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2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】未来の選択肢二つ、優れた文章作法の指南書、人間が変化させた生態系

2016年07月24日 | ●佐藤優

 ①堤未果『政府はもう嘘をつけない』(角川新書 800円)
 ②成清弘和『理系のための論理が伝わる文章術 実例で学ぶ読解・作成の手順』(講談社ブルーバックス 800円)
 ③フレッド・ピアス(藤井留実・訳)『外来種は本当に悪者か? 新しい野生 THE NEW WILD』(草思社 1,800円)

 (1)①の結論部で、堤氏はわれわれの将来について二つの選択肢があると強調する。
 <人間を安価な労働力としてしか見ず、限界までコストを下げることで手にした巨額なカネで政治を買い、民主主義を根底から破壊してゆく手法。
 違法でない限り何をしてもいいと開き直り、納税という企業義務を果たさずに公共サービスを使いながら、出した利益をタックスヘイブンにせっせと貯めこみ私腹を肥やす、〈不道徳〉な超富裕層たち。そして〈今だけカネだけ自分だけ〉の対極にある、人間の暮らしや文化や伝統、顔が見えるものづくりや、数字で測れない価値を持つ教育、困った時に助け合う共同体が象徴する〈お互いさま〉の価値観。
 目に見えないこの2つの渦の、どちらを選択するのかは、私たちの手に委ねられている>
 後者の選択肢の方向にどう政治と社会を動かしていくかが焦眉の課題だ。

 (2)②は、タイトルに「理系のための」とうたっているが、文系の人にも役立つ。優れた文章作成技法の指南書だ。
 <演繹的な方法はどちらかといえば数学的な思考などに用いられることが多いようです。1つの定理をもとに新たな公式を導くようなことです。ですから、主に法則・理論の作成、検討などに用います。
 一方、帰納的な方法は、厳密さを重んじる論理学ではあまり評価されません。具体から抽象へ進める時に必ず飛躍をともなうからです。しかし、論理的思考(科学の実証的思考)の多くはこの方法に依ります。現実世界のことがらとの関わりを扱わねばならないからです>
 このように著者は指摘するが、効能的論理の文章訓練が本書の特長だ。

 (3)<人間が気候変動、環境汚染、集約農業、プランテーションなどで自然を痛めつければつけるほど、外来種や新しい生態系が重要になってくる。問題視されてきた外来種の存在は、問題の解決策へと立場が入れかわりつつある。手つかずとされる環境を保つのに細部まで管理が必要なのであれば、それはもうテーマパークと変わらない。ほんとうの自然はもっと別のところ、すなわち放置された荒廃地や新しい生態系にあるはずだ。人間に甘やかされていない自然が、ニュー・ワイルドなのである>
 以上のような③における主張には、賛否両論があるだろう。しかし、真面目に検討しなければならない。なぜなら、人間が変化させた自然も、生態系の与件となるからだ。この現実から目をそらしている空想的環境保護論では、一番うまくいってもテーマパークしか生まれないことが、もはや明確になっている。

□佐藤優「優れた文章作法の指南書 ~知を磨く読書 第159回~」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月30日号)
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【保健】高血圧にはモーツァルト ~安静に寝ているより効果的~

2016年07月23日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)音楽は昔から私たちの心身を癒してきた。近年は、手術前後の痛みを大幅に緩和することが明らかとなり、手術室に音楽が響きわたる病院もある。

 (2)先日、ドイツ医師会誌に「循環器領域では、どんなジャンルの音楽が効くか?」という研究報告が掲載された。
 研究者は、心血管系疾患の既往がない120人(男性60人、女性60人)の参加者を、次の二つに分けた。
  (a)音楽を聴く(音楽群)
  (b)静けさのなかで横たわる(安静群)
 (a)はさらに、次のそれぞれを聴く3群に分け、各群とも25分間音楽に耳を傾けた。
   ア)モーツァルト
   イ)ヨハン・シュトラウス2世(美しき青きドナウ)
   ウ)北欧のポップグループABBA
 なお、全参加者は、(a)、(b)を味わう前後で次の数値を測定している。
   ①血圧
   ②心拍数
   ③ストレス・ホルモンのコルチゾールの血中濃度

 (3)結果は、
  (a)音楽を聴く(音楽群)・・・・音楽を聴いた後の上の①血圧、②心拍数が
   ア)モーツァルト→①平均4.7mmhg低下、②有意に低下
   イ)ヨハン・シュトラウス2世→①平均3.7mmhg低下、②有意に低下
   ウ)ABBA→①平均1.7mmhg低下、②効果が認められなかった
  (b)安静群→①平均2.1mmhg低下、②有意に低下

 (4)とはいえ、③ストレスホルモンの血中濃度は、(b)よりも(a)全体において著しい低下が認められている。また、この効果は女性よりも男性で顕著だった。

 (5)研究者は、「ABBAの音楽の何が違ったか?」を考察。ネガティブな歌詞の影響を指摘している。歌詞のない「インストゥルメンタル」に歌詞が加わると、脳の活動領域が変化して、歌詞のない場合とは異なる感覚や感情が湧き起こり、心身が反応するというのだ。
 また、循環器領域の疾患リスクを抑制する音楽の条件は、
   ①周期的なリズム
   ②印象的なメロディライン
   ③歌詞がないこと
   ④ボリュームやリズムの大きな変化が少ない
などを挙げている。
 日本の雅楽はこの条件に当てはまりそうだ。おまけに睡眠導入効果も期待できそうだし。

□井出ゆきえ(医学ライター)「高血圧にはモーツァルトを/安静に寝ているより効果的 ~カラダご医見番・ライフスタイル編 No.309(「週刊ダイヤモンド」2016年7月23日号)
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【野口悠起雄】危機に直面するのは英国よりEU ~英国のEU離脱~

2016年07月22日 | ●野口悠紀雄
 (1)英国のEU離脱は、欧州にも影響を及ぼしている。EU離脱のドミノ効果を引き起こす可能性が高い。オランダ、チェコ、フランスでもEU離脱を支持する世論が高まっている。
  (a)オランダで2月に行われた世論調査では、残留が離脱を1%しか上回らなかった。
  (b)チェコで2015年10月に行われた世論調査では、EU離脱の支持率は62%だった。
  (c)フランスでは、2017年の大統領候補として、反EUと移民排斥を掲げる国民戦線党首マリーヌ・ルペンの支持率が最も高く、フランソワ・オーランド大統領の支持は低迷が続いている。最近自死された世論調査では、48%が国民投票(EU残留・離脱を問う)を望んだ。

 (2)EU離脱を求める理由は、国により人によってさまざまだ。
  (a)移民拒否。オランダ、チェコ。
  (b)欧州委員会という巨大官僚機構に対する嫌悪。同委が加盟国に課す経済政策に対する不満が高まっている。余計な規則が経済活力を削いでいるという批判だ。EU官僚は、契約職員や加盟国からの出向職員などを加えると3万人を超す(ちなみに、ローマ帝国の中央官僚はわずか300人程度だった)。
  (c)金融取引税のように金融活動を阻害する政策をEUが導入することへの反対。
  (d)ドイツの「独り勝ち」に対する反感。特にフランスにおいて根強い。【注】
 
 (3)一方、EUを離脱しないのは南欧諸国だ。EUの強い規制によって経済活動を制限されているのに。
 典型例、「ベイルイン」制度。金融機関の再生・破綻処理に際して、公的資金ではなく、銀行の債権保有者が救済資金を負担する制度。2015年12月末に全加盟国で導入が終了し、2016年1月1日に発動された。
 これがまず問題となったのはイタリア。4つの地方銀行が救済資金を受けることになっていたが、その前にベイルイン制度で株主や劣後債の保有者が損失を被ることになった。
 イタリアでは、劣後債を購入する年金生活者が多いため、多くの年金生活者が犠牲となった。預金のすべてを失った年金生活者の首つり自殺が報道され、問題となった。
 2016年からは、株主や劣後債の保有者に限らず、10万ユーロ以上の預金を持つ一般の預金者も対象となった。それが実施されると大問題なので、イタリア政府はこの制度の適用を何とか回避したい。それならばEUを離脱してしまえばよさそうなものだが、イタリアは離脱しないのだ。
 なぜか? それはイタリア経済の現状がヨーロッパ中央銀行(ECB)の政策によって支えられているからだ。
 マリオ・ドラギECB総裁は、「ユーロを守るためには何でもやる」べく、無制限の国債買い入れプログラム(OMT)を導入した。現在のイタリアの金利が抑えられているのはECBが買い支えているからだ。
 もしイタリアがユーロを離脱すれば、この支えがなくなり、たちまち国債の金利が暴騰する。そしてリラは暴落し、イタリア経済が崩壊してしまう。

 (4)ギリシャも似た事情だ。厳しい財政再建条件を課されても離脱しない。なぜならEUやユーロが支えているからだ。
 ところで、南欧諸国の支援のための負担は、主としてドイツが負っている。貿易赤字国に対するファイナンスは、「ターゲット2」と呼ばれる決済システムを通じて移動的に行われる。
 結局、EUやユーロは、イタリア、ギリシャなど支援を求める国と、ドイツなど支援を支える国に分離してしまっているのだ。

 (5)ベイルインに見られるような厳しい政策をEUが打ち出すのは、これまで破綻銀行の処理のために想い負担を余儀なくされてきたドイツの意向があるからだろう。また、ドイツはOMTに対していまだに批判的だ。そして、金融取引税は、投機を嫌うドイツ人の考えから正当化される。  
 これらの政策の背後には、「モノ作りこそ健全な経済活動であり、金融は虚業だ」という考え、そして「財政規律が最優先だ」という考えがある。
 ドイツの不満は、OMTに対して、欧州司法裁判所がすでに合法との判断を下していたにもかかわらず、ドイツ国内で憲法裁判が行われていたことに表れている(6月21日にドイツ憲法裁判所は懸念を示しながらもEU司法裁の判断に従う決定を下した)。
 さらに、ECBのマイナス金利政策に対して、ドイツ国民、金融機関、経済界の不満は高まっている。
 こうして、南欧諸国が支援され続け、それを支えるドイツが厳しい要求を出すという悪循環に陥っている。
 支える側も支えられる側も、EUやユーロのシステムをどこまで維持することができるか?

