カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

ブラックな笑いは心の糧になる   あなたに似た人

2013-09-19 | 読書
あなたに似た人/ロアルド・ダール著(ハヤカワ文庫)

 この本を最初に知ったのはずいぶん前の話だったと思う。それほど有名だった訳だ。短編集なのでいろんな話があるのだが、非常にブラックな味付けが特徴である。残酷だったりエロチズムだったり、悪趣味だったり。騙したり陥れたりいじめたりもする。そういう訳で大人の寓話、ということになるのだろう。それぞれ非常によく出来た話ばかりだし、語り口も非常に上手い。トリックも素晴らしいアイディアだ。
 最初に知ったのは確か吉行淳之介だったろうと思う(記憶違いかもしれない。あるいは丸谷才一か)。対談か何かだろう。感心した話があると紹介しているが、相手ももちろん知っている。たぶんそれが「南から来た男」だったんじゃないかと思う。そういう背景もあってか読んでみると、なるほど類似の話はいくらか知っているようだ。映画などにもパロディめいたお話はたくさんあるようだ。ゲラゲラ笑う話ではないが、これを笑わずに居られるか。そうして本当にぞっとする恐怖も覚える。作りものの話だが、人間の本質を実に見事についている。
 「味」も素晴らしかった。ワイン好きにはたまらない一遍だろう。しかし同時に本当に不快だ。「告別」のようなギャク的なお話も実に上手い。復讐の仕方もいろいろあるもんだ。
 このような笑いを楽しむというのは、やはり人間に生まれた故のことだろう。子供の頃にブランコに乗って居るのも楽しい思い出だが、いつまでも楽しいという訳にはいかない。一方で大人になって、いろいろと腹黒い事などに対して不愉快な経験を積んだ末に味わう楽しさというものもある。もちろん若い人が読んでも面白いだろうけれど、これは自分の中に狂気のある人間の方が、より楽しめるお話なのではないか。そういうと僕がずいぶんワルのような格好の付け方だが、そういうワルになり損ねた人間であっても、それなりの年月に経験したことがあるということだ。「あなたに似た人」とは他ならぬそういう自分自身の事を指していることは容易に理解できるだろう。もちろん、実はぜんぜん似ていない人だっているに違いないが、そういう人でもその意味を知るには読んでおいて何の損も無い。むしろ、いや、似ていると、ニヤニヤ出来る人間になりたいものである。
コメント
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