元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

人生の宝

2021-01-30 | 実生活

分度器ドットコム/590&Co.の谷本さんにある企画を一緒にしようと誘われて、ル・ボナーさんを訪ねました。

ル・ボナーの松本さんには、開業前にも相談に行って勇気をもらったし、開業後もいろいろ助けてもらいました。最近は、なぜか忙しくなってしまって、行く機会が少なくなってしまったけれど、松本さんが店に来てくれたり、何かあるごとに電話で話したりして、交流はずっと続いています。
初めて訪れてからもう15年くらい経つけれど、それがそんなに前のことなのかと思うくらい、ル・ボナーさんのお店は変わらずにあそこにあるし、松本さんも変わらずにいろんなことに興味を持って、面白がっている。

私たちの仕事の源泉は、面白がる心だと松本さんの後ろ姿から勝手に学んだ。いつ行っても新しいことに興味を持っていて、話題がたくさんあります。
私もいろんなことに興味を持って、面白がっていたいとは思っています。

谷本さんはいつもウチ何てと、シラこく謙遜しているけれど、いつも尖がった新しいことをしていて、センスと才能のある表現者だと思います。
事情があって、王子公園の店は閉店したけれど、この2年で良い店を2軒も作った行動力とパワーもすごい。

仕事の打ち合わせがまとまって雑談していると、いつも10年前に3人で行ったドイツ~チェコ~イタリア旅行の話になります。
旅程もハードだったし、歩く距離も長かった。
地図係の私がひどい方向音痴で、ニュルンベルグで反対方向のバスに乗ったり、道に迷う人はいないと言われるボローニャの回廊で道に迷ったりしました。
どの土地でも相部屋で、ジャンケンに負けた(松本さんはいつも強かった)私と谷本さんがダブルベッドで一緒に寝たりしていた。
めちゃめちゃだったけれど、ものすごく楽しかったと思っていて、あの時の話をしたら尽きることがない。

私はあの旅の思い出は、人生の宝だと思っているけれど、松本さんも谷本さんも同じように思っていることが嬉しかった。

ボローニャで温かく迎えてくれたオマスもなくなってしまって、それだけ年月が経ったし、3人ともそれだけ分の齢をとったけれど、3人集まっていると何も変わっていないように思える。

何の利害関係もなく、ただ気が合うとか、会って話すのが楽しいというだけで一緒にいられる人たちがいるということが何にも代え難い宝物なのだと思います。


関ヶ原(司馬遼太郎)

2021-01-28 | 実生活

夢中で読める本に出会えることはとても幸せなことだと思います。

本屋さんをブラブラしていて、興味の赴くままに手に取って、偶然そういう本に出会えることもあれば、人に勧められて本がそういうこともあります。

本を勧めるのが上手な人がいて、そういう人はご自分が読んだたくさんの本の中から、私が好みそうだと思ったり、今の私の状況を察知して勧めてくれたりする。

私のことを考えて勧めてくれた本に、外れはなくて、その本とともにその気持ちがとても嬉しい。

そうやって勧められた本に、司馬遼太郎の「関ヶ原」がありました。

とても長い(3巻)小説でしたが、面白くて夢中で読みました。

関ヶ原の合戦は、今の世の中にもある権力闘争、派閥争いにも通じるものがあって、その中に生きる人の考えることはいつの世も変わらない。
力のない弱い者は、より大きな力の強い者にすり寄って、何とか生き残ろうとする。
自分の心を捨てることができた者だけが、出世することができた乱世の時代の最後。

義や誇りなどというきれいごとでは生き残ることができないと、武将たちは様々な策謀を企て、一人一人に物語がある。

忠義を尽くし、自分に与えられたもので満足する武士道という美しい生き方は、その後の泰平の世で、幕府が武士たちを統率するための宗教のようなものだったのだろうか。
戦がなくなって、与える恩賞がない時代、為政者はその宗教によってしか、武士を縛ることができなかったのかもしれません。