 【注】例、エマニュエル・トッド『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』(文春新書、2015)

□野口悠紀雄「危機に直面するのはイギリスではなくてEU ~「超」整理日記No.816~」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月23日号)
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 【参考】
【野口悠起雄】世界経済の不確実性は長期 ~英国のEU離脱~
【野口悠起雄】日米で経済情勢や政策に著しい違い ~アベノミクスの本質(3)~
【野口悠起雄】期待への働きかけは効果なし ~アベノミクスの本質(2)~
【野口悠起雄】為替と株の投機ゲーム ~アベノミクスの本質(1)~
【野口悠起雄】誰が負担するのか? ~マイナス金利のコスト~
【野口悠起雄】物価下落は実質賃金を上昇させる ~経済成長~
【経済】外国人投資家は株式から国債へ ~世界金融市場混乱(2)~
【経済】新年からの世界金融市場混乱の原因 ~「リスクオフ」~
【経済】軽減税率が突きつける諸問題(2) ~現存特例措置の見直し~
【経済】軽減税率が突きつける諸問題(1) ~現存特例措置~
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【経済】円安で貧乏になりゆく日本 ~スタグフレーション~
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【野口悠起雄】世界経済の不確実性は長期 ~英国のEU離脱~

2016年07月21日 | ●野口悠紀雄
 (1)円高の原因となった英国EU離脱【注1】による世界経済の不確実性は、長期にわたって続く可能性がある。なぜなら、
  (a)英国は他国と新しい通商協定を結ぶ必要があるからだ。①EUとの協定、②EU以外の国との協定。以上の交渉にはかなりの時間を要する(一説によれば2020年まで)。よって、世界経済はかなりの長期にわたって大きな不確実性に直面することになる。
  (b)金融分野においても、新しい取り決めを作る必要がある。特に「パスポート協定」について。これはEU加盟国で免許を有している金融機関は、新たな免許を必要とせずに加盟地域で金融商品やサービスを提供できる協定だ。日本の金融機関はEU加盟国で新たに免許を取らなければならなくなる。
  (c)同様の問題が、さまざまの分野で発生する。こうした問題がどうなるか、何もわからないから、世界経済は大きな不確実性に直面している。
  (d)他の諸国もEUから離脱するかもしれない。スウェーデン、ベルギー、デンマークなど。フランス、イタリアでも国民投票を提起する声が上がっている。
  (e)6月24日の株価の動向は、大陸諸国の株価下落幅は英国のそれを上回った(<例>フランスは8.0%)。これは英国の負担において他国が利益を得るような要素がEUの仕組みに含まれており、そのため英国離脱による問題が、英国においてより大陸諸国において大きいことを意味する。

 (2)世界経済のリスク増大によって円高がさらに進めば、企業の利益も外国人旅行客も2012年頃に戻ってしまう可能性が高い。これに対して、政府・日銀はいかなる政策をとり得るか?
  (a)為替介入・・・・為替レートは自由に操作できる変数ではない。2004年頃の大規模介入を行うことは不可能ではないが、為替操作について米国が牽制球を投げていることを考慮すると難しい。それに、実質実効為替レートで見ると、最近の指数は78.8だが、これは2001年から04年頃の指数が111程度だったのと比べてかなりの円安だ(指数が小さいほど円安)。この水準で介入を行うことに国際的な理解を得ることは難しい。
  (b)マクロ経済・・・・安倍晋三内閣は既にこの方針を表明している。しかし、
   ①財政拡大はGDPを拡大する効果と同時に、為替レートを円高にする効果もある(要注意)。政府の目的が円安誘導であることを考えると、財政拡大はむしろ逆の効果をもたらす。
   ②公共事業の増加によって利益を受けるのは建設業だ。これに対して円高で利益が減少するのは製造業であり、観光業だ。これらの分野には財政拡大は助けにならない。
   ③公共事業の増加は、建設労働者の受給を逼迫させる。
   ④財源の問題もある。これまで企業利益の増大によって法人税収入が伸びていたが、円高に伴う法人税収の低迷によって、2015年度の国の税収は、2016年1月時点の予測56.4兆円から減少して56.3兆円となる見通しだ。
  (c)金融政策・・・・しかし、国債購入額を拡大することは難しい。民間の金融機関は国債を購入して保有額を増やすことに慎重な態度を取っている。マイナス金利幅を拡大することも考えられるが、金融機関からの反発もあり、難しいだろう。

 (3)マクロ経済政策は手詰まりに陥っている。問題は構造改革を進めず、円安に容易に依存した企業利益拡大に満足してしまったことだ。日本経済にとって最も必要とされたのは、円安に依存しないで利益を上げられるような産業構造を作りあげていくことだった。
 リーマンショックのときも、日本経済は大きな影響を受けた。それは米国経済の落ち込みよりも大きかった。日本経済が為替レートに強く依存する構造になっていたからだ。このときから8年近くたっているが、事態は全く改善されていない。日本経済は、金融緩和と円安に目をくらまされて、貴重な時間を浪費してしまった。【注2】 

 【注1】
【アベノミクス】よ、さらば ~数字が示す日本経済の悪化~
【古賀茂明】有権者の騙し方 ~英国のEU離脱派政治家、日本の自民党政治家~
【後藤謙次】日本が直面する「ABCリスク」 ~英EU離脱で顕在化~
【EU離脱】嘘の「公約」で多数派を勝ち取った政治家たち
【英国】EU離脱がもたらす世界危機 ~困る米国、喜ぶロシア~

 【注2】記事「(教えて!政策チェック:1)アベノミクス 野口悠紀雄さん」(朝日新聞デジタル 2016年7月13日)は、野口悠紀雄のアベノミクス批判を要約している。
 <(前略)アベノミクスを進めた3年余りで、株価と企業の営業利益、税収は大きく伸びました。一方で、物価上昇による影響をのぞく実質GDP(国内総生産)や企業の売上高はほとんど伸びていません。実質賃金指数や実質家計最終消費支出など、賃金や消費の実態を示す経済指標の伸びはマイナスです。
 結局、株を持つ人たちは利益を得たが、日本の経済の実態はほとんど変わっていない。これがアベノミクスの本質です。安倍首相は「アベノミクスを加速させる」と言っていますが、実態に大きな変化がないので、時間が経っても賃上げや設備投資などへは波及しません。
 今後、大規模な経済対策を実施しても、(公共事業を中心とした)財政支出の拡大で恩恵を受けるのは建設業ぐらいです。(すそ野が広い)製造業や観光業に効果は乏しいでしょう。
 そもそも、「デフレから脱却する」「物価上昇率を2%にする」という目標が間違っています。物価上昇や、それによって増える名目GDPではなく、1人あたりの実質GDPを引き上げること、国民1人1人が豊かになることを目指すべきです。
 そのためには経済構造を変えなければなりません。日本経済は1990年代の中ごろがピークで、その後、どんどん貧しくなっています。1人当たりの実質GDPは米国との差が広がり、中国との差が縮まりつつあります。
 重要なのは新技術を導入するための規制緩和です。(中略)
 日本銀行はマイナス金利政策で、設備投資を活性化させようとしていますが、機能していません。円安が進んで利益が増え、もうけをため込む内部留保が膨らんでも、企業は設備投資をそれほど増やしていません。新しいビジネスモデルを見つけられず、お金を使いようがないのです。
 これ以上マイナス幅を大きくしたら、収益率が低いムダな設備投資を正当化することにしかならず、生産性を低下させます。企業が利益を活用できないというのなら、法人税率を下げるのではなく、逆に引き上げ、増えた分の税収を貧しい人に再分配することを考えるべきです。(後略)>

□野口悠紀雄「イギリスのEU離脱で不確実性が長期に続く ~「超」整理日記No.815~」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月16日号)
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 【参考】
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【経済】外国人投資家は株式から国債へ ~世界金融市場混乱(2)~
【経済】新年からの世界金融市場混乱の原因 ~「リスクオフ」~
【経済】軽減税率が突きつける諸問題(2) ~現存特例措置の見直し~
【経済】軽減税率が突きつける諸問題(1) ~現存特例措置~
【経済】企業の利益増加で賃金が減る ~理由と対策~
【経済】政策にみる安倍政権の思慮不足 ~「新しい3本の矢」~
【年金機構】の情報漏洩から学ぶこと(2) ~3つの疑問~
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【ピケティ】の格差理論は日本でも当てはまるか ~GDP統計~
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【経済】円安で小企業や家計は赤字 ~トリクルダウンはなぜ生じない?~
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【野口悠紀雄】仮想通貨が財政ファイナンスを阻止 ~経済政策と金融政策~
【野口悠紀雄】ビットコインが持つ経済価値はどの程度か?

