元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

個の存在

2011-05-31 | 仕事について

幼稚園に入るずっと前、当時住んでいた団地の横で近所の子たちとかくれんぼをしている時に、急に自分に気付いたことを最近のことのように覚えています。

自分に気付いたという表現が正しいかどうか分かりませんが、ふと目が覚めて自分はここにいると自覚したような感じなのかもしれません。

それからずっと自分は何なのか、世界の中のこの場所になぜ自分はいるのか、とことあるごとに考えたけれど、その答えは自分で作り出していくものなのだと最近分かりました。

世界中には本当にたくさんの人がいて、自分と同じように暮している人もたくさんいる。

この地球の活動の中で人の命はあまりにも短く一瞬のことで、一人の人ができることなんて本当にわずかなことだと思います。

自分はたまたま神戸にある万年筆屋の店主という立場、バラク・オバマ氏はたまたまアメリカ合衆国の大統領という立場で、それは本当は特別なことなのではなく、ただそういうことになっているだけ。

世の中には特別な人間などいなくて、人というのは地球上の生物のひとつで、動物たちにそういったことがないように、私たちにも運命などなく、生きて時がくれば死んでいくのだと思います。

こういったことは宗教も絡んだりして難しい問題だけど、その考えは個の存在について一番自分自身でしっくりと納まる考え方でした。

こういうことも考えるのが好きで、ボーツとしながら考えたりします。


強風の中

2011-05-30 | 仕事について

昨日がもし休日だったら、出掛けずに家にいたかもしれないと思うくらいの強風で、それは時間を追うごとに強くなっていました。

日曜日には珍しく開店からお客様が途切れずに来られ、台風が近付いているので1日中誰も来られないと思っていましたので嬉しい誤算でした。

こんな天気の中来てくださるということに驚きながら、来店される方を迎えましたが、お客様が途切れた夕方に近い時間になって二人の女性が来られました。

お二人とも「愛の千本ノック」とも言える、ペン先調整に厳しい方ですが、この日もそれぞれ2本ずつペン先調整をさせていただきました。

当店で調整を依頼された場合、気が済むまで追求できると言われますが、確かに無料のペン先調整では何度ものやり直しを依頼しにくいし、他のお客様が後ろに並んでいる時にも粘りにくいと思います。

ペン先調整に厳しいお二人ですが、上手くいった時のリアクションが上手で、良い書き味を褒めたたえてくれます。

こうやって私は厳しく指導されながら、おだてられながら、お二人の千本ノックを受けていました。


集中と静寂

2011-05-29 | 仕事について

当店で毎月最終土曜日に開催しています聞香会では毎回何か勉強になることがあります。

聞香会自体は楽しいおしゃべりをしながら愉快な時間が流れていきますが、自分の前に聞香炉が回ってきたら、目の前にある一片の沈香に全神経を向けて、その香りの色と奥行きを感じ取ろうと集中します。

うまく集中できたらその特長を知ることができるし、気が散っていたらその違いが感じ取れない。

こうやって心の静寂を保って、集中力を高めることは私たちの日常生活でも必要になることがたびたびあります。

これから何か始めようと作業に向かうような時に最も集中力を発揮したいと思う時ですが、成功する時も失敗する時もあって、成功した時は神がかり的にその作業が上手くいったりします。

香道師の森脇直樹さんとその話をすると、香を聞くとは自分の精神に集中と静寂を迎えることだといった意味合いのことをおっしゃっていて、お香を聞くことは私たちの神経を自分でコントロールできるようにする役にも立ちそうです。

全神経を向けて感じ取った香りの違いですが、それらを覚えておく頭の中のフォルダーがなくて、私はなかなか覚えていられませんが、本来香りは一番記憶に留まりやすいものなので、その香りを聞いた時に頭の中で思い描いた情景とともに記憶すれば上手くいくとのアドバイスをもらいました。

お香では、自分の精神の集中と静寂を、お茶では流れに気配りして行動する段取り力と美的感覚を身につける役に立つと思っていて、日本の古典芸能の侮れない奥深さを知り、自分のDNAにあるはずのこられの情報をもっと呼び出したいと思いました。


セーラー万年筆創立100周年記念謹製万年筆「島桑」

2011-05-28 | 仕事について

万年筆メーカーのほとんどが歴史が古いので無感覚になっていましたが、この動きの早い世の中で万年筆という品目を作り続けて営業し続けてきたということにセーラー万年筆という会社の気持ちの強さを感じますし、世の中がセーラー万年筆を求め続けたからこそ100年という歴史があるのだと思うと、それは本当に価値のあることだと思います。

