【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~
(1)米国の外交が迷走しているのと比べ、ドイツ外交が活性化している。米国にとって「イスラム国」が最大の敵であることは明白だ。
「イスラム国」は欧米諸国だけでなく、ロシアも打倒の対象としている。しかし、「イスラム国」に対する戦いで、米国とロシアはまったく連携がとれていない。ウクライナ情勢をめぐって、米国が対露強硬姿勢を取っているからだ。
(2)2月10日、オバマ・米国大統領は、プーチン・露国大統領と電話会議をした。
<ホワイトハウスによると、オバマ氏は、停戦実現に向けた独仏やウクライナとの協議について、「この機会をつかむべきだ」と述べて、停戦実現に取り組むよう求めた。
また、オバマ氏は「ロシアが親ロ派勢力を支援するため部隊の派遣や武器供与、資金提供を続けるのであれば、ロシアにとっての代償は、より高くつく」とも発言。オバマ政権は、ウクライナへの武器供与を検討しており、ロシアが停戦を受け入れない場合は、武器供与や制裁の強化に踏み切る考えをプーチン氏に示唆したとみられる。>【注1】
オバマ大統領は、ロシアに対して最後通牒的なアプローチをしている。プーチン大統領もロシア国民も、かかる恫喝外交に対しては忌避反応を示す。
(3)ドイツは、米国のこうした対露外交とは一線を画している。
オバマがプーチンに電話する前日(2月9日)、欧州連合(EU)はブリュッセルの外相理事会で、新たにロシアの個人19人と9つの企業・団体を資金凍結や域内への渡航禁止の対象に加えることを決定した。
<11日で調整中の停戦合意に向けた独仏、ロシア、ウクライナの四者会談の成り行きを見極めるため、16日まで発動を延期することでも合意した。
ロイター通信によると、制裁対象には、アントノフ国防次官が含まれているという。モゲリーニ外交安全保障上級代表は会見で「外交的な努力に余裕を与えるため、全会一致で発動を延期することに決めた。最優先されるべきは事態が改善することだ」と述べた。>【注2】
対露制裁の延期については、ドイツがイニシアティブを発揮したと見られる。
(4)2月11日夜(日本時間12日未明)、ミンスク(ベラルーシの首都)で、プーチン、ポロシェンコ・ウクライナ大統領、メルケル・ドイツ首相、オランド・仏大統領の4か国首脳会談が開かれた。16時間の協議を経て、停戦合意文書にはロシア、ウクライナ、欧州安保協力機構(OSCE)、親露派の代表者が署名した。
重要なのは、メルケル首相とオランド大統領が連携して、ウクライナ問題の沈静化を本気で考えていることだ。なぜなら、「イスラム国」が欧州を標的とした本格的なテロ戦争を開始したからだ。
(5)「イスラム国」(1月7~9日にフランスでテロを起こした)やイエメンのアルカイダを支持するイスラム原理主義過激派・・・・といった者によるテロを封じ込めるためには、ロシアとの連携が不可欠と独仏は考えている。
しかし、米国は、ウクライナに対する梃子入れを止めず、「イスラム国」とロシアの二正面対決に進もうとしている。
メルケル首相は、今後ロシアへの接近を強めることになる。
【注1】記事「オバマ氏、親ロ派への支援停止を要求 プーチン氏に電話」(朝日新聞デジタル 2015年2月11日)
【注2】記事「EU、ロシアへの制裁発動延期で合意」(朝日新聞デジタル 2015年2月10日)
□佐藤優「「イスラム国」かウクライナか ドイツの「判断」 ~佐藤優の人間観察 第101回~」(「週刊現代」2015年2月28日号)
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【参考】
「【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~」
「【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~」
「【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~」
「【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した」
「【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~」
「【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~」
「【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~」
「【佐藤優】米国とイランの接近 ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~」
「【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~」
「【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~」
「【佐藤優】の実践ゼミ(抄)」
「【佐藤優】の略歴」
「【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~」
「【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由」
「【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~」
「【佐藤優】戦争の時代としての21世紀」
「【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~」
「【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~」
「【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~」
「【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ」
「【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~」
「【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~」
「【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~」
「【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~」
「【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~」
「【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~」
「【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~」
「【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~」
「【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~」
