元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

3月29日(土)30日(日)イベント開催工房楔 コンプロットについて

2014-03-25 | お店からのお知らせ

パイロットの創業記念モデル65周年から最新作95周年までを揃えたお客様がコンプロット10を買いに来て下さいました。

入るかどうか確認のためにお持ち下さったパイロットの限定万年筆をコンプロット10に収めた様は壮観で、コンプロットは確かにこういう使われ方に見合ったケースだと思いました。

自分の大切に思っているものを10本あるいは4本収めるための特別なペンケース。

そんな趣がコンプロットにはあります。

コレクションケースのような保管庫に万年筆を入れると、そこは万年筆の永眠の場所のようにならないだろうかと、私は心配になります。

コンプロットの良いところは、良い素材、高い加工技術により、大切な万年筆を入れるに足る演出効果があり、しかもそこに入れたものを一度に見渡せるところにあります。

ペンスタンドのように使いながら、飾ることができて、しかもそれを持って移動することもできる。

素材をそのままくり抜いた本体は時間が経つごとに、触るごとに表面に油分が出て、光沢を作りながら、まろやかな奥行きのある木肌になる。

それは素材によって多少の違いはあるかもしれないけれど、表面処理がされていない厳選された素材だからなのだと思っています。

コンプロットを例に挙げましたが、工房楔の永田さんが作るもの全てが、良い素材にこだわり、それをくり抜くことにこだわっていて、時間が経つごとに変化して、使い続けて良かったと思わせてくれます。

工房楔の春のイベントを3月29日(土)30日(日)に当店で開催いたします。

イベント中、永田篤史さんが来店していますので、より楽しく工房楔製品と出会うことができると思います。


何を売っているか

2014-03-23 | 仕事について

珍しく駒村氏と二人きりになる夜があり、どういう流れかそれぞれの自分の仕事にたいしるジレンマのような話しになりました。

お互いモノを売ること、しかも生活に絶対に必要ではないものを売っているけれど、それらを死蔵するのではなくなるべく使ってもらいたい。

もちろんいくらでも買ってもらいたいから、そのあたりが何とも言えないところで、私たちは自分たちが売っているものを買ってもらうことでお金をいただいて、それで生活しているわけなので売れなければ困るのだけど。

でもそれらについては考え続けていて、自分の中で整理がついています。

私は万年筆やステーショナリーを売っているけれど、本当に売っているのはそれらのモノのある幸せな時間だと思っています。

もっと言うと、そのモノでその人の人生をもっと良くしたいと思っています。

自分自身がそうだったように、万年筆を使うことで考え方が良いものになり、いろんな万年筆に興味を持つことでいろんなことに好奇心を持ち、それらを仕事や生活の中で使うことで毎日が楽しくなる。

それを一人でも多くの人に提供したいと思う。

ほとんどのお店や会社は、きっと自分たちが扱うモノやサービスで人を幸せにしたい、日本を良くしたいと考えていて、私はたまたま万年筆というもので人を幸せにできるのだと考えてそれを仕事にしている。

言ってしまえば当たり前のことで、早くから気付く人はいるのかもしれないけれど、私はこのことに気付いたのは30代も終わりでした。

でも気付けてよかった。

 

当店の多くのお客様は万年筆に好奇心を持って手に入れてくれていて、とても嬉しく思っています。

この万年筆だとどんな書き味だろう?どんな仕事ができるだろう?という好奇心に揺さぶられて新しい万年筆を手に入れる。

そして私たちはその傍らで、それをいつもとても微笑ましく見ている。


消費税

2014-03-18 | 仕事について

4月から消費税が上りますので、いまだに値札の付け替えやホームページの価格変更の作業をしています。

今まで消費税込みの値札を貼っていましたが、今回は1年半後にまた上るかもしれませんので、本体価格+消費税という値札を貼っています。

ホームページは、8%の税込み価格になります。

今回で3回目の消費税の変更になりますが、いずれも店員の立場でその場に居合わせました。

初めて3%の消費税が導入された時は大学生で、書店でアルバイトをしていました。

5%に上った時は前にいた会社で経験しました。

その時々のことを思い出してみて、消費税が上るということでの駆け込みの特需は確かにありました。

消費税が上るということを買う言い訳にして買おうとする人は確かにおられて、そういう人はきっと増税後も立派にお金を使ってくれる人なのだと思います。

自分に置き換えると消費税が上るから、それまでの高い買い物をしなくてはいけないと思っても、欲しいものはお金が貯まるまで買うことができないので、結局そのタイミングは増税ではなく、自分の財布との相談になってしまいます。

