今年ほど長く感じた年はありませんでした。
1月から5月は今後どんなふうにしていくか、どんな店を作るかといった構想段階で、何をしていいのか分からない手探りの状態でした。
いろんな人の話を聞いて、独立するということがどんなことなのか知りたいと思いましたし、活動の精度を上げたいと思っていました。
この時期から夏頃まで、元やり手のビジネスマンのS氏とよく話しました。
S氏は非常に多くのお金を動かし、たくさんの利益を得ることができたいわゆる勝ち組のビジネスマンでしたが、今ではそういったことから一切手を引いて、鞄の修理の仕事をマイペースでしています。
S氏と話していると、とても勇気付けられ、励まされました。ビジネスの最前線で働いてきた人に備わっている冷たいところが全くなく、私がやろうとしているあまり効率的ではないと思える仕事に大いに共感してくれました。
S氏のベンツに乗って、いろんなところで打ち合わせを持ちましたが、どの話し合いでも刺激を受け、自分の中でモヤモヤしていたことがクリアになっていくのが分かりました。
会社を退職して、準備段階に入った時が精神的には一番きつかったように思います。
決まっていく場所もなく、収入もなく、オープンと決めた日は迫ってくる。なかなか決まらない全てのことに焦っていました。
この時には、万年筆用ノートを先日完成させた大和出版印刷にお邪魔していて、熱く、誠実な人たちの作り出す雰囲気に大いに救われました。特に武部社長と川崎さんには感謝しています。
気の迷いからか、少しでも人通りの多い場所がいいと思って選んでいた商店街の中の物件が、8月に駄目になった時に全て吹っ切れたと今になって思います。
今の場所で開店することを決めてから、いろんなことが動き出しました。
この時には、取引したいと思っていたメーカー、問屋の方々の承諾が全て揃っていて、そのことにも感謝しています。
どんな店にしたいかという、言葉によるイメージはありましたが、具体的な絵が描けていませんでした。
でも、自分の好みに忠実になってもいいというスタッフたちの助言があり、具体的なものが出来上がっていきましたが、実際に本当に出来上がったのは、家具を置いて配置を決めたときで、オープンが迫った数日間は思い出したくないほどバタバタしていて、前日もスタッフともに最終の電車で何とか帰りました。
オープンの日は本当に晴れやかな日でした。
たくさんの花が送り届けられ、たくさんのお客様が来てくれました。
趣味の文具箱vol.8に記事を書かしていただいた効果も大きく、それを見て来てくれた方も多くいました。
オープンしてから、頭の痛いことはいくつもありましたが、何をしていいのか分からなかったオープン前のことを考えると苦労でも何でもなく、あっという間に年末を迎えてしまいました。
ここまで自分一人でできるはずもなく、多くの人に助けてもらったのは言うまでもありません。
独立するということは、一人で仕事をしていくと考えがちですが、会社にいた時よりも多くの人に助けられ、協力してもらっていくのだと思いました。
今回の独立の件で最もお世話になったのは、ル・ボナーの松本さんでした。
ル松本さんはその人脈の多くの人を紹介してくれたり、商品を供給してくれたり、商売の秘訣を教えてくれたりしました。影響力の大きなブログに紹介していただいたことも助かりました。
すごくお世話になっているにも関わらず、そんな所を少しも見せず、すごく自然にさりげなく手助けしてくれることにとても感謝しています。
私も松本さんのようにさりげなく人を助けられる人間になりたいと思いました。
松本さんご夫妻とは2006年夏頃から、古山さんの紹介で知り合っていて、私が独立を目指したのは松本さんの影響もあるのかもしれません。
万年筆を一人でも多くの人に使ってもらうために、自分の一生を賭けた仕事をしていきたいと思い、その場所を作ろうとした一年でした。
そして、皆さんのおかげで出来上がったのは、万年筆という物だけではなく、精神的なものも共有することができる今までに見たことのない店になりました。
この店に関わってくださった全ての人に感謝の気持ちを持っています。
今年一年を少し振り返ってみましたが、これからは前だけを見て進んでいきたいと思っています。