店を始めた頃、気にしていたのは自分がやろうとしていること、やっていることが、世の中の定説のようなものから、大きく外れていて、みんなその間違いに気付いていて、遠巻きに見ているのではないだろうかということでした。
私は自分の仕事について、とてもシンプルにとらえていたけれど、何かとても大きな仕組みのようなものを自分の無知によって無視しているから、自分の前にお手本とするべき人や店がないのではないかと少し心細くなっていました。
前例がないということで、やり方が間違っているのだろうかと真剣に思ったことは、今から考えるととても可笑しくて、前例があるかないかとか、セオリー通りではないとか全く気にしなくてもいいことだと、今だったらすごくよく分かるけれど。
当時教科書に載っていなければ正解でないのではないかと心配になったりしていたけれど、本当は教科書に載っていないことが一番大切で、誰もがそれを見つけたいと思っている。
ル・ボナー松本さんが万年筆の魅力に目覚めて1本差しと3本差しのペンケースを作り、それを大和出版印刷の武部社長に伝染させて、万年筆で書きやすい紙を使った上製本ノートを作るきっかけになり、最近グラフィーロという万年筆で書くということを究極まで突詰めた紙と紙製品を発売するに至っている。
二人が万年筆の関連する物を作り出したのが、ちょうど当店が創業した7年前で、その時からことあるごとに連るんで何かをしてきた。
その活動や関係は教科書ではとても習えないもので、当然二人は自分たちがしていることが前例にないことだからと心配になったりはしない。
すでに大きな力を持っている松本さんと武部社長に助けられて、引っ張られてここまで来た感覚は強いけれど、きっと誰でも創業時は非力で、誰か力のある人の助けが必要でそれがないとなかなか難しかったのではないかと、今も有難い気持は持ち続けています。
大和出版印刷の武部社長が取材を受けて、その流れで編集者の人たちとの親睦会ということになり、生田神社前のオコゼのお店で久々に3人揃いました。
本当に、ただ好きなモノの話や、あの時はああだった、こうだったと面白、可笑しく話して、とても楽しんで、結束を改めて強くできたと思うけれど、濃いキャラクターである二人とともに、お互い影響を与え合っての共同作業が、それぞれ個別の活動にも反映されてきた経過のようなものも思い出しました。
地理的にも、関係的にも、こういう人たちが傍にいる自分は、とても恵まれていると思っています。