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【後藤謙次】参院選大勝も激戦12県で大敗 ~劣る「勝利の質」~

2016年07月20日 | 社会
 (1)2016年7月10日の参院選の結果、与党の議席は146議席(自民121、公明25)となり、3分の2(162議席)が視野に入ってきた。
 ところが、自民党選対の責任者は、反省の弁を口にする。その背景には、「勝負の分かれ目」といわれた32ある「1人区」の結果がある。全体では自民党の21勝11敗。しかし、「勝利の質」に目をこらすと、自民党が抱える根深い問題が浮かび上がる。
 1人区の中で特に激戦といわれた12県では、自民党候補が勝ったのは愛媛の1県だけに終わった。残る青森、岩手、宮城、山形、福島、新潟、山梨、長野、三重、大分、沖縄の各県では全て野党系候補が競り勝った。このうち、福島では岩城光英・法務大臣、沖縄では島尻安伊子・沖縄北方担当大臣の現職閣僚が落選している。
  (a)自民候補が東北で勝ったのは秋田だけ。伝統的に自民党の支持母体と位置づけられてきたJAの政治団体、農協政治連盟は福島を除いて自民候補の推薦を見送った。TPPに対する不満が底流にあるとされる。
  (b)福島では農業問題に加えて、東電福島第一原発事故による住民避難が続く。
 沖縄では、米軍普天間飛行場の移設問題など在日米軍基地をめぐる、政府と沖縄県の間の抜き難い相互不信が選挙の結果にそのまま反映された。

 (2)(1)の(a)も(b)も安倍内閣が直面する重要課題ばかりだ。そこで敗退した意味は決して小さくない。
 むろん、政策だけが敗因ではない。
 「参院議員の多くは汗をかかない。選挙運動も衆院頼みの人があまりに多すぎる。3年後の参院選を考えるとぞっとする」(選対幹部)
 こうした選挙結果は、衆議院の議員心理に多大な影響を与える。
 安倍は危惧する。
 「今の1、2年生の多くは後援会をつくろうともしない。逆風でも生き残れると思っているのがおかしい」
 この危惧が、このたびの激戦区で表れたわけだ。

 (3)安倍は同日選を見送ったことで、解散権という「首相の大権」を手放すことなく温存した。
 「解散については『かの字』も考えていない」
と安倍は言うが、最高権力者が解散権の行使について考えていないはずがない。むしろ毎日、解散を考えているとみた方がいい。それが解散権を握る権力者の本質といっていい。
 ただし、その解散権はいつまでも安倍の手中にあるわけではない。安倍には、2018年9月の自民党総裁としての任期切れの壁が立ちはだかる。終着点が近づけば近づくほど、必然的に安倍の自由度が小さくなる。

 (4)参院選を終えて、早くも政局最大の焦点は残された2年余のどのタイミングで、安倍が解散権を行使するかに移った。
 むろん、安倍が解散権をせずに、任期満了とともに首相の座を降りる選択肢もあるが、安倍の言動からはその片鱗も見えてこない。むしろ、任期延長の可能性を探りながら、解散時期を決めると見るべきだ。
 安倍は8月3日に自民党役員人事と内閣改造を断行する意向を固めている。この人事で、安倍が谷垣禎一に代えて新しい自民党幹事長起用に踏み切れば、間違いなく「解散シフト」だ。その場合、菅義偉が最有力候補として浮上してくる。解散先送りなら谷垣続投。

□後藤謙次「参院選大勝も激戦12県で大敗 「勝利の質」に表れた首相の危惧 ~永田町ライブ!No.300特別版~」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月23日号)
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 【参考】
【後藤謙次】都知事選で与党分裂の理由 ~自民党内の反安倍勢力~
【後藤謙次】日本が直面する「ABCリスク」 ~英EU離脱で顕在化~
【後藤謙次】甘利大臣辞任をめぐる二つのなぜ ~後任人事と直後のマイナス金利~
【政治】不可解な時期に石破派が発足 ~その行方は内閣改造で~
【政治】震災後2度目の統一地方選 ~異例なほど注力する自民党本部~
【政治】安倍が描いた解散戦略の全内幕 ~周到な準備~
【政治】安部政権の危機管理能力の低さ ~土砂災害・火山噴火~
【政治】「地方創生」が実現する条件 ~石破-河村ラインの役割分担~
【政治】露骨な安倍政権へのすり寄り ~経団連が献金再開~
【政治】石原発言から透ける政権の慢心 ~制止役不在の危うさ~
【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~
【政治】「新党」結成目前の小沢一郎の前にたちはだかる難問
【政治】小沢一郎、妻からの「離縁状」の波紋 ~古い自民党の復活~
【政治】国会議員はヤジの質も落ちた

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【櫻井よしこ】南シナ海問題で完敗でも拒否する中国 常軌を逸した習近平体制の暴走

2016年07月19日 | 社会
 (1)国際法を守る陣営と、守らない陣営との対立が、際立つ形で浮上した。
 2016年7月12日、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、南シナ海における中国の主張や行動は国連海洋法条約に違反するとしてフィリピン政府が訴えた件に関して、中国が南シナ海に独自に設定した境界線「九段線」には法的根拠がないとの判断を示した。裁定はこれで確定し、上訴はない。
 「南シナ海」は2000年前の古代から中国の海」としてきた主張が全面的に否定された。中国の完敗だ。

 (2)裁定の骨子、南シナ海のほとんどを中国領とする根拠としての九段線の否定のほかは、次のとおり。
  (a)中国がスプラトリー諸島のミスチーフ礁で造成した人工島はフィリピンの排他的経済水域の200カイリ内にあり、フィリピンの主権を侵害する。
  (b)スプラトリー諸島には国連海洋法の定義で定められる島はない。したがって、そこに人工島を造成しても、人工島を基点にして排他的経済水域、領海などは形成されない。
  (c)中国は、フィリピン漁民の活動を著しく妨害した。
  (d)中国は、生態系に取り返しのつかない害を与えた。

 (3)習近平政権には、さぞ激震が走ったことであろう。だが、中国側はこの裁判自体を認めず、裁定も受け入れないと早くから宣言してきた。米国が空母10隻を南シナ海に展開しても中国は恐れないなどと強弁してきた。
 実際、仲介裁判所の裁定公表の日程が決まると、中国はその直前まで、1週間にわたって最大規模の軍事演習を行った。
 裁定の公表当日も、習首席を筆頭に強い拒否を意思表示した。
 習主席は、北京で開かれたEUの会議でトゥスクEU大統領に向かって、「中国の南シナ海における領土主権と海洋権益は、いかなる状況下でも裁定の影響を受けない。裁定に基づくいかなる主張や行動も受け入れない」と宣言した。王毅外相は、「裁定に至る手続きは終始、法律の衣をかぶった政治的茶番だ」と批判した。

 (4)国際法を真っ向から否定する姿を見せつけも、アジアインフラ投資銀行に参加し、出資し、共に仕事をしようとする欧州諸国の理解を得られると中国首脳はマジメに考えているのだろうか?
 法を守らない中国に、透明な金融政策を期待することなぞできない、と考えようともしないのか?
 中国側の反応は、常軌を逸している。習体制は異常だ。

 (5)言葉による拒否だけでなく、中国は新たな軍事行動もとった。南海艦隊は海南省三亜市の海軍基地に最新鋭のミサイル駆逐艦「銀川」を配備し、命名式をやってみせた。スプラトリー諸島のミスチーフ礁とスービ礁には建設済みの飛行場があるが、そこで民間機による試験飛行を行い、成功したと発表した。中国は法の支配を離れて力の支配を選択した・・・・ということを世界に示したのだ。
 法に基づく国際社会の秩序を尊ぶ国々にとっての課題は、今回の裁定をどう具現化していくか、だ。まず南シナ海の支配を着々として強める中国に対して、21世紀のアジア秩序は国際法、平和的話し合い、各民族の尊重という普遍的価値と原則に基づくべきだと主張し続けることが大事だ。

 (6)次に、中国の暴走を抑止する力を形成することだ。
 各国が共に助け合う仕組みを構築し、米国を中心とする軍事的枠組みの強化に、日本が貢献しなければならない場面だ。
 南シナ海で起きることは東シナ海でも必ず起きる。アジアの秩序と安定のために、力を尽くすことが日本を守ることになる。
 そのために3分の2の議員発議で憲法改正を実現せよ、以下略。

 【注】
【櫻井よしこ】米でも絶賛の中国の要人が豹変 ~永遠なのは国益~

□櫻井よしこ「南シナ海問題で完敗でも拒否する中国 常軌を逸した習近平体制の暴走 ~オピニオン縦横無尽~」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月23日号)
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 【参考】
【櫻井よしこ】米でも絶賛の中国の要人が豹変 ~永遠なのは国益~
【櫻井よしこ】西側は自国第一主義を深め、中国は民主主義の限界に自信を深める ~英国のEU離脱~
【読書余滴】櫻井よしこ『異形の大国 中国』(2) ~商売上手な中国、政治主導の経済~
【読書余滴】櫻井よしこ『異形の大国 中国』(1) ~踏んだり蹴ったり~

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【櫻井よしこ】米国でも絶賛の中国の要人が豹変 ~永遠なのは国益~

