“お気に入りの歌”

2021-02-06 | 【断想】音楽

 The Last Great Concert Vol.1-My Favourite Songs(1988.4.28 enja)
  Chet Baker:チェット・ベイカー(tp,vo)
 Herb Geller:ハーブ・ゲラー(as)
 Wallter Norris:ウォルター・ノリス(p)
 NDR Big Band & Radio Symphony Hannover
  1988年、チェット・ベイカーが死を迎えた年に録音されたライブ・アルバム。
 死の2週間前の ラスト・コンサートである。
 enjiからのもので、ビッグ・バンド、オケをバックにしている。
 同じレーベルからの「ザ・レガシーvol.1~5」(1978)と似ている。
 さて、お気に入りの歌とは。
 1.オール・ブルース
 2.マイ・ファニー・ヴァレンタイン
 3.ウェル・ユー・ニードント
 4.サマー・タイム
 5.イン・ユア・オウン・スウィート・アウェイ
 6.ジャンゴ
 7.アイ・フォールイン・ラブ・トゥー・イージリー
 ここのところ、チェット・ベイカーをよく聞いている。
 ビック・バンドを従えての演奏、チェット・ベイカーの静かな魅力のためには、あまりいいとは思えないが。
 小川隆夫著「ジャズメン死亡診断書」(2017 シンコー・ミュージック・エンタテイメント)には、チェット・ベイカーの死因について、「麻薬のバッド・トリップによる事故死」と書いてある。2階の窓からの「転落死」と言われても、それだけでは、自殺かなと思ってしまう。だから、小川氏の書き方、いいなと思った。
 自殺の場合とは、心の中が、まるっきり違うのだから。


この世のなごり:レガシー

2021-02-06 | 【断想】音楽

 チェット・ベイカーは、休業状態にあったが、1970年代半ばに、ジャズ・シーンにカムバック。
 ジェリー・マリガンやジム・ホールと演奏の機会を持ち、その後、ヨーロッパへ。
  1978年、ドイツのレーベルENJA:enja(European New Jazz)で録音したのが、「The Legacy vol.1~5」として、売られている。
 vol.4は、先日聞いた「クレイジー・ムーン」。
 今夜は、vol.1の「レガシー」を聞こう。ライブ録音である。
 「レガシー」は、遺産とか名残と言う意味だ。
 なごり雪と言う場合の「なごり」と解すれば、詩情も。
 演奏は、以下の4人とNDRビッグ・バンド。
 チェット・ベイカー(tp)
 ウォルター・ノリス(p)
 ハーブ・ゲラー(b)
 アレックス・リール(ds)
 1.HERE'S THAT RAINY DAY:港町に雨が降る雰囲気。洒落ている。
 2.HOW DEEP IS THE OCEAN
 3.MISTER B
 4.IN YOUR OWN SWEET WAY
 5.ALL OF YOU
 6.DOLPHIN DANCE
 7.LOOK FOR THE SILVER LINING
 8.DJANGO
 9.ALL BLUES
 このアルバムには、ウエスト・コーストの明るい光と風がある。
 チェット・ベイカーは、この時、50歳くらいだが、まだまだ若い感覚を失っていない。
 気持ちよく聞ける。
 持って生まれたものだな。
 チェット・ベイカーは、終生、優しい詩心を持っていた。
 質はちょっと違うが、アルバート・アイラーにも、それを感じる。
 エレクトリックな共同演奏になることはなかった。
 ジャズ本来のスタイルからはずれることはなかった。
 あくまで、「個」であるのだ。
 人の魅力なのだ。
 このアルバムでは、ビック・バンドとやっているが、メインは、チェット・ベイカーのトランペットなのだ。
 トランペット協奏曲だ。
 チェット・ベイカーは、麻薬にとりつかれていたが、リリシズムを失うことはなかった。


九月の歌:SEPTEMBER SONG

2021-02-06 | 【断想】音楽

 チェット・ベイカーが歌い、トランペットを奏でる「セプテンバー・ソング」を聞いた。
 1983年、パリのニューモーニング・クラブで演奏され、Marshmallow Recordsからリリースされたアルバム「セプテンバー・ソング:SEPTEMBER SONG」(CD)で。
 ピアノはデューク・ジョーダン、ベースはジェスパー・ランドガードのドラムレス・トリオでの演奏。
 チェット・ベイカー54歳、死の5年前である。
 「セプテンバー・ソング」は、もともとは、ブロードウェイのミュージカル「ニッカポッカ・ホリディ」の中で歌われたもの。
 ミュージカルで役を演じたウォルター・ヒューストンが歌っている。
 作曲は、「三文オペラ」で有名なクルト・ヴァイル、作詞は、マックスウェル・アンダーソンである。
 「ニッカポッカ・ホリディ」は、1938年から1939年に上演され、1040年に、映画化もされれいる。
 「セプテンバー・ソング」が、ひろく知られるようになったのは、1950年10月に公開されたアメリカ映画「旅愁:September Affair」のテーマ・ソングとして使われてからとなる。
  「旅愁」は、ウィリアム・ディターレ監督、ジョン・フォンティス、ジョゼフ・コットンの二人が主役を演じる恋愛映画。旅客機に乗り合わせたピアニストの女性と妻子ある男性の恋である。不倫ものと言っていいのだろう。
 この映画の中で歌われた「セプテンバー・ソング」は、後に、ビング・クロスビーやフランク・シナトラ他に歌われ、人気を博した。
 この歌の詞、春から秋、冬への季節のめぐりと人生の歩みが重ね合わされて感じられる。
 この世の黄昏時の哀感、将来に希望がもてる若いときから、生きてある日が残り少なくなってきた老年の心境が歌われているように感じられる。
 クールでハンサムともてはやされたチェット・ベイカーが、ドラッグのせいが強いのだろうが、痩せて、深い皺がきざまれた顔で歌う「セプテンバー・ソング」は、ひとしおである。
 歌っている詞は、もとのものの全てではない。ある意味、余計な部分カットされている。
 以下、チェット・ベイカーが歌っている部分の英文と和訳。
 和訳は、私の思いを入れたもの。

 Oh, it's a long,long while from May to December
  But the days grow short
 When you reach September
  When the autumn weather turns the leanes to flame
 One hasn't bot time for the waiting game
 Oh, the days dwindle down to a precious few
 September,
 November
 And these few precious days
 I'll spend with you
 These precious days
 I'll spend with you

 五月から十二月への日々はたっぷりとある
 でも 九月ともなると残された日々は少なくなる
 秋には木々の葉は色づき枯れる
 わたしも枯れる
 「明日があるさ ゆっくりやればいいさ」
 なんて言えなくなってしまう
 残された日々はわずかに
 枯葉の九月
 そして 枯れ果てた十一月に
 かけがえのない日々
 君と過ごそうよ
 このかけがえのない日々を
 君と過ごそうよ