に対して優しい気持ちを持っているから、喜んでもらえることを実行したいと思うのだと考えると、北川くんは絶対にまた行きたくなるようなお店を作ると思う。

49歳の遅い創業だけど、それも人の世話ばかり焼いて自分のことが最後になる彼らしい。

友人が人生の勝負に出ていて、それについて少しでも多くの方に知ってもらいたいと思いました。