2016年07月19日 | 社会
 (1)戴秉国(たい・へいこく)は中国の要人。胡錦濤前政権の外交トップを務めた実力者。
 米国をはじめとする世界が戴をどれほど重視していたかはヒラリー・クリントンの回顧録“Hard choices(困難な選択)”、2014年刊からも見えてくる。
 同書に日本関連の記述は殆どない。勧告に関する記述の方が多い。他方、中国に関して2章に渡って詳細に記されている。
 2009年早春、クリントン国務大臣(当時)は初の外遊先に日本を選んだ。22時間滞在したが、日米対話は上滑りするだけで成果を残さなかった。ところが、日本の後に訪問した中国では丸4日を過ごした。そのとき出会ったのが戴秉国だ。
 戴氏はクリントン氏の気持ちを掴んだ。
 「会った瞬間から会話が弾んだ。われわれは(その後)何年もわたって会話を重ねた。彼は私に度々講義(lecture)をするのだった。いかに米国のアジア政策が間違っているか、彼は皮肉をちりばめながら、しかし、穏やかな笑顔を忘れずに語る」
 ある日の会話では、戴氏が胸から一葉の写真を取りだして見せた。小さな可愛い女の子、恐らく戴氏の孫の写真だ。戴氏は語った。
 「われわれの仕事は全てこの子たちのためですよ
 クリントン氏は、「彼の心情はそのまま私の心情でもあった」と述懐する。クリントン氏の未来世代にかける「情熱を共有」したことが、二人の関係が長く太く杖付いたことの基本だとクリントン氏は書いている。
 健康維持のための運動と長時間の散歩を戴氏に勧められてまんざらでもない彼女の姿勢は、彼に対する親近感の表れでもあろう。
 ヘンリー・キッシンジャー元国務長官も戴氏についてクリントン氏に申し送りしていた。「中国で会った人物の中で恐らく最も素晴らしく、かつ開明的人物」だと。そして、その識見の深さと、中国政界における戴氏の重要性を強調した。

 (2)米要人に絶賛された戴氏はしかし、豹変した。
 戴氏は、7月5日、米ワシントンで講演し、南シナ海領有権問題に関してオランダ・ハーグの常設仲介裁判所が7月12日に下す裁定は「ただの紙くずだ」と語った。
 中国外務省が公開した資料では、戴氏は次のようにも語っている。
「仲裁裁判所の決定は何も重大なことではない」
「いかなる国家も中国に対し、裁定に従うよう強制してはならない」
「フィリピンが挑発的な行動を取れば、中国は決して座視しない」
 激しい対米発言もしている。
「たとえ10隻の空母戦闘群全てを南シナ海に派遣しても、中国人を脅すことはできない」
 国家間の関係の前には、個人的友情や好意など、木っ端微塵に吹き飛ぶのだ。永遠なのは国益だけだ。

□櫻井よしこ「米でも絶賛の中国の要人が豹変 国家間で求められる国益の要点 ~オピニオン縦横無尽~」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月16日号)
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 【参考】
【櫻井よしこ】西側は自国第一主義を深め、中国は民主主義の限界に自信を深める ~英国のEU離脱~
【読書余滴】櫻井よしこ『異形の大国 中国』(2) ~商売上手な中国、政治主導の経済~
【読書余滴】櫻井よしこ『異形の大国 中国』(1) ~踏んだり蹴ったり~

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【櫻井よしこ】西側は自国第一主義を深め、中国は民主主義の限界に自信を深める ~英国のEU離脱~

2016年07月19日 | 社会
 (1)日本を含む西側諸国は、自由と民主主義こそ大事で、中国にはそれが欠けていると、中国を批判してきた。
 だが、6月23日の英国の投票結果を見て中国は、西側の民主主義とはこんなものかと自信を深めているだろう。

 (2)ロシアと中国は、6月23日と25日、ウズベキスタンと中国の北京で立て続けに異例の首脳会談を行った。西側の混乱を分析し、それをどのように自分たちの勢力拡大につなげていくかを話し合った。両国が宇宙における軍拡競争をも念頭に共同戦線をつくる構えであることが発表資料から読み取れる。

 (3)EU離脱は、連合王国英国の輝きをおよそ全て消し去るほどの負の影響をもたらすだろう。国土の3分の1を占めるスコットランドは、スコットランド領内にある北海油田、英国の原子力潜水艦の母港といわれるクライド海軍基地を持って、英国から独立するだろう。
 米国系銀行を筆頭に、各国金融機関は欧州本部をパリ(フランス)、またはダブリン(アイルランド)に移し、英国経済の柱であり続けてきた金融センター、ロンドンのシティーも力を落としていきかねない。
 EUの側からは英国の離脱決定直後から早期の手続き会誌を要請する声があがった。離脱後の政策を描ききれていないから時間をかけて手続きを進めたい英国とは対照的に。

 (4)英国が連合王国の座を自ら放棄し、小国へと縮小していくプロセスからEUは学べるだろうか。疑問だ。
 どの国も全体像を見渡すことなく、「自国第一」の排他的思考に陥りつつある。EUには自国第一主義の遠心力が働いている。
   ①フランスの極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首。
   ②ドイツの「ドイツ人のための選択肢」のフラウケ・ペトリー党首。
 強硬派が力をつけている。オランダ、ポーランド、チェコ、スロバキア、オーストリアでも同様の傾向が色濃い。  

 (5)バラバラになりかねないEU、弱くなるEUと米国の関係、その間隙を中露が突いてくる。
 <例>東シナ海における中国人民解放軍の空軍機の自衛隊機に対する威嚇行動【産経、6月29、30日】
 中国人民解放軍の戦闘機が「攻撃動作を仕掛け、空自機がミサイル攻撃を回避しつつ戦域から離脱した」と、織田邦男・元航空自衛隊空将が明らかにした。「産経」はさらに、中国軍戦闘機が6月17日を含めて複数回、空自機に攻撃動作を仕掛けたと報じた。
 これまで空自と中国空軍の間にはこれ以上は互いに接近しないという暗黙の了解があった。しかし、いま中国空軍はその一線を越えたのみならず、空自機に正面から向き合う体勢をとった。織田氏はこれを事実上の戦闘行為と指摘した。

 (6)中国の挑戦は、空だけでなく海でも起こっている。
 中国は、初めて沖縄県尖閣諸島および鹿児島県口永良部島の海に軍艦を入れてきた。
 東シナ海での対日策の強硬化に見られるように、中国もロシアも西側の混乱に乗じて攻勢に出てくるだろう。

□櫻井よしこ「英国のEU離脱で深まる自国第一主義 西側民主主義の限界に自信深める中国 ~オピニオン縦横無尽~」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月9日号)
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 【参考】
【読書余滴】櫻井よしこ『異形の大国 中国』(2) ~商売上手な中国、政治主導の経済~
【読書余滴】櫻井よしこ『異形の大国 中国』(1) ~踏んだり蹴ったり~

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【佐藤優】人びとの認識を操作する法 ~ゴルバチョフに会いに行く~

2016年07月18日 | ●佐藤優
 

 (1)ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』や『罪と罰』の新訳で日本にドストエフスキーブームを再来させた亀山郁夫(名古屋外国語大学学長/元東京外国語大学学長/ロシア文学者)氏が2014年12月にゴルバチョフ・元ソ連大統領と会談した。
 この会談の内容が微妙にずれているところが面白い。

 (2)亀山氏は、ソ連崩壊について、文学的、思想的問いかけを誠実に行っているのに、ゴルバチョフから返ってくるのは、政治的返答だけだ。
 ウクライナ問題に亀山氏が、
 「そもそもロシア・ウクライナ紛争の問題の根はどこにあるとお考えでしょうか」
と、ゴルバチョフの母親がウクライナ人、父親がロシア人であることに踏み込んで尋ねているのに、ゴルバチョフの以下の回答は紋切り型だ。
 <クリミアはかつてロシアが獲得した領土です。そのために多くの血が流されました。ロシアは何世紀にもわたって、黒海への出口を求め、クリミアを得るために戦いました。(中略)
 ウクライナ人がソ連邦から離脱した時、ロシア人はクリミアの返還をエリツィン[当時の大統領]に提言すべきでした。(中略)現在のクリミア状況に関して言えば、クリミアの住民は独自に住民投票を実施することを求め、2014年3月に実施しました。そして80%以上の住民がロシア編入に賛成しました。賛成したのはロシア人たちです。彼らはウクライナから独立し、ロシアに戻ることを望んでいました。結果を見て、ロシアはクリミア編入を了解しました>

 (3)こんな釈明に納得する国際政治の専門家は一人もいない。
 クリミア住民の大多数がロシアへの編入を望んでいたのが事実としても、あの住民投票は、黒海に駐留するロシア軍の策動がなければできなかった。
 ゴルバチョフがここで述べたことは、プーチン政権のプロパガンダそのものだ。積極的な嘘はつかないが、重要事項はあえて考察の対象から外して語ることにより相手の認識を操作する。
 ソ連共産党内の権力闘争で身につけた技法は、既にゴルバチョフの人格の一部になっているのだろう。

