元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

CIROスクエアノート発売

2012-03-31 | 仕事について

大和出版印刷の実験的な試みを具体化する神戸派計画から企画第2弾CIROスクエアノート(https://www.p-n-m.net/contents/products/LO0120.html)が発売になりました。

先日発売されたCIROの幅厚みともにダブルになった堂々としたノートです。

CIRO同様、100冊限定製作で、リスシオ1紙に白い罫線を印刷しています。

万年筆の書き味を楽しむことができる、嗜好品とも言えるリスシオ1紙は大和出版印刷からの書き味の良い紙のひとつの回答で、私はこの書き味はひとつの正解だと思っています。

このノートは本当に大切に使いたい。このノートには上質な紙、美しい印刷、丈夫で開きやすい製本など、長く大切に使うだけの価値があると思っています。

 

 

私は万年筆と出会って、自分を幸せにする方法が見つかったけれど、人の生きる価値は自分の周りの人を幸せにしているかということだと思うようになりました。

でも、今は自分が周りの人を幸せにできているとは思えず、身近にいる人にはいつも迷惑ばかりかけている。

自分自身幸せに生きてくることができたのは自分に関わってくれた人に恵まれたからだと分かっていて、その人たちに恩返しする意味でも幸せになってもらいたいと思います。

人を幸せにするというのは、幸せの形は人それぞれで難しい、大きなお世話なことなのかもしれませんが、それができたら自分も本当に幸せだと思います。

でも、そもそも相手を幸せにすると言っても、相手の幸せがどういうものか分からないと幸せにすることができないし、それが自分の裁量でできるものなのかも分からない。

人を幸せにすることは、自分の想像力を駆使して、相手の幸せについて推し量るところから始まるのかもしれません。

でも幸せというのは本当に人によって様々な形があって、私から見て幸せに見えなくても、幸せな人はいるだろうし、その逆もまたあります。

またその度合いについても、点数がつけられないものなので、誰が一番幸せか議論するのはナンセンスで、自分を幸せだと思った人が幸せなのだと思う。

こういう思考は、同じところをグルグル回ってどこにも落ち着かない類のことなのでしょう。

そして私は人を幸せにしたいと言いながら、さらに自分が幸せになろうとしているのかもしれない。


快感のひとつ

2012-03-30 | 仕事について

万年筆を使っていて、書き味についてこれは気持ち良いと思うポイントがいくつかあります。

そのひとつがペン先の背中にインクがムニュっとでてくる瞬間です。

紙にペンポイントを置いた時ペン先が開き、紙から離れた時ペン先が閉じる動きによって、切り割周辺からインクが少しだけ顔を出す、ほんの少しだけ湧いてくる。

ボタ落ちするほどではなく、本当に少しだけ出てくる。

この瞬間が快感だと言うと、変に思われるのかもしれない。

私の快感に賛同が得られなくても、そのムニュっとインクが出てくる瞬間を見たことのある人はおられるだろうと思います。

私が使っている万年筆全てがそうなるわけではなく、パイロットシルバーン、ペリカンM800、パイロットスーパーなど限られた万年筆にしか起こりません。

ペン先の硬軟の加減、寄りの状態、インクなど様々な要素があるのかもしれないけれど、この「ムニュ」は何かひとつの書き味の良さを持った万年筆の証のように感じられます。


狂言師の言葉

2012-03-29 | 仕事について

大和座狂言事務所(http://homepage3.nifty.com/yamatoza/)の千里中央A&Hホールでの公演に行ってきました。

大和座狂言事務所の会報に毎回寄稿されている安東先生の文章からは現在の能楽狂言界の保守的、保身的な体質に対する怒り、現在の日本の国への憂いが伝わってきて、それを変えたいという安東先生の強いエネルギーをいつも感じていました。

私も安東先生のような、勢いのある、想いが伝わる強い文章を書きたいと実は思っていますので、安東先生の生き方とともに目標としています。

安東先生の舞台での姿を見ていると、客席の様子に気を配っているように見えて、実は全く客席のことを気にしていないのではないかと思います。

一昨年の講演で舞台に立たせていただいたことがありますが、A&Hホールの舞台は客席が非常によく見えます。

私はお客様の反応にビクビクしていたので客席の顔ばかり見ていましたが、安東先生は自分の芸に集中していて、それ以外気にいしていないように見えます。

力強く落ち着いているから何も気にならない。

そんな姿勢を安東先生の舞台から感じることがあります。

 

国語を無くした国は必ず滅びると安東先生はよく言われます。

その言葉をずっと考えていました。

国際競争力を高めるために英語も大切なのかもしれませんが、もっと大切なことは安東先生が高いフェンスに守られた中央の能狂言界を飛び出して活動している理由にあるのかもしれないと思いました。

安東先生が市井で狂言の公演をしているのは、一人でも多くの人に狂言を見てもらって、日本人としての誇りを思い出してもらいたいという想いからで、それは今の日本に最も欠けているものなのかもしれないと、私は勝手に思っています。

