カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

古くて新しい当事者視点   白ゆき姫殺人事件

2015-07-08 | 映画

白ゆき姫殺人事件/中村義洋監督

 美人OL殺人事件が起こり、その同僚のOLが失踪。それをネタにテレビのワイドショーが、失踪したOLを犯人と匂わせた内容を放送する。その取材を通して失踪の実際の状況が徐々に明かされていくが、事件は意外な展開を見せていく、という物語。主にツイッターと通じた現代社会の人とのつながりと共に、実際の報道とつながっていくチープな臨場感と謎解きが絡まったミステリー作品に仕上がっている。あっけらかんとした乾いた感覚がありながら、大ネタをつかんだテレビ局制作会社の派遣労働者のサクセスストーリーのような様相から、事実の核心に迫るにつれ、だんだんとその現実とのずれが生じることによって、物語が二転三転するような展開になっていく。ついでのように起こっていた事件なんかも微妙に絡んだり、また過去のエピソードなども絡んで、それなりの重層的な物語になっていく。そのこと自体が、OLが殺された事実の中に明かされていく面白さが最大の魅力である。
 一つの出来事であっても、そのことに関わる様々な当事者の立場から、まったく違った風景が見えるという視点の転換が面白いわけだ。古くは羅生門からあるトリックなのだが、最初に見えていた事実も踏襲しながら、実は違っていたピースがいくつもちりばめられており、その一つ一つがそれなりに整合性があって、謎が解けていく快感がある。実は初期的に大きくだまされていたに過ぎないということは言えるにせよ、最終的には被害者そのものに、かなり批判的な感情を持ってしまった。それで殺されるなんて確かに行き過ぎではあるにせよ、まあ、仕方なかったんじゃなかろうか。
 いろいろ悪人は出てくるが、登場人物がそんな印象を持つような人々ばかりではなく、演技ではあろうけれど暗い人だったり、実はそれほどでもなかったりというようなこともあって、それは恐らく原作との整合性と、実際に使われているキャストの問題だろうけれど、観ている方が脳内変換を行って納得するより無いようなところはあったように思う。それでもお話は面白いので、感情は揺さぶられながら、これではもっと人が死んでもおかしくないな、などと考えてしまったりした。会社組織というのは実に恐ろしいものだと、ひとごとのように思うのだった。うちでは殺人事件なんか起こらないで欲しいものだ。
 しかしながらこのような背景があるからこそワイドショーを楽しめる人々もいるわけで、僕はふだんは観ないのだけれど、こういうことなら実際に楽しいな、と思ったりした。それはたぶん警察がそんなに表に出ない所為もあろうし、実際の話、ワイドショーなどで露出が多い人が、のちの捜査でちゃんと犯人として捕まるようなことがこれまでにもあったような記憶もある。茶の間の人がタイムリーに楽しめるということが、あるように思う。それはよく考えてみると恐ろしいことを含んでいる訳だが、娯楽を消費する側としてはそれでいいということなんだろう。さらにやはりこの背景までは、一般の人には絶対にわかりえない世界だからこそ、この映画のようなお話が成立するのだ。目の付け所が良かったということで成功した映画ではなかろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする