元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

なぜ万年筆なのか

2012-01-29 | 仕事について

たまになぜ万年筆を使うのかという問いを自分に投げかけることがあります。

たいていそういう時は、迷いがある時で、何かに悩んでいる時と決まっています。

調子の良い、波に乗れている時は自分の根源的なことに考え混んだりしないので、そういう時は何かの分かれ道に立っている時なのかもしれない。

一人の万年筆ユーザーとしてなら、私の場合とてもシンプルで、好きな「書く」ことがより楽しくなるからです。

でも万年筆がなくても書くことが好きなことに変わりなく、万年筆を使い始めるようになる前でも水性ボールペンなどで気分良く書いていた。

パイロットG-1なるゲルインクボールペンのはしりのようなボールペンを愛用して、こだわってるつもりでいました。

でも水性ボールペンよりも格段に書きやすい万年筆の存在を知ってから、今まで使っていた水性ボールペンがとてもつまらないものになってしまいました。

万年筆を使うのは、書き味が好きだったり、書いた文字が好きだったりすることが理由なのだといつも簡単に答えが出ます。

なぜ万年筆を使うのかを考えるのではなく、なぜ書くことが好きなのかを考えた方が良いのかもしれない。

私はなぜ書くことが好きなのか。

これは結構考えましたが、それは「考えたい」からだと思い当たりました。

書くという行為は「考える」をアウトプットする行為で、私は自分の仕事、生き方、家族、哲学などについて考えていたいのだ。

それは崇高なことでも何でもなくて、声を出して議論するよりもただそうすることが好きだから、考えたことを「書く」ことで表現しようとする。

好きで考えたことを整理するのが書くという行為で、それを楽しくしてくれる万年筆。

「書く」ということは、「考える」ということと同義ではなく、考えたことを整理するために万年筆を使うのだと思いました。

 

 

 

 


5年目のお茶

2012-01-26 | 仕事について

茶道教室の初釜がありました。

初釜はもう4回目で、お茶を習い始めて5年目になります。

今までお稽古日を間違えた1日以外は休まずに続けてきましたが、それほど熱心ではなく、何の気負いも、欲もなく自然体でやっきてしまったので、先生に申し訳ない気持ちになります。

茶道に興味を持始めたのは、実はデザインからでした。

オリジナル商品について考えることが多く、自分が良いと思うデザインの有りかた、ものの有りかたの「渋い」という概念は、千利休が確立した茶道においてはっきりと形になったと知り、今まで大河ドラマなどでちょっとクセのある人物として描かれていた千利休に興味を持ち、千利休に関連する本を読み漁りました。

良質な素材、良い作りのものを素材感をむき出しに、簡素に仕立てたもの。

ものの渋さはそれだけではないと思いますし、渋いという言葉はものだけを形容する言葉ではありませんが、そういう価値観は日本だけのもので、これを追求することが世界に通用するものを作ることなのだと思いました。

この考えは今も持っていますし、日本らしいものについて考えた時に同じように考える人は多いと思います。

話を戻すと、千利休の美学をもっと知りたいと思って、仕事の前に行くことができる茶道教室を探して通い始めましたが、利休の侘茶の精神をとても大切にしている先生に出会えたことは幸せだったと思います。

お手前はお粗末ですが、ものの姿形だけでなく、茶道の精神性、反射的な物事の対し方など、非常に影響を受けていて、それはお店をする人間にとって、活用できる考え方に溢れていることをこの4年間で知りました。


作家の愛したホテル(伊集院静著日経BP社)

2012-01-20 | 仕事について

男が自分の思った通り、気侭に暮しているかどうかは、旅に出ているかで測ることができるのではないかと思い始めています。

それで測ると私は全く思った通りに生きていないことになり、旅に出ていないことを後ろめたく思ったりします。

自分の思い通りに旅を決行する人は、人の意見やしがらみに縛られない心の強さを持っていて、旅に出てそれを自分の仕事の肥しにもしている。

 

私が最初から最後まで一通り読んだ後で、気に入っているところだけ読み返したり、パラパラめくって写真を見たりして何度も開くこの本は、世界中にある氏お気に入りのホテルを取り上げた旅のエッセイ集です。

