元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

母校とのつながり “聞香会開催いたします(本日15時~17時)”

2013-03-30 | 仕事について

私は成績も良くなかったし、就職でも実績を残すことができなかったので、あまり良い生徒ではなく、母校である神戸学院大学に顔向けできないといつも思っています。

でも地元ということもあるのか母校との繋がりがなかなかあって、お客様で母校の在校生の方が来てくださることもよくあります。

本日聞香会を開催してくださる森脇直樹さんも母校の在校生で、大学入学前に万年筆を買いたいと思って当店を訪ねて下さったのが出会いでした。

神戸元町の有名書店 トンカ書店店主のTさんも母校の出身だということを先日ご来店いただいた時に確かめ合った。

私が在籍していた時はなかったけれど、人文学部で中国文学の教授をされている大原良通先生がお仲間と書かれた紅茶の本「茶味」はそういう繋がりもあって、当店でも扱っていて、好評です。

何事にも冷めていて、無気力だった大学時代の自分を思い出して嫌な気分になるので、大学生活のことはあまり思い出したくないけれど、そういうふうに母校と繋がりを持てることは何かまた縁ができたようで、とても嬉しい。

でも森脇さんのようなしっかりした大学生ではなく、冷めた感じの大学生に出会うと、当時の自分を見るようでとても嫌な気分になって腹が立つ。

そういう学生には、悪いことは言わないから万年筆を今すぐ使うようにと、指導したくなるのです。


自然の中の存在

2013-03-26 | 仕事について

自分の意思で今まで道を選択したり、行動してきたような気でいましたが、もしかしたらあらかじめ遺伝子の情報がインプットされていて、そのように行動するように予定されているのではないか、人間も自然の摂理の中のひとつの歯車のような存在なのではないかと思うことがあります。

ある程度の年齢になったら恋愛し、結婚などしてということもそうなのかもしれないけれど、もっと齢をとってからの方が生きるため、死ぬための本能が働いているような気がしています。

齢をとるごとに、自然の大きな流れに沿っていくような感覚。

40代になると人生を折り返したような気分になって、自分の人生の仕舞い方について考えるようになると以前から思っていて、考え方、想いの至る方向が変わってくる。

私だけでなく、同世代の人は同じように思う人が多く、これは個性ではなく、人間がその齢になるとそのように考えるようにできているものなのかと思うようになりました。

そう思うことが他にもあって、40歳前後から自分の生き方について立ち止まって考え、人生の転機を迎える人もいるようです。

今までスポットライトが当たる大きな舞台で生きてきて、それは自分らしくないと思っていても、そこから降りることがとても恐ろしく感じる。

世間から離れてしまうような感じが不安で、世間の評価から離脱することで自分の存在価値が失われるような気がする。

でもある日突然その恐怖に打ち勝って降りてしまう人が多いのは、長く生きるための本能なのかもしれないと思いました。

もっと自分らしい生き方をするためにスポットライトを振り切るように身を翻すと、意外と自然に過ごすことができて、今まで何を恐れていたのだろうと思うくらい新しい生き方が板について、自然に流れていく。

もちろんどう生きるかは人によって違うかもしれないけれど、自分について考えると本能に近いものに思える。

自分らしく生きたいと悩み、もがいてもなるようになるということなのかと最近よく思うけれど、自分で考えて、決断したつもりで自然の摂理の中で生きたいと思いました。


父の役割

2013-03-24 | 仕事について

行く大学が決まった息子がお客様のI田さんの紹介で学習塾で講師のアルバイトをさせていただくことになりました。

授業を受け持たせてもらう前に入念な研修があって、今三宮まで研修によく出掛けていきます。

私と同じ時間に家を出て、一緒に通勤することもあります。

スーツにネクタイの息子と並んで、歩きながら、バス、電車のつり革を握りながら塾での話を聞いたり、お客様からお聞きした話をしたりしています。

私から話すことはいわゆる精神論のような話になることが多いけれど、大人の男になろうとしている今の息子にはそういう話も共通の話題として聞いてもらえるようで、興味深そうに聞いてくれます。

