語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【真山仁】調査報道

2019年01月19日 | 批評・思想
 <新聞の購読者数は激減している。若者を中心に、新聞を読まなくなったのが最大の原因だが、新聞社が権力者のお先棒を担ぐマスゴミに堕したという批判を覆すような仕事ができないのも一因だ。
 批判を打破するためには、独自取材で、社会問題に切り込み、権力者、あるいは大企業の犯罪を暴く調査報道が求められた。
 ただ、調査報道で成果を上げるためには、覚悟とスキルを持った記者の養成が不可欠だった。そのため、若手から中堅記者を対象とした調査報道講座を開催する報道機関が多い。>

□真山仁『バラ色の未来』(光文社、2017)

 


【濱嘉之】インテリジェンスの仕事に向いている人とは

2018年10月13日 | 批評・思想
 <「黒田署長は、もともと公安部で情報マンをされていたんですよね。情報マンに向いているのはどんな人でしょう」
 典子のぱっちりした目が黒田に向けられた。(中略)
 「まず、話をするのが好きな人。誰とでも分け隔てなく話をすることができないとな。あとは、雑学を楽しむことができる人。興味の幅が広い方がいいな」
 ビールのグラスを飲み干すと黒田は言った。 
 「それから分析力が欠かせませんよね」
 「分析力というのは、多くの人と話しているうちに鍛えられていくものなんだ。物事の真偽は場数を踏まないと分かりっこない。情報が真実ならその理由を、虚偽ならばその背景に興味を持てば、おのずと先が見えてくる」
 一真が黒田のグラスにビールを注いだ。
 「人脈はどのように広げればよいのですか」
 「最初はたった一人でいい。信頼できる人を見つけたら、相手にも心を開いてもらう。そこまでできれば道は開けるよ。ある人を信用したら、とことん信用することだね」>

□濱嘉之『警察庁情報官 サンバージハード』(講談社文庫、2014)から引用

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【ハイデガー】残された資料から再構成 ~存在と時間~

2018年09月07日 | 批評・思想
 現象学を追っていくとハイデガーは避けては通れない。『存在と時間』は、思想の世界で20世紀最大のインパクトを与えた本だ。
 問題は、刊行された『存在と時間』は未完の書であることだ。上下巻のうち、上巻でしかない。本来は3つの部分で構成されるはずであった。

 Ⅰ 第一部第一、第二篇--「準備作業」としての人間存在の分析
 Ⅱ 第一部第三篇--「本論」としての「存在一般の意味の究明」
 Ⅲ 第二部第一、第二、第三--歴史的考察

 このうちⅠ(第一部第一、第二篇)が書かれただけで、挫折した。
 実は、先に構想され、固まっていたのはⅡ、Ⅲのほうなのであった。これの導入部としてⅠが書かれたのだが、いざ本にしてみると、Ⅱ、Ⅲの構想とうまくドッキングしなくなったのだ。

 木田元は、ハイデガーが残した論文や講義録、「アリストテレスの現象学的解釈」や「ナトルプ草稿」、「ヒューマニズム書簡」などを援用しつつ、書かれざる『存在と時間』下巻を再構成しようと試みた。それが本書である。

□木田元『ハイデガー『存在と時間』の構築』(岩波現代文庫、2000)

 

【木田元】モノそのものへの接近

2018年09月05日 | 批評・思想
 実務的な性格なので、読み通した哲学書は両手で数えられる程度だ。本書はしかし、新書だから薄く、解説書なので読みやすい。読み通せる。
 本書が刊行された1970年は、三島由紀夫が自衛隊に殴り込んで割腹自殺した年であり、翌年には京大闘争で心身ともボロボロになった高橋和巳が結腸癌で逝った。当時、抽象的な体系的知よりモノそのものへの接近を、殊に若い人々は渇望していた、と思う。本書は、そうした時代の要請に応える本だった。
---(引用開始)---
 「アロンは自分のコップを指して、《ほらね、君が現象学者だったらこのカクテルについて語れるんだよ、そしてそれは哲学なんだ!》
 サルトルは感動で青ざめた。ほとんど青ざめた、といってよい。それはかれが長いあいだ望んでいたこととぴったりしていた。つまり事物について語ること、かれが触れるがままの事物を、・・・・そしてそれが哲学であることをかれは望んでいたのである。」
 サルトルがはじめて現象学と出会ったときの情景を、シモーヌ・ドゥ・ボーヴォワールが『女ざかり』のなかでこう描いてみせている。1932年、ベルリンのフランス学院で歴史の論文を準備しながらフッサールを研究していたレーモン・アロンがパリに帰省し、モンパルナスのとあるキャフェでサルトルやボーヴォワールと一夕を過ごした折の話である。
 これはドイツに起こった現象学とフランス実存主義の出会いの貴重な第一ページということにもなるのであろうが、それよりも、いまわたしがここに見たいのは、1930年代のフランスの青年たちの現象学との出会い方なのだ。あらゆる哲学の抽象性に絶望しながらも、現実のなかで分裂する自分たちの思考を整然と組織してくれる救援を求めていたかれらは、カクテルをみたしたコップといったきわめて身近な現実について語ることを許してくれる哲学としての現象学にそれを見出したのである。
---(引用終了)---

□木田元『現象学』(岩波新書、1970)の「序章 現象学とは何か」の冒頭を引用

 【参考】
【知覚】の現象学 ポール・セザンヌ「風景」、1879年頃 ~ビュールレ・コレクション~

 

【社会】金持ちの不自由、労働者の豪華

2018年05月29日 | 批評・思想
 <一代で巨額の富をきずいたヘンリー・フォードは、胃カイヨウのために、牛乳にトーストに野菜のジュースしか摂れなかったそうだ。かれが使っている労働者の方が、はるかにおいしいものを食べていた。死ぬ前に、腹いっぱい、食べたいものを食べたかった、といったというが、人間の世の中なんて、そんなものだよ。>

□三好徹「燃える大地(後編)」(角川文庫、1978)

