語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】多忙なビジネスマンに明かす心得 ~情報収集術(1)~

2015年11月28日 | ●佐藤優
 (1)いまの女性は本当に忙しくて、情報収集といえば通勤途中にスマホでYahoo!のトップニュースをチェックするぐらい。
 Yahoo!のトップニュースは8つトピックが並んでいるが、下の2つはスポーツ・芸能関係だ。
 ネットニュースはやめよう。ネットだと自分が過去にクリックした項目が蓄積されているから、自分の関心あるテーマばかり上に来たりする。
 Yahoo!のニュース担当者によれば、コソボ独立のニュースなどではページビューがぜんぜん上がらなかったが、韓国や中国批判のトピックを入れると、ものすごくアクセスがあった。
 そうやって同質化現象が進んで行く。書店にも近隣諸国の悪口を書いた本が大量に並んで、外国人からは病的だと見られている。

 (2)ネットは確かに便利だが、上手な付き合い方が必要だ。新聞記事に出てくる発表資料の全文を確認する際など。やはり情報収集の基本は、新聞を読むことにある。
  (a)ただ、ニュースによっては、例えばウクライナ革命の報道では新聞各社の体力の差がはっきり出る。初動でロシア語が堪能な記者2人を現地に送った朝日新聞は圧倒的に強い。産経新聞は外電に頼りながら、徹底的に「論」で勝負している。ほかは中途半端。
  (b)さらに、新聞の報道を正しく理解するには、ソ連の赤軍による西ウクライナのガリツィア地方占領とその後の抗争、ロシア正教によるカトリック教徒への弾圧など、歴史的な背景を知らないといけない。一方、ロシア仕様のハイテク軍需産業や宇宙産業の工場がウクライナ国内に残っているから、ウクライナがNATOに加わることを何としてもプーチン政権は阻止しなければならないわけだ。そういうバックグラウンドの情報がないと、ウクライナ革命のニュースは読み解けない。
  (c)もうひとつ重要なのは、日本への影響だ。日本政府はプーチン大統領との信頼関係をベースにして、北方領土問題を解決しようとしていた。ところが、米国はロシアに圧力をかけるにあたって日本に共同歩調を求めてくる。
 その狭間で選択を迫られると、日本人には遠い話だと思っていたウクライナ情勢が、実は北方領土問題につながってくる。安倍総理はどうするか? この思考のつながりに面白さを感じるられるかどうかがポイントだ。
 職場でウクライナの話題になったとき、「北方領土への影響もありますね」とツッコミを入れたら、きっと一目置かれる。これから付き合おうとしている男に、「ウクライナ」という言葉を出して、反応を見てみれば、その男のクラスがわかる。
 
 (3)最低限チェックしておけばいい基準メディアを絞るのは難しい。自然科学系なら朝日とNHKが信頼できるかもしれないが、政治となると、そうはいかない。経済もいまは宗教のようなもので、アベノミクスを信じるか信じないかという観点で新聞が分かれている。だから、いろんな情報に接して、自分で座標軸を創るしかない。
 普通の人は、とりあえず2紙の読み比べから始めるといい。
 1紙は朝日がいい。官僚的でいやみったらしいところもあるが、そのぶん手堅い取材をするので事実関係の間違いは少ない。もう1紙はサンケイエクスプレスあたりもいい。最近起きていることを時系列で振り返りながらじっくり読ませる記事が多い。
 とにかくいまは、意見が真っ二つに分かれちゃっているから、1紙だけ読んでいると、全体像が見えてこない。

 (4)これからの時代、中産階級は二分化されて、上層は富裕層に近づき、下層はプロレタリアートに近づく。その分水嶺が「新聞を読んでいるかどうか」になってくる。
 イギリスだと、どの新聞を読んでいるかで階層がわかる。
 日本の場合、一般紙のほとんどが高級紙だから、新聞を読んでいる=アッパーミドル以上だ。それに対して、ネットとスマホに頼っている人は将来のプロレタリアート予備軍。つまり、上に行きたかったら新聞を読め。その点はよ~く考えたほうがいい。
 読み方のコツは、新聞の場合、一覧性があるのが最大の長所なわけだから、それこそ見出しだけパーッと見ていくだけでもいい。とくに朝忙しいときは、そんなに時間をかける必要はない。夜改めて読めばいい。
 見出しを見る習慣がつくと、関心のある記事は自然に眼に飛び込んでくるようになる。
 見出しで気になる記事があったら、手でビリビリ破ってクリアファイルに入れておく。しばらく寝かせてから見返し、本当に大事だったらスクラップブックに貼り、いらなかったら古紙回収に出す。何が本当に大事なのかの判断を時間に任すのだ。これなら気軽にできるので、忙しい人におすすめだ。

□佐藤優『知の教室 ~教養は最強の武器である~』(文春文庫、2015)の「第2講座」の池上彰×佐藤優「多忙なビジネスマンに明かす心得 僕たちの情報収集術」
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 【参考】
【佐藤優】日本のインテリジェンス機能、必要な貯金額、副業の是非 ~知の教室~
【佐藤優】世の中でどう生き抜くかを考えるのが教養 ~知の教室~
【佐藤優】『知の教室 ~教養は最強の武器である~』目次
【佐藤優】『佐藤優の実践ゼミ』目次
『佐藤優の実践ゼミ 「地アタマ」を鍛える!』
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