「【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~」
「【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~」
「【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず」
「「森訪露」で浮かび上がった路線対立」
「【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~」
「【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」」
「【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~」
「【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~」
「【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~」
「【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~」
「【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~」
「【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~」
「【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~」
「【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ」
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」
(1)米国の外交が迷走しているのと比べ、ドイツ外交が活性化している。米国にとって「イスラム国」が最大の敵であることは明白だ。
「イスラム国」は欧米諸国だけでなく、ロシアも打倒の対象としている。しかし、「イスラム国」に対する戦いで、米国とロシアはまったく連携がとれていない。ウクライナ情勢をめぐって、米国が対露強硬姿勢を取っているからだ。
(2)2月10日、オバマ・米国大統領は、プーチン・露国大統領と電話会議をした。
<ホワイトハウスによると、オバマ氏は、停戦実現に向けた独仏やウクライナとの協議について、「この機会をつかむべきだ」と述べて、停戦実現に取り組むよう求めた。
また、オバマ氏は「ロシアが親ロ派勢力を支援するため部隊の派遣や武器供与、資金提供を続けるのであれば、ロシアにとっての代償は、より高くつく」とも発言。オバマ政権は、ウクライナへの武器供与を検討しており、ロシアが停戦を受け入れない場合は、武器供与や制裁の強化に踏み切る考えをプーチン氏に示唆したとみられる。>【注1】
オバマ大統領は、ロシアに対して最後通牒的なアプローチをしている。プーチン大統領もロシア国民も、かかる恫喝外交に対しては忌避反応を示す。
(3)ドイツは、米国のこうした対露外交とは一線を画している。
オバマがプーチンに電話する前日(2月9日)、欧州連合(EU)はブリュッセルの外相理事会で、新たにロシアの個人19人と9つの企業・団体を資金凍結や域内への渡航禁止の対象に加えることを決定した。
<11日で調整中の停戦合意に向けた独仏、ロシア、ウクライナの四者会談の成り行きを見極めるため、16日まで発動を延期することでも合意した。
ロイター通信によると、制裁対象には、アントノフ国防次官が含まれているという。モゲリーニ外交安全保障上級代表は会見で「外交的な努力に余裕を与えるため、全会一致で発動を延期することに決めた。最優先されるべきは事態が改善することだ」と述べた。>【注2】
対露制裁の延期については、ドイツがイニシアティブを発揮したと見られる。
(4)2月11日夜(日本時間12日未明)、ミンスク(ベラルーシの首都)で、プーチン、ポロシェンコ・ウクライナ大統領、メルケル・ドイツ首相、オランド・仏大統領の4か国首脳会談が開かれた。16時間の協議を経て、停戦合意文書にはロシア、ウクライナ、欧州安保協力機構(OSCE)、親露派の代表者が署名した。
重要なのは、メルケル首相とオランド大統領が連携して、ウクライナ問題の沈静化を本気で考えていることだ。なぜなら、「イスラム国」が欧州を標的とした本格的なテロ戦争を開始したからだ。
(5)「イスラム国」(1月7~9日にフランスでテロを起こした)やイエメンのアルカイダを支持するイスラム原理主義過激派・・・・といった者によるテロを封じ込めるためには、ロシアとの連携が不可欠と独仏は考えている。
しかし、米国は、ウクライナに対する梃子入れを止めず、「イスラム国」とロシアの二正面対決に進もうとしている。
メルケル首相は、今後ロシアへの接近を強めることになる。
【注1】記事「オバマ氏、親ロ派への支援停止を要求 プーチン氏に電話」(朝日新聞デジタル 2015年2月11日)
【注2】記事「EU、ロシアへの制裁発動延期で合意」(朝日新聞デジタル 2015年2月10日)
□佐藤優「「イスラム国」かウクライナか ドイツの「判断」 ~佐藤優の人間観察 第101回~」(「週刊現代」2015年2月28日号)
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【参考】
「【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~」
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「【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~」
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「【佐藤優】の実践ゼミ(抄)」
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「【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~」
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「【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~」
「【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず」
「「森訪露」で浮かび上がった路線対立」
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「【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」」
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「【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ」
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」