9月27日、国連総会(於ニューヨーク)の一般討論で、ラブロフ・ロシア外相が、米国の外交政策を激しく非難する演説を行った。
<ラブロフ氏は「ワシントンは自らの権益のためなら一方的な武力行使の権利を公然と主張し、軍事介入も当たり前になっているが、結果は散々だ」とこき下ろした。
現在のウクライナを「(欧米の)傲慢な政策の被害者」と指摘。シリアの合意を得ずに実施した空爆も「シリア政府と協力して進めるべきだ」と強調した。>【2014年9月28日付け「共同通信」】
イスラム教スンニー派原理主義過激組織「イスラム国(IS)」(シリアとイラクの一部地域を占拠している)の脅威をロシアも強く認識している。9月22日から米軍がシリア領内のIS拠点を空爆したことは、ロシアの国益にも合致している。だから、空爆自体ではなく、米国がシリアと協力しなかった点を、ラブロフは非難している。
これは、難癖だ。
米国は、今回の空爆をシリアに事前通告している。敵対国であるシリアに対して、米国は最大限の配慮をしている・・・・ことをラブロフは敢えて無視している。
その理由は、ウクライナに対する米国の政策に、ロシアが本気で腹を立てているからだ。
9月29日、「ロシアの声」(ロシア国営ラジオ)は、ラブロフの見解について次のように伝えた。
< 「米国は、少なくともウクライナ問題において、公式の声明を作成するにあたって、未検証の事実か、あるいは公然たる捏造か、必ずどちらかに立脚している。そうした事実は数多くある。それを意識してやる人もあれば、単に昇進のためにインターネットで見つけた情報を美しいスピーチをこしらえ上げる人もいる。嘆かわしい」
今度のウクライナ問題で、西側諸国はウクライナ政治の不安定性を自らの打算的利害のために利用しようとしている。NATOはウクライナ危機を利用して空前絶後のスピード対応でロシアに対して全く許容不可能な、根拠のない非難を繰り出し、ロシアとの厳しい対立状況を作り出した。ラヴロフ外相は言う。このような状況は、米国のジョン・ケリー国務大臣や、ドイツやフランスの外務大臣も、あまり良く思っていないであろう。「しかし彼らはもう、全てにおいて悪いのはロシアである、という既定の路線から撤退できないのだ」。
ロシアは傷つけあうことを望まない。制裁合戦を望まない。ラヴロフ外相は言う。国際問題は集団的な努力によってしか解決され得ず、集団的な努力こそが最も効率的かつ最も急速な経済発展の道である、ということが、客観的な傾向としてある。>【注】
ラブロフのこうした発言は、ウクライナ紛争でロシアが勝利したという認識があるからだ。
9月5日、ベラルーシの首都ミンスクで、ウクライナ政府と親露派(同国東部を実行支配する)が停戦協定に署名した。
停戦協定の内容は公表されていない。
9月16日、ウクライナ最高会議は、停戦協定を踏まえて、次の事項を賛成多数で採択した。
(1)東部のルガンスク、ドネツクの2州に独自の警察を持つこと。
(2)12月7日に首長と議会の選挙を実施すること。
(3)「特定地域」(親露派が実行支配する地域)における地元の検察と裁判所の人事への関与。
(4)ロシア語を使用する権利の尊重。
これで親露派地域は準国家の地域持ち、プーチン大統領が主張していたウクライナの連邦化が実現することになる。
ラブロフは、「そろそろ現実を認めて手打ちをしよう」と米国に呼びかけているのだ。
【注】記事「ラヴロフ外相:モスクワは善意で満ちている」
(「ロシアの声」 9月 29日)
□佐藤優「ロシアはウクライナで「勝った」のか ~佐藤優の人間観察 第84回~」(「週刊現代」2014年10月18日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~」
「【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず」
「「森訪露」で浮かび上がった路線対立」
「【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~」
「【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」」
「【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~」
「【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~」
「【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~」
「【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~」
「【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~」
「【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~」
「【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~」
「【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ」
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」
「【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~」
「【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~」
「【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~」
「【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~」
「【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~」
「【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~」
「【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~」
「【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~」
「【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~」
「【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~」
「【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~」
「【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」」
「【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~」
「【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~」
「【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~」
「【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~」
「【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~」
「【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~」
「【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~」
「【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~」
「【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~」
「【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア」
「【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~」
<ラブロフ氏は「ワシントンは自らの権益のためなら一方的な武力行使の権利を公然と主張し、軍事介入も当たり前になっているが、結果は散々だ」とこき下ろした。
