元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

今あるものに満足する

2023-08-15 | 仕事について

ル・ボナーさんのデブペンケースが久し振りに入荷しました。
デブペンケースはル・ボナーさんが長く継続して作り続けてきたもので、少しずつモデルチェンジして今に至っています。
私もル・ボナーさんのことを知って、このペンケースのことを知った時にこんな上質な革を使ったファスナー式のペンケースを見たことがないと思いました。
当店としても長く扱い続けてペンケースなので思い入れはあるし、このペンケースを見るたびに以前のことを懐かしく思い出しますし、変わらず良いものを作り続ける姿勢を感じるものでもあります。

まだ前の会社にいた時にル・ボナーの松本さんに出会って、影響を受けて万年筆店を始めようと思いました。
店をしようと思うと打ち明けた時に松本さんはきっと驚いたと思うし、こんな青二才が独立して店ができるのかと、もしかしたら心配したかもしれません。当時私は30代後半で、今思うと何も分かっていなかったような気がします。

でも今までやってくることができたのは、松本さんの協力やお客様方の存在など、人に恵まれたことのおかげで、本当に幸運だった。

店を始めて16年ほど経っていろんなことが変わりました。その変化の中で何とかやってくることができた。
私はたまたまやってくることができて、その結果で言っているだけだけど、こういう変化の中で生き残ることができるのは、今自分にあるもので満足して、多くを求めないという考え方かもしれないと今では思います。

今自分にあるもので満足できるというのはとても幸せなことかもしれません。
私たちの世代だと、仕事は常に成長して拡大させていかないといけないというイメージを持っていると思いますが、それが本当に幸せになることなのだろうかと、長い間モヤモヤと考えていました。

仕事の仕方、店の在り方として自分が違うものを求めていたことは分かっていたけれど、上手く言葉で表現することができなかった。
いい齢になって厚かましくなったこともあるのかもしれないけれど、自分が求めていたことを言い表すことができるようになりました。

仕事はもちろん良くしようと思わないと面白くないし、そう思わない仕事はダメになるけれど、良くする方向は規模の拡大や売上の向上ではなく、質を高めることだったのだと今は思っています。

今自分にあるものに満足して、それらの質を高めるために努力して良くしていく。
それが自分がやりたいと思うこと、自分の仕事が長く続いていくために必要なことだったのだ。

それは低成長の時代だからそういう方針をとるというものではなく、いつの時代も私たちのような店とお客様の幸せを追求する個人商店が心掛けるべきことのような、変わらないことのような気がします。