ルーペは調整士にとって、それがないと何も始まらないとても重要な道具です。
私は万年筆の調整を教えてもらうようになった時にいただいたものをいまだに使っています。
万年筆がよく売れていた時代に、ペンの販売員に配っていた25倍のルーペで、一般的に性能の良いルーペと違っていて、レンズの中央でしかクリアに見ることができません。
小さなペンポイントを見るので視野が狭くてもよくて、ルーペを前後させることで被写体を大きくしたり、小さくしたりして見ることができればいいので、こういう仕様なのだと思います。
誰にでも配った、というものなので特別な素材など使われていない普及品的な真鍮にクロムメッキしたものです。
同じ見え方をしてもっとゴージャスなスターリングシルバーとか、金無垢とか、銘木などのものがあれば喜んで買うのに、なかなか代わるものがなく、もう20年以上使い続けている。
ルーペを使い始めたばかりの時、いかにかっこよく構えて、ペン先を見るかということを研究したことがありました。
目から40cmくらいの位置にルーペを構えて、焦点を探し回らずに一瞬で合わせて見るのが一番かっこいい。視野が狭く、焦点が合わせにくい高倍率なルーペでそれをするから、よりかっこ良くてプロっぽい。
ルーペを目に近付けて焦点を探しまくるのはかっこ悪いと思い込んでいて、ルーペを離して、一発で焦点を合わせる練習を家で密かにしていた。
本当に下らない調整の本質とは何の関係のないことだと思うけれど、当時の自分には重要なことだった。でも、若い頃はペンポイントがルーペなしで見えていた。今はルーペがないとペンポイントの状態が見えなくなっているので、その道具も使い方も重要度がより高くなっているのかもしれません。
私たちは時には一日中これを見て、この中の景色を何とか美しくしようとする。細かい作業ですねとよく言われるけれど、私自身はこのルーペのおかげでそんなに細かい仕事だと思っていない。