100周年の万年筆島桑の一番の特長は、江戸指物の素材として珍重された希少な素材をボディに使っているというところだと思いますが、数々の見所のある万年筆です。

最も特長的だと私が思っているのは、そのプロポーションです。
普通の万年筆よりもボディが長く、キャップが短くなっています。

万年筆のプロポーションについて考えたことがあります。

キャップは短い方が美しく見えるし、ボディは長い方がキャップをつけずに書けるのでより使い勝手が良い。


島桑が示したこのバランスは美しさと実用性を兼ね備えたものなのではないかと思いました。

ボディの仕上げの拭き漆はプラチナの拭き漆よりも厚く感じられ、磨き上げられている感じがします。

専用デザインのクリップ、蒔絵技法で描かれたキャップ装飾など他にもポイントはありますが、実は使うことにおいて効果のあるバランスが最大の特長だと思っています。

https://www.p-n-m.net/contents/products/FP0284.html


ベスト

2011-05-27 | 仕事について

一体何枚あればいいんだと自分でも思うことがありますが、服はコーディネートとか、季節感などの要素があるので細分化していけばどんどん増えていくのかもしれません。

シャツをブルックスブラザーズオックスフォードのブルーと決めていますので、服装に変化をつけたいと思った時、ベストが 最も良い 選択だと思っています。

定休日に大阪に行った時、妻に引っ付いてあるナチュラル系のコーディネートで有名なお店に行きました。

付き合いで行っただけでしたが、気に入ったベストがあったので購入することにしました。

今度はカジュアル感が強い、麻素材のもので、お店の人曰く真夏以外は着れますとのことで、便利だと思いました。

オーダーしているベストが6月に完成しますが、それはもう少しカッチリしたもの、ビルケンシュトックに靴や穿き込んで味が出始めたチノパンと合わせる今回のベストくらいの方が合うだろうと満足しています。

万年筆も最初、その存在自体が気になって1本あれば様々な用途に使いますが、やがて手帳用、手紙用など用途が分かれ、さらに黒用、青用などとさらに細分化していく。

ものにこだわるのはそういうものなのかもしれません。


梅田近辺

2011-05-26 | 仕事について

子供の頃、家族で梅田に出た時は阪急百貨店のおもちゃ売場で遊びながら、両親の買物が終わるのを待っているのがいつもの行動でした。

昼食に行くKYKのとんかつも、お茶を飲みおもちゃ売場の向かいの喫茶店も、スウェーデンのソフトクリームも、帰りの電車に乗る前に買ってもらえるUCCの缶コーヒーも。

いつも全く一緒で本当にワンパターンだったけれど、そんなワンパターンだから子供の頃の梅田に行った思い出をよく覚えているし、子供は案外ワンパターンが好きで、愛着を持っているものだと思います。

昨日久し振りに梅田に行ってみました。

大阪ステーションシティという大きな開発がされていて、それを見に行ってきました。

大屋根の存在には気付いていましたが、いつの間にこんなに大きなビルを作っていたのだろうと思えるほど、大阪駅とヨドバシカメラの間にそのビルは現れていました。

大阪駅周辺にはたくさんの人が集まるし、それなりに大きな街だと思っていますが、百貨店は4つあるし、ショッピングセンターもたくさんあります。

大阪駅周辺は激戦区ですが、それは大阪駅周辺だけの問題ではなく、近畿2府4県、もしかしたら西日本がそれに巻き込まれたと言っても言いすぎではないと思います。

規模の大きなお店が大きな差別化をせずに1箇所に集中して、つぶし合いをしている中、我々個人店はそれぞれのらしさを打ち出していかないといけない。
新しくて規模の大きなお店にはないものを追求したいと思いました。


高齢化の街で

2011-05-25 | 仕事について

中学生の頃からずっと住んでいる垂水の街もかなり高齢化が進んできたと思っています。

私が中学生の頃8組まであったクラスが、息子の時は3組までしかなった。

当然時間は流れていて、住む人は歳をとり高齢化していく。
問題は、若い人が出て行ってしまうということで、年寄りだけが残っている。

私が住む地区は1970年代後半から80年代前半に造成されたニュータウンで、30歳くらいで家を建てた私たちの親世代の人たちは60歳以上になっています。
その子供たち、私と歳が変わらない人たちも、たくさんいるはずなのに街で出会うことはほとんどない。

