元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

結論

2006-09-26 | 万年筆
ある万年筆メーカーの展示会に行き、師と仰いでいる人の講演を聞くことができました。
彼は私の短いペンのキャリアの要所要所に現れて、その都度方向性を示してくれたり、ヒントをくれたりします。
今回の再会でもやはり大いに影響される所がありました。
元々冷めた性格のせいか、あまり人に影響されることもなく、人を尊敬することもないですが、彼だけは別で、なぜか私は彼の言葉をいつまでも覚えていて、それを指針になっていることがあります。
昨年はペンの調整の極意を伝えられ、それを自分なりに消化できているように思います。
その講演会での内容は何度も聞かされたことばかりでしたが、彼は明らかに私に向かって話していました。
話の内容以上に、何とか自分のできるやり方で、万年筆の文化をもっと大きくしたいという彼の姿勢に感動すら覚えました。
彼の姿を見て、お客様方の言葉を思い出し、自分が唯一できることでもっと世の中の役に立ちたいと思いました。
誰よりも信頼できるある人から今の私の「あまりよくない」と言われた現状では、世の中の役に立っているとは言い難く、何らかの結論を出さなければ何も変わらないと思っています。

遠野物語

2006-09-25 | 万年筆
柳田国男氏が遠野の人たちの話をまとめた民話集です。
街の人はこの本を読んで、これらの話をただの迷信だとか錯覚だと思われるかもしれませんが、自然にかなり近い所で暮らす人々にとって、河童や化け狐、狼、たたり、神隠し、狐つき、妖怪など本気で信じられていることです。
岩手県の山の中にある遠野を訪れた時、この本の存在を知り、街に帰って来てから読み始めました。
語り部から淡々と語られる話を読みながら、山に囲まれた遠野の風景が思い起こされました。
長野の閉鎖的な辺境の村で、私が子供の頃聞かされたり、聞こえてきた大人たちの不思議な話と遠野物語には似たような話がたくさんありました。
観光や通りすぎただけでは分からない、暗い人間の因縁や自然界との交渉から生まれた話が日本全国にあるのだと思いました。

うるしの話

2006-09-20 | 万年筆
以前から興味がありましたし、自分の企画として検討している漆についてもっと知りたいという想いから、蒔絵で人間国宝になった松田権六氏の著書「うるしの話」(岩波文庫)を読みました。
勉強のつもりで読み始めた本でしたが、非常に面白い本で皆さんにおすすめします。
文章は非常に分かりやすく、人間国宝というと頑なで、難解な人物を想像してしまいますが、この本から感じられる松田権六氏はシンプルな、漆への情熱に生涯を捧げた普通の人でした。
恐ろしく腕の良い人で、職人というイメージがありますが、そんな小さな枠におさまらないバイタリティに溢れる漆研究家、漆コーディネーター、アーティストそして、指導者であったことがわかります。
その仕事の一部にダンヒルナミキでの蒔絵の仕事がペンの世界では有名ですが、戦争を挟んだ今から60年以上前に世界の中の日本を意識して漆の普及と品質の維持に努めた先見のある人の存在を知ることができました。

突然の回想?「残してきた想い」

2006-09-17 | 万年筆
まだ本当に子供だった頃、家族で旅行や夏休みの帰省の時、会えない彼女のことが気になってとてもセンチメンタルな気持ちになったことを覚えています。
父が運転するセダンの車窓から見える景色、ウォークマンのヘッドホンから聞こえるボウイや尾崎豊。(街にいる時は洋楽しか聴かないと公言していたのですが)
好きな人への想いを煽るような、聞きやすいメロディに分かりやすい歌詞。
今たまたまその時の曲を聴くとまるでその景色を彼女と一緒に見たような記憶がよみがえります。
好きな人を想いながら見る風景はとても美しく見えてしまいます。

世界の中の日本

2006-09-16 | 実生活
ずっと頭の中にあるテーマに、「世界の中の日本」というものがあります。
私たちが海外の情報を机上から簡単に知ることができるようになり、世界に物が様々な店で見ることができるようになったということは、世界中の人が日本の製品を見ることができるということです。
そんな時代にヨーロッパのデザインの真似や、借り物のコンセプトで物作りをしていると国際的な競争力をなくしてしまうばかりでなく、それを使っている人までが恥ずかしい想いをしてしまいます。
私たちの血から生まれる日本のもの作りが今強く求められていると思っています。
日本のデザインの美学、伝統工芸の技。それが一体になったもの。
そんなものが「世界の中の日本」と考えた時のもの作りであり、私も自分にできる範囲でそれを実行していきたいと思っています。

タバコの銘柄とインクの色

2006-09-11 | 万年筆
黒っぽいインクの色ばかり使うようになってもう何年も経ちます。
それまで私はブルー、ブルーブラック、はもちろん、ボルドー、グリーン、ブラウンなど、あらゆる色のインクを使ってみたりして、結局自分は何色が好きなのか分からずにいました。
様々な色のインクをペンや書く内容によって変えるような粋な使い方もできず、どの色も自分に馴染みませんでした。
でも、だんだん自分の好きなものが分かってきて、今では黒インクをグレーで少し薄くしたものを主に使っていて、それで落ち着いたようです。
タバコの銘柄も若い頃は色々試してみましたが、ショートホープしか吸わなくなって、20年近くが経ちます。
どうやら私はシンプルでクラシックなものが好きなようです。

なぜ、講演会をするのか

2006-09-04 | 実生活
私が万年筆クリニックに来てくれた先生方を無理やり舞台に引っ張り上げて、なぜ講演会をするのか不思議に思う人もいるかもしれません。
確かにそれはやらなくても売上げなど会社の業績や信頼に関係ないことなのかもしれませんし、お客様方からも期待されていないことなのかもしれません。
企画している方も、ノウハウも経験もないので毎回が実験的なものに感じられ、神経をつかいます。
しかし、ペンを販売するお店やメーカーは今まで通り、店でお客様を待って、気に入ったら買っていただくというスタイルでモノを売っていたら、万年筆はいずれ売れなくなってしまうと思っています。
作り手の哲学、思い入れをお客様方に理解していただいて、共感を得て、その人が携わっているペンを手にしたいと思っていただいて、購入していただく。
回りくどいやり方で、理解されないやり方なのかもしれませんが、間違っていないと思っています。