元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

JAZZを聴く

2005-11-30 | 万年筆
変な言い方かもしれませんが、JAZZを聴くと自分が男前になったような気分になります。
背筋がピンと伸びるような、そんな緊張感がこの音楽にはあり、気持ちがそれに影響されるようです。
そして、JAZZを聴けば聴くほどそれは私の血になり、より濃いものになっていくような気がします。
楽器を持っていないときのジャズマンたちのライフスタイルがどんなものだったのか分かりませんが(きっと相当乱れた生活を送っていた人もいたと思いますが)、音から想像する主張や、たまに目にする楽器を携えているときの静かな張り詰めた表情などから、彼らはその音を出すために生きているのだと感じました。
彼らにとって演奏が全てであり、そのほかでの生活はそれの肥やしにすぎないのだと。
アーティストと呼ばれる人たちは、多かれ少なかれそのような傾向を持っているのかもしれません。

枯葉

2005-11-26 | 万年筆
ジャズというのはかなり専門的というか、それなりに道を究めた方もたくさんおられて、それについて意見を述べるのは気後れしますが、音楽は学問ではなく芸術なので私が感じたことを書きたいと思います。
マイルス・デイビスと出会って間もなく、彼が1958年にキャノンボール・アドレーというサックスプレーヤーと演奏したアルバム「サムスィンエルス」の「枯葉」という曲にショックを受けました。
このシャンソンのスタンダードはジャズでも有名な曲ですが、私はこの曲を知りませんでした。
ずっと以前、ジャズ狂いのドラマーに聞かせてもらったような気がしますが、その時は何とも思わず、心に残りませんでした。
一応それなりの大人になったから分かるようになったのか、なぜあの時この曲を聴いて何も思わなかったのか不思議なくらい、素晴らしい演奏です。
「枯葉」でのマイルスの演奏も音が少なく、ミュートをかけたトランペットの響きが曲調に合っていて、寂しい感じを盛り上げています。
途中キャノンボールのサックスソロが全てをぶち壊しそうになりますが、マイルスのソロになって、曲はまた元の方向に戻されるのです。
きっとマイルスのこの演奏スタイルは日本人好みするものだと思いますが、それなりの大人になった今、聴いてみると感動に値する名演奏だと思っています。

マイルスに出会った

2005-11-23 | 実生活

数年前から、以前のように何か音楽を聴きたいと思うようになりました。
ロックやクラシックを聴こうとしましたが、あまり夢中になって聴くこともできず、理解するまで聴くということももちろんできませんでした。
聴き慣れたブルースを聴くというのも、何か昔の彼女の所に戻るような安直な気がしました。
ジャズは敬遠していました。
私がジャズでイメージしていたのは、デキシーランドジャズで、あの音楽の雰囲気、服装がなどがどうしても好みに合いませんでした。
しかし、あるお店でとてもシンプルでかっこいいトランペットの演奏を聴きました。
ジャズなのだけど、テクニックをひけらかして吹きまくるようなものではなく、点と点を結ぶような必要最低限の音しか出さないような演奏、ジャズで侘び寂びを表現したらこうなるのかというようなものでした。
「これ誰?」
「マイルスだよ」
初めてマイルス・デイビスを紹介されました。
信じられないことに、私は今までマイルス・デイビスを聞いたことがなかったのでした。
とてもかっこいい演奏でした。
ブルースの時のように何度も聴いて理解する努力も要りませんでした。
私は少しづつマイルスの世界に誘われていきました。


モールスキンのノート

2005-11-23 | お店からのお知らせ
ブックマークに、モールスキンのページをリンクさせてもらいました。
モールスキンのノートは、コクヨキャンパスノートまではいきませんが知名度がかなり上がり、多くの人が愛用しているようです。
私もこのノートの方眼を2002年から使っています。今まで使い切った7冊のノートはあまり見返すことはありませんが、きっとこれから何かに行き詰まったときのヒントになるかもしれないと思い、本棚に並んでいます。
モールスキンのノートを愛用している理由は、何か書きたくなる気分にさせる雰囲気、としか言いようがありませんが、そんなものを珍しく備えているノートだということなのかもしれません。
硬い表紙、糸綴じのページ、グレーの罫線、留めゴムなどこのノート独特の意匠はありますが、一番の特長は雰囲気だと思っています。
私がこのノートを使うのは、自分の書きたいという気持ちを盛り上げるため、なのかもしれません。

ラミー2000

2005-11-21 | お店からのお知らせ
ラミー2000を見ていると、それらを愛用している人たちの顔が思い出されます。
ラミー2000は1966年、それまで看板と言えるペンがなかったラミーが社外のデザイナー(ゲルハルト・ミュラー)を起用し、2000年まで通用するデザインを、ということで社運を賭けて(?)世に送り出したペンです。
当時万年筆といえば、黒にゴールドの金具というのが相場というか、イメージになっていましたので、発売当初はなかなか人々から受け容れられなかったようです。
しかし、すぐに2000のデザイン性や実用性の高さが認められ始め、今でも定番の万年筆の中で、売れている!と言えるもののひとつです。
そんな2000を愛用しているのは、意外に寡黙で万年筆を真剣に使っている人たちです。
彼らの2000はどれもマットボディが使い込まれていて、つるつるに光輝いていました。
写真などで見ると太く見えませんが、ほど良い太さの軸、サイズ、前に重心を持たせたバランス。確かな吸入機構が、小さいのに柔らかいタッチのペン先。
2000の愛用者たちはそんなところに惹かれているのだと思います。
デザイン性の高さやロングセラーで、雑誌などで最近よく取り上げられていますが、昨日今日ではなくずっとこのペンと向き合ってきた人たちに、私は敬意を感じます。

