カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

英国の近代の歴史を見る   世界史をつくった海賊

2015-07-13 | 読書

世界史をつくった海賊/竹田いさみ著(ちくま新書)

 英国にバイキングがいたらしいことは知識としては知ってはいた。しかしながらこの海賊というのはあくまでならず者であって、国家に対しては悪党なのではないかと思っていた。究極のアウトロー。法の支配下には置かれない、自由で、しかし凶悪な男たち(別に女が居てもいいのかもしれないが)。海の上が恐らく昔は無法地帯で、だからこそ彼らのような存在が、過去には存在しえたのではなかろうか。
 ところが、である。これが大変に間違った認識であるということを、わからせてくれる本なのだ。16,17世紀の英国の海賊というのは、きわめて国家的な戦略として機能した。そうして当時二流国家で貧しかった英国を、大英帝国としてのし上げる土台となった貴重な存在であったということを、細かく検証しながら証明している。女王が裏で糸を引いて操る、国家的に最重要な機関であったことが分かるのである。当時の最大の大国であるスペインを苦しめ、そうして覇権を奪っていく。実に狡猾で、さらに卑怯で、しかししたたかな国家的な犯罪者集団が、バイキングの真の姿だったのだ。
 何しろ海賊だから何も生産するわけではない。スペインの立派な船を襲って(おそらく人間は皆殺しして)財宝などを奪うだけでなく、船自体を奪う訳で、のちの英国海軍の船は、実はスペインのものが大半だったのだ。そうして海軍の力をため、さらに海軍の指揮を執るのも実は海賊だった。何しろ海上の知識は豊富だし、奇襲を含めた戦いはこなれている。また商船などを襲う際の情報網というものを持っており、これは女王側近が国家予算としてスパイに多額の資金を投じており、いわば国家の機密情報を海賊が握っており、それにもとづいて戦略的にスペイン船を襲っていたのだ。もちろんスペインは再三にわたって英国に苦情をいう訳だが、女王は海賊が勝手にやったものだとしらばっくれて、堂々と裏で糸を引き、資金を投じ、さらに有力海賊にはナイトの称号を与えて優遇した。もうほとんどむちゃくちゃだが、当時の国家勢力からしてスペインをはじめ列強に囲まれた貧しい国家の英国としては、そのような狡猾さで生き延びる道を選択したということのようだ。また、大陸のカトリック教やイスラム教などに対して、当時の女王がプロテスタントであったという背景もあるようだ。お隣のスコットランド王妃がカトリック教徒だったので、国家動乱の罪をかぶせて殺したりしている。死ぬか生きるかのサバイバルを、海賊という無法者を動員して乗り切ろうという政治手法をとっていたということなのだ。
 もちろんこの海賊の活躍が功を奏して、海運貿易や植民地支配などを進めていく。後塵を拝しているために、システムとしては不十分なところが多すぎるため、やはり単純に奪うようなことばかりをしていたようであるが、結局はそれが上手くいったりする幸運もあったのではなかろうか。後にアフリカの黒人奴隷売買など、国家的な悪事の限りを尽くして、着実に国家は国際社会でのし上がっていくのであった。結局はこの英国のような国が、近代国家の礎になっていくわけで、このような限りない悪事を自ら働いたことで、現代の後進の国を支配する仕組みを作ることにもつながるわけである。そうしてどういう訳か偶然に英国において産業革命が始まったかのようなシナリオで国際的な覇権を握ったようなことにしてしまった。本当の土台になったのは、海賊国家だったのにもかかわらずである。もちろん産業革命に意味がなかったわけではないが、本当に英国の勃興のもとは、他国から奪い自らの利益にしていくという考え方なのではあるまいか。
 ということで、なかなか面白い歴史本である。海賊の視点に絞るあまり、省略されているところはあるそうだけれど、歴史を考える切り口としては、大変に有益な見方なのではないだろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする