元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

良いお年をお迎えください。

2008-12-31 | 仕事について
世情は年の始めと終わりとでは全く違っていて、収入や資産の多少に関わらず、生活の不安も抱く年だったのではないかと思います。
今の世界経済の状態に影響を受けておられる方も多いと思いますし、人生が変わってしまった方もおられると思います。
テレビや新聞で、毎日大量解雇のニュースが報じられ、生活に影響がなくても不景気だということが実感できますし、何となく生活が縮こまってしまいます。
しかし、今の経済の状態が誰にも予想できなかったものなら、これからの状態も誰にも予想できないと思いますので、不景気だからといって仕事まで縮こまってしまってはいけないと思いますし、不景気だと言うのはやめようと一緒に仕事をする人たちとは言い合っています。
私個人的な考え方としては、業績が悪くなっても、それは世の中の動きがどうあろうと、自分自身に原因があると考えるべきだと思っています。
業績の悪化の原因を外に見出した途端に改善する努力は成されなくなり、ただ世の中の景気の上がり下がりに浮遊する流されるだけの存在になってしまいます。
今私がするべきこと、お客様から期待されていることをいつもより注意を払って足元を見ながら、謙虚に活動していくだけだと思っています。
人々の経済活動が縮こまっている中、家での時間、一人での時間などの精神生活を充実させるのに万年筆ほど適したものはないと思っていますので、引き続き万年筆を使う人が一人でも増えるように、店とホームページで情報を発信して興味を持っていただけるような活動を来年もしていきたいと思っています。
皆様良いお年をお迎えください。

今年最後の営業日

2008-12-30 | 仕事について
6日間という、店としてはあり得ないほど長い年末年始休暇をいただくため、12月28日が今年最後の営業日になり、オープン直後から本当にたくさんのお客様が来て下さりました。
12月に入ってから、当店のような店にも年末の繁忙期というものがあるということを知りましたが、お待たせしてしまったお客様もいて、ご迷惑をおかけしてしまいました。
1月になると12月中のようなことはありませんので、混んでいると思わずに、ぜひこれからもご来店いただきたいと思います。
今年1年も、本当にたくさんの人たちに助けられて、営業してきました。
商品を供給してくださる取引先様。陰ながら助力して下さっている方々。同じ悩みを抱えながら、前に進もうとしている仲間たち。当店をたくさんの人たちに知らせたいと考えて下さって、それぞれの手段で情報を発信してくださった情報媒体の方々。
独立した店を運営、継続するということは本当にたくさんの人たちの力をお借りして行われていくものだということを知りましたし、力をお借りできる環境にいる当店は本当に幸せだと思いました。
無論、一番感謝しているのは当店を利用してくださっているお客様に対してです。
一般に流通しているものはどのお店でも買うことができますし、当店よりも都合良く買うことができるお店はたくさんありますが、それでも当店で買物をしたいと思ってくださる方がおられることにとても感謝しています。
万年筆を買うということを、物を手に入れるというだけではなく、その物を手に入れた時のことも、そのペンにまつわるストーリーとして持って帰っていただきたいと思って、日々営業していますが、そう考えて下さるお客様が意外と多いということにとても嬉しく思います。
以前、店もされている鞄職人さんが「うちの店がすごいんじゃなく、うちの店に来てくださるお客様がすごいんだよ。」と言っているのを聞きましたが、私も同じ思いを感じています。
その時の少しの便利さにないものを当店でのお買物に感じ取って下さって、利用して下さるお客様方に心から感謝しています。
皆様が利用してくださる限り、当店は私の店ではなく、万年筆を使っている人、使いたいと思っている人のための店で有り続けますので、来年もよろしくお願いいたします。
一人一人のお客様と年末のご挨拶を交わしながら店から送り出しながら、お客様各人との繋がりを実感しました。