モンブランマイスターシュテュック”王道のデザイン”

2005-11-20 | 実生活
マイスターシュテュックのデザインがどのペンよりも磨きがかかっていて、洗練されているという話がある人と話していて出ました。
確かにあの砲弾型のボディは長い間、川の流れに洗われた石のように角が取れ、自然な滑らかなカーブを描いています。
あのデザインを早くにやられてしまったら、他のメーカーは不本意ながら同じようなデザインにするか、どこかにデザイン上の引っかかりを作って個性を出すかしか仕様がないと思います。
磨き込まれた、本物のみが使用することを許された王道のデザイン。
マイスターシュテュックのデザインはゆるぎないモンブランの地位を現しているのかもしれません。

オプティマのデザイン

2005-11-19 | 仕事について
オプティマクラシックをずっと使っていて、愛用の1本にしています。
書き味とか、インクフローとか実用的なことは一切省みずにこのペンを選びました。
つぼにはまったときのとても滑らかな書き味が気持ち良くはまっていますが、このペンを気に入っている理由は、見た目だと言い切ってしまいます。
性格の良い女性よりも、見た目の良い女性に惹かれてしまった時のように、フラフラっとこのペンを手に入れていましたが、意外にもこの恋愛は長く、熱く続いています。
このペンの美しさは、大きなグレカパターンのリングのデザインやクリップのカーブなどの装飾美だと思いますが、
太さと長さの妙なバランスといい、クリップのカーブといい、この万年筆は私の中で、ひとつのペンの美のお手本になっています。

ディープサウスブルース

2005-11-16 | 万年筆
ずっと音楽は聴いていましたが、仕事をするようになってからは自分の意思で聴くことがなくなってしまいました。
でも、学生の頃までは本当によく音楽を聴いていました。一番深く入り込んでしまったのが、ブルース。
マディ・ウォーターズをはじめとするシカゴブルースから始まって、やがてそのルーツである戦前のディープサウスのデルタブルースに辿り着きました。
荒っぽいアコースティックギター1本の伴奏で自分の素直な感情を歌う。
最初からその音楽を理解できたわけではなく、何度も聴くうちに、ブルースマンたちの何かを伝えたいという性欲にも近い、プリミティブな欲求が伝わってくるようになりました。
そして、デルタブルースのブルースマンの生き方にも魅せられました。
他人の奥さんに手を出して、三角関係のもつれから毒殺されたり、恨みをかっていて、酒場でアイスピックで脳天を刺されたり、四辻で悪魔に魂を売ってギターの腕を手に入れたりなど、彼らの身の上に起こる不思議な事件も私を夢中にさせました。
恐ろしくパンチのある低音の繰り返されるリフ、泣いたりうめいたりするボトルネックギターの高音。
ロックやラップよりも激しい音楽がそこにありました。
働き出してからずっとブルースマンたちが伝えたかった、欲求や怒りを思い出すことがなかったけれど、最近になってあの頃のように何か聞いてみたいと思うようになりました。

アウロラ・アスティル

2005-11-16 | お店からのお知らせ
似たようなスタイルのペンはたくさんありますが、皆このペンを参考にしていると聞きました。そして、どのペンもこのペンほど徹底してシルエットにこだわりきれていない気がします。
キャップをした時の細身の円柱形は、キャップとボディの段差がなく直線になっていますし、クリップもそのシルエットを邪魔していません。
ペン先とペン芯は掌を合わせたように膨らむことなく向かい合っていて、細部までそのシルエットへのこだわりが貫かれているのは見事だと思います。
ニューヨーク近代美術館永久保存モデルという輝かしい栄誉や、他のメーカーがある時期こぞってこのペンを真似たという栄光も、後からついてきただけのものであり、アスティルには美しい実用万年筆を作りたいという、商売とは次元の違うアウロラの理想が込められています。

皆さんに生かされている

2005-11-16 | 万年筆

朝から晩まで職場(店)にこもったままの生活をしています。
外に出て、積極的に情報を取りに行ったり、パソコンの前に長時間座ってインターネットを検索して回ることもできません。
しかし、非常に貴重な生の声を聞くことができます。
私を訪ねて来てくれるお客様からはすごくたくさんのいいお話をおうかがいすることができますし、励まされることもたくさんあります。
ペンに関するヒントもたくさんいただくことができて、そこからいいアイデアが生まれてきたこともありました。
私のコラムを読んでくれている皆さんや、店に訪ねて来てくれる人たちに生かされていると思っています。
皆さんとの会話の中で、生まれることが私の宝物になっているわけです。