今までの息子の日常生活において私が役に立てることがほとんどなくて、親は愚かなほど子は育つと思っていたけれど、私の僅かながらの社会での経験から話すことができることも、これからはあるかもしれないと思うことが多くなりました。

仕事柄家に帰る時間も遅く、休みも少なく一緒にいる時間も少なかったことも言い訳のひとつだけど、息子をここまで育ててきたのは妻だとはっきり言えてしまう。

今更教育熱心な父親になってどんどん口出ししようなどとは、毛頭も思っていないけれど、息子にとって何かヒントになる一言がある時は伝えていきたいと思います。

でも、親馬鹿かもしれないけれど、自分の人生をより良くしたいという想いと、やりたいことがはっきりとしている息子は、何も見つからず、楽して生きていたいと思っていた大学生の時の私とは全く違う生き方をしている。

彼の目標、目的を把握して、その役に立つ情報やヒントがある時、タイミング良くそれらを提供するのが、大人になろうとしている息子を持つ父親の出番なのかと考えています。


店での仕事

2013-03-17 | 仕事について

働き出した時からお店という場所で仕事をしてきましたので、他の仕事の仕方を知りません。

もう長くそうしているので、店で仕事をするという摂理のようなことが分ってきました。

若い時はそれが分らず、長い間心の中にいろいろな葛藤を抱えて生きてきた。

お店で働いている人は皆私の同じような葛藤を抱えていきていると思います。

趣味を持ちたいと思ったことがありました。

仕事以外に何か技量を身につけて、違う世界に対する知識が増えたらそれも仕事の役にたつのではないか。

それにもし私に老後があったとしたら、その楽しみにもなると思ったからです。

でも考えてみると、店で仕事をするということ自体が仕事であり、趣味であるところが私にはある。

当然店にいない時間も店の仕事に関することを考えているので、趣味の入り込む余地は私にはないことが一通り考えて分りました。

でも店をしていることを趣味と実益を兼ねることができて羨ましいと言われると、そんな気楽なものではないとカチンときたりするけれど。

多分趣味というには軽すぎて、店をするという生き方という表現の方が私の心情的には合っているのかもしれません。

お店で仕事をする人は、自分の仕事を趣味的に捉える、好きだからしていると考えられる人の方が向いていて、良い結果を出すことが多いとように思っています。

自分の扱っている商品や仕事の内容が好きだということが、何よりの武器になるのが店で働いている人なのです。

そんなふうなので店で仕事をするのは、オンオフをはっきりと切り替えるという考え方ではなく、オンの中にオフがあって、オフの時も常にオンできるような考え方がいるのだと思います。

そういう人が店で長く働くことができる人で、そんなことにも気付かず今までもがき苦しんできたようなところがあります。

 


手に入れるために差し出す

2013-03-15 | 仕事について

学生の頃好きだったブルースの伝説で有名な話。

歴史に名を残した戦前のブルースマン ロバート・ジョンソンは地元クラークスデイルの四辻で悪魔に魂と引き換えにギターの腕を手に入れたという。

それまで下手くそで音楽仲間から相手にされなかったロバート・ジョンソンでしたが、どこかに姿をくらまして戻ってきたら驚くほど上手くなっていた。

ロバート・ジョンソンはブルースのスタンダードとも言える名曲29曲をレコーディングして間もなく、人妻に手を出したとかで毒殺されています。

ブルースの世界にはこんな話は結構あって、アイスピックで脳天を刺されたソニーボーイ・ウイリアムズという人もいて、きっとソニーボーイも悪魔に魂を売ってハープの腕を手に入れたのだと思いました。

とても不思議な話で、フィクションだと思う人もいると思います。

でも私はこの話を信じています。

実際に悪魔が現れるかは別として、何かと引き換えにそれで生きたいと思っているものの能力を手に入れることというのはあって、差し出したものに応じたものを手に入れるようなところがある。

多くを手に入れようとすれば多くを失う。半分させ出せば、半分手に入る。

今の自分は差し出したものの分の見返りを受け取っているのだと思うことがあります。


ささやかな美学

2013-03-12 | 仕事について

WRITING LAB.のブログ「旅の扉」更新しています。http://writinglab.jp/

スマートでありたいと思っています。なかなか上手くいかないけれど。

それは粋とまで肩肘張ったものでなはく、ガツガツせず、でも後ろ向きではない。

サラッとしていて、野暮ったくない。泥臭いのは好きではなくて、それは冷たいと捉えられかねないけれど、心の中では優しい気持ちで溢れているのです。自分で言うのも可笑しいけれど。

きっと心の中は前を向いていて、抑制を利かせることのできる理性を併せ持った状態がスマートなのだと勝手に思い込んでいるけれど。

私がスマートでありたいと思うのと同じように、店ももちろんそんな存在でありたいと思っていて、野暮ったかったり、泥臭いことはなるべく避けたいと思ってきました。

その店がどんなふうにありたいと思っているかを見るのに、私たちの業界の場合だとオリジナルインクが大いに参考になるのではないだろうか。

オリジナルインクの色の選択、名前の付け方、ラベルのデザイン、発売するペースやタイミングなど、それらからその店のことを推し量ることができるのではないかと思っています。

先日WRITING LAB.の2013年版のインクが完成しました。

ビンテージデニム。簡潔で伝わりやすいネーミングで、ラベルのデザインも少しレトロでそのイメージをよく表している。

そして何よりも濃い藍色で濃淡が出るこのインクは、デニムのムラ感のある藍色をよく表している。

WRITING LAB.もビンテージデニムという名前のインクも私はスマートに出来ていると思っています。


合格祝い

2013-03-10 | 仕事について

息子の合格祝いにル・ボナーデブペンケースと工房楔のブラックウッドシャープペンシルを贈りました。

ペンケースはたくさんの小物が入り、シャープペンシルは何かきれいな文字が書けると喜んでくれました。

大学生になって、良い素材のものを大切に使うということを知ってもらいたいという想いから二点を選びました。

私が考える良い素材のものとは、使っていくうちに艶が出たり、色が変化したり、使うたびに喜びをもたらしてくれるもの。それは外に向いた虚栄心とは違う、すごく個人的なものだけど、手触りや質感、色合いが自然で五感に訴える良さがあるもの。

均一でイレギュラーのないものを求めるのなら、自然の素材ではなく、人工的に作られたものを選んだ方がいいし、丈夫でどんなふうに扱ってもいい、メンテナンスフリーのものが欲しければ、コーティングなど人工的な加工のされた、買う時が一番美しいものを選べばいいということになります。

良い素材とは、手間がかかるし、面倒も見てあげないといけないデリケートさがあるし、均一でない個体差があります。

いわゆる全て100点の完璧なものを自然の素材に求めるのは、道理に反していることも息子に知ってもらいたいと思いました。

でも作り手も自然の素材を使っているからという言い訳で、破綻やほころびを「味」という言葉で逃げてはいけないとも思っています。

使い手は広い心と良識を示し、作り手は誠実に完璧なものをお客様に提供しようとする。

それぞれがわきまえることが、こういう職人ものにとって、とても大切なことだと思うようになりました。

感覚的には以前から分っていたけれど、伝える言葉として持っていなかった。


息子には、ものの道理。これを理解した大人になってもらいたいと思っています。


工房楔新作発表会開催 4月6日(土)

2013-03-10 | 仕事について

工房楔の春の新作発表会を開催します。

当店との共同企画の万年筆、WRITING LAB.との共同企画の机上用品、楔単独の新しい企画のものなど、様々なものが出来上がる予定です。

1日だけのイベントで、何か物足りない気もしますが、ぜひご来店いただけたらと思います。

 

 