趣味の文具箱vol.12発売

2008-12-21 | お店からのお知らせ
私も寄稿させていただいている趣味の文具箱の12号が発売になっています。
今回はイタリアの万年筆メーカーを取り上げた記事が多く、非常に華やかな印象になっています。
私も今年創業20周年を迎えたビスコンティについて書かせていただいています。
今回のビスコンティの記事、私自身が今まで思っていたことを書きましたが、あるイタリア人の友人の協力があって実現したものです。
もちろんエイ出版社の担当の井浦さんの多大な協力もあり、一人では何も形にすることができないことを記事を書くたびに思います。
求めてくれる方がおられるなら、これからも寄稿させていただきたいと思っております。
今回は当店開店から応援してくださっているお客様の佐野達哉様も「ペンを遊べ」というコーナーで登場しています。
ぜひご一読ください。

友の退職

2008-12-18 | 万年筆
7,8年の付き合いになる友人が、万年筆の業界を12月19日で去ることになりました。
イタリア人の彼が現れた時、正直扱いに困りましたが、すぐに慣れて、売場のディスプレイや商品の発注などについてかなり煩く言われた時に口論に近い会話をしたのを今でもよく覚えています。
それから付き合いが長くなるにつれて、理解し合えるようになり、彼の考え方、意見を聞くようになりました。
私たち日本人よりも日本人らしく、繊細な心遣いができる人で、彼から勉強させてもらったことはたくさんありました。
彼は日本の万年筆の業界のことを真剣に心配していて、後継者不足を嘆いていましたし、商品が売れている東京よりも、地方の万年筆専門店へのサポートに力を入れていました。
ほとんどの万年筆ブランドの営業マンが東京の有力文具店にのみ力を入れて、その時の売上げ確保に努めているのに対し、かれの営業活動はその成果が表れるのに時間がかかるかもしれませんが、彼が扱っているブランドの浸透と、業界全体の活性化にとても意義のあるやり方だったと理解していました。
万年筆の知識も豊富で、よく分からないことがあれば彼の携帯電話に電話して教えてもらったりしました。
私が店を開店させたばかりの頃、遠目で見ているメーカーの方々が多かったようですが、彼はプライベートの時間を使って、相談に乗ってくれたり、サポートしてくれたりして、今の当店の活気も彼に依るところが大きいと思っています。
私以上に不器用で、純粋な人間だった彼は上司の人よりも、現場の販売員との交流を大切にしていて、とても慕われていましたので、全国の売場に親しい友人がいて、業界の横のつながりにも貢献してきたように思います。
同い年で、もっと日本の万年筆を良くしていくという想いで、それぞれに信じてきたことを貫いてきた同士が一人、業界を去ることになり、とても寂しい、やり切れない思いを抱いています。

