元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

年の瀬雑感

2014-12-28 | 仕事について

今年最後の営業日を迎えています。

今年一年も本当にたくさんのお客様に支えられて続いてくることができたというのは、続けるほどに強くなる実感です。

人間もそうであるように、完璧な店というのはなかなかないと思っています。

どこか弱い所があったり、甘い所があったり、何となく誤魔化しているところがあったりして、そういうところをひとつずつ潰していくことが店のサービスを向上させていくことだとは思っていますが、思ったことを全て実現することができずにいます。

足りないところ、至らないところのある店であるにもかかわらず、目をつぶってくれたり、補ってくれたりしてくださっているお客様方にはとても感謝しています。

そういった店として弱い部分、お客様んい甘えている部分をなるべく少なくしていくことが、漠然としているけれど来年の目標にしようと思っています。

12月も終わり頃になってくると、やり残しはないかとか、このまま1年が終わってしまっていいのだろうかという、焦りにも似た気持ちにとらわれます。

それでも一日一日は過ぎていくので、一日ずつを大切にする。

普段の日もこんなふうに大切に生きることができたら、本当に良いと思いますがこれがなかなかできない。

年末年始をお休みにしたことで、区切り感が強くなったように思います。

もし大晦日も元旦も営業していたら、その区切りも曖昧な感じになってしまうので、店を始めた時、お正月休みだけは取ろうと思っていました。

子供の頃のお正月は、お店は全て休んでいてとても静かで、独特の雰囲気があり、それにひたりたいからそんなお正月を過ごすために年末年始を休むことにしましたが、この区切り感は意図していなかったけれど、収穫だったのかもしれません。

 年明けから普通ではない寒波がやってくると予想されていますが、大晦日から1月2日まで奈良でゆっくりしています。

今年一年の区切りをつけて、来年新たな気持ちではまたスタートしたいと、新しい年への希望を早くも持っています。

 

 


レンズ

2014-12-23 | 仕事について

自分のデジタルカメラで古いレンズを使うことができるというのはカメラの楽しみを何倍にもしてくれます。

オリンパスのカメラがオリンパスとパナソニックのレンズだけしか使うことができず、しかも新しく発売されたものしか使うことができなかったとしたら、私はもしかしたらとっくにカメラに飽きていたかもしれません。

先日、忘年会の時にル・ボナーの松本さんが置いていってくれたクラシックレンズのうち1本を使っています。

借りたレンズなのにMマウント用のアダプターまで買いましたが、将来このカメラにライカのレンズをつける日がくるかもしれないので、けっして無駄使いではない。

古いレンズはその姿を見ているだけで、何か醸し出す雰囲気があって、いいなあと思います。

プラスチックなど使われていない金属の塊感。そしてガラスの透明感。

カメラのレンズは不思議で、ただ鋭く、ひたすらきれいに写ればいいというわけでもなく(もちろんそれらは大変価値のあることだけど)、写りが鈍くてもそれは味ということになったりする。

でもそういった曖昧さ、スペックだけでないようなところにとても惹かれ、万年筆に近いものを感じます。

私がレンズに関して、写りよりもカメラにつけた姿がいいものが一番だと思い込んでいる理由はそんなところにあることをご理解いただきたい。

仕事でもルーペというレンズを使っていて、もしかしたら私の仕事において、一番大切な道具なのかもしれません。

そのルーペも明るくて、全体がきれいに見えるものよりも、外側はボヤけているけれど、中心に持ってきたペンポイントがはっきり見えるものが使っていて、楽に感じます。

少しコツが必要でそれをスマートに使えるようになった時、一人前になったような気がしました。

慣れなのかもしれないけれど、あまり高価ではないそのレンズが自分に目の一部になっている。

カメラのレンズと仕事、考えれば考えるほど必要なもので、それほど無関係ではないことを関係各所にはご理解いただきたい。


パソコン

2014-12-21 | 実生活

パソコンを換えました。壊れたわけではありませんが、7年間使ってきましたので処理の遅さなどそろそろ時代遅れになってきたというところが理由です。

前のパソコンはウインドウズビスタが出たばかりで、こういったモノに疎い私はその悪評も知らずに、新しいものが良いに決まっていると思って迷わず選択したのでした。

電源を入れて使えるようになるまでのウォーミングアップにかかる時間の長さにも慣れ、愛着さえ湧いていて、どこも壊れていないのに交換するのに抵抗もありました。創業時から使っていますので、今更ながら数々の思い出がこのパソコンとともにあると思うと惜しくなってきたけれど。

