語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】安倍政権、沖縄へ警視庁機動隊投入 ~ソ連の手口と酷似~

2015年11月18日 | ●佐藤優
 (1)沖縄と日本の中央政府の緊張が新たな段階に入った。中央政府が、辺野古に警視庁(東京都管轄)の機動隊を導入したからだ。
 <米軍普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の新基地建設をめぐり4日、警視庁の機動隊員100人以上が米軍キャンプ・シュワブゲート前での警備活動に投入された。ゲート前に県外の機動隊が加わるのは初めて。従来多くて100人規模だった警備体制がこの日は200人超に膨らんだ。ゲート前の市民と機動隊員とのもみ合いで、抗議していた60代の男性が機動隊員を足蹴(あしげ)にしたとして公務執行妨害容疑で現行犯逮捕された。転倒して救急搬送される人も出るなど現場は激しく混乱した。
 建設に反対する市民らはこの日、最大約210人が集まり、機動隊員に向かって「東京に帰れ」などと声を上げた>【注1】

 (2)11月6日付け「沖縄タイムス」社説は、警視庁機動隊の撤退を強く訴えた。
 <警視庁の機動隊といえば、「鬼」「疾風」などの異名を各隊が持つ屈強な部隊。都内でデモ対応などの経験があり、即応力を備える「精鋭」たちだ。
 かたやゲート前で反対の声を上げるのは、辺野古に新基地を造らせない、との一念で集まった市民ら。過酷な沖縄戦やその後の米軍支配下を生き抜いてきたお年寄りの姿もある。
 国内外の要人が出席するイベント開催に伴う一時的な警備ならともかく、非暴力の市民の行動に対応するために、「精鋭」部隊を投入するのは極めて異例だ。
 ゲート前の警備態勢が長期化し、県警内での人繰りが厳しくなる中、県公安委員会を通し警視庁に応援部隊の派遣を要請していたという。
 政府側は県警の要望だったと強調し、関与を否定している。だが、何が何でも新基地を造るという強硬姿勢を再三見せられてきた県民にとって、反対運動を萎縮させ、弱体化を狙う意図が働いているとしか思えない。
 そもそも、これまでの政府の強権的な姿勢が、抗議活動の「激化」を招いた。政府はその事実を重く受け止めるべきだ。
 (中略)沖縄の民意を無視し、権力で押さえ付けて意に沿わせようとする。新たな「琉球処分」とも指摘されるこうした事態が進めば、不測の事態が起こりかねない。政府は、正当性のない新基地建設工事を止め、警視庁機動隊を撤退させるべきだ>【注2】

 (3)(2)の社説が、沖縄の民意を端的に示している。
 このタイミングで警視庁機動隊が投入された理由は二つあるだろう。
 第一、中央政府が沖縄県警を信用いていない。県警には優秀な機動隊がある。にもかかわらず、あえて東京から機動隊を送ったのは、中央政府に「沖縄県警のデモ隊に対する方針は甘い。県警には沖縄人が多いので、抑圧する力を適切に行使することができない」という認識があるからだ。むろん、狡猾な中央政府は、真相が露見しないように姑息な工作を行っている。だから、沖縄県公安委員会による中央政府への要請という体裁を整えたのだ。
 <米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先として工事が始まった名護市辺野古の沿岸部に、警視庁が11月上旬にも百数十人の機動隊を派遣することが、警察関係者への取材で分かった。地元住民や市民団体の抗議活動が長期化する可能性があり、混乱を防ぐために沖縄県警が警視庁に要請したという。
 警察関係者によると、派遣される機動隊員は、辺野古沿岸部の警備を続けている沖縄県警の指揮のもとで配置される。工事が始まったことに抗議する人や団体が都内などから数多く集まる可能性もあり、警視庁が警備を支援するという。警視庁の機動隊はこれまでにも、那覇市内で重要防護施設の警備にあたっていた>【注3】
 警視庁機動隊が「沖縄県警のもとで配置される」としても、沖縄県警の公安は、事実上、沖縄県知事ではなく東京の警察庁警備局(公安警察)の指揮命令の下で動いている。実態としては中央政府が直接、沖縄の「治安維持」に乗り出した、ということだ。
 1968年にソ連が、「プラハの春」に軍事介入した際も、チェコスロバキア政府からの要請を口実にした。
 1979年にソ連が、アフガニスタンに軍隊を派遣した際も傀儡政権を使ってアフガニスタン政府の要請という体裁を整えた。
 安倍政権は、どうやらソ連の手口に学んでいるらしい。

