語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】「当事者にとって」と「学理的反省者として」の二重の視座 ~『世界の共同主観的存在構造』~

2018年02月28日 | ●佐藤優
★廣松渉『世界の共同主観的存在構造』(勁草書房、1975/のちに講談社学術文庫、1991/のちに岩波文庫、2017)
 

 <本書における廣松氏の大きな業績はヘーゲル『精神現象学』に独自解釈を加え、「当事者にとって(直訳では、彼にとって)」(fuer es)と「学理的反省者にとって」(直訳では、われわれにとって)」(fuer uns)という二重の視座を示したことだ。当事者にとっての認識と、それを突き放して学知の反省を加えた場合の認識と評価は異なってくるということだ。廣松氏は、〈判断意味成体、すなわち論理上の主語によって指示される外延的対象を論理上の述語によって述定される或るものetwas Anderes 、述定的意味として二肢的構造成体として措定することにおいて存立する意味成体は、われわれの見地からすればfuer uns つねに誰かとして二肢的な自己分裂的自己統一の相にある主体に帰属するが、当の判断意味成体の帰属する主体がその折の自己を判断主観一般として融即的に対自化したもの、意味成体に向妥当的なこの対自目的意識事態が判断である〉と指摘する。筆者は2002年5月、鈴木宗男事件に連座して東京地方検察庁特別捜査部によって逮捕された。筆者、すなわち「当事者にとって」は、「外務省組織の命令に従って、北方領土交渉に命懸けで取り組んでいたのに何と理不尽なことか」という認識になる。しかし、「学理的反省者として」見るならば、政治権力によって富を再分配する日本型社会民主主義(角栄型政治)を効率重視の新自由主義に、地政学的勢力均衡論に基づく日露接近をイデオロギー重視の日米同盟中心主義に転換する「時代のけじめ」をつけるために、角栄型政治の後継者で、日露の戦略的提携を強化することによって北方領土問題を解決しようとした鈴木氏を排除する必然性があった。その過程で、鈴木氏につなげる事件をつくるために筆者が逮捕されたのだ。廣松氏の論理を援用することで、筆者は東京拘置所のかび臭い独房の中で自らが置かれている場を冷静に認識することができた。>

□佐藤優「全共闘運動の敗北の後に求められた理論的基盤 ~ベストセラーで読む日本の近現代史 第52回~」(「文藝春秋」2018年1月号)から一部引用
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 【参考】
【佐藤優】テロ対策に関する世界最高レベルの教科書、宇野弘蔵の経済学を取り入れたユニークな社会学演習書、シンギュラリティ神話の脱構築