私は伊集院静氏の小説を読んだことがないので熱心な読者ではありませんが、氏のエッセイが好きで何冊か読んでいます。

氏の偉ぶらない、時に強がり、時に自分をオチにする、そしてたまに真剣な仕事の話の文章を読んでいると年上の友達と話しているような楽しく心地よさを感じます。

自分の力で生きようとしている人には優しく、自分には厳しい。でも意志の弱さも隠さない。

男はこうありたいと思う時、何人かの人とともに伊集院静氏を思い浮かべます。

世界中にお気に入りのホテルがあって、そこで原稿を書き、それに疲れたら同じくお気に入りのホテルのバーで息抜きをする。

自分にはお気に入りのホテルが世界中にないし、ホテルのバーでお酒を飲む習慣もないけれど、いつかはそんなライフスタイルを手に入れたいと思わせる。

そんなひとつの男の夢を見させてくれる本だと思っています。


神戸の夜 2012、冬

2012-01-17 | 仕事について

ル・ボナーの松本さん、カンダさんと集まったのは本当に久し振りで、わずかな月日で様々な事情が少しずつ変わっていったことを思い知ります。

でも本当に、時の流れとともに人の心と状況は変わっていく。人間が関わることで永遠などは絶対にない。

ル・ボナーの松本さんから聞いたバー バランザックのマスター太田茂さんが昨年亡くなったことは、その想いをさらに強くしました。

でも松本さんと同い年の54歳での死はあまりにも早すぎる。

酒が飲めない私にとって、バーという場所は近寄りがたい怖い場所であったし、かっこいい憧れの大人の男(私のイメージ)の場所でした。

カウンターがあって、無口で渋いマスターがいる。さりげなく個性を主張する設えとセンスの良い音楽。

そのままの場所が太田さんのバランザックでした。

店を始めたばかりの頃から、今まで行ったことのないような良いお店に松本さんに連れて行ってもらったりしていましたが、締めくくりはいつもバランザックでした。

最初無口だった太田さんが少しずつ話してくれるようになって、当店に万年筆を買いに来て下さった時は本当に嬉しく思いました。

夢を実現させて神楽坂にバランザックをオープンさせてそれほど月日が経っていないけれど、早い死ではあったけれど太田さんは太く短く生きたのだと思いました。

松本さんが言うように、スマートでさりげなく、多くを語らない本当に神戸らしい人だと思いました。

まだまだ不安な毎日を送っている私に(今もそうだけど)、優雅な世界を見せてくれた松本さんのように、早く自分も仕事を成功させて安定させたいと、今もまだまだ手が届かないけれど目標のように思ったことは、バランザックの思い出とともに懐かしく思い出します。

 

新しい年を迎えて、今年もよろしくお願いしますという目的の食事会で、鉄板の上に大量に盛られたソース味の粉もんを食べながら、あっという間の4時間近く話していました。


堀谷龍玄作品展(2月19日まで)

2012-01-16 | 仕事について

毎月第1金曜日に開催している“万年筆で美しい文字を書こう”教室の講師して下さっている堀谷龍玄先生の作品展を2月19日(日)まで開催しています。

杜甫の詩を書いた条幅の大作や先生自ら読んだ歌、書と絵の融合したものなどを展示しています。

堀谷先生は人当たりも柔らかく、話し方も優しい。先生の教室は和やかで楽しい雰囲気に包まれています。

しかし、ご自分の書に対する気持ちは相当に強く、厳しいのではないかと察します。

そのストイックな姿勢があったから、書道を本格的に始めてから9年という短さで最上位である師範まで登りつめることができたのだと思います。

素人の私が先生の作品に対してコメントすることはあまりにもおこがましいですが、私は先生の書から自分に対する厳しさや気持ちの強さを学ばなければいけないと思いました。

ご自分の芸道を突き進んで究めようとする人を尊敬します。そのような人たちはとても謙虚で、自分に満足することがない。

芸道を究めるとは、そんな心の有り方を持つことだと想像しています。

今回の作品展の目玉、条幅の作品で堀谷先生は杜甫の有名な五言絶句の詩を書いています。

江碧鳥逾白 山青花欲然 鳥花看板 碧青春日 江山今何

杜甫はよく自然の力強さ、永続性と対比して、人間の営みの虚しさや、自分の現在の境遇を嘆きます。

自然は移り変わっていくけれど、毎年一巡りしてまた同じ季節がちゃんとやってくる。それを何億回も繰り返しているのに、それに比べて人間の生涯は何て短く儚いのだろう。(岩波新書 新唐詩撰を参考にしました)

自然や地球の歴史に対して私たちの生涯はほんの一瞬で、私も40歳を過ぎてからそういうことを考えるようになりました。

話が何となく逸れていますが、そういったことも考えさせられる、気持ちの引き締まる書道の作品展ぜひご覧ください。

 

 