街の風景も変わって、学生の頃賑やかだった地元の商店街も寂れてしまっています。

こういうことが日本中で起きていることは知っているけれど、人はどこに集まっているのだろうと思いますし、街の寿命は短いのでないかと思ってしまいます。

垂水はあまり古い街ではないけれど、もっと歴史のある街、古い城下町などはどうやって新陳代謝を繰り返して、続いてきているのだろうと思います。

 


ゲンをかつぐ

2011-05-24 | 仕事について

世の中で起こっていることは必ず何らかの目に見える理由があって、それが神様の仕業だったり、何か霊的な力だったりすることはないし、第一そういうものは存在しない。
目に見えない全てのそういった存在は、人間の心の中にのみいて私たちの営みに影響を与えるのだと思っています。

しかし、ゲンはかつぐ。

小さなものだけど靴下や靴は左足から履くとか、他にもあったような・・・。

商売をする人はゲンをかつぐ人が多いと思います。

その時の世の中の流れ、人の心、天気など自分の意思ではどうすることのできないものに左右されることもあって、勢いというか、運が向くようにと考えるからだと思います。

自分の意思でどうすることもできないことを気にしても仕方ない、自分で何とかできることだけに努力して、気にしていればいいのだけど、例えば扉の両脇に盛り塩をする、神棚を作る、炭を置くということから、おなじCDを2日連続でかけるとお客様が来ないというオリジナルのものまで。

本当はちゃんと理由があって、私たちが無理矢理結びつけて迷信に惑わされているだけ。

店にいてお客様を待つお店をする者の心の弱さというか、拠り所を求める気持ちがゲンをかつぐという行為に出るのだと思います。


使いたいのに使えないもの

2011-05-23 | 仕事について

万年筆を一番よく使うのは、例えば原稿用紙だと言うとかっこいい感じがするので、そう言いたいところですが、残念ながら私の場合、メモ帳へのなぐり書きが断然一番多いようです。

ブログの下書き、週1回のペン語り、月1回の雑記からなど、全てメモ帳へのなぐり書きの下書きをパソコンに清書することで、成り立っています。

原稿用紙を使うことももそうですが、雰囲気の良いノートにも憧れます。
しっかりしたノートにきれいに書き綴って後から見返すようにしたいけれど、清書するとパソコンで見ることができるし、心境のズレなどがあって古くなってしまいますので、過去に自分で書いたものを見返すことはありません。

そういった理由で清書したらちぎって捨てられるメモ帳を使うことが大半になっています。

今まで文房具への憧れがあって、自分のやり方に合っていないものを無理に使おうとしていたところがありました。

でも最近は自分のやり方について、自分で嫌というほど分かってきて、自分にとって使えるものと使いたいものが違うことが分かってきました。


洗車

2011-05-22 | 仕事について

店を始めて、休みが週1回になったことによって、できなくなったことのひとつに洗車があります。

今まで手で洗っていた車を汚れがひどくなって、見るにみかねた時だけガソリンスタンドの洗車機にかけるようになりましたl。

汚れが極限に達してから洗浄力が今ひとつの洗車機で洗うわけですから当然あまりきれいにならない。

もともと洗車は自分の生活の中で最も面倒だと思っていることのひとつで、屋根を洗わなくてもいいからオープンカーにしようか、汚れててもサマになりそうだから四駆にしようか、という考えしかしない人間なので、時間がないと言い訳して洗車から逃げているわけです。

洗車という車を慈しむ行為をから逃げれば逃げるほど、車への愛情は弱くなっていくわけで、乗り始めて10年経ったトヨタビッツを乗り換えようかという話をし始めていました。

確かに私が縁石に当てたバンパーはボディと隙間ができているし、原因不明の超高周波の音がエンジンから聞こえてくるし、洗車を怠ってきたせいか塗装のツヤがなくなってマットに見えるし。

でも、デザインが気に入ってカツカツの生活の中で無理して買った車だし、10年間の家族の思い出を乗せた車をこのままボロくなるにまかせて放置するのは忍びない。

季節も良くなってきたので、休みの日の朝2ヶ月連続で洗車とワックスかけをしました。
2時間くらいかけて、車を本当にすみずみまできれいにすると、車への愛情が戻ってきて、この車が愛おしくなります。

あと半年以内にお別れのビッツ、なるべくきれいな状態で最後まで乗りたいと思うようになりました。