□亀山郁夫『ゴルバチョフに会いに行く』(集英社、2016)
□佐藤優「ゴルバチョフ流「認識操作術」 ~読まずにいられない Book 160~」(「AERA」2016年7月25日号)
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 【参考】
【佐藤優】ハイブリッド外交官の仕事術、トランプ現象は大衆の反逆、戦争を選んだ日本人
【佐藤優】ペリー来航で草の根レベルの交流、沖縄差別の横行、美味なソースの秘密
【佐藤優】原油暴落の謎解き、沖縄を代表する詩人、安倍晋三のリアリズム
【佐藤優】18歳からの格差論、大川周明の洞察、米国の影響力低下
【佐藤優】天皇制を作った後醍醐、天皇制と無縁な沖縄 ~網野善彦『異形の王権』~
【佐藤優】新しい帝国主義時代、地図の「四色問題」、ベストセラー候補の研究書
【佐藤優】ねこはすごい、アゼルバイジャン、クンデラの官僚を描く小説
【佐藤優】外交官の論理力、安倍政権と共産党、研究不正が起きるシステム
【佐藤優】遅読家のための読書術、電気の構造、本屋大賞
【佐藤優】外山滋比古/思考の整理学
【佐藤優】何が個性で、何が障害か
【佐藤優】大宅壮一ノンフィクション賞選評 ~『原爆供養塔』ほか~
【佐藤優】英才教育という神話
【佐藤優】資本主義の内在的論理
【佐藤優】米国の戦略策定、『資本論』をめぐる知的格闘、格差・貧困問題の起源
【佐藤優】偉くない「私」が一番自由、備中高梁の新島襄、コーヒーの科学
【佐藤優】フードバンク活動、内外情勢分析、正真正銘の「地方創生」
佐藤優】日本の政治エリートと「天佑」、宇宙の生命体、10代が読むべき本
【佐藤優】組織成功の鍵となる人事、ユダヤ人の歴史、リーダーシップ論
【佐藤優】第三次世界大戦の可能性、現代東欧文学、世界連鎖暴落
【佐藤優】司馬遼太郎の語られざる本音、深層対話、米政府による暗殺
【佐藤優】著名神学者のもう一つの顔 ~パウル・ティリヒ~
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【佐藤優】今後、起こりうる財政破綻 ~対応策を学ぶ~
【佐藤優】社会の価値観、退行する社会
【佐藤優】夫婦の微妙な関係、安倍政権の内在的論理、警察捜査の正体
【佐藤優】情緒ではなく合理と実証で ~社会の再構築~
【佐藤優】中曽根康弘、21世紀の資本主義分析、北樺太の石油開発
【佐藤優】日本人の思考の鋳型、死刑問題、キリスト教と政治
【佐藤優】中国株式市場の怪しさ、イノベーションの障害、ホラー映画の心理学
【佐藤優】普天間基地移設問題の本質、外務省犯罪黒書、老後に快走!
【佐藤優】シリア難民が日本へ ~ハナ・アーレント『全体主義の起源』~

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【水木しげる】+武良布枝 好きなことだけやる ~長寿の秘訣~

2016年07月18日 | 生活
 (1)対談当時、水木しげるは90歳(満93歳で没)。長寿の秘訣なんて何もないという。
 細君(武良布枝)は市役所でやっている定期健診に「無理やり捕まえて連れて行く」が、どこも悪くないと。
 60歳代くらいまでは、一日中、何かの締め切りに追われる生活だった。70歳代になってちょっと落ち着いてきたが、ホッとしているヒマなんかない。90歳代になっても、こういう対談の企画を持ち込まれて忙しい。
 1日のスケジュールは、365日、まったく同じ。起きるのはだいだい10時ごろ。
 <眠るだけ眠る。健康の秘訣は眠り狂うっちゅうことかな>
 夫人、<たまに朝6時ごろに起きてくることもありますが、起こさないと半日寝てます。それで朝食兼昼食を食べてから、ゆっくり新聞に目を通して、お昼前後に自宅を出て、ここ(事務所)まで歩いて行きます。だいたい1キロぐらいを、ゆっくり1時間くらいかけて。途中で腰をおろすのによさそうなところを見つけて休んだりしているようです。行き帰りには、(次女の)悦子が付き添っています>

 (2)この年齢でも肉が好きだそうだ。すき焼きとかトンカツもぺろりと食べる。胃が丈夫で、軍隊にいた2年間、お腹を壊すということがなかった。腹がすいたらカタツムリを焼いて食べたりした。
 アルコールは飲めない。付き合いでビール1杯飲んだだけで真っ赤になってしまう。
 漫画仲間は徹夜自慢が多かったが、雑誌の連載を減らしても睡眠時間を確保した。
 夫人、<今も寝床に入ったかと思うと、すぐホチャッと寝てしまいます(笑)。年をとると夜中に目が覚めるとか眠りが浅くなるとか聞きますけれど、驚くほどよく寝ますね> 
 夫人、長寿の秘訣は<やっぱり睡眠と、あとは、何があっても物事に動じない“自然体”なところでしょうか。漫画家には結構神経質な方も多いようですが、こっちはドシっと動かない。眉間にシワ寄せている感じじゃなくて、雰囲気は案外明るいんです>
 水木しげる、長寿の秘訣は<やっぱり、好きなことだけやってきたから。ずっと漫画描いてメシを食っていくということが、このごろは不思議に感じるね。本が売れた売れないで一喜一憂していたのは20年前までで、その心配がなくなってからは、ずっと幸福な状態が続いている>

 (3)水木しげるが好きなことは、寝ることと食べること。絵を描くことは仕事。
 漫画を描くためには、絵だけじゃなくてストーリーをつくらなきゃいけないというので、海外の小説から日本の古典まで読んで勉強した。
 子どもの時から哲学的傾向があって、カントもヘーゲルも読んだ。聖書も。最後にはゲーテを尊敬するようになった。
 <ゲーテは言っていることが幅広いし、なかなか面白い>
 次女悦子、<「お父ちゃんはゲーテの言うとおりに生活しているんだ」と言っていたよね>
 <ニーチェも読んだが、あれはちょっと刺激が強すぎて、自分が立ち上がって何かやらにゃならんという気持になる。その点、ゲーテはやんわり「これこれこうだ」とくるんだ>
 <ゲーテの弟子のエッカーマンが書いた『ゲーテとの対話』の三冊本を暗記するまで読んだ>【注】

 【注】「【本】水木しげるが選ぶゲーテの賢言 ~『ゲゲゲのゲーテ』~

□『文藝春秋クリニック アンチエイジング決定版!元気で長生きはこんな人』(文春ムック、2016)の水木しげる×武良布枝「対談:ゲゲゲの夫婦が語る「睡眠と図太さがヒケツ」(初出は『文藝春秋』2012年8月号)
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 【参考】
【本】水木しげるが選ぶゲーテの賢言 ~『ゲゲゲのゲーテ』~
【震災】水木しげるとの対話:戦争と震災 ~生き残ることの意味~
【旅】一口八態妖怪天井画 ~大山・「圓流院」の水木しげる~
書評:『妖怪天国』
書評:『妖怪と歩く -ドキュメント・水木しげる-』

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【佐藤優】ハイブリッド外交官の仕事術、トランプ現象は大衆の反逆、戦争を選んだ日本人

2016年07月17日 | ●佐藤優
   
 ①宮家邦彦『ハイブリッド外交官の仕事術 情報収集から大局観を構築するまで』(PHP文庫 620円)
 ②副島隆彦『トランプ大統領とアメリカの真実』(日本文芸社 1,500円)
 ③加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(新潮文庫 750円)

 (1)①は、外務省で中東、米国、中国と外交の最前線で活躍した宮家氏の体験に裏づけられた実践的な仕事のノウハウを伝える。宮家氏は、シミュレーション・ゲームを重視する。
 <あなたの競争相手の立場に立つ。自分が相手だったら、あなたを、あなたの会社を、そして日本をどう見るかを考えてみてください。もちろんこれだって、「言うは易く行うは難し」でしょう。しかし、日常的な知的体験を簡単に実践できる場があります。それがシミュレーション・ゲームです>
 確かにシミュレーション・ゲームで疑似体験を済ませておくことが、複雑な交渉で勝利を収める鍵になる。

 (2)②は、トランプ現象の本質が「大衆の反逆」だとみる。
 <トランプ陣営の幹部スタッフは、他にマイケル・グラスナー(選挙対策本部副部長)、スチュアート・ジョリー(全国活動部長)、カトリーナ・ピアソン(全国スポークスウーマン・広報係)、ダニエル・スカヴィーノ・ジュニア(ソシアル・メディア担当部長)、サム・クローヴィス(全国委員会共同委員長兼政策顧問)、サラ・ハッカビー・サンダース(上席顧問。元アーカンソー州知事で、共和党の大統領選挙予備選にも出馬したマイク・ハッカビーの娘)といった人たちである。
 彼らはみな「非エリート」だ。東部の一流大学であるアイヴィーリーグの出身者は一人もいない>
 という副島氏の指摘は事柄の本質を突いている。もはや既存のエリートでは、米国の危機を乗り切ることができないという民衆の集合意識がトランプ旋風となって表れているのであろう。

 (3)世界がきな臭くなっている。③から学び、再び同じ過ちを繰り返さないようにしなくてはならない。
 <戦争は、国家と国家の間でなされます。そして、戦争に訴える国家が究極的にめざすのは、敵対国の憲法原理、すなわち、国家を成り立たせている社会の基本秩序を書きかえることでした。第二次世界大戦の敗北によって日本は、大日本帝国憲法と天皇制という憲法原理を連合国の手で書きかえられ、日本国憲法と象徴天皇制を新たな憲法原理として手中にすることとなりました。
 ならば、憲法を講ずるためには、その前提として、1945(昭和20)年8月15日に敗戦を迎えた戦争について考える必要があるのではないでしょうか>
 という加藤氏の指摘はその通りだ。
 敗戦の前と後とで、いったい日本の何が変わり、何が変わらなかったかについてきちんと整理する必要がある。

