元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

仕事を楽しむために

2012-06-30 | 仕事について

1年に1回スランプのように何をしても上手くいかなかったり、何となく体調が悪くなったりすることがあります。もしかしたら誰にでもあるのかもしれませんが。

ここ数年なかったけれど、今年はそういう状態が数ヶ月続きました。

そういう時は売上も悪いので(不思議なことに自分の調子と比例する)、何とかしないといけないと悪あがきをしますが、下手を打ってしまうのもこういう時。

そういう時の特効薬は、私の場合ノートの新しいシステムについて考えて、それを実行するということになります。

ノートや手帳をきれいに書くことができる、それらを楽しく書くことができるという理由で万年筆を使うようになっただけあって、ノートや手帳を書くことは趣味と言ってもいいくらい好きです。

自分の仕事の仕方に合ったノート、手帳のシステムについて考えることは半年に1回くらいはしているかもしれません。

その都度覚書を写し替えたりという不便なことはありますが、何よりの気分転換になります。

ずっとイメージにあったのは、1つの物事に対して何日もに渡った考えたことを少しずつ書き足していく。

時系列や内容ごとの記録分類の手帳では、考えを継続的にまとめにくく、思考の記録が弱かったので、1枚の紙に書き込んでいくような感じ。

A5サイズやB5サイズのノートも考えましたが、持ち歩き、机上での場所の取らなさから、オリジナルリスシオ正方形ノートを使うことにしました。

ついでにデイリーダイアリーからウィークリーダイアリーに変更しました。

書いた内容を後から探すことが多く、見開き1週間のウィークリーダイアリーの方が使いやすいと思いました。

仕事を始めて20年くらい経ちますが、いまだにそんなことで気分が変わる自分がすごく単純に思えます。

 


ペリカンクラシックM200デモンストレーター

2012-06-26 | 仕事について

最近では透明軸の万年筆も珍しくなくなりました。

サファリも国産のメーカーからも透明軸の万年筆が発売されています。

中のインクの色が見えてきれいだし、夏らしい涼しげな感じもします。

私は透明軸の効用として、万年筆に有りがちな高級感、重厚感を和らげる役目があると思っていて、その意見に賛同してくれる方がたまにおられます。

他には、長時間の論述試験の受験生の方がインクの残量が一目で分かるという効果を教えてくださって、実用的にも非常に意義があるのだと思いました。

もともと万年筆に透明ボディができたのは、透明ボディをデモンストレーターというくらいですので、中身の吸入メカニズムの精巧さ見てもらうための万年筆だったようです。

吸入式が主流のペリカンの透明軸の万年筆は、かなり古くから(60年以上か)ありましたが、19年くらい前にペリスケという愛称の万年筆がありました。

当時、あまり透明軸の万年筆が発売されていませんでしたが、ペリスケは安っぽいということであまり人気はなかったように記憶しています。

そういうことを考えると、万年筆も時代とともに少しずつは変化しているのだなあと思います。

ペリスケと同じカラー(透明軸に金金具)で、クラシックM200デモンストレーターが復刻されます。

どれが本家本元かを議論するのは、無意味だと思いますが私はオリジナルのひとつだと思っています。

7月~9月にかけて順次入荷してきます。

ご予約も承りますので、ぜひよろしくお願いいたします。

EF,F,M,Bがあります。12600円です。


「パリ左岸のピアノ工房」(新潮社 T.S.カーハート)

2012-06-24 | 仕事について

タイトルが気になって、本屋さんで手にとって読み始めた本でした。

パリ左岸(セーヌ川の南側)には、小さな趣味的な専門店がたくさんあって、それぞれ良い味を出して、小さな世界を持っている。

お客はそれらの店と出会って、品物を手に入れるだけでなく、心に張りのあるそのモノのある生活を始めることができる。

仕事以外の時間、そのモノ中心に生活し、興味の対象として強く心を占めるようになる。

主人公の場合、ピアノのレッスンを受けたり、最高級ピアノメーカーを訪ねたりする生活が始まります。

私たちのような、生活になくてもいい、比較的趣味性の高いものを売る店はそのモノだけでなく、お客様にそのモノのある心に張りのある生活を提供する役目があるのだと思います。

当店がお客様と万年筆が出会う役に立てて、お客様が文字を書くことや、万年筆で書く内容について考えることで、生活に張り合いを持ってもらえるようにできたら、素晴らしいと思います。

Pen and message.を始める時、そんな風に思っていましたし、今もその気持ちは変わらず持っています。

 