消費税を預かる店側としては、増税分を売価に上乗せせざるを得ない。

たまに消費税は上乗せしませんという風にしているお店の広告などを目にしたりしますが、絶対乗せないとやっていけないと思うけれど。

ひとつひとつのモノにおいて3%の上乗せ分は大した金額ではないかもしれませんが、それが半年と貯まるとなかなか支払うのが大変な金額になります。

たまに税理士さんから消費税はお客様からお預かりしているものなので、それは別で置いておいた方がいいと言われることがあります。

それは分っているけれど・・・。という感じで消費税がいくら上ってもお客様から頂戴する金額が高くなっても、店にとって迷惑はあっても有り難いことは全くありません。

今回、実はこれが一番言いたかったことだけど、消費税と関係なく、4月から万年筆の価格が一部変わり、それはお知らせしておいた方がいいと思い下記いたします。

アウロラ88クラシック 65100円→81000円
アウロラ88オールブラック 57750円→70200円
アウロラオプティマ 59850円→71400円
アウロラボトルインク1890円→2160円

ラミー2000 24150円→32400円
ラミーサファリ 3990円→4320円
ラミーカートリッジインク 420円→540円
ラミーボトルインク 1155円→1404円
(旧価格は5%、新価格は8%の消費税込みの価格です)

 

 


輝き続ける

2014-03-16 | 仕事について

最近あまりそういう機会を持つことができていませんが、以前よく古くからあるような町の文具屋さんを訪れたりしていました。

今ではもう手に入れることができないような万年筆を探して、そういうお店をまわっていました。

それはとてもワクワクする経験でしたが、同時に時代に取り残されたように見えるひとつのお店のお仕舞いに近い姿を見るような寂莫感を覚えました。

どのお店も開店した時は当店と同じように希望を持って始まって、強く輝いた時期もあったと思うけれど、今は店主の人の決断ひとつで、いつでも閉めることができそうに見える。

どんなものにも始まりがあって、終わりがあるし、それが人の営みなのだと思うけれど。

店主はやり遂げたという達成感で店を閉めるかもしれないし、今の時勢や文具業界の現状を考えると、自分の人生とともに店を閉める判断をすることができることは、素晴らしいことだと思う。

でも同じような個人店の駆け出し店主には自分の最期の姿を見せられているようで恐い。

それが自分が選んだ道で、もし最期はそうなってしまったら、それは仕方ないことなのかもしれないとも思うけれど。

今はまだいろんなことに興味があって、世の中の流れについて行くことができていて、その中で取捨選択することができているけれど、もし自分が年老いて、頭が硬くなって、頑固になってしまったら、時代に取り残されて、店は輝きを失ってしまうのではないかと思っている。

店を始めた時、もしかしたら仕事を始めた時から、今強く輝くのではなく、微かでもいいからずっと輝いていたいと思っていたので、いつも長く続くことを考えてきました。

店が輝き続けるために一番大事なことが、自己弁護的な頑固さに凝り固まらないこと。

いろんなことに興味を持って、いろんなことを受け容れる度量の大きさと柔軟な姿勢が必要なのかなと思っています。

今まで自分がしてきたことを肯定したいという守りの気持ちは、誰もが持ちたくなるのだろうと思うけれど、それが店の輝きを失わせていくのかもしれないと思っています。


ブランケット

2014-03-11 | 実生活

昨年末、ブルックスブラザーズでマフラーを買いました。

178cm×72cmのとても大きなマフラーで、でも生地がとても薄く、首に巻いた時に他のマフラーのようにモタモタとして、マフラーに溺れているようにならない。

自分にはとても贅沢なものだけど、柄が今の服装に合っていて、素材が気に入りました。

自分のスタンダードな冬の服装、ダッフルコートやPコートにチノパンに、地味だけど控えめなアクセントにもなってくれます。

既にマフラーは茶系とグレーを持っていましたが、サイズが普通で、大きなマフラーが絶対に必要でした。

絶対必要だったのは、店の中でひざ掛けに使いたいと思ったからです。

外を歩いて入ってきた人が、コートなど上着のままでいると暑いくらいの店内ですが、ずっと居る私たちは寒いと思っています。

昨年まで冬が嫌で仕方なかったけれど、女性のお客様がマフラーをひざ掛けに使われているのを見て、その手があったのだと気付きました。

もしかしたら普通のことなのかもしれないけれど、私にはそれはニュースだった。

あまりにゴワゴワでチクチクすると、妻は使わないけれど、家ではぶ厚いブランケットをひざに掛けて過ごすことが最近は多い。

店でもひざ掛けをすることは考えなくはなかったけれど、店にいろいろと物を置きたくないと思っていたので、ひざ掛けさえしていませんでした。

マフラーをひざ掛けと兼用するというのは、なるべく数少ないもので快適に過ごしたいという私の理想に合っているように思ったのです。

今年の冬は特に寒かったと思いますが、マフラーのひざ掛けのおかげで、快適に過ごすことができている。

早く終って欲しいと思った冬だけど、日の長さや日差しの明るさを感じて終わりを感じると、少し名残惜しいような気がします。

 


食べる

2014-03-09 | 実生活

毎週のWRITING LAB.の会議の時、皆不味くなく食べることができたらそれで幸せだと思っているので、本当に普通の、どちらかと言うと侘しげなものを食べることが多い。