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【佐藤優】日本と米国の社会病理
【佐藤優】消費者金融のインテリジェンス
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【佐藤優】子どもや孫の世代への重荷
【佐藤優】日本のレアルポリティーク
【佐藤優】巨大さを追求する近代的思考
【佐藤優】アナキズムという思考実験
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【佐藤優】ホワイトカラーの労働者化
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【佐藤優】宗教改革の物語 ~近代、民族、国家の起源~
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【佐藤優】リーダーが知るべき文明観、資本主義後の社会構想、刑務所暮らし経験者の本音
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【佐藤優】国際人になるための教科書、ストレスが人間を強くする、日本に易姓革命はない
【佐藤優】ロシアでも愛された知識人の必読書 ~安部公房『砂の女』~
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【佐藤優】モンロー主義とトランプ次期大統領、官僚は二流の社会学者、プロのスパイの手口
【佐藤優】トランプを包括的に扱う好著、現代日本外交史、独自の民間外交
【佐藤優】デモや抗議活動のサブカルチャー化、グローバル化に対する反発を日露が共有、グローバル化に対する反発が国家機能を強化
【佐藤優】国際社会で日本が生き抜く条件、ルネサンスを準備したもの、理系情報の伝え方
【佐藤優】人生を豊かにする本、猫も人もカロリー過剰、度外れなロシア的天性
【佐藤優】テロリズム思想の変遷を学ぶ ~沢木耕太郎『テロルの決算』~
【佐藤優】住所格差と人生格差、人材育成で企業復活、教科書レベルの知識が必要
【佐藤優】数学嫌いのための数学入門、西欧的思考にわかりやすい浄土思想解釈、非共産主義的なロシア帝国
【佐藤優】ウラジオストク日本人居留民、辺野古移設反対を掲げる公明党沖縄県本部、偶然歴史に登場した労働力の商品化
【佐藤優】「21世紀の優生学」の危険、闇金ウシジマくんvs.ホリエモン、仔猫の救い方
【佐藤優】大学にも外務省にもいる「サンカク人間」 ~『文学部唯野教授』~
【佐藤優】訳・解説『貧乏物語 現代語訳』の目次
【佐藤優】「イスラム国」をつくった米大統領、強制収容所文学、「空気」による支配を脱構築
【佐藤優】トランプの対外観、米国のインターネット戦略、中国流の華夷秩序
【佐藤優】元モサド長官回想録、舌禍の原因、灘高生との対話
【佐藤優】孤立主義の米国外交、少子化対策における産まない自由、健康食品のウソ・ホント
【佐藤優】アフリカを収奪する中国、二種類の組織者、日本的ナルシシズムの成熟
【佐藤優】キリスト教徒として読む資本論 ~宇野弘蔵『経済原論』~
【佐藤優】未来の選択肢二つ、優れた文章作法の指南書、人間が変化させた生態系
【佐藤優】+宮家邦彦 世界史の大転換/常識が通じない時代の読み方
【佐藤優】人びとの認識を操作する法 ~ゴルバチョフに会いに行く~
【佐藤優】ハイブリッド外交官の仕事術、トランプ現象は大衆の反逆、戦争を選んだ日本人
【佐藤優】ペリー来航で草の根レベルの交流、沖縄差別の横行、美味なソースの秘密
【佐藤優】原油暴落の謎解き、沖縄を代表する詩人、安倍晋三のリアリズム
【佐藤優】18歳からの格差論、大川周明の洞察、米国の影響力低下
【佐藤優】天皇制を作った後醍醐、天皇制と無縁な沖縄 ~網野善彦『異形の王権』~
【佐藤優】新しい帝国主義時代、地図の「四色問題」、ベストセラー候補の研究書
【佐藤優】ねこはすごい、アゼルバイジャン、クンデラの官僚を描く小説
【佐藤優】外交官の論理力、安倍政権と共産党、研究不正が起きるシステム
【佐藤優】遅読家のための読書術、電気の構造、本屋大賞
【佐藤優】外山滋比古/思考の整理学
【佐藤優】何が個性で、何が障害か
【佐藤優】大宅壮一ノンフィクション賞選評 ~『原爆供養塔』ほか~
【佐藤優】英才教育という神話
【佐藤優】資本主義の内在的論理
【佐藤優】米国の戦略策定、『資本論』をめぐる知的格闘、格差・貧困問題の起源
【佐藤優】偉くない「私」が一番自由、備中高梁の新島襄、コーヒーの科学
【佐藤優】フードバンク活動、内外情勢分析、正真正銘の「地方創生」
佐藤優】日本の政治エリートと「天佑」、宇宙の生命体、10代が読むべき本
【佐藤優】組織成功の鍵となる人事、ユダヤ人の歴史、リーダーシップ論
【佐藤優】第三次世界大戦の可能性、現代東欧文学、世界連鎖暴落
【佐藤優】司馬遼太郎の語られざる本音、深層対話、米政府による暗殺
【佐藤優】著名神学者のもう一つの顔 ~パウル・ティリヒ~
【佐藤優】総理が靖国参拝する理由、NPO活動の哲学やノウハウ、テロ対策の必読書
【佐藤優】今後、起こりうる財政破綻 ~対応策を学ぶ~
【佐藤優】社会の価値観、退行する社会
【佐藤優】夫婦の微妙な関係、安倍政権の内在的論理、警察捜査の正体
【佐藤優】情緒ではなく合理と実証で ~社会の再構築~
【佐藤優】中曽根康弘、21世紀の資本主義分析、北樺太の石油開発
【佐藤優】日本人の思考の鋳型、死刑問題、キリスト教と政治
【佐藤優】中国株式市場の怪しさ、イノベーションの障害、ホラー映画の心理学
【佐藤優】普天間基地移設問題の本質、外務省犯罪黒書、老後に快走!
【佐藤優】シリア難民が日本へ ~ハナ・アーレント『全体主義の起源』~
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【南雲つぐみ】タンパク源を大切に ~ゆで卵の殻を早業でむくコツ~

2018年02月27日 | 医療・保健・福祉・介護
 卵は貴重なタンパク源。ゆで卵にすると気軽に摂取することができる。
 卵をそのまま鍋に入れ、卵が半分漬かるくらいの水を入れて火にかける。火加減を調節しながら、5分間沸騰させる。火を止めて、5分置くと、やや半熟のゆで卵ができる。
 早業で殻をむくコツを紹介したい。卵を容器に入れて水道水で少し冷やしたら、水を少しだけ残して容器のふたを閉めて、シャカシャカと振る。こうすると卵の殻に細かなひびが入るので、冷水の中でむく。熱いゆで卵を急速に水で冷やしながらひびを入れたので、殻と身との間に水が入って、とてもむきやすくなる。
 毎日の食事で米やパンなどの糖質を少なめにする「ロカボ(糖質制限)ダイエット」を行う人が増えている。まったくご飯やパンを食べないというわけではなく、「制限=控えめ」という緩やかな方法であり、カロリー(エネルギー)制限をしないので空腹を我慢しなくていいのがポイントだ。この食事法では、卵や豆類はタンパク源として積極的に食べていいとしている。