安東先生は私たちの日常生活においてあまり思い出すことのない日本の伝統芸能の狂言師であるにも関わらず、そして先日77歳の誕生日を迎えられた人であるにも関わらず、そのメッセージは今の世の中を見据えていて決して古くない。

私は安東先生の言葉が気になって仕方ありません。


店の活気

2012-03-27 | 仕事について

WRITING LAB.のブログ「旅の扉」http://writinglab.jp/更新しました。

電車で当店に来られる方はおそらくご存知だと思いますが、JR元町駅西口改札北側に階段があって、その途中に面した不思議なところにカフェ、オムライス屋さんがありました。

私も何度か訪れたことがありましたが、いつ行ってもお客様が少なくて入りやすかった。

おそらく6,7年くらいされていたと思いますが、先日そのお店がなくなっていることに気付きました。

どんな事情によるものか分かりませんが、個人経営のお店が閉店してしまったところを見るのは非常に辛い。

やはりそこ自分の店を重ね合わせるからなのだと思います。

仕入れや経費などを抑えて、収益率を上げても売り上げが悪かったらどうしようもなく、お店はお客様が来店され、物を買ってくださらないと続いていけないのだと改めて思います。

仕入れと言えば、ここ数ヶ月インクなど定番的なもの以外で仕入れたいと思うものがなくて、言わばネタ切れの状態でした。

そういう時は当然売上も悪くなります。

でも今月になって、ル・ボナーさんもカンダさんも永田さんも活発に動き出して、仕入れるものがたくさん出てきました。当店のオリジナル万年筆もそのひとつですが。

仕入れが多いとお金がたくさん出て行って悲しい想いもするけれど、その後の店の賑わいが必ず来る。

当たり前のサイクルですが、そんなことを実感した数が月です。


締め切り

2012-03-27 | 仕事について

誰かに決められたことではなく、全部自分で決めたことですが、私にはつねにいくつかの締め切りがあります。

ひとつ締め切りに間に合わせると、それは次の締め切りのスタートであったり、同時進行であったりして、必ず終わることがないようになっています。

そもそも仕事というのはそんなものなのかもしれない。

いや、本当に好きでしていることだから、これを仕事と言うと世間様の顰蹙を買うかもしれない。

締め切りをあまり気に病むとしんどくて、長く続けられないと思いますので、例えば締め切りの前日に何も書けなかったとしてもそういう時、冷蔵庫にある有り合わせでご飯を作るように、何とか間に合わせる。

「またこのおかず」と言われても気にしない主婦のような感覚かもしれません。

毎週金曜日には「ペン語り」( http://www.p-n-m.net/contents/narration.html)をアップしてもらうために水曜日にはペン語りを完成しておく。

毎月ご来店いただいたり、インターネット販売をご利用いただきいたお客様にお渡ししている「雑記から」の記事は24日には完成させないといけない。

WRITING LAB.のブログ「旅の扉」(http://writinglab.jp/)は2週間に1回回ってきて、絵を描いてもらうためになるべく早く仕上げないといけない。

このブログも1週間以上何も書かずに空けたくない。

載せて下さることがとても有り難い趣味の文具箱も3ヶ月に1回程度の間隔なので、前もって考えておけばいいのに、目の前に課題として積まれないと動き出せない。

当然これが日々の締め切りと絡んだりする。

いつも何かの締め切りがあるわけで、通勤のバスの中や、歩きながら何を書いたらいいか考えます。

WRITING LAB.のサマーオイルメモノート(https://www.p-n-m.net/contents/products/OG0060.html)などは、そんな自分の締め切り生活に最も合った紙製品なのだと思っています。

毎号の「雑記から」に寄稿して下さっている香道師の森脇直樹さんはこの原稿を書くにために和服を着て原稿用紙に向かって書くという。

それぞれスタイルがあるとはいえ、あまりにも違っていて面白いやら、自分のこだわりのなさが恥ずかしいやら。

でもこういう書くということは本当に好きでやっていることで、だからこそ続けていられるのだと思っています。


工房楔イベント

2012-03-24 | 仕事について

本日(3月24日)のみの、工房楔イベントを開催します。

目玉は、黒檀、リグナムバイタ、ハワイアンコア、ブライヤー、黒柿など素晴らしい杢が揃っています。

本日楔のボールペンをお買い上げの方に、オマス社のイージーフローボールペン芯をプレゼントしています。


3月24日 工房楔イベント開催します

2012-03-23 | 仕事について

3月24日(土)工房楔の永田篤史さんが当店に滞在して、新作マンハッタンボールペン紹介のイベントを開催します。

イベントのためにマンハッタンボールペンを様々な素材で制作して準備していますので、皆様楽しんでいただけるものになっております。

当日工房楔のボールペンをお買い上げの方に、オマス社のイージーフローボールペン芯をプレゼントさせていただきますので、ぜひこの機会に工房楔のボールペンをお求めいただきますよう、お願い申し上げます。