イタリアの友人

2012-06-23 | 仕事について

冬季オリンピックで有名になったものの、トリノの街の知名度や認識は、日本ではまだまだ低いのではないかと思います。

私もトリノの街がとても整備が行き届いた、雰囲気も名所、旧跡もある街だと知りませんでした。

洗練されていて、伝統も存在する大人の街という印象。

この街中で育った彼は、私たちがイタリア人に抱くイメージとは違い、物静かで注意して話を聞いていないと聞き逃してしまうような冗談を真顔で言う。

イタリアに帰っていた友人が奥さんとともに当店を訪ねてくれましたので、閉店時間を待って相談の末お好み焼きを食べに行きました。

時間をかけて、食事をしながら話ができる、近くもお好み焼き屋さんを気に入っていて、よく出掛けて2,3時間過ごしています。

その気になれば量を食べることもできるので、男性には嬉しいかもしれません。

若さとスマートな体型維持に努力しているこのイタリア人には迷惑だったかもしれないけれど、日本人の奥さんはとても喜んでくれたと思っています。

ペンのこと以外、プライベートなことはほとんど話さないこのイタリア人の友人がイタリアに帰って結婚してからの方がプライベートな話しをいろいろ聞くことができるようになった。

話を聞いていると、家族4人のうち2人の日本人女性(お母さんも日本人)と2人のイタリア人男性(お父さんは当然イタリア人)、そしてたまに遊びに来る妹家族や兄家族たちとのやり取り。

イタリアは景気が悪くて大変だという話しばかりスカイプで聞かされてたけれど、とても幸せに、楽しく暮していることが分かり、嬉しく思いました。

 


タフでありたい

2012-06-22 | 仕事について

タフでありたいといつも思っています。

急ごしらえのタフネスなので時々それを忘れそうになって、情けない思考を巡らせそうになるけれど。

私たちのように店を営むものにとってのタフさとは長く続けるための心の強さだと思っています。

逆境であっても、業績が悪くなったとしても、それを跳ね返して自分の道を歩き続けるような強さ。

この一瞬の短距離走で良いタイムを出すことを目指すのではなく、最後まで立っている。

歩き続けた者が私たちの世界では勝者だと思うのです。

ル・ボナーの松本さんはそんなふうに鞄工房兼ショップのル・ボナーを運営されてきた、私が知るタフな人の一人です。

鞄の仕事を始めて40年弱、今の場所に店を構えて19年。

途中何度も危機はあったと思うけれど、それらをかわしてしっかりと地に足をつけて歩き続けている。

ル・ボナーさんが続いてきている理由はたくさんあるけれど、私がいつも感心しているのは製品に常に改良を加えているというところです。

前回の反省点、お客様の声を聞いて、次のロットに反映させる。

時間の経過とともにもっと良いものになっていく。

ル・ボナーさんの鞄たちはそうやって熟成されていったものばかりです。

ル・ボナーさんのロングセラーモデルの中で異色のステーショナリー商品デブペンケースはそれらとは逆に全く変わっていないけれど、最初から完璧な完成度を持っていた証拠だと思います。

デブペンケースは私がル・ボナーの松本さんと出会った時からある、ル・ボナーさんが長年大切に育ててきたものです。

当時からデブペンケースは気になっていて、実はこのペンケースに鞄職人らしさを感じていました。

今もあまり他で見当たらない大きさはペンだけでなくいろんな細々としたステーショナリーをまとめて入れて仕舞えて、それは鞄の考え方そのものです。

それを丁寧な手仕事、上質な革でやってしまうところは独立系鞄職人のこだわりそのものだと思っていました。

ル・ボナーさんのこだわりが込められたデブペンケース、しばらく品切れしていましたが、入荷してきました。(https://www.p-n-m.net/contents/products/category2-9.html)


車の思い出

2012-06-18 | 仕事について

若い頃から車が好きで、外を歩けば車ばかり見ていて、新聞の折込チラシに車の広告が入っていると時間を忘れて見入っていました。

でも私の同年代の男の子たちはみなそんなところがあったのではないかと思います。

一生懸命バイトして、何年もかけてお金を貯めてスカイラインを買った子もいました。

当時のフルタイム4WDのスカイラインGT-Rなどは誰も買えなかったけれど。

免許をとったばかりの頃、しばらくは原付に乗っていましたが、バイト代を貯めて安い軽自動車を買いました。

4,5年落ちの排気量550ccの三菱ミニカで25万円という大変安い値段でした。

前のオーナーは若い女性でしたが、まったくいじっていなくて、いわゆるドノーマルでした。細いバイクのようなタイヤを履いていました。

色は赤で、あまり好みではなかったけれど、色を選べる立場ではない。

でもそのミニカ、大学4年間ずっと乗っていました。

小さな車で、しかも税金の安い4ナンバーだったので、後ろの座席が狭く、友達同士で友達の実家のある高知の四万十川源流の村へ行った時などは、前の座席も前にズラさないと乗れませんでした。

