語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~

2014年07月10日 | ●佐藤優
 (1)7月1日、安倍政権は、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行った。
 一部マスコミは、日本が明日にでも戦争に突入するかのような危機意識を煽っているが、それは間違いだ。閣議決定にはさまざまな縛りがかかっている。
 <例1>この閣議決定だけでは、ホルムズ海峡の機雷除去に日本は参加できない。
    (理由)国際航路帯は、オマーンの領海を通っているので、海峡封鎖をするためには、同国領海内に機雷を設置しなければならない。領海内への機雷設置は、宣戦布告と見なされるので、この状況では自衛隊が出動することはできない。
 <例2>米国が英国など同盟国とともに「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」を排除するため日本にイラクへの自衛隊派兵を求めても、今回の閣議決定では実施不可能だ。
 
 (2)この程度の内容は、外務省と内閣法制局の頭が良い官僚ならば、個別的自衛権で理屈をつけることもできた。
 なぜこれだけの縛りが課せられたのか。
 教義の根本に平和主義を据えた創価学会を母体とする公明党が、本気で抵抗したからだ。
 <公明党の山口那津男代表は1日、集団的自衛権の行使を認める閣議決定後の記者会見で、「(武力の行使は)国民を守るための『自衛の措置』に限られることが明確になっている。その点で憲法上、いわゆる(一般的な)集団的自衛権の行使を認めるものではない」と述べた。
 山口氏の主張は、武力行使をしてもあくまで「自衛の措置」であり、従来の公明党の主張と整合性があることを強調したものだ。だが、閣議決定の中では「『武力の行使』は国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある」と明記されており、山口氏は国際法上と憲法上の評価を使い分けるという苦しい対応を迫られた形だ。>【注】

 (3)国内法と国際法の解釈をずらして、それについてあえて詰めないという手法を以前から日本政府はとってきた。
 <例>日本が行ったインド洋での多国籍軍への給油、イラクへの自衛隊派遣も、国際法的には手段的自衛権の行使と解釈できる。山口代表のいわゆる<(武力の行使は)国民を守るための「自衛の措置」に限られることが明確になっている。その点で憲法上、いわゆる(一般的な)集団的自衛権の行使を認めるものではない>・・・・は、屁理屈ではなく、法律家として筋の通った主張だ。
 今回、創価学会を母体とする公明党が連立政権に加わっていなかったならば、即時戦争ができる閣議決定になっていたはずだ。
 今後、政府が幾つもの踏み越えをしないかぎり、日本が実際に集団的自衛権を行使することはできない。
 
 (4)しかし、現在は悪い意味での政治主導が強まっている。その中で、
 「こんなに制限をつけやがって。これじゃ思い通りに自衛隊を動かせないじゃないか。公明党は獅子身中の虫だ。平和主義を唱えて公明党に影響を与える創価学会を締め上げてやろう」
 そう勘違いする政治家が出てくるかもしれない。
 今後の法案審議で、実際に自衛隊を国外に派遣することの是非が議論された場合、政府と自民党の暴走を阻止することができる現実的な政治勢力は、実際問題として公明党しかない。
 
 【注】記事「「行使認めるものではない」山口・公明代表 集団的自衛権閣議決定」(朝日新聞デジタル 2014年7月2日)
 
□佐藤優「日本は本当に「戦争ができる」国になったのか ~佐藤優の人間観察 第74回~」(「週刊現代」2014年7月19日号)
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