元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

民藝展

2023-09-16 | 実生活

 

若い頃に柳宗悦氏の本を何冊も読んで、モノの良さを伝える言葉の力を知りました。

民藝というと今は何か土産物のような陳腐なイメージのある言葉になっているけれど、そのイメージが間違っている。
日本古来からその土地に根付いたモノ作りで、その土地ならではの素材を使った丹念な職人仕事によって生み出されたモノです。

その中でも用の美を持ったものを柳宗悦氏をはじめとする民藝運動の提唱者たちが見出して、後世に伝えようとしたことは日本の工芸において大きな役割を果たしたと言われています。

今モノについて書くことを柱にした仕事のやり方をしているのも、柳宗悦氏の文章を読んだからだ言うと申し訳ないけれど、私もその影響を受けている。

中之島美術館で民藝展をしていると教えてもらったので休日に妻と行ってきました。

こういう仕事をしているのでモノの在り方についてよく考えます。
良いモノというものにはいろんな在り方があって、作家さんが自己表現のために作るアートに近いものもあり、これは作品と言うのかもしれません。

それに対して民藝展で紹介されているものの多くは、無名の職人が農閑期の仕事として時間と手間をかけて作った暮しの道具であり、そこに作家の自己主張は存在しない。あるのは丹念な仕事によって生み出されたしっかりとしたモノです。

柳宗悦たちはそれを用の美と言い、美を意識せずに作られた職人仕事のモノたちに美を見出したのでした。
丹念な仕事によるモノのしっかりとした美しさは、仕事の正確さ、手間を惜しまない仕事の細やかさによって結果的に見えるものなのでしょう。

それはもしかしたらモノ作りに携わる日本人の良心のようなものが生み出すのかもしれません。
作り出すものは違っても、そういう仕事をする職人さんは現代にも確かにいる。

私たちはそういう仕事ができる人たちのモノを見出して、お客様に紹介する責任があるのではないか。
そのためには本物の用の美を見出す目を養っておかないといけないと、気持ちが引き締まる思いで民藝展を観てきました。