4年くらい乗った時にクラッチが滑り出して、伊川谷の学院坂を登るのに苦労したりしましたが、修理するお金がなかったので、だましだまし乗っていました。

免許をとったばかりの同じバイトの女の子がパチンコ屋さんの駐車場の鉄の柱に正面から突っ込ませて廃車になるという、あっけない最後を迎えたけれど、でも若くて時間だけはたくさんあった時の車だったので、それだけ一緒にいる時間が長かった。

車というのは、どんな車でも本当に思い出になるというか、思い出の一部になると思います。

 


オマスアルテイタリアーナダーマジャパンリミテッドエディション

2012-06-12 | 仕事について

ライティングラボのブログ「旅の扉」(http://writinglab.jp/)更新しました。

 

カラー軸の万年筆はなるべくならセルロイドであって欲しいと私は思います。

長期間寝かせる必要があるため、素材を作るにも、万年筆にするにも大変手間と時間のかかる素材であるだけに、セルロイドの万年筆というだけで、そこに価値を感じます。

そのためセルロイドの万年筆はどうしても高価になってしまう。

でもセルロイドのボディは柄に奥行きがあり、色合いも柔らかいものが多く、それだけ人を魅了する力がある。触った感じも柔らかく感じるのはセルロイドという素材の魔力なのかもしれません。

オマスの日本限定仕様の小さく美しい万年筆ダーマジャパンリミテッドエディションが入荷しました。

ブルーとサフランイエローが複雑に絡み合った豊穣な色合いのセルロイドを使用しています。

サイズは収納時120.4mmで、ペリカンM800との比較写真で分かるとおり、コンパクトなミニペンとも言えるもので、13gという軽さもあってシャツのポケットにも差して快適に使うこともできます。

小さな万年筆ですが、ピストン吸入式になっているのは、オマスのこだわりで、M300を吸入式にしたペリカンと同じ心意気を感じます。

限定本数は30本となっており、ボディにシリアルナンバーが刻印されています。ボトルインク付属、今当店でオマスの万年筆をお買い上げの方に机上付箋ケースセットをお付けしています。(付箋ケースはなくなり次第終了となります)

 