私はあまり良いものを知らないけれど、美味しいものを知っている駒村氏も、皆も、そこで贅沢をしたいと思わないところが、すごいなと感心しています。

子供の頃少食で、食べることが嫌いでした。

もっと食べろと言われることが多く、でもそれは勉強しなさいと言われるくらい承服し難い要求でした。

その頃の自分が今くらい食べることができたら、私の背はもう少し高かったかもしれないと思うのは、もっと勉強が好きだったらよかったと思うのと同じなのかもしれません。

でも吉宗家も母方も、皆背が低く、ガッチリとした体型の人ばかりなので、それはもしかしたら望めなかったと思うけれど。

私が今のようにご飯を中心として、たくさん食べるようになったのは、大学生になってからだと思います。

大学生になって、学食などで好きなものを食べることができるようになったのは、食生活に変化をもたらして、ご飯が大盛りになったり、おかわりすることが常になりましたし、カラオケボックスのバイトでも賄いは自分で作るので、好きなものを作って山盛りのご飯で食べていました。

普通の量のおかずと、大量のご飯を食べるようになって、それは今も変わっていないので妻からは心配されている。

幸い体重も体型もこの7年でほとんど変わらないのは、その食生活が自分に合っているからなのかと思っています。

何の根拠もなくご飯は体力を作ると思っていて、そのおかげかこれまで風邪で仕事を休んだこともほとんどなく、インフルエンザにもかからずに来ることができたと信じている。

サプリメントは効率的に健康な体を維持するための栄養素を摂ることができるかもしれないけれど、食事から体が自分に必要な栄養素を作り出す機能があるはずだと思うので、ご飯を食べることをそれが代わるととはとても思えない。

もう45歳になるけれど、若いからそれでやっていけて、もう少し齢をとるとまた違うのかもしれませんし、私が長生きしなかったら間違っていたという答え合わせになるのかもしれないけれど。

 

 


街を変える小さなお店

2014-03-07 | 仕事について

遅読で、1冊の本を読むのに何日もかかってしまいます。

でもたまにまとまった時間がとれて、本を読み切ることができたら、それは充実した休日だと思える。

年1回であることが多いけれど、京都の恵文社は必ず立ち寄る、大好きなお店で、恵文社の店長をされている堀部篤史さんが書かれた本「街を変える小さなお店」を読みました。

自分と同じようにお店で仕事をしている人は、たとえ扱っているモノが違っていても同業者だと思っているし、共感し合える部分があります。

毎日同じようなリズムの中にあるはずなのに、同じ日は1日もなく、予測不可能なのがお店の時間です。

お店をするというのは、川の流れの中の石のようなものだと思うことがあります。

流れに流されないように、自分の居場所に何とか踏みとどまろうとして、踏ん張っているようなところがあって、それに流されてしまったら、ずっと流され続ける生き方をしていかなくてはならない。

恵文社は、元町よりももっと小さな町一乗寺にあって、人をその町に向かわせる強い引力を持っています。

そして恵文社の周りには少しずつだけど、お店が増えてきて、何か新しい町が出来始めているような感じがします。

地元に根差して、自然に横の繋がりの中心的な役割をしている本屋さんの店長の日常や考えておられることが、上手い文章で綴られていて、垣間見られる。

自分のできる範囲で、周りの人も巻き込んで、動かしていく。

大会社や業界が無理矢理作ったものではない、ムーブメントがそこには確かにあります。


義にさとる

2014-03-02 | 実生活

私たちは誰かが作ったものをお客様に買ってもらうことで必要最小限の利益を得ています。

必要最小限の利益なのは、それがないと続いていけないし、それが大きすぎるとお客様から相手にされなくなるからで、そのバランスを取らなくてはいけない。

お客様に買ってもらうのが仕事だけど、ただ普通に物を手に入れていただくだけではだめで、やっぱり他のお店とは違うと思って買ってもらわないと次はないと、小さなお店は肝に銘じておかないといけないのだと思う。

売上が悪くなってから、何かが良くないと気付いて慌てるようでは遅く、お客様に商品以外に何か喜びを提供できているかを自分でいつもチェックできていないといけないということは、少し使い方が違うけれど、君子義にさとり、小人利にさとる、という言葉から連想されます。

前にこのブログで、物を売っている自分の仕事について迷いがあったことについて書きましたが、その時私は思想と利益が両立しないものなのだと思っていました。

志の高い仕事は利益のことなど考えないような、それが尊いことなのだと思っていて、何か仕事において利益を得ようと思ったら、理想とか志と違う気持ちの整理をつけて、利益を得ると割り切らないと得られないものなのだと勘違いしていました。

でもそれは先ほどの小人の商いで、本当は理想とか志に則って商売をして、その結果得られるものが利益であると考えることは、きれいごとでもなんでもなく、仕事をして商売をしている以上追究するべき基本中の基本の考え方で、自信を持って利益を得られる仕事をしないといけない。

理想と生活は、何か相反するものに感じられるけれど、それを両立させようと人が努力している様が生き様であって、どちらか一方に偏りすぎてしまうと、それはただのきれいごとだったり、ただの狩猟と変わらないものになってしまいます。

本当に、心から思っていないと実践できない難しいことだけれど、相反する様々なものの間でバランスをとっている仕事こそが、美しいものなのだと私は信じている。

たぶんどんな仕事であっても同じなのだと思います。