万年筆がほしい 2

2008-12-13 | 仕事について
ほぼ日手帳に書き込むための万年筆として様々なものを検討しました。
私のその万年筆の使い方は、その場ですぐに書き込むのではなく、書き込む内容などをメモ帳などに書き込んでおいて、家に帰ってから、その日1日を振り返りながら書き込んでいくという使い方なので、多くの方がイメージされた手帳用の万年筆とは少し違っていたようでした。
食事も風呂も済ました寝るまでの時間、ダイニングテーブルで(私には自分用の机がありません)勉強している息子と向かい合って手帳を書き込んでいます。
椅子に座った落ち着いた状態で使うことが前提になっていますので、ペンホルダーに入るようなあまり細いボディである必要はなく、持ちやすい大型のボディで、細い線の書けるインク出が程よく抑えられたペン先の万年筆です。
細い線を描く書くことができるのは、海外のものよりも国産のものの方が得意で、例えば海外のものの極細でも国産では中字くらいの太さということもよくあります。
そういったことを考えながら、自分の好みに合うものを選びましたが、カタログを見たり、インターネットで調べたりすることは本当に楽しいものでした。
今年1年仕事をして、もっと1日1日を大切にしたいと考えて選んだ、ほぼ日手帳を書き込むのは趣味と言ってもいいのではないかと思えるほど楽しい作業になっています。
そんな私が手帳をより楽しく書き込むために選んだペンは、パイロットシルバーンです。
スターリングシルバーのボディがくすんで黒く酸化してきたらいい味が出るだろうと思い、つむぎ柄を選びました。
実は私はこのようなペン先と首軸一体型で、しかも大きなペン先の万年筆が好きで、古臭いスタイルも好きでした。
キャップの尻軸への入りの深さはバランスの良さにつながり、ボディに密着したペン先は安定したインク出を約束しますので、その実用性はよく分かっていましたが、脚光が当たらない、地味な存在のペンで、それも心惹かれた理由でした。
パイロットに在庫を問い合わせたところ、「それほど動く商品ではないので、在庫は潤沢にある」という返事に笑ってしまいました。
そんな手続きを踏んで、私の元にやってきたシルバーンの細字を使ってみて感じたのは、ペン先の柔らかさでした。
細字をさらに研ぎ出していますので、紙への抵抗が強くなってしまいます。
しかし、シルバーンのペン先は柔らかくしなってくれますので、その抵抗を感じさせずに、気持ちよく細い字を書かせてくれます。
ボディの大きさもとても持ちやすく、両エンドがかなり絞り込まれていますのでコンパクトな印象がありますが、実際に比べてみますと、モンブラン146と同じくらいの大きさでした。
昨年、私のPen of The Yearということで、デザインが好きでいつか欲しいと思っていたファーバーカステルエボニーの万年筆を独立の記念に選びました。
今年の私のPen of The Yearは、より地に足がついて、自分らしさを取り戻すことができた2008年のしるしになると思ったパイロットシルバーンです。

今年、印象に残ったペン 1

2008-12-12 | 仕事について

今年の当店の販売活動において特に目立ったペンを挙げるとすれば、ビスコンティのヴァンゴッホかもしれません。
M800もオプティマも変わらず売れていましたが、ヴァンゴッホの当店での人気の高さは、当店に万年筆を買いに来てくださるようになった新しいお客様の層を物語っています。
今まで店に来てくださっていたお客様と違う、初めて万年筆を使うという、新しいお客様方との出会いのペンとして、万年筆の業界を活気付ける光明になるかもしれないペンとして、ヴァンゴッホを選びました。
暮らしの手帖で紹介してくださったおかげで、万年筆を使ってみたいと思っておられたその読者の方々が多く店に来てくださいました。
そのような方が来られた時に、どのペンも書き易くしますので、デザインなど見た目が好きなものを選んでくださいと言うと、多くの女性が年齢に関係なくヴァンゴッホを選ばれました。
理由は、色がとてもきれいで、デザインがお洒落に思えたからというのが理由であることが多く、ヴァンゴッホは万年筆に固定観念のない方が選ぶ万年筆だと思いました。
そんな風に初めてあるいは非常に久しぶりに万年筆を使う女性のお客様と接点を作ってくれたという点でも、ヴァンゴッホは今年特別な意味を持ったペンでした。
しかも今年ビスコンティは創立20周年を迎え、日本限定発売されたヴァンゴッホの限定色トラモントも同様に女性たちの支持を得ていますので、その印象はさらに強いものになりました。
ビスコンティヴァンゴッホ、持ってみたくなるペンとして注目されていると思います。
https://www.p-n-m.net/contents/products/category1-1-5.html