Il Quadrifogrio(イル・クアドリフォリオ)工房訪問

2012-06-10 | 仕事について

以前から切望していたイル・クアドリフォリオの久内さんたちの工房を訪ねました。

店が終わり、ライティングラボメンバーと工房楔の永田さんとゲンジで食事をしてから和田岬に向かいました。

車組と地下鉄組に分かれて行くことになり、私たちはみなと元町駅から地下鉄に乗りました。

三宮花時計前駅からハーバーランド、和田岬を経由して新長田までの神戸市営地下鉄海岸線はきっと乗車客数は多くないだろうと思います。

土曜日の夜の下りなのに、電車の中はガラガラでした。

ウイングスタジアムでサッカーの試合があるときはこの電車もいっぱいになると同行のH氏は言っていました。

和田岬で降りて3番出口から外に出ます。

駅の構内は、海岸線自体まだ10年ほどの新しい線ですのできれいでとても明るいですが、階段を上がって、和田岬の町中へ出た途端に人気がない寂しい夜の街。

すぐに久内さんが走ってきてくれて工房まで案内してくれました。

駒村氏が運転する車組はのんびりとドライブを楽しみながらやって来た。

車組と合流して工房の扉が開かれ、中に入った途端に空気が一変しました。

職人仲間4人が共同で、一つにつないだ二軒の一軒家の内装は全て自分たちでされていて、活気あるクリエイティブな雰囲気に満ち溢れた空間でした

初対面の仲間の方々も気持ちよく挨拶してくれて、外界の町の空気とは異なっていました。

この工房を訪れた人はきっとまた訪れたくなる。

この良い雰囲気は、全て自分たちの手をかけて作業した内装、ライティング、家具などの設え以外にも久内さんたちの人柄が生む空気感もあるのだと思います。

いろんな専門の人の手を借りて作っていった当店とは全く違う手間と時間の掛け方で作られた空間。

こういう仕事の始め方も大いに有りだと、久内さんたちの才能と若さがまぶしく感じられました。

工房見学と言いながら、終電の時間まで私たちは靴の採寸をしてもらったり、靴の打合せをしていました。

イル・クアドリフォリオの靴を自分たちで履きたいと思ったのですが、その話はまた別の機会に。


衣替え

2012-06-08 | 仕事について

6月になって、私も衣替えをしました。

長袖のシャツやジャケットを仕舞って、半袖のシャツをハンガーに掛けて・・・。

自分がやったように言うけれど、こういうことは妻がやってくれる。

私は「明日から半袖にしようかな」とつぶやくだけ。

半袖のシャツは決まっていて、ブルックスブラザーズのボタンダウンのブルーと決まっています。

もっと暑くなるとポロシャツになったりします。

あまりだらしなくならないし、生地もしっかりしています。インクが飛んでもブルーだから目立ちにくい。

季節が変わると何もかも変わるなあと最近実感するようになりました。

それまでしっかりした革靴が絶対にいい。そうでないとテンションが上がらないとまで思っていたのに、暑くなりだすと革靴は履いていられなくなって、ビルケンシュトックのような涼しい靴が履きたくなります。

それに伴って鞄も軽い感じのものに変わっていきます。


万年筆にも季節感があってもいいのではないかと、お茶の先生が仕掛けた設えを見て思いました。

お茶の先生はたくさんのお道具を持っているけれど、季節に応じてそれらを使い分けている。

季節だけでなく、月限定のものもあります。

そういうお茶の世界の決まりと言ってしまえばそれまでですが、そうすることによって季節の移ろいを楽しむことができるし、道具をより楽しくまんべんなく使うことができる。

万年筆を季節によって使い分けてみようと自分で決めたことが、シルバーや金具が銀色の万年筆は夏(6~9月)の道具。木軸やゴールドのものは冬(10~5月)の道具。黒ボディに金色の金具は通年使えるようにする。

木と金の万年筆はインクを抜いて洗浄しました。

これでインクの色も季節に合わせて変えたら完璧です。

ペリカンのロイヤルブルーやもっと明るめのターコイズや、色彩雫の紺碧のような色も夏の色だと思います。

四季をイメージした色当店オリジナルインクの夏の色は朔(https://www.p-n-m.net/contents/products/OG0042.html)で、落ち着いた大人の夏色のインクとしてお使いいただけます。

 

 


イベント後記

2012-06-05 | 仕事について

WRITING LAB.のブログ「旅の扉」更新しました。(http://writinglab.jp/)


6月2日に開催しましたIL Quadrifoglio(イル・クアドリフォリオ)のイベントがどんな様子だったのかご報告する義務が私にはあると思いますし、私たちにとってとても美しい思い出になる1日だったのでお話ししたいと思います。

イベントの日の朝5時まで商品作りをしていた久内さんご夫妻はお疲れだったたと思いますが、私たちはたくさんのお客様が来て下さったことにホッとしたというのが正直な感想です。

イベントはWRITING LAB.(ライティングラボ)として企画したものでしたので、駒村氏と香道師の森脇さんも朝から店に立って接客にあたってくれました。

駒村氏はさすが全国のセレクトショップのイベントに呼ばれてお客様と話しているだけあって、落ち着いた自然な様子、森脇さんも聞香会で馴染みの存在なので誰も知らない人はいない。

お二人がいなかったら店はとても回らなかったと思いました。

クアドリフォリオご夫妻は、ご主人の淳史さんがオーダー靴を作って、こういったイベントではお客様への説明を担当、絞り技法の革小物製作をする奥様の夕夏さんは話し下手なので製作工程のデモンストレーションをするということになっていましたが、夕夏さんもお客様とどんどん話されていましたので、話すのが苦手というのは淳史さんと比べたら、ということで私よりずっと滑らかにお客様との会話をされていました。

靴を誂える、という人はおられませんでしたが、ペンケースは皆様に気に入っていただき、売れていましたのでとても嬉しく思いました。

閉店前のお客様の流れも落ち着いた時間、居合わせたお客様も交えて靴談義。

淳史さんの説明を受けながら履いたクアドリフォリオの靴はとても履きやすく、今まで履いてきた靴とは異次元のものだったのです。

イベントの打ち上げで行ったインド料理店プージャで、今後も定期的にIL Quadrifoglioのイベントをしようという話になり、今後も当店で久内さんご夫妻に会えることになりました。