趣味の文具箱vol.25発売

2013-03-09 | 仕事について

日本唯一の万年筆専門誌「趣味の文具箱」最新刊が本日発売になりました。当店もたくさん仕入れていますので、ぜひお買い求めください。

今回も後ろのほうの白黒2ページに原稿を書かせていただいています。今回のテーマは「狂言師の洒脱な万年筆」。尊敬する狂言師安東伸元先生との出会いや安東先生の万年筆について書いています。

趣味の文具箱にコーナーを持たせていただいて、6年近くになりますが、店のPRにもなっていて本当に有り難く思っています。

この場を借りて、下手な原稿にお付き合い下さっている読者の皆様、私の採用を決めて、今もコーナーを下さっている編集長の清水さん、私の原稿をより見栄えの良いものに修正してくれて、コーナー存続に尽力してくださっている担当編集者の井浦さんに心より感謝いたします。

当初万年筆メーカーそれぞれの特長などを、モノを見ながらその哲学を中心に書かせていただくコーナーを5年ほど続けました。

しかし、お客様とのやり取りや、お客様と万年筆についてのことを書かせていただいている今の形体の方が私には合っていると思っています。

それに万年筆店を営んでいる、最前線に立つ人間にしか書けないことが今やっていることだと思えますので、今の自分のコーナーは今まで以上に皆様に読んでいただきたいと願っています。

子供の頃から、上手ではなく作文で賞をもらったことなどなかったけれど、書くことが好きでそれを仕事にできたらと、漠然と思っていましたので、専門誌への寄稿をさせていただいたり、ブログやホームページに文章を書いて、皆様に読んでいただける今の立場は、とても恵まれていて、幸せなことだと実感しています。

まさに子供の頃イメージした生活に近いのではないか。

趣味の文具箱やホームページには当然締め切りがあり、常に何かの締め切りを抱えているわけですが、10年以上そのように生活してきましたので、文章の締め切りはあまり負担に思えなくなっています。

逆にいつも締め切りがある方が、張り合いがあるくらいの気持ちでいるのです。

何も書くことが浮かばないという強迫観念よりも、頭の中にあることを全て書いて、空っぽにすることが快感になっている。

空っぽになるからこそ、次がまた生まれるのだと思っているし、締め切り前日までも何も浮かばなくても、何も恐れない。

きっと明日にはこれを書きたいと思えるものが頭の中に生まれるからと思える図太さが身についてしまいました。

文章を書く。それは今の私の仕事にとって、とても重要なもので、最も楽しいと思えるものになっています。


DNA医学の最先端~自分の細胞で病気を治す~(大野典也著 講談社現代新書)

2013-03-04 | 仕事について

ル・ボナーさんや当店のお客様である大野先生の本ということで、U原さんに勧められて読み始めました。

母が末期癌だと分かった時に藁にもすがる想いで、癌が消えることもあると言われていたワクチンを求めて夜行バスで東京に行ったことを思い出しました。

自分たちが特別に不幸だと思っていましたが、東京の医大を訪れると多くの人が日本中から来ていて、癌に冒された家族のためにワクチンを求めていました。

母の発病が今だったら、もしかしたら助かっていたのでは?と、この本の読み終えて思いました。

母を癌で亡くしたにも関わらず、今まで興味を持ったことのない分野でしたが、まえがきを読み始めた途端に面白く読むことができました。

考えてみると私たちは自分にとって最も身近なもの、自分の体の中で何が行われているのか、何も知らないことに気付きました。

医学の進歩は、まだまだ未知の領域がある人間の体の中で起こっている活動を解き明かしています。

昨日救えなかった命を今日は救うことができるように、日々多くの研究者が努力している。

その一端を知ることができて、ロマンさえも感じることができました。

非常に難しい先進の免疫治療の話を私たち一般人でも分かるように説明されていて、大野先生が研究されている免疫療法がいかに体への負担が少なく、効果が期待できる治療方法であることが分かりました。

文中に大野先生の人生観のようなものも差し込まれていて、一人の研究者の生き様を垣間見ることができました。