石田三成は、自分が持っている正義感、忠義の気持ちを誰もが持っていると思い込んでいた。
そして、それを持たないものを軽蔑して、突き放してきた。

しかし、家康はそういった軽蔑に値する心を持つ者をも取り込んで、自分の側につけて、天下人になった。

関ヶ原の中で、自分はどの武将に共感できるかと考えながら読んだ。なるべくなら、家康とまで言わなくても、生き残った人に共感できたらよかったけれど、自分は違った。

その時に自分が置かれた状況によって、この小説を読んで見える風景は違うのかもしれません。
そうやって何度でも読める小説でした。

 


きれいと汚いの間のもの美

2021-01-24 | モノについて

カンダミサコさんに神戸ペンショーの時実験的に作ってもらった様々な素材のペンシースの中でも、一番人気があったクードゥー革。
それで2本差しペンシースを作ってもらったら、なかなか好評でした。

アフリカの大型の牛科の動物であるクードゥーの革は、自然の中でいきているため、傷やムラが多く、厚みもバラバラです。

しかし、それがこの革の景色というか、模様のようになっていて、面白味のある革だと思っています。

キメの揃った作り込まれた完成度の高い革もいいけれど、私はどうしてもこういう素材感に溢れたものに惹かれてしまう。

こういうものを私はきれいと汚いの間と日頃から言っていて、モノのあり方として最高のモノとしてきました。

その価値は、かけた手間や金額では推し量ることのできないモノのあり方で、完全に自分の好みだけど、そういう自分だけのモノの見方の基準もあってもいいと思います。

きれいと汚いの比率はその有り様によって様々ですが、この間に存在する全てのものを私は拾っていきたい。

ちなみにクードゥーの革の度数は、きれい3:汚い7くらいのかなりの上級者でないと理解できないものだと思っています。

クードゥーの革のユニークなところは、表革がかなり暴れているのに、裏革はスウェードに使えるくらいのキメの細かさと、揃った毛並みを持つところです。この表裏の極端な差を知ってから、さらにこの革に惹かれるようになりました。

 

 

 

 


ロマン

2021-01-02 | 仕事について

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 

年末年始は、どこにも出掛けず、家でじっとしています。

家にいて、掃除などした後は、今年の手帳にスタンプを押したり、ネットで好みの画像を拾ってノートに貼ったり、静かに好きなことをして過ごしています。

息子が横浜で結婚して、帰ってこないので、夫婦二人だけの本当に静かな年始を迎えました。

 

今年がどんな年になるか分からないけれど、自分のやりたいこと、楽しいと思うことを変わらずにやるだけだと思っています。

 

私が楽しいと思うことはとてもささやかです。

朝、その日着たい服をあまり多くない服の中から選んで、それに合った靴をその日の天気予報を参考にしながら選ぶことが楽しいと思う。

それと同じようにその日の仕事をイメージして、その日使いたいと思うペンを合うと思うペンケースに入れて持って出ることは、一日を楽しいと思わせてくれることで、当店はそんな楽しみをいつも提案したい。

 

趣味などを持たない私の楽しみというのはそんなものですが、そんな小さな楽しみのある日常を愛おしく思っています。

 

お客様にもそんな静かな楽しみを提案できる店でありたいと思っています。

そして、ロマンを感じてもらえる店でありたいと思っています。

私たちの活動を面白いとか、意気に感じてもらえるということは、お客様に喜んでもらえるものをご用意することと同じくらい大切なことだと思っています。

 

工房楔さんとの取引が中止になった件では、ご心配をお掛けしてしまい申し訳ありません。

10数年扱い続けてきて、木軸筆記具ブームがやっと訪れたのに、何て馬鹿なことをしていると自分でも思いますが、自分らしくもあります。

空いた穴は大きいですが、ロマンを感じていただけるもので埋められるようにしたいと思っています。