□南雲つぐみ(医学ライター)「タンパク源を大切に ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2017年9月18日)を引用
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【佐藤優】テロリズム思想の変遷を学ぶ ~沢木耕太郎『テロルの決算』~

2018年02月27日 | ●佐藤優
 (1)百年後も読み続けられることになるノンフィクションの古典。書き出しから作品の世界に引き込まれていく。
 <人間機関車と呼ばれ、演説百姓とも囃されたひとりの政治家が、一本の短刀によってその命を奪われた。
 それは立会演説会における演説の最中という、公衆の面前での一瞬の出来事であった。
 凶器は鎌倉時代の刀匠「来国俊」を模した贋作だったが、短刀というより脇差といった方がふさわしい実質を備えていた。全長一尺六寸、刃渡一尺一寸、幅八分。鍔はなく、白木の鞘に収められていた。
 その日、昭和35年10月12日、日比谷公会堂の演壇に立った浅沼稲次郎には、機関車にもなぞらえられるいつもの覇気がなかった。右翼の野次を圧する声量がなかった。右翼の妨害に立ち往生する浅沼の顔からは、深い疲労だけが滲み出ていた。委員長になって以来、さらに激しくなった政治行脚を、もうその肉体は支え切れなくなっているのかもしれなかった。しばらくの中断の後、浅沼は再び演説を始めた。
「・・・・選挙のさいは国民に評判の悪いものは全部捨てておいて、選挙で多数を占むると」
 そこで声を励まし、さらに、
「どんな無茶なことでも・・・・」
 と語りかけようとした時、右側通路からひとりの少年が駆け上がった。
 両手に短刀を握り、激しい足音を響かせながら、そのまま浅沼に向かって体当たりを喰らわせた。
 浅沼の動きは緩慢だった。ほんのわずかすら体をかわすこともせず、少し顔を向け、訝し気な表情を浮かべたまま、左脇腹でその短刀を受けてしまった。短刀は浅沼の厚い脂肪を突き破り、背骨前の大動脈まで達した。
 少年はさらに第二撃を加えたが、切先が狂い、左胸に浅く刺さったにすぎないと察知すると、第三撃を加えるべく短刀を水平に構えた。
 浅沼は驚きだけを表した顔を少年に向け、両手を前に泳がせた。そして、四歩、五歩よろめくと、舞台に倒れた。>
 17歳の右翼少年、山口二矢(おとや)に浅沼稲次郎・社会党委員長が殺害された瞬間がリアルに描かれている。山口は現行犯逮捕され、警察の取り調べを受けた後、練馬の少年鑑別所に送られた。そこでシーツを引き裂いて縊死した。
 山口は、大義のために自分の命を捨てる覚悟ができていた。だから、他人の命を躊躇せず奪うことができたのだ。
 人間は観念を持つ動物だ。どの時代にも過剰な観念を抱き、それに殉じる人たちがいる。この観念が、人びとに受け入れられ、政治的に勝利するならば、観念に殉じた人は英雄として顕彰される。政治的に破れた場合は、テロリストとして断罪される。
 このような政治的断罪を沢木耕太郎は拒否する。そして、具体的な接触は数十秒しかなかった山口と浅沼の生涯をたどることによって、観念に取り憑かれた人びとの魅力と悲喜劇を浮き彫りにすることに成功した。

 (2)当初、山口の軌跡を中心に作品を作ろうとしていた沢木氏の関心は、徐々に浅沼に移っていく。庶子に生まれたコンプレックスを封印し、激しい弾圧には耐えぬくが、二度も精神に変調をきたした浅沼は、政治の世界に生きるには線が細かったのだろう。社会党右派である浅沼が、1959年3月に社会党訪中使節団団長として北京を訪問した際、
 <「台湾は中国の一部であり、沖縄は日本の一部であります。それにもかかわらずそれぞれ本土から分離されているのはアメリカ帝国主義のためであります。アメリカ帝国主義についておたがいは共同の敵とみなして闘わなければならないと思います」>
 というエキセントリックな演説をしたのも、浅沼の信念に基づくというよりも、北朝鮮から中国に来ていた黄方秀という朝鮮人の入れ知恵だった。浅沼がこの工作に乗ってしまったのは、社会主義者でありながら、戦争に協力してしまったという自責の念からであろう。

 (3)人間的良心に付け込むのは共産国インテリジェンス機関の定石だ。
 このような北朝鮮の工作がなかったならば、浅沼は山口の標的とされることもなく、別の人生を送ったはずだ。インテリジェンス工作が人間の運命を変えてしまう典型例だ。

 (4)この作品は、偶然の結びつきから物語を紡ぎ出している点でも優れている。
 <山口二矢は浅沼稲次郎を一度、二度と刺し、もう一突きをしようと身構えた時、何人もの刑事や係員に飛びかかられ、後から羽交い締めにされた。その瞬間、ひとりの刑事が二矢の構えた短刀を、刃の上から素手で把んだ。二矢は、浅沼を刺したあと、返す刃で自らを刺し、その場で自決する覚悟を持っていた。しかし、その刃を握られてしまった。自決するためには刀を抜き取らなくてはならない。思いきり引けばその手から抜けないこともない。しかし、そうすれば、その男の手はバラバラになってしまうだろう。二矢は、一瞬、正対した刑事の顔を見つめた。そして、ついに、自決することを断念し、刀の柄から静かに手を離した・・・・。>
 沢木氏は、この話が伝説でないことを、この刑事を診察した外科医を取材することによって確認する。
 <掌に刀疵のある刑事は、浅沼稲次郎が日比谷会堂で刺された時、とっさに犯人の山口二矢に飛びかかり、素手で刀を?み、奪い取ったのだ、と医師に話した。掌に疵は残ったが、その功により警視総監賞を貰うことができたともいった・・・・。>
 後に神経性の高血圧で二矢の父、山口晋平がこの医師の治療を受ける。世の中は実に狭い。
 現在、世界的規模で「イスラム国」(IS)をはじめとするイスラム教原理主義過激派が、無差別自爆テロを行っている。自らが正しいと考える理念のために自分の命を捧げる覚悟をし、他人の命を奪っていいという信念は山口もISも同じだ。
 しかし、山口は、無差別テロは考えていなかった。テロリズム思想の変遷について学ぶ上でも本書は有益だ。

□佐藤優「沢木耕太郎/テロルの決算 テロリズム思想の変遷を学ぶ ~ベストセラーで読む日本の近現代史 第38回~」(「文藝春秋」2016年月号)
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 【参考】
【佐藤優】住所格差と人生格差、人材育成で企業復活、教科書レベルの知識が必要
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【南雲つぐみ】辛いシシトウの理由 ~クマ撃退用の催涙スプレーにも~

2018年02月27日 | 医療・保健・福祉・介護
 シシトウは好きだが、ごくたまに、まるでトウガラシを食べてしまったかのような猛烈な辛さのものがある。つい先日、そんなシシトウを食べてしまい、まさに「目から火が」出る思いをした。
 この辛み成分は、唐辛子と同じ「カプサイシン」と呼ばれる物質。発汗を促したり食欲を増加させたりするなど、人体への良い効果が最近よくいわれるが、その刺激作用は強い。クマ撃退用の催涙スプレーやネズミの忌避剤にも使われているのだ。
 シシトウやピーマンはトウガラシの仲間だが、ピーマンと同様にカプサイシンはほとんど含まれていない。ところが、農林水産省「カプサイシンに関する情報」によれば、天候が不安定になる6月や10月に土壌の水分量が急激に変わったり、夏の熱帯夜で高温が続いて水分量が不足したときなど、水分や肥料の足りないシシトウにはカプサイシンが多くなることがあるという。
 辛いシシトウにはストレスがたまっていたのだと思うとうにしよう。

□南雲つぐみ(医学ライター)「辛いシシトウの理由 ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2017年11月28日)を引用
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【南雲つぐみ】冬でも刺す蚊 ~チカイエカ~

2018年02月27日 | 医療・保健・福祉・介護
 蚊に刺されるのは夏だけかと思っていたら、最近、オフィスビルなどで冬に飛んでいる蚊を見るようになった。刺される人もいて、「やはり、地球温暖化の影響?」などと話題になっていた。
 冬でも活動する蚊は、「チカイエカ」というそうだ。人や動物の皮肌を刺して血を吸うイエカの一種で、吸血行動は産卵を控えたメスのみが行う。夏の夜、家の中でブーンという耳障りな羽音を立てて人を襲うのは「アカイエカ」だが。これは気温が下がると冬眠などで姿を消す。
 一方、チカイエカは冬眠せず、気温が高ければ吸血行動も行う。多く見かけるのは、オフィスや地下鉄の駅の構内、地下街など「都市害虫」の代表といわれる。今のところ、九州、四国、本州の都市近郊で見られていて、沖縄では報告されていない。
 チカイエカはビルの浄化槽などで発生するため、完全駆除はなかなか難しい。発生源となっている浄化槽の周りを薬剤処理できればいいが、難しいときは、蚊取り線香や殺虫スプレー(エアゾール)で対処するしかない。

□南雲つぐみ(医学ライター)「冬でも刺す蚊 ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2017年12月12日)を引用
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【南雲つぐみ】タラの芽

2018年02月27日 | 医療・保健・福祉・介護
 (前略)苦みのあるタラノメは、健胃、強壮、強精などの副作用があるとされ、糖尿病の薬ともいわれてきたそうだ。近年の動物実験では、糖尿病のマウスにタラノメの抽出物を与えても改善効果は見られなかったが、ブドウ糖を飲ませたマウスで、血糖値の上昇が7~8割も抑えられたという結果が出ている。このことからタラノメは糖尿病の治療効果ではなく、予防や悪化の防止に効果があると考えられるそうだ。

□南雲つぐみ(医学ライター)「タラノメ ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2018年2月24日)を引用
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【南雲つぐみ】頬のたるみを取るマッサージ

2018年02月27日 | 医療・保健・福祉・介護
 頬にたるみができるのは、顔の筋肉が凝っているからといわれて、改めて自分の顔に触れた。
 顔の筋肉は大きく分けて、「表情筋」と「咀嚼筋」の2種類がある。咀嚼筋はかむための筋肉で、歯茎の脇に縦に走っている太い筋肉を「咬筋(こうきん)」という。顎の両脇に手をあてて口を動かすと、咬筋が動いている様子が分かる。
 咬筋は、かむだけでなく頬や口周りの皮膚を支えている。この部分を、口の中からマッサージするといいと聞いて驚いた。しかし特に新しい方法でもなく、女性誌などでは、かなり前から取り上げられているマッサージ法なのだとか。
 口の中に親指を入れて。頬の厚みのある部分を親指と人さし指でつかみ、そのまま軽く上下に揺らしてみる。つかむ場所を変えながら行うと、凝りのある部分が分かる。口の中を傷付けないよう爪を切り、風呂の中などで試してみるといいのではないだろうか。
 咬筋の凝りをほぐすと、それと連動する顔の筋肉の緊張も緩めることができ、唾液の出も良くなるそうだ。

□南雲つぐみ(医学ライター)「口の中をマッサージ ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2018年2月26日)を引用
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【佐藤優】テロ対策に関する世界最高レベルの教科書、宇野弘蔵の経済学を取り入れたユニークな社会学演習書、シンギュラリティ神話の脱構築

2018年02月26日 | ●佐藤優
 ①ボアズ・ガノール(佐藤優・監訳、河合洋一郎・訳)『カウンター・テロリズム・パズル 政策決定者への提言』(並木書房 2,700円)
 ②中村英代『社会学ドリル』(新曜社 1,900円)
 ③新井紀子『AI vs.教科書が読めない子どもたち』(新東洋経済新報社 1,500円)

 (1)①は、日本のテロ研究の水準を底上げする。著者のガノール教授は、イスラエルのヘルツリヤ学際センター・国際カウンター・テロリズム政策研究所(ICT:International Institute Counter-Terrorism)の創設者で、テロ問題の国際的権威だ。本書は理論と実務において、テロ対策に関する世界最高レベルの教科書だ。戦争が生き物であるのと同様に、テロも生きている。それだけに、テロの形態に対応して、民主主義国家は従来の人権基準に反する行為をせざるを得なくなっていることについて、ガノール教授は、
 <民主主義を守るため、非民主的手段を使う>
 という必要性を説く。

 (2)②は、方法論にマルクス経済学者、宇野弘蔵の経済学を取り入れたユニークな社会学演習書だ。
 <現代社会では、個人は自分の労働力を売り、それによって得た賃金でさまざまな商品を購入して生活する。社会全体が基本的に賃労働関係と売買関係の経済法則、つまりすべてが貨幣を媒介したやりとりに従う>
 と中村氏が強調するように、労働力商品化を基盤に据えて社会を分析するという視座はとても重要だ。現代社会学と宇野経済学哲学を接合しようとする有意義な試みだ。このアプローチの延長に宇野経済学が再生する可能性があるように思える。中村氏の次作が楽しみである。

 (3)③で著者は、巷間に流布しているAI(人工知能)が神になる、AIが人類を滅ぼす、AIが人間の知能を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)が来るという言説は、全て誤りであると退ける。その理由が実に明晰で説得力がある。
 <論理、確率、統計。これが4,000年以上の数学の歴史で発見された数学の言葉のすべてです。そして、それが、科学が使える言葉のすべてです。次世代スパコンや量子コンピューターが開発されようとも、非ノイマン型と言おうとも、コンピューターが使えるのは、この3つの言葉だけです。
 「真の意味でのAI」とは、人間と同じような知能を持ったAIのことでした。ただし、AIは計算機ですから、数式、つまり数学の言葉に置き換えることのできないことは計算できません。では、私たちの知能の営みは、すべて論理と確率、統計に置き換えることができるでしょうか。残念ですが、そうはならないでしょう>
 神学的には「有限は無限を包摂することができない」というプロテスタントのカルバン派の立場と親和的だ。シンギュラリティ神話を脱構築する好著だ。