でも基本的に新しいものが好きで、パソコン選びは仕事の合間にネットを調べたり、電気屋さんのチラシを欠かさず見たりして、とても楽しかった。

テーブルに置いておいても邪魔にならない小さいもの、でも長文の入力があるのでキーボードを備えたノートパソコンで、オーバースペックでないものという条件をつけると意外となく、それでも製造中止になっているものを見つけてハーバーランドのお店で購入しました。

とてもコンパクトで、スピードも速く、とても気に入っていますし、実は初期不良で新品交換をしていますが、翌日には良品が届き、その時に対応の早さもさすが日本のメーカーだと感心しました。


万年筆というアナログの代表のようなものを扱いながら、仕事をするようになってからずっとパソコンに向き合ってきたような気がします。

自分でやろうと決めて、実行して、継続して、結果を出すことができた自分の最初の仕事らしい仕事は、それまでなかった顧客リストを作り、DMを出して、お客様を集めるというものでした。

もう16、7年前のことで、当時その方法が最先端のことにように思いました。

それをすることができたのも、同僚から1万円で買ったネットにもつながっていないデスクトップパソコンでした。

まだブラウン管で、しかもウインドウズ95のそのパソコンは狭い団地の部屋にはとても大きく感じられました。

それでもすごいツールを手に入れたと思ったし、そのパソコンがなかったら私の仕事は何も始まっていなかったような気がします。

それから何台もパソコンを使い捨ててきました。

万年筆と違い、仕事のための道具と思って割り切って使ってきて、こだわりなどはあまり持っていないけれど、当店の仕事においても、やはりなくてはならないものです。

またまたH田さんが購入した新品にソニーアルファ7Ⅱとフォクトレンダーノクトンのレンズ。


大和座狂言事務所のガラ公演開催 12月20日(土)

2014-12-16 | 仕事について

大和座狂言事務所のガラ公演が12月20日(土)14時から、大阪能楽会館で行われます。

狂言師安東伸元先生と知り合って、本当にたくさんのことを勉強させていただき、主流、大勢に立ち向かう反骨精神のようなものを知りました。

それは安定した生活や、より多くの金銭を得られる身の処し方とは正反対の、今の時代の一般的な価値観では理解されにくい生き方だと思いますが、いくらお金を得られても自分の考えと違うものを受け容れて、信念をまげるような生きかたは選びたくないという心を安東先生の背中から教わりました。

直接的な言葉で指導されたわけではありませんが、安東先生もまた私の師匠なのです。

恒例になっている大和座狂言事務所の忘年会があって、同門の末席の者として参加させていただいていて、今年も参加させていただくつもりにしています。

他にも安東先生や大和座狂言事務所と関わりのある各界の方が集まっていて、一介の商店主はいかにも場違いですし、雄弁に自己紹介される方々の中にあって、私はあまりにも無口すぎことは分かっています。

それでも毎年誘ってくださるお気持ちが嬉しくて参加させていただいています。

安東先生はけっして口数の多い人ではありません。大和座通信の中で書き綴られている世の中に対する怒りや情熱は胸に秘められていて、大いに語ることはありませんが、私もこういう人になりたいといつも思っています。

先生の話す言葉、動作、その生き方を少しでも吸収したいと思って、大いに影響を受けています。

安東先生の生き方が凝縮されて表れるのは狂言の舞台です。笑いを誘いながらも誇り高く、ニヒリズムさえ感じさっせる男の姿を観ることができるので、大和座狂言事務所のガラ公演に興味のある方はぜひ、行ってみていただきたいと思います。

 


大人の責任

2014-12-14 | 実生活

先日の誕生日で息子が二十歳になったことは認識していましたが、初めて選挙に一緒に行き、とりあえず歳は大人になったのだと実感しました。

20年間その成長を感じさせられる場面にはあまり立ち会っていなかったと思っていて、後悔はないけれど、妻には申し訳ない気持はあります。

でも仕事ではなく、家族を最優先にして、仕事をお金を得るためのものと割り切っていたら、趣味を持たない自分の人生はとてもつまらないものになっていたと思っています。

選挙以外にも息子が大人になったと思うことがあります。
忘年会や打ち合わせなどで帰りが遅くなって、ギリギリ垂水駅発の最終バスに飛び乗った時に、塾のバイトで遅くなった息子が乗っていて、最寄のバス停から二人で歩いて帰るのは、妙な、不思議な感じがします。