「Cigar」の評価

2012-03-20 | 仕事について

ついに完成しました当店オリジナル万年筆「Cigar」の箱を開けてその姿を見た時のインパクトは強力なものでした。

「イイやん」と言葉がもれるこの万年筆の最大の特長は、スターリングシルバーに金張りのキャップの輝きと黒いボディのコントラストで、男っぽい時代遅れの万年筆を作りたいという想いが形になっています。

キャップの素材にこだわり、厚みを十分にとったため、ボディよりもキャップの方が重い万年筆になりました。

私はこの万年筆は、キャップをつけて後ろの方を持って40度くらいの低い角度で書くことになると思っていましたが、多くの方がキャップを外して、もう少し立てた角度50度くらいで書かれる方が一般的だと思うようになりました。

バランス的に使われる方に無理を強いるところがある「Cigar」ですが、その姿にはかなりの存在感があります。

金キャップの輝きもさることながら、金属に押されたオマスの刻印や地金がスターリングシルバーであることを表すマークなどの鮮明さもこの万年筆を楽しむ要素になっています。

意外(?)と繊細な仕上げをしてくれているオマスのペン先のタッチもこの万年筆の実用性において特筆すべきところです。

Fは国産メーカーと変わらないくらい細く、繊細な書き味。Mはかなり太くなり、豪快な滑らかな書き味を楽しめる。Bは細めでMより少しだけ太い感じ。

どこまでもクラシックなオリジナル万年筆「Cigar」、男っぽい万年筆を標榜していますが、女性の方からの受けも実は良いようです。
女性の方も遠慮なくご注文いただきたいと 思っています。https://www.p-n-m.net/contents/products/OG0062.html


万年筆には人の生き方を変える力がある

2012-03-16 | 仕事について

10数年前に万年筆に出会って書くことが楽しくなりました。

文を書くことはもともと好きでしたが、万年筆に出会う前にこの持っていたはずの書きたいという欲求をどうしていたのか覚えていません。

手帳をきれいに書くことはほとんど趣味でしたが、それがさらにきれいに書けることが万年筆を使い出して一番嬉しかったことでした。

書くことが楽しくなると、いろんなことが書きたくなるし、何か書こうとすると自分なりにいろんなことを考えようとする。

万年筆を使うとちょっとした伝言も丁寧に書こうとして、相手への優しい気持ちを持てるようになる。

万年筆を使い出して、すごく短期間で自分にそういった変化が訪れ、私以外にも同じように変わる人ができれば嬉しいと思いました。

万年筆を仕事にしたいと思ったのは、そういった良い方向に人生が変わる人を一人でも増やしたいと思ったからで、5年前にこの店を始めることになった根底にある想いでした。

そういった想いを持って始めた店が5年目を迎え、それを記念にもしたいと思った万年筆が出来上がりました。

ボディには創業の想い「万年筆は人の生き方を変える力がある」をイタリア語で、シリアルナンバーとともに刻印しています。

大袈裟だと言われることもあるけれど、本気で万年筆は生き方を変えてくれると思っている男の想いがこもった万年筆です。

 

オリジナル万年筆「Cigar」https://www.p-n-m.net/contents/products/category2-2.html


カステラ

2012-03-12 | 仕事について

子供の頃、たまに父がお土産で何か買って帰ってくるととても嬉しかった。

私たちが子供の頃のスイーツと今のそれとはかなり違っていて、ケーキなんてクリスマスなどの超大型イベントの時だけで、そうそう食べることはありませんでした。

それにケーキは生クリームではなく、バタークリームだったのでそれほど美味しいとも私は思えなかった。

特に嬉しかったのはヒロタのシュークリームと文明堂のカステラでした。

ヒロタのシュークリームはチョコとカスタードがあって(今はもっとたくさんの種類があるけれど)、一人各味1つずつ家族で分けて食べる。

カステラは4人で分ける1人6.5cmしかない。

これを全部1人で食べてみたいと子供の頃思った人は、私以外にも必ずいたと思います。

そういえば小枝チョコも1人で全部食べたかった。兄妹で分けるにはあれは少なすぎる。

人生というか、これは何と言っていいのか分からないけれど、子供の頃や若い頃に願っていたこと、叶わなかったことをモノに限らず人は何歳になってもいつか手に入れようとするようにできているような気がします。

だから大人が仮面ライダーの変身ベルトを買ったり、ブリキのおもちゃに惹かれたりする。

そう言えば私たちの世代はスーパーカーブームがあって、多くの子供たちが車に憧れを抱いた。

私たちの世代で財を成した人が車にお金をつぎ込む可能性は非常に高いのではないかと思います。

子供の頃に見て憧れた万年筆を大人になって手に入れるという人も少なからずいるのかもしれない。