【池上彰】の情報整理術 ~新聞記事スクラップ40年以上~

2018年05月22日 | 批評・思想
 <新聞記事のスクラップというアナログ的な方法が、実に役立っています。
「このテーマを集めなければ」という義務感からではなく、自分の興味のおもむくままにスクラップを続けることがポイント。自分がどんなジャンルに興味・関心を持っているかが見えてくるのです。
 情報の整理のためと言って分類やファイリングに時間やお金をかけている人がいますが、これでは本末転倒。本章で紹介する私の新聞記事整理法は、みなさんがきっと驚かれるほどシンプルです。
 大切なのは、どの情報を選ぶかという「選ぶ力」と、それをどう並べるかという「並べる力」。何を選び、どう並べるかを考えることで、独自の見方が生まれ、わかりやすく伝える方法が見つかるのです>

□池上彰『情報を活かす力』(PHPビジネス新書、2016)の「第3章 私の情報整理術」の扉から引用

 

【本】対テロ戦争の最前線 ~『レッド・プラトーン 14時間の死闘』~

2018年05月07日 | 批評・思想
★クリントン・ロメシャ(伏見威蕃・訳)『レッド・プラトーン 14時間の死闘』(早川書房 2,500円)

 (1)すでに、16年が経過した。2001年9月11日の米同時多発テロ事件を受けて始まった米国の「テロとの戦争」は、米国史上最長の戦争となっている。直接的な当事者でない日本人には、どうしても無関係な戦いのように感じられるが、今回、紹介する体験記は、そうした距離感を完全に吹き飛ばしてくれる。
 著者は、2009年10月に中央アジアのアフガニスタンにあった米軍の前哨拠点の一つで発生した「キーティングの戦い」に参加した兵士である。クリントン・ロメシャ元米陸軍2等軍曹は、戦闘の激しさから全米でも大きな注目を集めた戦いにおける戦功が認められ、後に米兵が個人として受ける最高位の名誉勲章を叙勲された人物だ。

 (2)本書の特色は3点ある。
  (a)まず、何といっても戦闘描写の鮮やかさである。キーティングの戦いは、戦略的価値の乏しい前哨拠点に駐留していた50人の米兵が、突然、300人ものタリバン兵による一斉攻撃を受けた。それから14時間にわたって続いた悲惨な戦闘の様子が、時系列を追って詳細に描かれている。
 著者は、ドキュメンタリー化に当たり、当事者としての体験ばかりでなく、関係者にも相当のリサーチを行ったことが見て取れる。
  (b)次に、それらの人物の描写が徹底してリアルな点だ。得てして戦記物には、登場人物を英雄化したり美化したりする傾向が見られる。だが、本書は一般的な兵士の強烈な個性や歪んだ性格などをありのままに描く。それが、かえって物語にリアリティーを与えている。
  (c)最後は、戦略的な間違いを戦術で取り返すことの難しさを実感させてくれるところであろう。

 (3)そもそもキーティングの戦いが起こったきっかけは、米軍がアフガニスタンで「反政府活動制圧ドクトリン」に基づいて、ヘリコプターがなければ移動できないような孤絶した地区に前哨拠点を置いたことだ。この戦略的な間違いのおかげで、戦術レベルで兵士が苦悩する様子が生々しく描かれる。
 上層部の判断ミスにより、現場にしわ寄せが及ぶ--。こうした顛末は、日本のビジネスマンにも共感できる部分がありそうだ。

 (4)本書に批判するべき点があるとすれば、戦闘相手のタリバン側の事情についてほとんど触れられていないことである。本書は、あくまでも米国側の視点に立ったもので、「なぜこの戦いが行われたのか」という根本的な問題から目がそらされてしまう懸念がある。
 ただし、圧倒的な筆力と語り口により、最前線での米兵の戦いを“手に汗握る物語”として読み進められるところは秀逸である。

□奥山真司(IGIJ(国際地政学研究所)上席研究員)「米兵のありのままが描かれた実録・テロとの戦争の最前線  ~私の「イチオシ収穫本」~」(「週刊ダイヤモンド」2018年5月12日号)

 【参考】
【片山善博】【本】地域づくりの要諦を学ぶ ~『地域からつくる 内発的発展論と東北学』~
【本】世界中で食べられるトマト缶 ~消費者が知らない驚愕の事実~
【本】移民政策の得失を冷静に分析 ~キューバ移民の第一線学者~
【本】戦前から日本は変わらず ~1940年体制~
【本】いかに“米中戦争”を避けるか ~歴史から国際政治を類推する~
【本】つげ義春は文章も面白い ~『つげ義春とぼく』~
【本】バブルを描く古典的名著 ~『バブルの物語 暴落の前に天才がいる』~
【本】塩野七生、最後の歴史大長編 ~『ギリシア人の物語3』~
【本】日本銀行はどのようにして政治的に追い込まれたのか ~『日銀と政治 暗闘の20年史』~
【本】最悪の選択は現状維持と分析 ~黒田日銀の5年間を問う好著~
【本】麻薬撲滅のための経済学思考 ~アピールと説得の理論と方法~
【本】モンゴルのユーラシア制覇 ~『モンゴルvs.西欧vs.イスラム 13世紀の世界大戦』~
【本】歴史はどう繰り返すのか ~『歴史からの発想』~
【本】社会変革のヒントを得る ~『フィンランド 豊かさのメソッド』~
【本】時流に流されないために ~『誰か「戦前」を知らないか 夏彦迷惑問答』~
【本】戦争の矛盾がよく理解できる/存在自体が珍しい軍事技術書 ~『兵士を救え! (珍)軍事研究』~
【本】北朝鮮核危機を描く労作 ~『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』~
【本】スウェーデンの高福祉で高競争力、両立の秘密 ~『政治経済の生態学』~
【本】ネット時代のテロリズムはどこから生まれてくるのか ~『グローバル・ジハードのパラダイム: パリを
【本】1920年代の経済報道に学ぶ ~『経済失政はなぜ繰り返すのか メディアが伝えた昭和恐慌』~
【本】朝日新聞・書評委員が選ぶ「今年の3点」(抄)
【本】著者の知的誠実さに打たれる日韓問題を深く理解できる書 ~『「地政心理」で語る半島と列島』~
【本】人の判断はなぜ歪むのか/2人の研究者の友情物語 ~『かくて行動経済学は生まれり』~ 
【本】エネルギーの本質を学ぶ ~『エネルギーを選びなおす』~
【本】JR九州の勢いの秘密を凝縮 ~読んで元気が出る人間の物語~
【本】日本は英国の経験に学べ ~『イギリス近代史講義』~
【本】噴火の時待つ巨額損失のマグマ ~『異次元緩
【本】“立憲主義”の由来を知る ~『立憲非立憲』~
【本】日本語特殊論に与せず ~『英語にも主語はなかった』~
【本】小国の視点で歴史を学ぶ ~『石油に浮かぶ国/クウェートの歴史と現実』~
【本】日本における婚姻を考える ~『婚姻の話』~
【本】元財務官僚のエコノミストが日本経済復活の処方箋を説く ~『日本を救う最強の経済論』~
【本】歴史を知らずに大人になる不幸 ~『戦争の大問題 それでも戦争を選ぶのか。』~
【本】私たちの食卓はどうなるのか ~工業化された食糧生産の脆さ~
【本】歪み増殖していく物語に迷う ~『森へ行きましょう』~
【本】加工食品はどこから来たのか ~軍隊と科学の密な関係~
【本】80年代中世ブームの傑作 ~『一揆』~
【本】万華鏡のように迫る名著 ~『新装版 資本主義・社会主義・民主主義』~
『【本】『世界をまどわせた地図』
【本】率直過ぎる米情報将校の直言 ~『戦場 -元国家安全保障担当補佐官による告発』~
【佐藤優】宗教改革の物語 ~近代、民族、国家の起源~」」
【本】舌鋒鋭く世の中の本質に迫る/地球規模で読まれた洞察の書 ~『反脆弱性』~
【本】【神戸】「自己満足」による過剰開発のツケ ~『神戸百年の大計と未来』~
【本】英国は“対岸の火事”にあらず ~新自由主義による悲惨な末路~
【本】人材開発でもPDCAを回す ~戦略的に人事を考える必読書~
【本】仮想通貨が通用する理屈 ~『経済ってそういうことだったのか会議』~
【本】進化認知学の世界への招待 ~『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』『動物になって生きてみた』~
【本】「戦争がつくっった現代の食卓」 ~ネイティック研究所~
【本】IT革命、コミュニケーションの変容、家族の繋がりが希薄化 ~『「サル化」する人間社会』~
【本】生命はいかに「調節」されるかを豊富な事例で解き明かす ~『セレンゲティ・ルール』~
【本】メディアの問題点をえぐる ~『勝負の分かれ目 メディアの生き残りに賭けた男たちの物語』~
【本】テイラー・J・マッツェオ『歴史の証人 ホテル・リッツ』
【本】中国から見た邪馬台国とは
【本】核兵器は世界を平和にするか ~著名学者2人がガチンコ対決~
【本】『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』
【本】梅原猛『梅原猛の授業 仏教』
【本】東芝が危機に陥った原因は「サラリーマン全体主義」 ~『東芝 原子力敗戦』~
【本】バブル崩壊後の経済を総括 ~『日本の「失われた20年」』~
【本】20世紀英国は実は軍事色が濃厚 ~通念を覆す『戦争国家イギリス』
【本】時代による変化、方言など ~『オノマトペの謎 ピカチュウからモフモフまで』~
【本】冷笑的な気分に喝を入れる警告と啓発に満ちた本 ~『日本中枢の狂謀』~
【本】物質至上主義批判の古典 ~『スモール イズ ビューティフル』~
【本】日本近現代史を学び直す ~『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』~
【本】精神の自由掲げた9人の輝き ~『暗い時代の人々』~
【本】遊牧民は「野蛮」ではなかった ~俗説を覆すユーラシアの通史~
【本】いつも同じ、ブレないのだ ~『ブラタモリ』(1~8)~
【本】分裂する米国を論じた労作 ~『階級 「断絶」社会 アメリカ』~
【本】否応なきグローバル化、つながることの有用性 ~「接続性」の地政学~
【本】読書の効用、ゆっくり丹念な ~より速く成果を出すメソッド~
【本】国谷裕子『キャスターという仕事』