万年筆で美しい文字を書こう教室と堀谷先生の祝賀会

2012-01-15 | 仕事について

“万年筆で美しい文字を書こう”教室を堀谷龍玄先生にしていただけるようになって1年以上が経ちます。

昨日の教室では、原稿用紙をきれいに書くという課題で、堀谷先生のお手本を見ながら800字詰めの満寿屋の原稿用に文字を慎重に埋めました。
楽しく書けましたがとても難しいと思いました。

日頃書く文字が少しずつきれいになっていくのが嬉しく、それを望んで堀谷先生にお願いして始まったペン習字教室でしたが、集中力を高めて真剣に字を書く時間を持てることが、そしてそれを先生に添削していただけることがとても恵まれた有り難いことだと思って、あっという間に過ぎてしまう月1回の2時間を過ごしています。

自分にそんな集中力があることが、今まであまり思ったことがありませんでしたが文字を書く時はやはり真剣に書きたいと思っています。

真剣に集中する時は書き、その合間に楽しいおしゃべりをするというように教室は和やかな雰囲気で、それはやはり堀谷先生の持つ雰囲気、お人柄によるところが大きく作用しています。

堀谷先生がその時々の課題も趣向を凝らして考えて下さる完全なボランティアで、“万年筆で美しい文字を書こう”教室は成り立っています。

 

今年堀谷先生が所属される書道会の段位の中で最高位の師範に登りつめられましたので、それをお祝いする祝賀会を開催したいと思います。

1月27日(金)19時当店集合で、会場となるお店に繰り出したいと思います。
ご参加希望される方は1月20日(金)までにご連絡ください。


スタイル

2012-01-13 | 仕事について

自分が好きな国やライフスタイルをイメージして、それを服装のテーマとしている人は多いと思いますし、誰か特定の人を参考にするよりも、服以外にも広がっていったり、自分なりの解釈があったりして楽しめる要素が多いかもしれません。

私の場合服装については店がオープンした時からさ迷ってきましたが、店のあり方、日常生活などからイギリスのカントリーライフをイメージしたいと思い始めました。

その言葉のイメージから、物は少ないけれど、ひとつひとつのものを大切に使っている地味だけど、心安らかな静かな生活が連想されますので、そういったところにも惹かれます。

それ以来イギリスカントリーというのは、服装や持ち物のキーワードとなっています。

最も手軽に持てるホワイトハウスコックス、もっと増やしていきたいトリッカーズなどのイギリス靴、厚手の生地が気に入っているグローバオールのコートなど。

なるべくイギリス製がいいけれど、イギリス製でないものでもイメージに合うようなものを選んで合わせたいと思っています。

愛車ポロは、最近のポップなデザインのミニクーパーよりもイギリスの田舎道を走っていそうだし、ル・ボナーの鞄にもイギリスカントリーを見出しています。

ブルックブラザーズは最もアメリカらしい総合ブランドだけど、イギリスのものも多くあって、多くを取り入れることができると思っています。

こうやって自分の身の回りのもの、身につけるもののイメージを自分なりに統一感を出して遊んでいるようなところがあって、これは本当に自己満足でしかない。

イギリスにはまだ行ったことがなく、もしかしたらイギリスのカントリーライフは幻想なのかもしれないけれど、その言葉には日々の生活を淡々と過ごしていくたくましさ、粘り強さ、流行のものになびかない洗練を感じられます。

万年筆自体そういったイメージに非常に合うような気がしていますが、一番好きなのは、ドイツ製とイタリア製で、それらの中にカントリーライフを見出してやはり合わせています。


カンダミサコ「大きいサイズのペンシース」期間受注のお知らせ

2012-01-13 | 仕事について

独特の可愛らしい形状のペンシースがたくさんの万年筆を使う人から愛されているカンダミサコさん。

ペンシースは、ペリカンM800くらいのサイズまでは入りましたが、それ以上の太さには対応していませんでした。

多くのリクエストがあり、カンダミサコさんが通常サイズよりも大きな、モンブラン149、ペリカンM1000、セーラーキングプロフィットなどが入るサイズを期間限定で受注し、製作することになりました。

