アルゴ/ベン・アフレック監督
率直な感想。ものすごく面白かった。こんなに面白い映画も久しぶりに観たという感じ。はっきり言ってかなり傑作である。実話を基にした映画というのは、たいていフィクションが鼻につくわけだが、この映画の緊張感は、おそらくこれは真実に違いないという確信によるものである。これだけ映画的な出来事が実話としてある方がおかしな話で、しかし、それは坦々と命を懸けてやり通されたに違いないのである。まったく凄い話だよ。
日本だって近隣の国から嫌われているわけだが、アメリカという国が激しく憎悪の的であるのは、それなりに長い歴史がある。強い国だから平気そうに見えるだけのことで、実際には多くの犠牲の上にそのように見せかけているだけのことである。そして現在に至っても、その変わらぬ憎悪を繰り返し受け続けている。日本とかなり違うことは、原因として米国の悪さがあるが、しかしその憎悪に対して真っ向から憎悪を反射していることだろう。そのまま力でねじ伏せてしまうまで反省もしないことだろう。それで良いわけではないが、嫌われ慣れている国は違うものである。嫌っている相手の方が悪いとしか思っていないわけだし。
まあ、そういうことを言いたい映画ではない。しかしながら、日本だと、たぶん上手くは行かなかっただろうな、とは思うわけだ。もちろん、こんな仕掛けを考え付いても、絶対に実行を許すような組織の上司がいるはずがないのだ。ちゃんと理解できる頭があって、そのうえ一緒になって戦おうとするのだ。かなりの綱渡りでありながら、そのような信頼社会であるということが、何よりうらやましい話なのかもしれない。
いろいろ考えさせられるいい映画なのだが、純粋な娯楽としても一流である。ドキドキした緊張感が途切れることもなく、さらにドキュメンタリーのような再現も見事である。作中使われている音楽のセンスもいい。そうして深い感動もじっくり味わえる。あんまり知らなかっただけの話かもしれないが、これだけの拾い物作品というのはそうそうあるものではない。何かを抜いてもぜひ観るべきといえるだろう。