□佐藤優「きな臭くなっている世界 ~知を磨く読書 第158回~」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月23日号)
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 【参考】
【佐藤優】ペリー来航で草の根レベルの交流、沖縄差別の横行、美味なソースの秘密
【佐藤優】原油暴落の謎解き、沖縄を代表する詩人、安倍晋三のリアリズム
【佐藤優】18歳からの格差論、大川周明の洞察、米国の影響力低下
【佐藤優】天皇制を作った後醍醐、天皇制と無縁な沖縄 ~網野善彦『異形の王権』~
【佐藤優】新しい帝国主義時代、地図の「四色問題」、ベストセラー候補の研究書
【佐藤優】ねこはすごい、アゼルバイジャン、クンデラの官僚を描く小説
【佐藤優】外交官の論理力、安倍政権と共産党、研究不正が起きるシステム
【佐藤優】遅読家のための読書術、電気の構造、本屋大賞
【佐藤優】外山滋比古/思考の整理学
【佐藤優】何が個性で、何が障害か
【佐藤優】大宅壮一ノンフィクション賞選評 ~『原爆供養塔』ほか~
【佐藤優】英才教育という神話
【佐藤優】資本主義の内在的論理
【佐藤優】米国の戦略策定、『資本論』をめぐる知的格闘、格差・貧困問題の起源
【佐藤優】偉くない「私」が一番自由、備中高梁の新島襄、コーヒーの科学
【佐藤優】フードバンク活動、内外情勢分析、正真正銘の「地方創生」
佐藤優】日本の政治エリートと「天佑」、宇宙の生命体、10代が読むべき本
【佐藤優】組織成功の鍵となる人事、ユダヤ人の歴史、リーダーシップ論
【佐藤優】第三次世界大戦の可能性、現代東欧文学、世界連鎖暴落
【佐藤優】司馬遼太郎の語られざる本音、深層対話、米政府による暗殺
【佐藤優】著名神学者のもう一つの顔 ~パウル・ティリヒ~
【佐藤優】総理が靖国参拝する理由、NPO活動の哲学やノウハウ、テロ対策の必読書
【佐藤優】今後、起こりうる財政破綻 ~対応策を学ぶ~
【佐藤優】社会の価値観、退行する社会
【佐藤優】夫婦の微妙な関係、安倍政権の内在的論理、警察捜査の正体
【佐藤優】情緒ではなく合理と実証で ~社会の再構築~
【佐藤優】中曽根康弘、21世紀の資本主義分析、北樺太の石油開発
【佐藤優】日本人の思考の鋳型、死刑問題、キリスト教と政治
【佐藤優】中国株式市場の怪しさ、イノベーションの障害、ホラー映画の心理学
【佐藤優】普天間基地移設問題の本質、外務省犯罪黒書、老後に快走!
【佐藤優】シリア難民が日本へ ~ハナ・アーレント『全体主義の起源』~


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【保健】塞栓症リスクが低いピルは?/エストロゲン量と黄体ホルモンで違い

2016年07月16日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)女性なら一度は、「生理がなかったら楽なのに」とため息をついたことがあるだろう。
 寝込むほどの痛みや吐き気、気分の変調を伴う「月経困難症」であればことさら。繁忙期や出張に月経が重なったときの心身の負担は語りつくせない。二日酔いの朝の状態が一日中続き、ひどい腹痛や腰痛を抱えて働き続ける自分が想像できるだろうか。それが毎月1週間~10日間は繰り返されるのだ。

 (2)男性陣にはあまり知られていないが(関心がない?)、経口避妊薬の低用量ピルは月経をコントロールする側面を持つ。月経に伴う症状を軽減し、月経周期を自分のスケジュールに合わせてずらすことだってできる。
 問題は、低用量ピルの長期服用には「肺塞栓症」のリスクがつきまとうことだ。
 肺塞栓症は、ふくらはぎの静脈にできた血栓がはがれ、肺動脈を詰まらせる病気だ。一般に、
   ・低用量ピル非服用者の塞栓症リスクは1万人当たり1~5人/年
   ・低用量ピル服用者の塞栓症リスクは1万人当たり3~9人/年
とされる。

 (3)メーカー各社は副作用を減らすべく、有効成分の含有量や組成、投与法に工夫をこらしてきた。
 先日、2010年7月~12年9月にフランス在住の女性で、低用量ピルを服用している15~49歳が対象の調査結果が報告された。
 544万3,916人の女性のうち、病気を発症したのは次のとおりだった。
   ・肺塞栓症・・・・1,800人(1万人当たり3.3人)。
   ・脳梗塞・・・・1,049人(1万人当たり1.9人)。
   ・心筋梗塞・・・・407人(1万人当たり0.7人)。
 低用量ピル別で肺塞栓症リスクが有意に低かったのは、有効成分のエストロゲン量が0.02mgの「超」低用量ピル。なかでも、もう一つの有効成分である黄体ホルモンとして、第2世代の「レボノルゲストレル」が配合されている複合錠剤が最も低かった。

 (4)現在、日本で使用可能な超低用量ピルは、2010年以降に承認された2種類のみ。それぞれ第1世代、第3世代の黄体ホルモン複合剤だ。第2世代の著低用量ピルは承認されていない。
 女性の社会参加を促すなら、こうした面での支援も必要ではないか。

□井出ゆきえ(医学ライター)「塞栓症リスクが低いピルは?/エストロゲン量と黄体ホルモンで違い ~カラダご医見番・ライフスタイル編 No.305~」(「週刊ダイヤモンド」2016年6月25日号)
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 【参考】
【保健】悲しいと食べすぎる ~食べ放題は幸せなときに~
【保健】「夏の蚊対策国民運動」 ~ジカ熱対策~
【保健】2型糖尿病発症にも民族差/アジア系は「BMI23」でリスク
【保健】ジャガイモに高血圧リスク/ノンオイルでも要注意 
【保健】男性は運送業、女性は医療・介護 ~メタボになりやすい業種~
【保健】健康生活の王道は「食」 ~食事バランスガイドと死亡率~
【保健】眼底検査で何がわかるか ~眼疾患だけではない~
【保健】弾性ストッキングが効果的 ~エコノミークラス症候群対策~
【保健】マインドフルネスで腰痛改善 ~認知行動療法と同じ効果~
【保健】歯磨きが心血管疾患を予防 ~毎食後で発症リスクを軽減~
【保健】ガン=生存時代の就労支援 ~治療と仕事の両立に指針~
【保健】糖尿病患者の降圧目標値 ~140mmHgでよい?~
【保健】睡眠不足でスナック菓子を渇望、体重増加 ~大麻並みの快楽
【保健】コーラ1缶で薬の吸収率がアップ ~抗癌剤の薬効~
【保健】その一言で妻の2型糖尿病リスクが減少 ~「先に寝ていて」~
【保健】先進国では認知症が減少? ~予防の鍵は生活習慣の改善~
【保健】生活設計は長期戦か短期決戦か ~癌の臓器別・病期別生存率~
【保健】イチゴとオレンジはEDに効く ~米国の研究報告~
【保健】高齢者の服薬適正化にGL ~容易な多剤併用に警鐘~
【保健】朝食抜きに脳卒中リスク 阪大など調査 大規模調査で1.18倍高
【保健】下剤は脳・心血管疾患リスク> ~背景にストレスや運動不足~
【保健】高脂肪食でシナプスが消失? ~動物実験~
【保健】2型糖尿病とフライド・ポテトとの関係 ~ポテトは煮物で~
【保健】世帯の所得と健康リスクの関係 ~食習慣と飲酒習慣~
【保健】抗がん剤の価格差は最大4倍以上 ~WHOの調査~
【保健】より危険な睡眠時無呼吸 ~脳・心疾患のリスク増~
【保健】初日の出の心身的効果 ~鬱対策は光を浴びて~
【保健】日本人肥満男性の食事と運動 ~糖尿病予防~
【保健】適性な「降圧目標値」 ~120未満で関連疾患が3割低下~
【保健】自由な裁量権でスリムに ~ストレスでメタボ~
【保健】目の老化には赤と緑と橙色 ~加齢黄斑変性症の予防~
【保健】早期発見のためにエコーと併用 ~乳がん検診~
【保健】骨折予防はカルシウムのほかに・・・・
【保健】前糖尿病患者は食習慣の改善を ~全国糖尿病週間~
【保健】糖質制限より脂質制限? ~体脂肪を減らす~
【保健】受動喫煙が歯周病リスクに ~ただし男性のみ~
【保健】貧乏ゆすりが命を救う? ~マナーより健康~
【保健】「高収入の勝ち組」の健康リスク? ~50歳以上の有害な飲酒~
【保健】照明用白色LEDのブルーライトは安全か?
【保健】目の愛護デー ~緑内障による失明を予防~
【保健】長時間労働は脳卒中リスク ~週41~48時間でも上昇~
【保健】ほぼ毎日食べると、死亡リスクが14%減少 ~唐辛子~
【保健】水族館でリラックス効果 ~血圧・心拍数に好影響~

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【佐藤優】+池上彰 エリートには貧困が見えない ~貧困対策は教育~

2016年07月16日 | ●佐藤優
(1)ピケティによって格差に日の目があたった
 格差を語る本はたくさん出版されていたが、売れない。ピケティ・ブームが起き、『21世紀の資本論』が売れたことで、格差問題が日の目を見た。【池上彰】
 小林多喜二『蟹工船』ブームは一回限りで終わった。ピケティ・ブームは一回の現象で終わらせてはいけない。さらに言えば、ピケティを超えなければならない。【佐藤優】 
 ピケティは、日本国内で評価が分かれている。経済的な格差だけでなく、格差をどう評価するか、格差の有無をめぐる意見の格差が広がっている。【池上】
 佐藤優はピケティにきわめて批判的だ。ピケティによれば、格差を無くするためには、最終的には国家が税金をたくさんとって、再分配するという話になる。それ以外にできることはないのか。池上・佐藤の対談【注1】で一つの答えを出した。【佐藤】 

(2)テレビのお笑い番組で貧困を笑えた時代
 1980年代前半のテレビ番組「オレたちひょうきん族」(フジテレビ系)【注2】で、明石家さんまが貧乏をネタにガンガン視聴率をとっていた。貧乏が我々から遠いところにあるからお笑いのネタになった。でも今、テレビで「あなた、貧乏なんじゃないですか?」と聞くのは禁句に近い。貧乏が迫ってきているからだ。今、日本は格差ではなく貧乏が迫ってきているのだ。【佐藤】 
 児童養護施設の実態を非常に大げさに描いたドラマ「明日、ママがいない」(日本テレビ系)【注3】が大騒ぎになった。これをきっかけに、児童養護施設の現状を少しみんなが見るようになった。貧困の連鎖は続くのだ。親が貧困であるがゆえに、子供に対する教育ができない。教育どころか、親が姿を消してしまって、子どもが取り残される状態で貧困に陥ることもある。【池上】
 この問題は池上さんたちの『子どもの貧困』【注4】をぜひ読んでもらいたい、【佐藤】 

(3)目に見えない貧困の広がりと、目に見えない理由
 目に見えない貧困がものすごく広がって、非常に深刻な状況になっている。見えない理由の一つは、メディアという職業がエリートの職業になってしまったから。昔は、食い詰めて就職口がないような人がメディアの世界に入ってきたが、今はエリートが入ってくるようになった。だから、新宿でホームレスを見ても、“見えない”。【池上】
 貧困が見えなくなったもう一つの理由に、中学受験が盛んになり、中高一貫校に入る人が増えたことがある。自分と同じような環境の人ばかりで、ほとんど貧しい人がいない。そういう環境で育ったエリートが世の中に出ていくから、何も見えないのだ。【池上】
 今のいわゆる進学校は、「受験刑務所」みたいになっている。特に、新興の中高一貫校がひどい。数学にあまり資質のない生徒は、最初から私立文系と決めつけて、中学のときからお情けで数学の単位を与えてしまう。だから、実質の数学力は、小学生のレベルにとどまっている。その代わりに、特に英語に特化した授業をやる結果、大学生になってから極度にできないところがある人間となり、教養の水準が落ちてしまう。【佐藤】 
 ひたすら効率よく東京大学を突破するような教育をやっている学校もあって、そうなると教養書なんて一切読ませない。邪魔なだけだと。【池上】

(4)かつては格差拡大を食い止めようとする仕組みがあった
 東大でいえば、かつては法学部でも、経済原論はマルクス経済学と近代経済学の二つ、勉強していた。官僚になる試験には必ずマルクス経済のものが出たので、エリートになるためには、体制とは反対の思想を勉強しなければいけなかった。それは、ヘゲモニーとなっている思想が違ったから。受験に役立つからマルクス経済学を読んでいた。すると、小役人になった後、「管理通貨制度は完全には管理できないし、市場の管理もできない。どこかに恐慌の影がある。もし恐慌を阻止しようとするなら、公共事業で戦争をやる必要があるな、公共破壊事業のようなものが必要になるな」ということが、マルクス経済学を勉強した片鱗で分かってくる。だから、やり過ぎない。【佐藤】 
 マルクス経済学を勉強していたことが、エリート官僚たちの、どこか歯止めになっていた。日本は国家独占資本主義と呼ばれたりして、さまざまなところでがんじがらめの規制はあるが、とんでもない搾取なり、格差拡大を食い止めようとする歯止めなりが、あちこちの仕組みにあった。それが行き詰まったということもあり、規制緩和へと一気に流れ、歯止めだったマルクス経済学的な知性がまったくなくなり、ブレーキが利かないまま、暴走している。【池上】

(5)貧困が教育の右肩下がりを生んでいる
 経済の右肩下がりと同様に、教育も右肩下がりになっている。世代間でいえば、私の父母の時代よりも、我々のほうが教育の水準は高い。我々は高等教育を受けているが、父母の世代は中等教育。これまでは、子どもは親の教育を超えてきたが、いま起きているのは逆の問題だ。【佐藤】 
 国際基準で考えると、大学4年間の教育期間では、足りなくなっていく。1年くらいの留学も必要になるし、修士号も取得しないといけない。そうなると、教育費は7年間分必要になる。つまり、私大だと、今の水準で650万円、国立で400万円の授業料、プラス生活費が必要になる。海外の大学へ留学させる家庭も出てくるだろうし、なにより、経済的なことが理由で子どもに進学を断念させる人が増えてくる。【佐藤】 
 親が高等教育を受けていたら、その子どもが大学に進学すべきか、就職すべきか、それとも専門学校に進学すべきか、という節目に適切にアドバイスできる。ところが、親が高等教育を受けていないと、大学がどういう場所かも分からないから、アドバイスできない。子どもが高等教育を受けるという可能性を最初から排除してしまう。その結果、夢が小さくなる。それが収入に結びついてきて、貧困のサーキュレーション(循環)になる。ここが、教育の右肩下がりで一番危険なところ。教育を受ける機会を一回外れると、その家族から貧困が再生産されていく。【佐藤】 

(6)教育こそ貧困撲滅の道
 だから今こそ、教養が必要だ。<例>連続殺人犯で死刑囚だった永山則夫は、拘置所で初めて『資本論』を読んだが、『資本論』を読んだことによって、自分がどうしてこんなに貧しかったのか、どうしてこんな事件を起こしてしまったのか、初めて客観的に知ることができた、と言っている。これを知っていたらきっと私は殺人犯にならなかっただろうと、『無知の涙』【注5】を出した。自分の置かれている環境を客観的に見るものとして、『資本論』は役立つ。【池上】
 格差を放置しておく、特に教育が経済と結びつくようになると、能力はあるのに教育を受けられないことを社会のせいだと思い詰める人が出てくる。つまり『罪と罰』のラスコーリニコフの世界だ。世の中の格差とか、構造的な貧困を一挙に解決しないといけないと思って、過激な行動に出る人は必ずいて、「イスラム国(IS)」の怖さはそこにある。そうなると、日本の社会から内発的なテロが起きてくる。テロ対策という観点からも、貧困は是正していかなくてはならない。特にインテリの貧困層が出てくると、社会をものすごく不安定にさせる。【佐藤】 
 かつてフィンランドは、ソ連が崩壊したときに経済的危機に陥り、失業者が増えた。そのとき国は、教育にお金をかけた。教育にお金をかけ、よき納税者を育て、国の財政を立て直そうとした。貧しい子どもでも、大学まで行かせることで、きちんと働くことができれば、よき納税者になる。とても明快な教育目標だった。一方、日本で、教育の目標は何か。「国を愛する心を育てる」か? 非常に曖昧だ。国は将来を考えたら、能力があるのに貧しさゆえにその先に行けない、能力が発揮できないことこそが問題だ、と考えて、仕組みを作っていくことが重要だ。【池上】

 【注1】池上彰×佐藤優『希望の資本論』(朝日新聞出版、2015)
 【注2】1981年5月16日から1989年10月14日まで毎週土曜日20:00 -20:54に放送。
 【注3】2014年1月15日から3月12日まで毎週水曜日22:00 - 23:00に放送。
 【注4】池上彰・編『子どもの貧困: 社会的養護の現場から考える 』(ちくま新書、2015)
 【注5】永山則夫『無知の涙』(河出文庫、1990)

□対談:池上彰×佐藤優「エリートには貧困が見えない」(『AERAの民主主義』、朝日新聞出版、2016)/【初出】「AERA」2015年5月25日号
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 【参考】
【佐藤優】沖縄の全基地閉鎖要求・・・・を待ち望む中央官僚の策謀
【佐藤優】ナチスドイツ・ロシア・中国・北朝鮮 ~世界の独裁者~
【佐藤優】急進展する日露関係 ~安倍首相が取り組むべき宿題~
【佐藤優】日露首脳会談をめぐる外務省内の暗闘 ~北方領土返還の可能性~
【佐藤優】殺しあいを生む「格差」と「貧困」 ~「殺しあう」世界の読み方~
【佐藤優】一時中止は沖縄側の勝利だが ~辺野古新基地建設~
【佐藤優】情報のプロならどうするか ~「私用メール」問題~
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【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】の実践ゼミ(抄)
【佐藤優】の略歴
【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
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【佐藤優】スコットランドの動静と沖縄の日本離れの加速

2016年07月15日 | ●佐藤優
 (1)2016年6月19日、沖縄県那覇市で「元海兵隊員による残虐な蛮行を糾弾! 被害者を追悼し、海兵隊の撤退を求める県民大会」(主催:辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議)が開催され、主催者発表で6万5,000人が参加した。
 沖縄から全米軍基地を撤去する以外に、このような人権侵害を阻止することはできないという認識を圧倒的多数の沖縄人が持つようになった。この認識は不可逆だ。
 県民大会では、米軍属による沖縄人女性の殺害を弾劾するとともに、普天間基地の閉鎖、辺野古新基地建設阻止、米海兵隊の沖縄からの撤退を強く訴えたが、これは沖縄の最小限要求だ。
 かつての県民大会とは異なる「何か」がある。あえて言うならば、「沖縄人にとって日本は外部だ。日本人が沖縄人を同胞と見なさないならば、われわれも日本人であることに固執する必要はない。その場合、われわれはどういう道を歩むことになるか」

 (2)日本の中央政府、全国紙、全国ネットのテレビ局は、このような沖縄の民意の質的変化に気づいていない。日本のマスコミは、この集会に自民党と公明党が参加しなかったために、県民大会で発せられた内容が県民全体の民意ではないというプロパガンダに終始している。
 しかし、この批判はピントが完全にずれている。140万人の県民のうち、いずれかの政党に所属している人は1万人もいないだろう。
 実行委員会側も政党の枠組みにこだわりすぎた。大会の趣旨に賛同する沖縄人に参加を求めれば十分だった。その中で、他の社会団体と同じ扱いで、沖縄に基盤を持つ政党にも参加を呼びかけ、別に返答を求める必要はなかった。沖縄人の生存権、沖縄の名誉と尊厳がかかっている問題を扱うときに、日本の基準で系列化された政党の都合など考える必要はない。現に、会場には公明党や自民党の支持者もいた。県民大会を日本の政党による色分けで評価すること自体が、日本の植民地主義を反映している。沖縄人は日本の政党の抗争に左右されるべきでない。

