元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

敦煌(井上靖)

2022-01-23 | 実生活

女言葉も敬語もない話し言葉も好きだし、凍える強風、灼熱の砂漠などの厳しい自然の情景も目の前に浮かぶようにイメージできる。
何度でも読んで、この小説の中の世界に浸りたいと思います。

戦いに生きる男たちの生き様を描いた小説が好きでよく読みます。

そういう話の中で、男の友情について書かれているところは特に好きで印象に残る。
「敦煌」も男の友情を中心に描いた小説だと思う。

貪欲にもっと上に行くために、あるいは生き残るために戦う。昨日の味方は今日の敵ということもよくある生活だからこそ、一度結ばれた友情は強く、細く長く続く。

それぞれが孤立して戦う者だから普段は一人だし、忙しい毎日なので、ベタベタと週に何度も会うことはなく、たまにしか顔を合わさないけれど、相手の生き方に共感して、離れていてもいつも心のどこかにあって、どうしているかとふと考える。
そしてその存在が自分の仕事の張り合いにもなって、強くいることができる。

「敦煌」には女性も登場する。契った愛を仕方ない理由で貫けなかった自分を恥じて自ら命を絶つ女性への敬意と恋慕を主人公は持ち続けて、それも彼を強くする。

それぞれが孤独だけど、タフに生きて砂漠に埋もれていった人たちの話。

自分の好きな分野で生きて、立ちまわっている私たちもこのまま時間の中に埋もれていき、忘れ去られるのだろう。
でもそれでいいのではないか。自分には同じ時代に生きた尊敬できる友達がいたのだからと思える小説です。