□佐藤優「シンギュラリティ神話の脱構築 ~知を磨く読書 第237回~」(「週刊ダイヤモンド」2018年3月3日号)
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 【参考】
【佐藤優】憲法改正は見せ球に終わるか
【佐藤優】日本と米国の社会病理
【佐藤優】消費者金融のインテリジェンス
【佐藤優】官僚を信用していない国民
【佐藤優】中国が台頭しつづけたら、仏教の末法思想と百王説、時計の歴史
【佐藤優】子どもや孫の世代への重荷
【佐藤優】日本のレアルポリティーク
【佐藤優】巨大さを追求する近代的思考
【佐藤優】アナキズムという思考実験
【佐藤優】AIとの付き合い方を知る手引、宗教と国体論の危険な関係、若手官僚の思想の底の浅さ
【佐藤優】伊藤博文の天皇観と合理主義、歴史の戦略的奇襲から得る教訓、「知の巨人」井筒俊彦
【佐藤優】教育費の財源問題で政局化か
【佐藤優】ホワイトカラーの労働者化
【佐藤優】指導者たちの内在的論理を知る
【佐藤優】世界規模のポストモダン現象
【佐藤優】宗教改革の物語 ~近代、民族、国家の起源~
【佐藤優】カネとの付き合い方の秘訣、野外で生きる雑種ネコの魅力、前科者に冷たい日本社会
【佐藤優】着目すべき北極海の重要性、日本の政治文化に構造的に組み込まれている「甘え」、文明論と地政学を踏まえた時局評論
【佐藤優】リーダーが知るべき文明観、資本主義後の社会構想、刑務所暮らし経験者の本音
【佐藤優】地図から浮かぶ歴史のリアル、平成不況は金融政策のミス、実証的データに基づく貧困対策
【佐藤優】ケータイによる日本語の乱れ、翻訳の技術、ロシア人の内在的論理
【佐藤優】武蔵中高の教育、ルター宗教改革の根幹、獣医師にもっと競争原理を導入
【佐藤優】社会に活力をもたらす政策、具体的生活の上に立つ民族国家、開発至上主義が破壊する永久凍土の生態系
【佐藤優】日本のフリーメイソン陰謀論、ユニークな働き方改革、自衛隊元陸将によるリーダーシップ論
【佐藤優】ハプスブルク帝国史の「もし」、最新の進化論、神童の軌跡
【佐藤優】知識を本当に身に付けるには、テロ戦争におけるドローンの重要な役割、帰宅恐怖症
【佐藤優】北朝鮮との緊張の高まりに対して必要な姿勢、時間管理と量子力学、時間がかかるのは損
【佐藤優】川喜田二郎『発想法』 ~総合的思考と英国経験論哲学~
【佐藤優】日本の思想状況の貧しさ、頑丈にできている戦闘機、東方正教会に関する概説書
【佐藤優】資本主義の根底にある「勤勉さ」という美徳の淵源 ~『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』~
【佐藤優】手ごわいフェイクニュース、国を動かす政治エリートの意志、欧州内部における紛争
【佐藤優】×奥野長衛『JAに何ができるのか』
【佐藤優】『戦争論』をビジネスに活かす、現実社会の悪と闘う、ロシア人の意識と使命感
【佐藤優】面白い数学啓発書、日本人の思考の鋳型、攻める農業への転換
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【佐藤優】就活におけるネット社会の落とし穴、裁判官の資質、象徴天皇制と生前退位問題
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【佐藤優】知を扱う基本的技法、ソ連人はあまり読まなかった『資本論』、自由に耐えるたくましさ
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【佐藤優】トランプ政権の安保政策、「生きた言葉」という虚妄、キリスト教の開祖パウロ
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【佐藤優】人生は実家の収入ですべて決まる? ~「下流」を脱する方法~
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【佐藤優】米国のキリスト教的価値観、サイバー戦争論、日本会議
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【佐藤優】サイコパス、新訳で甦る千年前の魂、長寿化に伴うライフスタイルの変化
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【佐藤優】人生を豊かにする本、猫も人もカロリー過剰、度外れなロシア的天性
【佐藤優】テロリズム思想の変遷を学ぶ ~沢木耕太郎『テロルの決算』~
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【佐藤優】ウラジオストク日本人居留民、辺野古移設反対を掲げる公明党沖縄県本部、偶然歴史に登場した労働力の商品化
【佐藤優】「21世紀の優生学」の危険、闇金ウシジマくんvs.ホリエモン、仔猫の救い方
【佐藤優】大学にも外務省にもいる「サンカク人間」 ~『文学部唯野教授』~
【佐藤優】訳・解説『貧乏物語 現代語訳』の目次
【佐藤優】「イスラム国」をつくった米大統領、強制収容所文学、「空気」による支配を脱構築
【佐藤優】トランプの対外観、米国のインターネット戦略、中国流の華夷秩序
【佐藤優】元モサド長官回想録、舌禍の原因、灘高生との対話
【佐藤優】孤立主義の米国外交、少子化対策における産まない自由、健康食品のウソ・ホント
【佐藤優】アフリカを収奪する中国、二種類の組織者、日本的ナルシシズムの成熟
【佐藤優】キリスト教徒として読む資本論 ~宇野弘蔵『経済原論』~
【佐藤優】未来の選択肢二つ、優れた文章作法の指南書、人間が変化させた生態系
【佐藤優】+宮家邦彦 世界史の大転換/常識が通じない時代の読み方
【佐藤優】人びとの認識を操作する法 ~ゴルバチョフに会いに行く~
【佐藤優】ハイブリッド外交官の仕事術、トランプ現象は大衆の反逆、戦争を選んだ日本人
【佐藤優】ペリー来航で草の根レベルの交流、沖縄差別の横行、美味なソースの秘密
【佐藤優】原油暴落の謎解き、沖縄を代表する詩人、安倍晋三のリアリズム
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【佐藤優】何が個性で、何が障害か
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【佐藤優】英才教育という神話
【佐藤優】資本主義の内在的論理
【佐藤優】米国の戦略策定、『資本論』をめぐる知的格闘、格差・貧困問題の起源
【佐藤優】偉くない「私」が一番自由、備中高梁の新島襄、コーヒーの科学
【佐藤優】フードバンク活動、内外情勢分析、正真正銘の「地方創生」
佐藤優】日本の政治エリートと「天佑」、宇宙の生命体、10代が読むべき本
【佐藤優】組織成功の鍵となる人事、ユダヤ人の歴史、リーダーシップ論
【佐藤優】第三次世界大戦の可能性、現代東欧文学、世界連鎖暴落
【佐藤優】司馬遼太郎の語られざる本音、深層対話、米政府による暗殺
【佐藤優】著名神学者のもう一つの顔 ~パウル・ティリヒ~
【佐藤優】総理が靖国参拝する理由、NPO活動の哲学やノウハウ、テロ対策の必読書
【佐藤優】今後、起こりうる財政破綻 ~対応策を学ぶ~
【佐藤優】社会の価値観、退行する社会
【佐藤優】夫婦の微妙な関係、安倍政権の内在的論理、警察捜査の正体
【佐藤優】情緒ではなく合理と実証で ~社会の再構築~
【佐藤優】中曽根康弘、21世紀の資本主義分析、北樺太の石油開発
【佐藤優】日本人の思考の鋳型、死刑問題、キリスト教と政治
【佐藤優】中国株式市場の怪しさ、イノベーションの障害、ホラー映画の心理学
【佐藤優】普天間基地移設問題の本質、外務省犯罪黒書、老後に快走!
【佐藤優】シリア難民が日本へ ~ハナ・アーレント『全体主義の起源』~
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【佐藤優】人生は実家の収入ですべて決まる? ~「下流」を脱する方法~