【加藤周一】頼山陽 ~付:頼山陽史跡資料館(広島市)~

2018年05月02日 | 批評・思想
 <しかし漢詩の「日本化」に応じて、古典シナ語の散文そのものにも「日本化」がおこった。その代表的な作例は、詩人頼山陽(1780~1832)の『日本外史』(1827完成、1836刊)である。頼山陽、名は襄(のぼる)、安芸藩の儒者で、高名な詩人、頼春水(1746~1816)の長子である。春水の弟二人(春風と杏坪)もまた詩人として知られていた。山陽は少年の時身体虚弱で、大いに放蕩の癖があったらしい。20歳で脱藩し、廃嫡、?居(1800)。三年後幽閉を解かれる(1803)までに、『日本外史』の初稿を作ったといわれる。その後『外史』に手を加えて、定稿を松平定信に献じたのは、47歳の時である(1827)。その死に到るまで、生涯禄を食まなかった。著書に『外史』の他、『日本楽府』(1828完成、1830刊)、『日本政記』(1832完成、1838刊)、『山陽詩鈔』(1833刊)などがある。『外史』は人物を中心とした武家政権の歴史であり、源氏・新田氏・足利氏・徳川氏を「本記」として、平氏その他の諸氏を「前記」または「後記」として補足する。各氏の記述の後には「論賛」をおき、その盛衰の理由・道義的批判・そこに見るべき教訓などを論じる。『日本政記』は歴代の天皇の治績を記述して、神武天皇から後醍醐天皇の慶長2年(1597)に到る。編年体の記述は『外史』のそれよりも簡潔で、「論賛」に相当する部分に詳しい。『日本楽府』は、日本歴史上の人物と挿話を、比較的自由な詩型(楽府)を用い、66篇の詩に詠じたものである。『外史』の構成は『史記』に準じ、『日本楽府』の形式は明の李東陽『擬古楽府』に借りると著者みずからいう。しかし山陽の独創性は、何よりも、日本歴史に対する彼の関心そのものにあるだろう。生涯仕えず、一野人としてその長くない人生の全力を、日本史を詠じ、かつ記述することに傾け尽くした。そして詠じることと、記述することとは、不幸にして、また幸いにして、彼の場合には不可分であった。
 『外史』および『政記』に用いられた資料には、新しい発見がなく、また事実の誤を多く含むということ、また解釈(彼のいわゆる「論賛」の部分)に借りもの(殊に『読史余論』『大日本史』)が多いということについては、早くから批判があり、今ではそれが歴史家の一致した見解となっている。これは山陽の歴史家としての不幸である。まず事実について--たとえば有名な千窟(ちはや)城攻囲の記述(『日本外史』巻之五、新田氏前記、楠氏)は、『太平記』による。しかるに『太平記』は軍記物語であって、そのまま歴史的事実の資料ではない。そのことを山陽が感じていなかったのではない、ということは、攻城軍の兵力について『太平記』の数字を割引きしていることからも察せられる(『太平記』では100万、『外史』では80万)。しかし各戦闘での死傷者の数についてはそのまま『太平記』に従う。たちどころに「四千余人」死んだなどというのは、詩的誇張であって、歴史的事実ではあるまい。また解釈について--しばしば白石の解釈を借りながら、白石説を反駁するときに、その名を明示していないということは、すでに同時代の学者からも手きびしく批判されていた点である。しかしそれは道徳的批判である。議論の内容の自己矛盾は、歴史家として、もっと致命的な問題であろう。「論賛」は『政記』に詳しい。そこで山陽が白石を駁するのは、たとえば後醍醐天皇のいわゆる「中興」の政治が、失敗であったかどうかということに関してである(『日本政記』巻之十二、後醍醐天皇)。白石の『読史余論』は、権力掌握後の後醍醐天皇の新政を失敗であるとして、その内容を分析し、失政の要点の一つは、武士に対する論功行賞の不当である、と説く。山陽は後醍醐帝には失政がなかったという。しかし失政がなくて「中興」の政治がたちまち崩壊したことを説明するのは、困難なはずであろう。はたして彼の「中興」政治批評は、一方で「当時の政は、概ね皆その宜しきを得、時勢に合ひ、人情に愜(かな)ふ」といい、他方では「武人の邑、往々にして内官の私給となり、憤怨して乱を思ふは、固よりそれ宜(うべ)なり」といって、全く首尾一貫せず、何のことだかわからない。白石の解釈をそのまま採ったところはよろしいが、白石の解釈に反対したところは支離滅裂で、到底異説というにも値しない、ということにならざるをえない。
 山陽の歴史観は、英雄主義と尊王主義である。英雄とは「時の勢」に乗じる指導者で、英雄の行動の是非は、天皇に対する忠誠の程度によって測られる。ただし彼の「尊王」は、歴史上の天皇の批判を排除しない。たとえば後白河帝が平清盛を登用した誤も指摘する(『外史』巻之一、源氏前記、平氏)。また「尊王」は幕藩体制の批判を意味せず、殊に倒幕を意味しない。それどころか徳川氏は今日「太平極盛の治」を実現しているという(「外史例言」)。この単純な歴史観が、たとえば南北朝の複雑な政治的変化を説明するために全く不適当であることは、あきらかであり、また明治維新の変革のために、その理論的根拠を提供しないだろうことも、あきらかである。しかし『日本外史』は広く読まれた。松平定信はその出版をたすけ、藩校でこれを用いるものが多く、維新前にその部数は100万部に近かったのではないか、という説さえもある。何故そういうことが生じたのか。なぜ『日本外史』は徳川時代のいかなる史書とくらべても圧倒的に広い読者を獲得したのだろうか。おそらく幸いにして山陽の歴史は彼の詩に他ならなかったからである。
 政治を説明することの無能力は、同時に、人物を躍動させる能力でもあった。『外史』の叙述はたとえば『太平記』のそれよりもはるかに簡潔で、要点に集中している。その文章には、古典シナ語の散文としてではなく、読み下しの日本語散文として、緩急の妙があり、適度の誇張と単純化があり、漢語の響きがあたえる一種の感覚的な効果がある。あらかじめ読み下しを前提として「漢文」を書くのは、必ずしも山陽にはじまらない。しかしその効果を、極度に利用して、日本語散文の一つの文体の原型を作り出したのは、山陽の独創性であり、その人気の秘密でもあったにちがいない。かくして山陽は漢文を「日本化」した。読み下せば調子がよく、青少年を酔わせるにちがいない文章を作った。その語の意味は必ずしも正確でなく、論旨は常に明晰であるとはかぎらない。しかし言葉は壮大で、華麗で、ときにはいくらか安手であるにしても、たしかに名調子である。そういう文章を駆使して、彼は「ナショナリズム」に訴えた。『日本外史』が、19世紀中葉の対外的危機感のなかで、成功しなかったはずはなかろう。現に明治政府が戦った二つの対外戦争の間に、またはるかに降って1930年代の軍国主義の時代に、「ナショナリズム」を煽った著作家は、誰もそのことを知っていたし、『外史』の遺産を利用して、もっと煽情的な、もっとあいまいな、もっと不消化な漢語を多用する文章を書いたのである。>

□加藤周一『日本文学史序説(下)』(ちくま学芸文庫、1999)pp.192-196を引用

  頼山陽史跡資料館(広島市中区袋町5-15)
 

 

 

 
 
 

 

 

 

 

  
 



【本】世界中で食べられるトマト缶 ~消費者が知らない驚愕の事実~

2018年04月29日 | 批評・思想
★ジャン=バティスト・マレ(田中裕子・訳)『トマト缶の黒い真実』(太田出版 1,900円)

 (1)生野菜の価格が高騰する昨今、料理のために「トマト缶」のお世話になる人も多いかもしれない。
 しかし、その中身はよく見かけるように本当にイタリア産のものなのだろうか?
 実は、加工用トマトの輸出国トップは中国で、生産国としても米国に次ぐ世界2位の座にある。今や、トマトも、中国を抜きにしては語れないのである。

 (2)『トマト缶の黒い真実』は、著者が中国からイタリア、米国やアフリカの地を歩き回って、トマト加工産業の不透明な実態に迫るルポルタージュだ。
 本書で指摘されるように「ほのぼのとしたイメージ」に包まれているトマトは、実際には過去50年間で生産量が60倍に増え、それとともにグローバルな貿易の波に洗われて、巨万の富を生むようになった農産品なのだ。

 (3)考えてみれば、トマトは資本主義と親和的だ。
 南米を原産地とするトマトは、15世紀から始まった大航海時代に観賞用として欧州大陸へと伝わった。食用となったのは18世紀半ばの産業革命を経てから後のことで、世界市場の発展とともに広まることになった。
 大々的なトマト加工で財を成したのは、1869年創業の米ハインツである。同社は自動車メーカーの米フォード・モーターに先駆けて自動化や標準化、労働管理を進めた由。

