語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~

2015年01月30日 | ●佐藤優
 イスラエルのネタニヤフ首相の官房長を務めた知人が、おもしろいことを言っています。

 --国際情勢の変化を見るときは、金持ちの動きを見るんだ。最近になって格差が広がってきたというけれど、そうじゃない。昔から人口の5%の人間に富は偏在していた。
 東西冷戦の間には、共産主義に対抗するために、その5%の人間が国家による富の再配分に賛成していたけれども、冷戦後は、もはやそういうことに関心をもたなくなった。
 いまやその5%の格差がうんと広がって、ビル・ゲイツの資産は、ヨーロッパ諸国の予算を軽く上回っているし、アフリカ諸国のGDPよりも大きい。こんなことはかつてなかった。
 しかし、大富豪、あるいはIBMのような大企業は、自分たちの儲けの半分を差し出さないとつぶされることを経験則でわかっている。そこで自分たちのつくったファンドで、慈善基金という名で富の再分配をしている。ただし、それは公平な再分配ではない。ビル・ゲイツがアイビー・リーグのに奨学金という名で富の再分配をしている。
 ただし、それは公平な再分配ではない。ビル・ゲイツがアイビーリーグ(アメリカ東部の名門大学群)の学生連中に奨学金をやれば、そのエリートたちは、ビル・ゲイツのことを悪く思わないし、委託研究に金を出せば、基金の出所にプラスになる研究しかしない、という仕組みができあがる。大金持ちたちが、ダイレクトに社会に富を還元するパイプをつくったわけだ。
 そこに政府は介入できていない。アベノミクスは政府介入策かもしれないが、われわれはあまり関心がない。金融政策や財政改革といったって、世界の富は、国家を迂回して動いているんだ。
 安全保障の分野だって、アメリカは厖大な情報を集めているけれども、それがテロの防止に役立ったことは一度もない。スマートフォンを使いこなす大学生のほうが、政府高官より情報を入手できる可能性が高いという有様。
 冷戦後、20年も経って、政府が情報とマネーを統制できなくなっている・・・・。

 リアルな情勢分析です。国家が空洞化している、ということですね。それからもう一つ。

 --この状況でも、目の前にカラシニコフ自動銃を突きつけられて、「知っていることを話せ」と言われたら、人間は命が一番大事だから話す。金も出す。ビル・ゲイツにドスを突きつけるやつがいたら、金は取れる。
 だから、そういうことが起きないように、アメリカ、西ヨーロッパ、イスラエル、日本などの民主主義国においては、「軍は政治に関与してはいけません」と子どものときから、特に幼年学校、士官学校で徹底した教育を行うので、軍人が政治に関与できないような忌避反応が後天的につくられている。それは、金持ちたちが自分の資産を保全するために絶対に必要なメカニズムだ・・・・

 (中略)
 ・・・・ただし、世の中には旧来型の戦争観をもっている国がある。戦争の勝者には、歩留まりはいろいろだけれども、戦利品を獲る権利がある。そう思っているのが、ロシアであり中国であり、イランだ。ウクライナもそうだ。
 民主主義国は、極力戦争を回避して外交によって解決しようとする。
 ところが戦利品が獲れるという発想をもつ国は、本気で戦争をやろうとする。すると、短期的には、戦争をやる覚悟をもっている国のほうが、実力以上の分配を得る。これが困るところなんだ・・・・

 こういうものの見方や分析は、なかなか活字にならないのと同時に、今までの私の経験からすれば、イスラエルのモサドやロシアの対外諜報庁など、そういう連中からしか出てこないですね。おそらくイギリス人も、同じような見方をするでしょうが。

□池上彰・佐藤優『新・戦争論』(文春新書、2014年11月20日)の「第2章 まず民族と宗教を勉強しよう」の佐藤優の発言から引用(改行を添加)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】の実践ゼミ(抄)
【佐藤優】の略歴
【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 

   


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【佐藤優】「イスラム国」が... | トップ | 【震災】住民無視の巨大開発... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

●佐藤優」カテゴリの最新記事