2018年02月25日 | ●佐藤優
 (1)本書【注】は、ノーベル経済学賞を受賞した米国のヘックマン教授が40年以上にわたる追跡調査によって就学前の幼児教育が経済的に大きな効果をもたらすことを証明した名著だ。
 最近、日本でも「就学前教区によって子どもが将来、富裕層になる可能性が高まる」という議論をする人が増えてきたが、その種本になっているのが本書だ。

 (2)もっとも、ヘックマンは就学前教育によって富裕予備軍を育成せよと主張しているのではない。貧困問題の解決策として幼児の環境に注意を向け、以下の警鐘の鳴らしているのである。
 <今日のアメリカでは、どんな環境に生まれあわせるかが不平等の主要な原因の一つになっている。アメリカ社会は専門的な技術を持つ人と持たない人とに両極化されており、両者の相違は乳幼児期の体験に根差している。恵まれない環境に生まれた子供は、技術を持たない人間に成長して、生涯賃金が低く、病気や十代の妊娠や犯罪など個人的・社会的なさまざまな問題に直面するリスクが非常に高い。機会均等を声高に訴えながら、私たちは生まれが運命を決める社会に生きているのだ。
 生まれあわせた環境が人生にもたらす強力な影響は、恵まれない家庭に生まれた者にとって悪である。そして、アメリカ社会全体にとっても悪である。数多くの市民が社会に貢献する可能性を失わせているのだ>
 適切な社会政策を実施することによって、状況の抜本的な解決が可能であるとヘックマンは考える。