 (3)今回の県民大会に対して、日本人の圧倒的多数は無関心だ。たぶん、その背景には、今回の沖縄人女性殺害事件が起きた構造を追求していくと、最終的に
   日本の陸地面積の0.6%を占める沖縄に
   在日米軍基地の74.5%【注1】の基地が所在する
という不平等な状態が明らかになる。不平等な状況が是正されないのは、沖縄に基地を過重負担させてもいいという差別が構造化されているからだ。差別が構造化されている場合、差別をしている人は自分が差別者だという認識を持たないのが通例だ。しかし、議論を詰めていくと、自分が責められるのではないかという意識を多くの日本人(とりわけマスコミ関係者)が持っている。その意識が、今回の殺人事件について扱うことを無意識のうちに抑制する要因になっている。

 (4)これに対して、米国人は県民大会を強く意識していた。県民大会が暴力的性格を帯びる可能性があると在日米国大使館が6月17日にウェブサイトで警告を発した。
 <19日に那覇市で開催される県民大会について「平和的であるように意図したデモであっても、対立的になり、暴力に発展する可能性がある」と表現し、米国人に対し会場周辺に近づかないよう呼び掛けていることが分かった>【注2】
 客観的に分析すれば「暴力に発展する可能性」はゼロだが、米国政府に「加害者」意識があるから過剰反応したのだろう。当事者意識を欠く日本政府や日本人より、在日米国大使館の方が少しマシとも言える。

 (5)沖縄が何を語ろうと、中央政府は無視する。中央政府のその方針を日本のマスメディアは「客観報道」として報じる。沖縄差別が構造化された情報空間が再生産されていくのだ。圧倒的多数の日本人は、この情報空間の中で生きている。
 この閉鎖状況から抜け出すことを沖縄人は必死になって考えている。意外なところから突破口が見つかるかもしれない。

 (6)<英国が23日の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めたことを受けて、英北部スコットランド自治政府の首席大臣を務めるスコットランド民族党(SNP)のニコラ・スタージョン党首は24日、「スコットランドの人々がEUの一部としての未来を望んでいることがはっきりした」との声明を出した。
 スコットランドは投票した住民の過半数が「残留」を支持。英国からの独立は2014年9月の住民投票でいったん否決されたが、スタージョン氏はスコットランドの住民の意思に反して英国がEUを出ることになれば、独立を求めて住民投票の再実施を求める声が強まると示唆していた>【注3】
 スコットランドの動静は、他の地域の分離独立運動にも無視できない影響を与える。EU加盟国内でも、スペイン(バスク地方とカタルーニャ地方)やベルギー(フランドル地方)でも分離独立の動きが強まる。世界が新たな分離主義の時代に入る可能性がある。

 (7)沖縄でも分離独立する動きが、今後強まる。中央政府がこれまでの沖縄に対する植民地支配の政策を踏襲すると、日本の国家統合に亀裂が入るのは時間の問題だ。もっとも、首相官邸も外務省も、スコットランド情勢が沖縄に与える影響について全く気づいていないらしい。
 少数派の意思を無視する多数派による決定は、どの国でも大きなトラブルを引き起こしかねない。中央政府に必要とされているのは、国際社会で起きるさまざまな出来事が日本にどのような影響を与えるかについてのインテリジェンス分析だ。
 沖縄の民意は、沖縄から全米軍基地を撤去することに傾きつつある。この民意の変化を首相官邸も日本のマスメディアも理解できていないらしい。

 【注1】2015年まで73.8%だったが本土の基地が一部返還されたので、沖縄の負担率が高くなった。
 【注2】記事「県民大会は「暴力発展の可能性」 米大使館が注意呼び掛け」(琉球新報 2016年6月19日)
県民大会は「暴力発展の可能性」 米大使館が注意呼び掛け
 【注3】記事「スコットランド、EU残留希望し声明 独立へ議論再燃も」(朝日新聞デジタル 2016年6月24日)
スコットランド、EU残留希望し声明 独立へ議論再燃も

□佐藤優「スコットランドの動静と沖縄の日本離れの加速 ~飛耳長目 第121回~」(「週刊金曜日」2016年7月8日号)
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 【参考】
【佐藤優】沖縄の全基地閉鎖要求・・・・を待ち望む中央官僚の策謀
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【佐藤優】急進展する日露関係 ~安倍首相が取り組むべき宿題~
【佐藤優】日露首脳会談をめぐる外務省内の暗闘 ~北方領土返還の可能性~
【佐藤優】殺しあいを生む「格差」と「貧困」 ~「殺しあう」世界の読み方~
【佐藤優】一時中止は沖縄側の勝利だが ~辺野古新基地建設~
【佐藤優】情報のプロならどうするか ~「私用メール」問題~
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【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
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【後藤謙次】都知事選で与党分裂の理由 ~自民党内の反安倍・不満層~

2016年07月14日 | 社会
 (1)参院選では、「安倍1強」がなお強化された。しかし、数字上の優位は必ずしも政治的な基盤強化に直結しないのが政治だ。大きな議席を得ることで逆に内部からのほころび、揺らぎが生じる。
 その象徴が東京都知事選に真っ先に手をあげた小池百合子・元防衛相の動きだ。6月29日、小池は記者会見を開いた。
 このタイミングが絶妙だった。2代続けて知名度を優先させた都知事が途中降板した反省から、ポスト舛添の候補者像を都連幹部は「国会議員ではなく実務型の人」としていた。しかし、意中の櫻井俊・前総務事務次官は固持を貫く。そこで自民党連が櫻井に代わる候補者の選考に入ろうとした矢先に小池が手を挙げた。次の候補者が出てからでは反党行為と認定される。候補者ゼロの状況では小池が出馬表明したからといって誰も文句は言えない。
 萩生田光一・官房副長官(東京選出)は不快感を表明した。ところが、翌日になって萩生田は軌道修正した。「(小池は)有力な候補の一人として対応を考えていくことになるのではないか」
 強引な“小池外し”が有権者の反発を招き、結果として参院選にも影響を与えかねないという判断が働いたものとみられている。このため、小池はその後も都連に対して推薦を直接要請するなど着々布石を打った。これに対し、都連は増田寛也・前岩手県知事の擁立に向けた環境整備に入った。

 (2)石原伸晃・経済再生担当相/都連会長が7月5日夜小池と会談したが、訳者は小池の方が一枚上だった。小池があらためて推薦を要請したのに対し、石原は参院選最優先を理由に結論を参院選投票日に持ち越すことを伝えた。
 たまたまこの日にあった記者会見で、二人の元首相(細川護煕・小泉純一郎)が小池にエールを送った。小泉が「(小池は)度胸がある」といえば、細川も「良い政治的な勘をしている」と応じた。
 そして小池は石原の申し出を無視するかのように、6日午後に記者会見を開いた。
 「パラシュートなしで覚悟を持って、しがらみのない都民の目線で戦う」
 その上で、都知事になった場合に手を付けることとして3点を指摘した。
  ①都議会の冒頭解散
  ②利権追求チームの設置
  ③舛添問題の第三者委員会の設置
 言うまでもなく、小池が「抵抗勢力」と決めつけたのが自民党都連だ。この手法は、小泉が主導した郵政選挙とそっくりだ。身内同士の争いほど有権者の耳目を集めるものはない。女が孤軍奮闘する姿は有権者の共感を呼ぶ。そんな計算が働いているように見える。
 
 (3)ただし、安倍に近い議員は小池の動きに「政局的なにおいを感じ」ている。都知事選を通じて政権への揺さぶりをかけたというわけだ。
 小池は、2012年9月の自民党総裁選で、安倍のライバルだった石破茂・地方創生担当相を支援した。石破は決選投票で逆転負けした。以来、小池は不遇をかこつ。小池は、石破が結成した「水月会」(石破派)に参加してない。今回の小池出馬でも石破は沈黙を守る。ただ言えるのは、小池に限らず「安倍1強」に対する不満が党内に存在することだ。
 安倍は、過去に手痛い打撃を受けた参院選という高いハードルを越えた。これで安倍は政権復帰を果たした2012年の衆院総選挙以来、国政選挙4連勝となる。しかも、今度の参院選を経て宿願ともいえる憲法改正に“王手”をかけることまで駒を進めた。
 その一方、安倍の自民党総裁としての任期(2018年9月)が迫る。そこから先の任期延長を望むなら、もう一度衆院解散総選挙を勝ち抜くことが必須条件。そのためにはいつ解散権を行使するのか。任期切れが迫れば、小池のような動きが活発化するのは避けられない。
 参院選が終わった今、党内の反対勢力との神経戦が待っている。

□後藤謙次「参院選を上回る注目の都知事選 出馬表明した小池百合子の野心 ~永田町ライブ!No.299」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月16日号)
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 【参考】
【後藤謙次】日本が直面する「ABCリスク」 ~英EU離脱で顕在化~
【後藤謙次】甘利大臣辞任をめぐる二つのなぜ ~後任人事と直後のマイナス金利~
【政治】不可解な時期に石破派が発足 ~その行方は内閣改造で~
【政治】震災後2度目の統一地方選 ~異例なほど注力する自民党本部~
【政治】安倍が描いた解散戦略の全内幕 ~周到な準備~
【政治】安部政権の危機管理能力の低さ ~土砂災害・火山噴火~
【政治】「地方創生」が実現する条件 ~石破-河村ラインの役割分担~
【政治】露骨な安倍政権へのすり寄り ~経団連が献金再開~
【政治】石原発言から透ける政権の慢心 ~制止役不在の危うさ~
【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~
【政治】「新党」結成目前の小沢一郎の前にたちはだかる難問
【政治】小沢一郎、妻からの「離縁状」の波紋 ~古い自民党の復活~
【政治】国会議員はヤジの質も落ちた
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