 (4)このタイミングで警視庁機動隊が投入された理由の第二は、中央政府が力を見せつければ、沖縄人は怯(ひる)んで、おとなしくなり、辺野古新基地建設に対する異議申し立て運動を封じ込めることができる、と考えているからだ。
 しかし、このような中央政府の目論見は、沖縄人の団結力によって粉砕されることになる。
 <新基地建設の阻止を訴える市民の抗議行動は、戦後70年も生命・財産を脅かし続ける基地の重圧から脱したいという県民要求に基づくものであり、憲法が保障する表現の自由に照らしても正当だ。
 ゲート周辺での座り込みやデモは、新基地建設を強行する安倍政権に対する最低限の異議申し立てである。それを威力によって封じ込める行為は許されない。
 男性逮捕も疑問だ。本紙や市民が撮影した動画を見ると、先に機動隊員の手が男性の背後から伸び、バランスを崩した男性が機動隊員の方を向いて右足を上げるような動作をしているのが確認できる。
 市民逮捕の原因をつくったのは誰なのか厳しく問われるべきだ。市民をいたずらに挑発し、とっさに抵抗してきた市民を公務執行妨害容疑で逮捕するような理不尽があってはならない。
 現場では歩道上を鉄柵で囲った場所に、ゲート前から排除した市民を一時拘束するような事態も続いている。いったんゲート前から排除した市民を引き続き拘束するのは「予防拘禁」とも言うべき不当な行為ではないか>【注4】
 まさに、中央政府は、予防拘禁によって沖縄人を萎縮させようとしているのだ。
 事態を冷静に観察すれば、辺野古で機動隊と住民が衝突し、沖縄人の血が流れることについて、中央政府は何の抵抗も覚えていない。「日本全体の利益」という口実で、沖縄を犠牲にする、という姿勢を露骨に示している。

 (5)中央政府の政治家や官僚には見えないだろうが、質的な構造変化が沖縄で起きている。
 沖縄人は、沖縄人警察官との対話を深化させる。
 中央政府による沖縄人弾圧という現実に直面して、「仕事をやりすぎない」という形で沖縄人の両親に適う行動をとることが、沖縄人警察官、さらに国の総合事務所、沖縄防衛局、外務省沖縄事務所にとっての焦眉の課題である、という認識が、沖縄人の間で静かに共有されることになる。
 沖縄と沖縄人の運命を真面目に考えていない日本人上司に過剰同化して、沖縄人の間の衝突で流血が生じることだけは何としても避けなくてはならない、という想いで沖縄人は団結する。

 【注1】記事「警視庁機動隊を初投入 シュワブゲート前 衝突激化で逮捕者」(「琉球新報」電子版 2015年11月5日)
 【注2】社説「[警視庁機動隊投入]辺野古から撤退させよ」(「沖縄タイムス」 2015年11月6日)
 【注3】記事「辺野古に警視庁機動隊派遣へ 県警が要請、11月上旬に」(朝日新聞デジタル 2015年11月1日)
 【注4】社説「警視庁機動隊投入 人権脅かす警備はやめよ」(「琉球新報」電子版 2015年11月6日)

□佐藤優「沖縄への警視庁機動隊投入はソ連の手口と酷似」(「週刊金曜日」2015年11月13日号)
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