年末まで何回か、印象に残ったペンを取り上げたいと思います。


いとこの来神

2008-12-09 | 仕事について
身内の話で恐縮ですが。
日曜日の開店直後、いとこ家族が来店しました。
整形外科医である彼は、大阪での学会の後、家族で六甲アイランドのホテルに泊まっていました。
前日にル・ボナーさんに現れたという情報は、I先生より寄せられていて、てっきりその後こちらに来ると思っていましたので、不思議に思っていたのでした。
今春先、伯母(いとこの母親)の葬儀で顔を合わしていましたが、それ以前は11年以上会っていませんでしたので、ゆっくり話したのは久し振りでした。
お互い交換したままになっていた緑のオプティマを返しました。
いとこも立派な大人になって、~ちゃんと呼びかけるのは少しおかしな感じがしましたが、癖になっていて自然に呼んでしまいます。
お姉さんのお土産のモンテグラッパミクラの赤を選んで、一旦子供たちを遊ばせるために南京町に出掛けていきました。
彼の置いていったル・ボナーのペンケースの中には、自分で東京で買ったオプティマ、彼の合格祝いに私の父が送ったプロフィット、私の母が使っていて、母の死後伯母の元に行き、伯母が亡くなって彼のものになった70年代の149の3本が入っていました。
どのペンも使い込まれていて、彼の素朴な人柄が感じられましたし、磨り減ったイリジュウムには彼の努力が表れていました。
戻ってきて、自分の万年筆を選びましたが、前もってメールで打ち合わせしていた通り、M800デモンストレーターを選びました。
透明のボディと各パーツ名の表示が、清潔な医療機器のようで、医者が使う万年筆としてこれ以上ピッタリのものはないと思えました。
長野でも万年筆は買えるでしょうし、東京や名古屋の都会の方がずっと近いし、行く機会も多いと思いますが、わざわざ神戸の私の店で万年筆を買ってくれたことがとても嬉しく思いましたし、家族を気遣う立派になった彼の姿を誇らしく思いました。

12月の予定

2008-12-05 | 仕事について
今年も本当に早かったですね。
年末になると、お会いするお客様それぞれとそのように言い合うのがお約束になっていますが、そんなお決まりのやり取りをするのがとても好きです。
何事もなく過ぎた平凡な1年だからこそ早く過ぎたのであり、何か日常と違うことが多かった1年は非常に長く感じられるからです。

12月の予定は 19日の第3金曜日は営業延長日となっています。通常19時までの営業ですが、21時まで延長させていただいています。
今年最後の営業延長日なので、忘年会のような感じで(アルコールはありません)、簡単な軽食などもご用意させていただきますので、お気軽に遊びに来てください。
年末は12月28日(日曜日)まで営業し、年始は1月4日(日曜日)から営業します。
12月29日(月曜日)から1月3日(土曜日)まで正月休みとさせていただきます。
ご不便をおかけしますが、よろしくお願いいたします。

万年筆が欲しい

2008-12-03 | 仕事について
私は物欲がそれほど強い方ではなく、欲しいと思ってもすぐに熱が冷めてしまうので、自分のための買物は本くらいになっています。
そんな私が今欲しいと思っているのは手帳を書くための万年筆です。
気が付いたらノートに使うような中字の万年筆ばかりが手元にあって、手帳に細かく書き込むような細字の万年筆を持っていませんでした。
いや、持っていることは持っていますが、ほぼ日手帳につけているル・ボナーさんのブッテーロのカバーと雰囲気、色合いなどが合うものが手元にありません。
用途を見つけて、それに合うものという言い訳のもと、万年筆は増えていくのだと分かっていますが、一番こだわりを持っている部分なので実現しなければいけないと思っています。
手帳に細かい文字を見やすく書き込むのは、デスクの上など比較的環境の整った場所になりますので大型のペンでもいいと思っています。
ほぼ日手帳の紙は平滑でペンの滑りが良く、細字のペンでもそこそこ書き味が良いので、思い切って細い線が書ける極細のものでも差し支えないと思いました。
紙の厚さが非常に薄いので、あまりインクの出るんものでは、裏側から透けてしまいますのでインクの出は少ない方がいい。
そんなふうに条件を絞って、自分が手帳に書き込むペンを万年筆を選ぶのは悩ましいことであり、でもすごく楽しいことだと思っています。
自分の使い方に合った、記録するための万年筆。
どんなものにするのかしばらく考えないと答えは出ないと思いますが、ふと気を抜いた時など、細字で克明にドキュメントできるペンについて考えるのはとても楽しいものです。