 (4)現在、トマトペーストや水煮缶の中身は、米国資本を使って中国の新疆ウイグル自治区で収穫・加工されたトマトが、イタリアに輸出され、イタリアで同国産のラベルを張られてアフリカに輸出される・・・・といった“現代版三角貿易”の賜物だったりする。
 特に濃縮トマトは、簡単に水やでんぷんを加えることができるため、利ざやの大きい商品だ。著者は、国際見本市でも無添加の濃縮トマトを扱う中国企業を見かけることはなかった、という。
 こうした中国の生産者とイタリアのアグロ(農業)マフィアが結託し、アフリカ市場へ進出した。
 そして、例えばセネガルでは濃縮トマトを自国だけで賄っていたのが、外国企業の工場と販売網に追いやられ、結果として労働者は出稼ぎとなってイタリアでマフィアに搾取されるようになった。その賃金は、中国のトマト収穫労働者と同じ程度でしかない。
 こうしてトマトから生み出されるお金とトマトを収穫する労働力によって、世界を駆け巡った加工トマトが私たちの日常の食卓へと運ばれてくるのだ。

□吉田徹(北海道大学大学院法学研究科教授)「世界中で食べられるトマト缶/消費者が知らない驚愕の事実  ~私の「イチオシ収穫本」~」(「週刊ダイヤモンド」2018年4月28日-5月5日号)

 【参考】
【本】移民政策の得失を冷静に分析 ~キューバ移民の第一線学者~
【本】戦前から日本は変わらず ~1940年体制~
【本】いかに“米中戦争”を避けるか ~歴史から国際政治を類推する~
【本】つげ義春は文章も面白い ~『つげ義春とぼく』~
【本】バブルを描く古典的名著 ~『バブルの物語 暴落の前に天才がいる』~
【本】塩野七生、最後の歴史大長編 ~『ギリシア人の物語3』~
【本】日本銀行はどのようにして政治的に追い込まれたのか ~『日銀と政治 暗闘の20年史』~
【本】最悪の選択は現状維持と分析 ~黒田日銀の5年間を問う好著~
【本】麻薬撲滅のための経済学思考 ~アピールと説得の理論と方法~
【本】モンゴルのユーラシア制覇 ~『モンゴルvs.西欧vs.イスラム 13世紀の世界大戦』~
【本】歴史はどう繰り返すのか ~『歴史からの発想』~
【本】社会変革のヒントを得る ~『フィンランド 豊かさのメソッド』~
【本】時流に流されないために ~『誰か「戦前」を知らないか 夏彦迷惑問答』~
【本】戦争の矛盾がよく理解できる/存在自体が珍しい軍事技術書 ~『兵士を救え! (珍)軍事研究』~
【本】北朝鮮核危機を描く労作 ~『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』~
【本】スウェーデンの高福祉で高競争力、両立の秘密 ~『政治経済の生態学』~
【本】ネット時代のテロリズムはどこから生まれてくるのか ~『グローバル・ジハードのパラダイム: パリを
【本】1920年代の経済報道に学ぶ ~『経済失政はなぜ繰り返すのか メディアが伝えた昭和恐慌』~
【本】朝日新聞・書評委員が選ぶ「今年の3点」(抄)
【本】著者の知的誠実さに打たれる日韓問題を深く理解できる書 ~『「地政心理」で語る半島と列島』~
【本】人の判断はなぜ歪むのか/2人の研究者の友情物語 ~『かくて行動経済学は生まれり』~ 
【本】エネルギーの本質を学ぶ ~『エネルギーを選びなおす』~
【本】JR九州の勢いの秘密を凝縮 ~読んで元気が出る人間の物語~
【本】日本は英国の経験に学べ ~『イギリス近代史講義』~
【本】噴火の時待つ巨額損失のマグマ ~『異次元緩
【本】“立憲主義”の由来を知る ~『立憲非立憲』~
【本】日本語特殊論に与せず ~『英語にも主語はなかった』~
【本】小国の視点で歴史を学ぶ ~『石油に浮かぶ国/クウェートの歴史と現実』~
【本】日本における婚姻を考える ~『婚姻の話』~
【本】元財務官僚のエコノミストが日本経済復活の処方箋を説く ~『日本を救う最強の経済論』~
【本】歴史を知らずに大人になる不幸 ~『戦争の大問題 それでも戦争を選ぶのか。』~
【本】私たちの食卓はどうなるのか ~工業化された食糧生産の脆さ~
【本】歪み増殖していく物語に迷う ~『森へ行きましょう』~
【本】加工食品はどこから来たのか ~軍隊と科学の密な関係~
【本】80年代中世ブームの傑作 ~『一揆』~
【本】万華鏡のように迫る名著 ~『新装版 資本主義・社会主義・民主主義』~
『【本】『世界をまどわせた地図』
【本】率直過ぎる米情報将校の直言 ~『戦場 -元国家安全保障担当補佐官による告発』~
【佐藤優】宗教改革の物語 ~近代、民族、国家の起源~」」
【本】舌鋒鋭く世の中の本質に迫る/地球規模で読まれた洞察の書 ~『反脆弱性』~
【本】【神戸】「自己満足」による過剰開発のツケ ~『神戸百年の大計と未来』~
【本】英国は“対岸の火事”にあらず ~新自由主義による悲惨な末路~
【本】人材開発でもPDCAを回す ~戦略的に人事を考える必読書~
【本】仮想通貨が通用する理屈 ~『経済ってそういうことだったのか会議』~
【本】進化認知学の世界への招待 ~『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』『動物になって生きてみた』~
【本】「戦争がつくっった現代の食卓」 ~ネイティック研究所~
【本】IT革命、コミュニケーションの変容、家族の繋がりが希薄化 ~『「サル化」する人間社会』~
【本】生命はいかに「調節」されるかを豊富な事例で解き明かす ~『セレンゲティ・ルール』~
【本】メディアの問題点をえぐる ~『勝負の分かれ目 メディアの生き残りに賭けた男たちの物語』~
【本】テイラー・J・マッツェオ『歴史の証人 ホテル・リッツ』
【本】中国から見た邪馬台国とは
【本】核兵器は世界を平和にするか ~著名学者2人がガチンコ対決~
【本】『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』
【本】梅原猛『梅原猛の授業 仏教』
【本】東芝が危機に陥った原因は「サラリーマン全体主義」 ~『東芝 原子力敗戦』~
【本】バブル崩壊後の経済を総括 ~『日本の「失われた20年」』~
【本】20世紀英国は実は軍事色が濃厚 ~通念を覆す『戦争国家イギリス』
【本】時代による変化、方言など ~『オノマトペの謎 ピカチュウからモフモフまで』~
【本】冷笑的な気分に喝を入れる警告と啓発に満ちた本 ~『日本中枢の狂謀』~
【本】物質至上主義批判の古典 ~『スモール イズ ビューティフル』~
【本】日本近現代史を学び直す ~『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』~
【本】精神の自由掲げた9人の輝き ~『暗い時代の人々』~
【本】遊牧民は「野蛮」ではなかった ~俗説を覆すユーラシアの通史~
【本】いつも同じ、ブレないのだ ~『ブラタモリ』(1~8)~
【本】分裂する米国を論じた労作 ~『階級 「断絶」社会 アメリカ』~
【本】否応なきグローバル化、つながることの有用性 ~「接続性」の地政学~
【本】読書の効用、ゆっくり丹念な ~より速く成果を出すメソッド~
【本】国谷裕子『キャスターという仕事』

【本】移民政策の得失を冷静に分析 ~キューバ移民の第一線学者~

2018年04月26日 | 批評・思想
★ジョージ・ボージャス(岩本正明・訳)『移民の政治経済学』(白水社 2,200円)

 (1)現在、外国人労働者が急増している。過去5年間で60万人増加し、労働力人口増加の4割、就業者数増加の3割弱を占める。
 製造業から小売り、宿泊、飲食、農業などあらゆる業態に広がるが、目立つのは低スキルの技能実習生や留学生の増加だ。人手不足でも賃金の上昇が遅れるのは、外国人労働者の急増が影響しているのかもしれない。

 (2)外国人労働者なしでは経営が成り立たない企業も現れている中、今後の外国人労働政策を考える上で参考にすべき一冊が翻訳された。移民労働者に頼る米国では、それは皆にとって良いことだと多くの専門家が主張する。しかし、本当に米国人に大きなメリットがあるのか。丁寧な分析手法で定評があり、米ハーバード大学で長く研究する第一人者が異論を唱える。
 まず、移民が稼ぐことで、その所得が増え、米国のGDP(国内総生産)は増加する。ただ、そのことと米国人の経済厚生が向上することとは別の話である。移民の所得増加分を除くと、GDPの増加分は実はゼロに近い。移民を活用する企業のメリットは確かに大きいが、移民と競合する国内の低スキル労働者の所得減少に相殺される。つまり、国内の低スキル労働者から企業へ所得移転が生じているのだ。本書は、移民の経済効果の本質が所得分配の問題であることを炙り出す。

 (3)GDPの押し上げや企業業績への貢献から移民は望ましいという主張が多いが、丁寧な分析を基に、どこに負担が発生するのかを明確にした。また、移民の増加で、財政負担が増える可能性も論じる。近年、低スキルで低賃金の移民が増加傾向にあるため、社会給付を受ける人が増えているのだ。

 (4)2016年の米大統領選挙では、移民の排斥を訴えるトランプ氏が、著者の分析を何度も好意的に引用した。しかし、著者は移民否定論者ではない。幼いころにキューバから移住した異色の経歴の持ち主で、移民の受け入れは、途上国の人々に大きなチャンスを提供するため人道的に望ましいと論じる。
 ただ、不利益を被る国内の低スキル労働者に配慮し、所得分配を強化することや、米国の労働者にプラスの波及効果をもたらす高い技能を持つ移民をバランスよく受け入れるべきだという。また、急激な大量流入は、米国社会への同化を遅らせるため、社会負担が大きく、避けるべきだとも論じる。

 (5)日本では、2017年11月に技能実習生の滞在期間を3年間から5年間に延長した。このまま人手不足が続けば、さらに延長される可能性もあるが、目先の問題にばかり捉われず、長期的影響を十分に検討する必要があるだろう。

□河野龍太郎(BNPパリバ証券経済調査本部長)「キューバ移民の第一線学者が移民政策の得失を冷静に分析  ~私の「イチオシ収穫本」~」(「週刊ダイヤモンド」2018年4月14日号)
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 【参考】
【本】戦前から日本は変わらず ~1940年体制~
【本】いかに“米中戦争”を避けるか ~歴史から国際政治を類推する~
【本】つげ義春は文章も面白い ~『つげ義春とぼく』~
【本】バブルを描く古典的名著 ~『バブルの物語 暴落の前に天才がいる』~
【本】塩野七生、最後の歴史大長編 ~『ギリシア人の物語3』~
【本】日本銀行はどのようにして政治的に追い込まれたのか ~『日銀と政治 暗闘の20年史』~
【本】最悪の選択は現状維持と分析 ~黒田日銀の5年間を問う好著~
【本】麻薬撲滅のための経済学思考 ~アピールと説得の理論と方法~
【本】モンゴルのユーラシア制覇 ~『モンゴルvs.西欧vs.イスラム 13世紀の世界大戦』~
【本】歴史はどう繰り返すのか ~『歴史からの発想』~
【本】社会変革のヒントを得る ~『フィンランド 豊かさのメソッド』~
【本】時流に流されないために ~『誰か「戦前」を知らないか 夏彦迷惑問答』~
【本】戦争の矛盾がよく理解できる/存在自体が珍しい軍事技術書 ~『兵士を救え! (珍)軍事研究』~
【本】北朝鮮核危機を描く労作 ~『ザ・ペニンシュラ・クエスチョン』~
【本】スウェーデンの高福祉で高競争力、両立の秘密 ~『政治経済の生態学』~
【本】ネット時代のテロリズムはどこから生まれてくるのか ~『グローバル・ジハードのパラダイム: パリを
【本】1920年代の経済報道に学ぶ ~『経済失政はなぜ繰り返すのか メディアが伝えた昭和恐慌』~
【本】朝日新聞・書評委員が選ぶ「今年の3点」(抄)
【本】著者の知的誠実さに打たれる日韓問題を深く理解できる書 ~『「地政心理」で語る半島と列島』~
【本】人の判断はなぜ歪むのか/2人の研究者の友情物語 ~『かくて行動経済学は生まれり』~ 
【本】エネルギーの本質を学ぶ ~『エネルギーを選びなおす』~
【本】JR九州の勢いの秘密を凝縮 ~読んで元気が出る人間の物語~
【本】日本は英国の経験に学べ ~『イギリス近代史講義』~
【本】噴火の時待つ巨額損失のマグマ ~『異次元緩
【本】“立憲主義”の由来を知る ~『立憲非立憲』~
【本】日本語特殊論に与せず ~『英語にも主語はなかった』~
【本】小国の視点で歴史を学ぶ ~『石油に浮かぶ国/クウェートの歴史と現実』~
【本】日本における婚姻を考える ~『婚姻の話』~
【本】元財務官僚のエコノミストが日本経済復活の処方箋を説く ~『日本を救う最強の経済論』~
【本】歴史を知らずに大人になる不幸 ~『戦争の大問題 それでも戦争を選ぶのか。』~
【本】私たちの食卓はどうなるのか ~工業化された食糧生産の脆さ~
【本】歪み増殖していく物語に迷う ~『森へ行きましょう』~
【本】加工食品はどこから来たのか ~軍隊と科学の密な関係~
【本】80年代中世ブームの傑作 ~『一揆』~
【本】万華鏡のように迫る名著 ~『新装版 資本主義・社会主義・民主主義』~
『【本】『世界をまどわせた地図』
【本】率直過ぎる米情報将校の直言 ~『戦場 -元国家安全保障担当補佐官による告発』~
【佐藤優】宗教改革の物語 ~近代、民族、国家の起源~」」
【本】舌鋒鋭く世の中の本質に迫る/地球規模で読まれた洞察の書 ~『反脆弱性』~
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【本】核兵器は世界を平和にするか ~著名学者2人がガチンコ対決~
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【本】梅原猛『梅原猛の授業 仏教』
【本】東芝が危機に陥った原因は「サラリーマン全体主義」 ~『東芝 原子力敗戦』~
【本】バブル崩壊後の経済を総括 ~『日本の「失われた20年」』~
【本】20世紀英国は実は軍事色が濃厚 ~通念を覆す『戦争国家イギリス』
【本】時代による変化、方言など ~『オノマトペの謎 ピカチュウからモフモフまで』~
【本】冷笑的な気分に喝を入れる警告と啓発に満ちた本 ~『日本中枢の狂謀』~
【本】物質至上主義批判の古典 ~『スモール イズ ビューティフル』~
【本】日本近現代史を学び直す ~『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』~
【本】精神の自由掲げた9人の輝き ~『暗い時代の人々』~
【本】遊牧民は「野蛮」ではなかった ~俗説を覆すユーラシアの通史~
【本】いつも同じ、ブレないのだ ~『ブラタモリ』(1~8)~
【本】分裂する米国を論じた労作 ~『階級 「断絶」社会 アメリカ』~
【本】否応なきグローバル化、つながることの有用性 ~「接続性」の地政学~
【本】読書の効用、ゆっくり丹念な ~より速く成果を出すメソッド~
【本】国谷裕子『キャスターという仕事』

【池大雅】浅間山から望む富士と筑波 ~旅する画家(2)~

2018年04月26日 | 批評・思想
作品番号108 浅間山真景図 池大雅筆 自賛
     紙本墨画淡彩 一幅 57.3×102.9cm 江戸時代 18世紀

★浅間山から望む富士と筑波
 宝暦十年(1760)、大雅は友人の高芙蓉、韓天寿とともに白山・立山・富士山の三霊山を踏破する旅に出た。本作は、その旅の途次、信州・浅間山に登った際のスケッチをもとに制作されたと考えられている。構想のもとになったと見られるスケッチは「三岳紀行図屏風」(作品番号111)に残されており、浅間山を描く複数の図を合成することで本作が成立していることがわかる。
 画面右前景に大きく描かれるのが浅間山で、大雅一行が登り風景を眺望した場所である。したがって、ここに描かれているのは彼らが現実に見た視覚の再現ではなく、あくまでもそれに基づき構想された絵だということになる。山裾には軽井沢などふもとの集落が描かれており、画面空間はこの辺りから左上、右上の二方向に広がりを見せる。左上には利根川が蛇行し、その先に筑波山が描かれている。一方、右上には荒々しい山肌を見せる妙義山などの山々が連なり、視線を導くその先には小さく富士山が見える。大雅は浅間山から見えた富士山の様子を何度もスケッチしており、その感動が本作の制作動機だったとも考えられる。
 細かな筆致を重ねて描き出された地形の起伏、西洋銅版画から学んだと推測されている自然な遠近表現は、大雅の真景図のなかでも傑出した出来栄えを示し、江戸時代の風景表現としても極めて重要な作品である。宝暦12年(1762)の「比叡山真景図」(作品番号109)と共通する画面構成や色感等から30歳代末頃の作と考えられており、同13年(1763)の「富岳・終南山・早發白帝城図」(作品番号118)の左端に本作と類似する川の描写が見られることからも首肯できる。
 自賛は鶴亭筆「浅間山真景図」(作品番号16)と基本的に同じ「雲簇東西南北嶺、烟披十萬八千嵒」(雲は簇(むら)がる東西南北の嶺、烟(もや)は披(し)十萬八千の嵒(いわお))で、「奉以龍門祇園先生」(龍門祇園先生に以(しめ)し奉る)とある。大雅が本作を贈ったという「龍門祇園先生」については、いまのところ祇園南海の息子尚濂を指すという見方が主流となっている。ただ、これには確たる根拠があってのことではなく、紀州藩医だった宮瀬龍門(1719~71)である可能性も否定しきれないように思われる。

□京都国立博物館、読売新聞社『池大雅 天衣無縫の旅の画家』(読売新聞社、2018)の「第5章 旅する画家--日本の風景を描く」の「作品番号108 浅間山真景図」を引用

 【参考】
【池大雅】旅する画家--日本の風景を描く

 池大雅「浅間山真景図」 
 

【禅】心を落ち着かせる ~ダルマと恵可の問答~

2018年04月25日 | 批評・思想
 <さらに、恵可はたずねる、「どうか先生、心をおちつかせてください」
 先生、「心をもって来なさい。君に心をおちつかせてやろう」
 すすんでいう、「心を探して、どこにも見つかりません」
 先生、「探せても、どうしてそれがお前の心であろう。おまえに心をおちつかせてあげたよ」
 達磨は恵可につげていう、「おまえに心をおちつかせてあげたよ。おまえは今、わかるか」
 恵可は言下に大悟する。>