現在のウクライナを「(欧米の)傲慢な政策の被害者」と指摘。シリアの合意を得ずに実施した空爆も「シリア政府と協力して進めるべきだ」と強調した。>【2014年9月28日付け「共同通信」】
イスラム教スンニー派原理主義過激組織「イスラム国(IS)」(シリアとイラクの一部地域を占拠している)の脅威をロシアも強く認識している。9月22日から米軍がシリア領内のIS拠点を空爆したことは、ロシアの国益にも合致している。だから、空爆自体ではなく、米国がシリアと協力しなかった点を、ラブロフは非難している。
これは、難癖だ。
米国は、今回の空爆をシリアに事前通告している。敵対国であるシリアに対して、米国は最大限の配慮をしている・・・・ことをラブロフは敢えて無視している。
その理由は、ウクライナに対する米国の政策に、ロシアが本気で腹を立てているからだ。
9月29日、「ロシアの声」(ロシア国営ラジオ)は、ラブロフの見解について次のように伝えた。
< 「米国は、少なくともウクライナ問題において、公式の声明を作成するにあたって、未検証の事実か、あるいは公然たる捏造か、必ずどちらかに立脚している。そうした事実は数多くある。それを意識してやる人もあれば、単に昇進のためにインターネットで見つけた情報を美しいスピーチをこしらえ上げる人もいる。嘆かわしい」
今度のウクライナ問題で、西側諸国はウクライナ政治の不安定性を自らの打算的利害のために利用しようとしている。NATOはウクライナ危機を利用して空前絶後のスピード対応でロシアに対して全く許容不可能な、根拠のない非難を繰り出し、ロシアとの厳しい対立状況を作り出した。ラヴロフ外相は言う。このような状況は、米国のジョン・ケリー国務大臣や、ドイツやフランスの外務大臣も、あまり良く思っていないであろう。「しかし彼らはもう、全てにおいて悪いのはロシアである、という既定の路線から撤退できないのだ」。
ロシアは傷つけあうことを望まない。制裁合戦を望まない。ラヴロフ外相は言う。国際問題は集団的な努力によってしか解決され得ず、集団的な努力こそが最も効率的かつ最も急速な経済発展の道である、ということが、客観的な傾向としてある。>【注】
ラブロフのこうした発言は、ウクライナ紛争でロシアが勝利したという認識があるからだ。
9月5日、ベラルーシの首都ミンスクで、ウクライナ政府と親露派(同国東部を実行支配する)が停戦協定に署名した。
停戦協定の内容は公表されていない。
9月16日、ウクライナ最高会議は、停戦協定を踏まえて、次の事項を賛成多数で採択した。
(1)東部のルガンスク、ドネツクの2州に独自の警察を持つこと。
(2)12月7日に首長と議会の選挙を実施すること。
(3)「特定地域」(親露派が実行支配する地域)における地元の検察と裁判所の人事への関与。
(4)ロシア語を使用する権利の尊重。
これで親露派地域は準国家の地域持ち、プーチン大統領が主張していたウクライナの連邦化が実現することになる。
ラブロフは、「そろそろ現実を認めて手打ちをしよう」と米国に呼びかけているのだ。
【注】記事「ラヴロフ外相:モスクワは善意で満ちている」
(「ロシアの声」 9月 29日)
□佐藤優「ロシアはウクライナで「勝った」のか ~佐藤優の人間観察 第84回~」(「週刊現代」2014年10月18日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~」
「【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず」
「「森訪露」で浮かび上がった路線対立」
「【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~」
「【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」」
「【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~」
「【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~」
「【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~」
「【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~」
「【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~」
「【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~」
「【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~」
「【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ」
「【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 」
「【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 」
「【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~」
「【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 」
「【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~」
「【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~」
「【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~」
「【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~」
「【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~」
「【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~」
「【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~」
「【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~」
「【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~」
「【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~」
「【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~」
「【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」」
「【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~」
「【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~」
「【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~」
「【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~」
「【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~」
「【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~」
「【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~」
「【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~」
「【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~」
「【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア」
「【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~」