いぶろぐ

3割打者の凡打率は7割。そんなブログ。

麻中の蓬

2010-06-09 23:15:48 | 新・いぶたろう日記
感じ悪いオヤジ、こまったちゃんなオバチャン、
こういった者に囲まれていると、世の中すっかりイヤになる。
しかし、僕の職業は幸いにも、そればかりでなくて済む。
イヤ~なオトナ、残念な成人、失格社会人、
こういった者にダメージを受けた後こそ、
子どもたちに救われることが多い。
その明るさ、無邪気さ、純粋さ、ひたむきさに。

ただ、誤解しないで欲しいのは、
大人はダメ、子どもはイイ、という単純な二元論ではないと言うことだ。
一人前の大人と満足にコミュニケーションがとれない者が、
自分の支配できる弱者との関係に依存するなんて言うのは論外だ。
無論、そんなつもりで言っているのではない。
僕は大人の友人も数多くいるし、
相手が子どもであるからこそ、手が抜けない、
本気でやらなきゃいけないという難しさはよく解っているつもりだ。

また、「子どもは天使」ではない。
無知で未熟であるが故に、いくらでも残酷にもなり得る。
彼らの心は全くの白紙で、そこに何が映るかは周囲次第。
すべて大人の、社会の鏡なのだ。
自我というものはその上に芽生える。
それまでの数年間、周囲の大人たちのありようはこの上なく重要だ。
彼らにとっての「当たり前」をつくる期間だからだ。
挨拶をする。お礼を言う。きちんと謝る。
人間としての基本の部分は言うに及ばず、
善いことと悪いことの基準もそうだ。

ここで、こんな声が聴かれるかもしれない。

「善悪の基準なんて、誰にも決められない。だから教えるものじゃなくて、自分で考えるものだ。
親の価値観を押しつけるのじゃなくて、自主性を重んじるべきだ。」

それは、間違っている。
何が? 手順が。
物事には順番というものがある。
これは喩えて言うなら、
読み書きも計算も教えずに、世の中に出ろと言うようなものだ。
幼児に三輪車でも自転車でもバイクでもクルマでも、好きに乗れと言うようなものだ。
「自分で考える」ことはもとより重要だが、
その前に基本となる材料は必ず与えられていなければならない。
何だってそうだ。
料理で何をつくろうが自由だが、
砂糖は甘い、塩はしょっぱい、これは火を通すもの、これは皮を剥くもの…など、
すべて基本を知ってこそ、応用や発展の余地が生まれる。

最近、非常識な人間が増えた。
「常識は定義ができない曖昧なものだ、自分が従う道理はない」
なんて言い訳をする恥知らずも多い。
しかし、常識を知っていて、あえてそれにとらわれない新たな価値観を創り出すのと、
常識を知らずに、屁理屈をこねるのとは違うのだ。
まずは、世間一般で通用しているものを知ることだ。
その上で、自分がそれを受け容れるか、束縛を嫌って踏み出すかは、
充分にそのリスクも自覚の上で、自分で判断すればいい。
我々が子どもと呼ぶ存在は、その前の段階にいる生き物なのだ。

数々の失敗、妥協、成功、挫折、それらに鍛えられた、或いは歪められた、
大人の理屈、大人の視点をそのまま当てはめてはいけない。
当たり前だと言う前に、なぜ当たり前とされるのかも説明しなければいけない。
説明の余地もなく、禁止あるいは強制しなければいけないものだってあるかもしれない。
そのことが生むメリットもデメリットも、自分の人生で引き受けなければいけないが、
子ども本人がそのことの重みもまだわからない年齢ならば、
親が責任を持ってやらなければいけない。
そこに向き合わないのは、自立を促す教育とは言わない。
放任というのだ。無責任というのだ。

思えば、子どもに向き合うというのは大変な仕事だ。
いいかげんな返事、曖昧な知識、恣意的な判断、一方的な押しつけ、暴力、
いずれもタブーだ。
なるべく公正に、フェアに、大人のその場の都合でねじ曲げず、ごまかさず、
子どもにこそ誠実に向き合わなければならない。
大人の身勝手さを感じればこそ、子どもは大人に従わなくなるのだろう。
いま、子どもの身の回りに尊敬しうる大人がどれほどいるだろうか?
核家族化が進み、祖父母と父母が疎遠になり、
不倫と離婚が世の中にあふれ、
学校は権威も秩序も失い、
教員はいち地方公務員、あるいは企業の一員に落ちぶれ、
政治家は2世ばかりでメンツと利権にのみこだわり、
テレビをつければ見目麗しいおバカさんばかり…といった状況では、
何を尊敬し、信頼し、目標にして良いのかわからない。
毎年伝えられる成人式の惨状は、ダメな大人を見倣った、
素直な子どもたちであるかもしれないのだ。

麻中の蓬。

僕がかつて、大きな麻の中で自分らしく生きることを学んだように、
僕はこの広い世の中でわずかに知り合えた教え子たちの、麻でありたい。


…いや、大麻じゃなくって(笑)。
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