 *

 柳田聖山は、京都大学人文科学研究所の元所長、国際禅学研究所の元所長。第32回読売文学賞(『一休-狂雲集の世界』、1981年)、第27回仏教伝道文化賞(1993年)受賞。紫綬褒章(1991年)、勲三等瑞宝章(1996年)受章。

□柳田聖山・責任編集、解説、訳『禅語録 ~世界の名著・続3~』(中央公論社、1974)の『祖堂集』の「菩提達磨」から一部引用

 

【池大雅】旅する画家--日本の風景を描く

2018年04月23日 | 批評・思想
 大雅は、多くの旅を重ねた画家だった。26歳の時、江戸に遊んだ大雅は、そこから塩竃、松島にまで足を延ばし、その美しい景色に目を奪われる。翌年には北陸地方を遊歴したほか、20歳代後半から30歳にかけて、伊勢や出雲など各地を旅したことが知られている。なかでも、38歳の時に友人の高芙蓉、韓天寿とともに白山・立山・富士山の三霊山を踏破した長途の旅行は特に有名なもので、豊富なスケッチを含む「三岳紀行図屏風」(作品番号111)によってその詳細を知ることができる。そしてこの旅の成果は、「浅間山真景図」(作品番号108)という江戸時代絵画史においても傑出した風景表現へと見事に結晶した。
 大雅の旅は、万巻の書を読み万里の道を行かねば偉大な画家にはなれないという、中国の文人画家の考え方に触発されたものだろう。旅を重ね、自然を肌で感じることこそが、優れた山水画を描くために必要だと考えたのである。旅先で目にした自然の実感にもとづく風景表現(真景図)は、大雅の画業を特徴付ける主要テーマとなっていく。のみならず、40歳代以降に顕著となる広やかな空間表現など、自らの表現様式の確立にも多大な影響を及ぼすことになるのである。

□京都国立博物館、読売新聞社『池大雅 天衣無縫の旅の画家』(読売新聞社、2018)の「第5章 旅する画家--日本の風景を描く」の冒頭を引用

 

 ★池大雅「比叡山真景図」
 

 

【本】戦前から日本は変わらず ~1940年体制~

2018年04月21日 | 批評・思想
★野口悠起雄『1940年体制/さらば「戦時経済」』(東洋経済新報社、1995/増補版の出版は2010年)

 日本型経済システムと呼ばれるものの多くが、戦争の遂行のために1940年(昭和15年)ころに骨格が作られたものだという。生産者を大切にし、地域間や階層間の調整まで目配りをしたこのシステムは、戦後の高度経済成長期の日本を支えた。しかし、その残像が、新たな変化への対応を困難にしていると指摘する。
 国民への説明はともかく、改革はいつの世も政権の課題解決のために行われる。ただ、その成果は必ずしも想定通りに生じるわけではないし、政権が享受するとも限らない。私たちに求められているのは、その改革の本当の狙いを見極め、後の世代に及ぼす影響に思いを致すことではないだろうか。法政策リテラシー(判断して応用する力)の必要性を考えさせられる。
□吉田利宏(元衆議院法制局参事)「戦前から日本は変わらず ~名著味読再読~」(「週刊ダイヤモンド」2018年4月28日-5月5日号)

 【参考】
【本】いかに“米中戦争”を避けるか ~歴史から国際政治を類推する~
【本】つげ義春は文章も面白い ~『つげ義春とぼく』~
【本】バブルを描く古典的名著 ~『バブルの物語 暴落の前に天才がいる』~
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【ターナー】ラスキンとの出会い ~ターナーの評価の定着~

2018年04月19日 | 批評・思想
 <1840年代半ば以降の、さらには没後のターナーの名声は、ジョン・ラスキンの存在が無ければかなり違ったものになっていたろう。>
 <のちに彼は、『近代画家論』全5巻(1843-60年刊行)を通して、ターナー擁護の論陣を張ることになる。ラスキンにとってターナーは、「自然の全体系を写し取った唯ひとりの人間であり、この世に存在した唯ひとりの完璧な風景画家」であった。彼の芸術は、自然の表層を正確に描写するだけでなく、見る者の精神をより深い思索へと導くからこそ重要である、とラスキンは主張した。ターナー本人はラスキンの解釈を全面的に肯定していたわけではなく、二人のあいだには常に一定の距離があった。とはいえ、ヴィクトリア朝時代(1837-1901)の最大の美術批評家となったラスキンの支持を得たことは、ターナーの評価に大きな影響をおよぼし、画家自身もそのことを十分に認識していたらしい。>

●ターナー擁護の起爆剤となった問題作《ジュリエットと乳母》
 <前景右手に、バルコニーにもたれたジュリエットが描かれている。『ロミオとジュリエット』の名高いバルコニーの場面を、ターナーがなぜヴェローナではなくヴェネツィアに設定したのかは明らかではない。おそらく彼は、ヴェネツィアの伝統的なカーニヴァルの夜の賑わいを、キャピュレット家の仮面舞踏会のそれに重ね合わせたのであろう。眼下に見えるサン・マルコ広場には、美しく着飾った大勢の人びとが繰り出し、右手遠方の空には花火が上がっている。この不思議に幻想的な画面は、「色彩を媒介にして想像力に訴えかけてくる」と称賛される一方で、「太陽の光でも、月の光でも、星の光でも、火明かりでもない奇妙なごたまぜ」と激しく非難された。この批判が、17歳のラスキンを奮い立たせたのである。>

□荒川裕子『もっと知りたいターナー 生涯と作品』(東京美術、2017)のpp.58-59「ラスキンとの出会い」から一部引用

 【参考】
【ターナー】時の移ろいと歴史の変遷への思いを投影《戦艦テメレール号》 ~思いを表現するテクニック~
【ターナー】の松と『坊っちゃん』

 J・M・W・ターナー《ジュリエットと乳母》1836年 油彩、カンヴァス アマリア・ラクロゼ・デ・フォンタバート・コレクション、ブエノス・アイレス