大きいサイズは、ベビーバッファロー革で製作します。ベビーバッファローは使い込むと当初のマットな質感から艶を出していきます。キメの細かい丈夫な革です。

受付は当店店頭のみになっていて、色を5色の中から選んでいただけるようになっています。

受注期間は2月12日までで、3月末頃お渡し予定となっております。価格は3,800円です。

ぜひよろしくお願いいたします。


世界観

2012-01-09 | 仕事について

1月4日の年末年始休業最終日に、駒村氏が馴染みの先斗町のお店で、永田さん、森脇さんを交えて新年会をしました。

鴨川のすぐ近くの、夏は川床と呼ばれるところでしたが、もちろん冬なので屋内から鴨川や四条大橋を行き交う人を見ていましたが、川床にも出ることができて、外の空気を吸ったりすることができます。

先斗町も閉店するところが出てきて、代わりに外食チェーンが先斗町の景観を壊さないようにさりげなく入っていたりします。

不景気や後継者の問題など個人のお店は継続していくのがなかなか難しいのだと思います。

でも先斗町の独特な世界を少し感じることができて、とても良い経験をさせてもらったと、駒村氏に感謝しています。

世界と言えば、新年会に先立って訪れた烏丸のサンタマリア・ノヴェラ薬局はとても小さなお店ですが、世界観を訪れるお客様に見せてくれて、とても好きなお店です。

大晦日にも家族で訪れていて、すでにこの薬局の香水を使っている妻が新たに購入したりしていましたので、このお休み中2度目の訪問です。

文字だけの品書きの中から、自分好みのものを探すのはとても難しいですが、自分の好みの香りをお店の方に伝えるといくつかに絞られて、試しに香りを嗅がせてくれます。(鼻がバカになるので5つまでが限界だそうです。鼻をリセットするためにコーヒー豆もありました)

そうやってお店の人と話しながら香水を選ぶのはとても楽しく、妻の香水を選ぶときも、駒村氏の香りを決めた今回もとても楽しかった。

駒村氏にピッタリな男の色気が感じられる、トスカーナ地方でのみで栽培されるシガーの葉をベースにしたトバッコ・トスカーノに決まりました。

松本さんにフィレンツェで連れて行っていただいたサンタマリア修道院のお店は他にはない独特の世界観を持っていて、忘れられないお店のひとつになりました。

それを縮小したような京都のお店。お店の人とやり取りしながら物を選ぶ楽しさ。

こんな楽しさがあって、忘れることのできない世界観を持っている。そんな店になりたいと思いました。

 


2012年ことはじめ

2012-01-02 | 仕事について

新年を迎える日というのは特別な想いを抱く、1年で一番気持ちの強い日だと思っています。

お正月に決意を持って、1年の目標を立てる。

当店は今年5周年を迎えますが、今まで2年とか4年は創業記日を迎えたという、月日が流れたという事実がそこにあって、正直それほど感慨深い想いはありませんでした。

しかし5周年は違う、キリの良い数字ということだけでない、重さを感じています

ひとつの店が5周年を迎えてこれから歴史を重ねていく正念場が今年にあるように思っていて、それを乗り越えるには私自身の覚悟と精進があることは言うまでもありません。

今まで以上のたくさんの本を読んで、たくさんのことを考えて、たくさんのことを皆様に伝えて、ペン先調整の技術を磨いて、商品知識を蓄積しておかなければならないと思っています。

それらのことは昨年も実は思っていたことですが、意思の弱さもあって不十分でしたが、それでもやってこられたのは頼りない私を助けてくれた周りの仲間たちと、この店を利用するということで支援して下さったお客様方のおかげでした。

5周年という正念場を踏まえて、今年1年どのような年になるかではなく、自分の意思によてこういう1年にすると決意したいと思いました。

当店は言うまでもなく万年筆店ですが、提供するのはその物だけでなく、その物の作り手のメッセージやそれを購入された時の思い出なども一緒に手に入れていただきたいと思ってやってきました。

その物を所有することよりも、その物を使うことで受ける心への良い影響など、精神性のようなものも伝えたいと思ってきて、それが当店の特長にもなっていたように思っています。

それはもっとも私らしいやり方で、これからも続けていきたいと思っていますが、昨年始まったWRITING LAB.も違うやり方で少しずつ大きくしていきたいと思っています。

例えば万年筆を使うことの精神性を掘り下げて道を究めるようにしていくPen and message.に対して、WRITING LAB.は物に面白さをみとめ、趣味的な楽しみを追求し、それを人と分かち合うようなオープンな物の楽しみ方。

WRITING LAB.は駒村氏をはじめとする仲間たちとのアイデアの出し合いから生まれるようなところがあります。

両者は物への対峙の仕方がちがっているのです。

pen and message.はもっと深く、WRITING LAB.はもっと広く伝わるようにしていき、強固な地盤の上に置きたいと思っています。

最後になりましたが、新年明けましておもでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。