他には年金の請求(?)が来出したこと。

私たちがそれをもらえる時にも、その分け前は少なくなっていて、給付される年齢も引き上げられていると思うけれど、息子が大人になった時はどうなっているのだろう。

二十歳になった人が大人として生きていくこれからの時代、世の中はどうなっている、少しは良い方向に向かっていくのか。

そう言えば、息子が大人になったとばかり言ってられず、自分も齢をとり、いい大人になっているのだから、世の中を良い方向に向かわせる責任の一端はある。

選挙に行くのもそのうちのひとつですね。


元町

2014-12-07 | 実生活

数週間前に急に天井に染みが出て、慌てて管理人さんを呼びました。そして、数時間後隣の設計事務所の壁に滝のように水が流れ始めて、大騒ぎとなりました。

原因は二階の給湯器の管に穴があいていたというもので、定休日に天井を張り替えただけで済みました。

このことがあって、近所の人と話すようになったりして、ハプニングも悪いだけではないなと思いました。

さすがに7年も居ると、店の前を毎日通る人と挨拶するようになって、目を合わせて会釈するだけでも何か嬉しくなります。

当店の周り、県庁、県公館界隈は店もそれほど多くないし、人もたくさん行き来するわけではなく、街の雰囲気はどこかのんびりしていて、とても神戸らしいと思っています。

元町西口前の階段を上って、電車沿いの道の横断歩道を渡ってここに入ると、街の雰囲気がガラリと変わります。

ザワザワした空気が明るく、落ちつくような感じで、毎朝店に来る時感じている。

それを意識してここに店を開いたわけではなく、たまたま空いている物件の中で一番良いと思ったところがここだったということになるのだけれど、今では神戸ではこの場所以外に万年筆店をすることなど考えられない。

この街に生きるという歌のフレーズがあったけれど、まさにその心境で、余程のことがない限りこの街を拠点にしていくのだと思っています。

数日前から、県公館で映画の撮影が始まっています。

キムタク氏が国民的なアイドルだということを改めて認識しました。本当にたくさんの人が一目キムタク氏を見ようと一日中県公館を取り囲んでいますので。

あまりたくさんの人が集まって、ロケの邪魔にならないか少し心配ですが、神戸、とくにこの周辺は映画の舞台としてとてもいいのではないかと思います。

この街で生きていくと決めて、愛着を持っているその街が何かの物語の舞台になることはとても誇らしく思います。

 

H田さんの新しいフォクトレンダーの沈胴式のレンズ。新たにこういうものが作られているのはとても嬉しい。


インクとロマン

2014-12-02 | モノについて

少し前までアラスカに凝っていました。

凝っていたと言ってもインターネットでアラスカに関することを調べたり、関連する本を読んだりするくらいです。

でもいつかアラスカを訪れたいと思いましたし、冒険のようなことはなかなかできないけれど、旅してみたいと思っています。

こういう世界中の他所の土地に関するマイブームは常にあって、アラスカの前はウクライナ、その前はスペインで、脈絡なく世界を巡っています。

以前は、歴史や風俗、文化などに興味がありましたが、カメラに興味を持ち出してから美しい風景に興味の対象が移っています。

世界巡りは今、南米の最南端パタゴニアに来ています。

紀行作家のブルース・チャットウインの本を読んだのがきっかけでパタゴニアに惹かれ始めました。

パタゴニアのさらに最南端がティエラ・デ・フエゴ(火の土地)というところで、その土地もいつか訪ねてみたい場所のひとつになっています。

実はパタゴニアに惹かれる前から、エルバンのインクでこの土地をイメージしたインクで、「TERRE DE FEU」というそのままに名前のインクがあって、ずっと気になっていましたが、パタゴニアに凝るようになって使うことにしました。

今は手帳用の万年筆に入れているけれど、そのインクを使いたいために違う用途でも手帳用万年筆を使うほど、気に入っています。

世界中の土地土地に興味があって、そんな世界の中の地名がついたインクにとてもロマンを感じます。

あまりそういうインクは他に目にしないし、あってもサマにならないと思います。

エルバンのこのインクは少し寂しげな、最果ての地を上手く表現したラベルや、少し薄い、でも私にはちょうどいい赤みがかった茶色のインクの色はイメージにピッタリで、旅情をかきたてられるインクだと思っています。

 

いつもセンスの良いモノのチョイスをするIさんの古いコダック