 (3)米国において、特に深刻な状態に置かれているのがひとり親家庭の子どもだ。
 <ひとり親家庭で育つ子供の割合は劇的に増加しており、その主要な原因は未婚のまま子供を持つ母親が著しく増えていることにある。未婚の母親を持つ5歳以下のすべての子供の割合は、学校教育から脱落した女性を母親として生まれた子供の35パーセント以上にのぼっている。この傾向はとくにアフリカ系アメリカ人で顕著である。高学歴女性を母親に持つ子供と低学歴女性を母親似持つ子供との環境格差が生まれている。
 高学歴な女性の就労率は、低学歴な女性の場合よりはるかに高い。同時に、広範囲な調査研究によれば、大卒の母親は低学歴な母親よりも育児に多くの時間を割き、とくに情操教育に熱心だ。彼女たちはわが子への読み聞かせにより多くの時間をかけ、一緒にテレビを観る時間はより少ない。教育程度が高い女性が未婚で子供を産む率は10パーセント未満だ。彼女たちは結婚も出産も比較的遅く、教育を修了することを優先する傾向が強い。自分自身の収入も配偶者の収入も安定している。子供の数が少ない。こういった要素がはるかにゆたかな子育て環境をもたらし、それが子供の語彙や知的能力に劇的な違いをもたらす。両親が安定した結婚生活を営んでいる子供には恩恵がとくに明白で、子育ての質においての、持つ者と持たざる者との格差は、過去30年間に拡大した。高学歴の女性を母親として安定した結婚生活を営む家庭に生まれ育つ子供は、そうでない子供よりも著しく有利だ。要するに、高学歴な母親ほど仕事を持ち、安定した結婚生活を営み、わが子の教育に熱心だということだ>

 (4)(3)のような状況だと、両親が高学歴で安定した結婚生活を営んでいる家庭の子どもは、知識と情操の両面で良好な教育が受けられるので、小学校に入ってからも学業も体育も素行も優秀で、高等教育機関に進む可能性が大きく開かれる。そして学校を終えた後も比較的高収入の職に就き、同じ階層から配偶者を見つけ、自分が受けたのと同じような良好な教育環境を子供に保証する。

 (5)低学歴のひとり親のもとで育てられた子どもは、人生のスタート時点での遅れを一生取り戻すことができない。だから、政府が適切な関与を就学前児童に対して行う必要がある。その場合、給付金政策はほとんど意味を持たないとヘックマンは考える。
 <貧困に対処し社会的流動性を促進するために、所得の再分配を求める声は多い。だが、最新の研究は、再分配はある時点では確実に社会の不公平を減じるものの、それ自体が長期的な社会的流動性や社会的包容力【訳注:社会的に弱い立場にある人々を排除・孤立させるのではなく、共に支え合って生活していこうという考え方】を向上させはしないと主張している。事前分配--恵まれない子供の幼少期の生活を改善すること--は社会的包容力を育成すると同時に、経済効率や労働力の生産性を高めるうえで、単純な再配分よりもはるかに効果的である。事前分配政策は公平であり、経済的に効率がいい>
 
 (6)貧困層に属する人々は、生活習慣においても「弱い」人が多い。就学前の子どものために政府が補助金を支給しても、親がその金で酒を飲んだり、ギャンブルに使ってしまったりする可能性は排除されない。このような給付金よりも、就学前教育を義務化するとともに、教材費、給食費を含め、一切、無償化することの方がずっと効果が期待できる。
 日本においても、子どもの貧困が深刻な問題になっている。現在も行政や民間のボランティア団体が、貧困層の子どものためにさまざまな活動を展開しているが、事態の悪化を食い止めることができていない。保育園・幼稚園を義務教育化し、親の経済力に関係なく、子どもにはできるだけ平等に知育、徳育、体育のバランスが取れた教育を無償で受けさせられるような制度設計が必要だ。それにかかる2兆円程度の経費は、消費税を1%上げれば確保できる。その結果、将来、生活保護に頼る人が減り、納税者が増えるわけだから、経済合理性もある。

 【注】ジェームズ・J・ヘックマン(古草秀子・訳)『幼児教育の経済学』(東洋経済新報社、2015)

□佐藤優「実家の収入で人生はすべて決まる?「下流」を脱する方法 ~名著再び、 ビジネスパーソンの教養講座 第22回~」(「週刊現代」2017年1月28日号)
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 【参考】
【佐藤優】米国のキリスト教的価値観、サイバー戦争論、日本会議
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【南雲つぐみ】このごろ米国に流行る「コンブ茶」

2018年02月25日 | 医療・保健・福祉・介護
 数年前から、アメリカやカナダ、ハワイなどで「コンブ茶(Kombucha)」という飲料が定着しているという。しかし、昆布茶のことではない。日本で1975年ごろに流行した紅茶キノコのことだ。
 紅茶キノコは、紅茶に砂糖を入れ、酵母菌などを加えて発酵させたもの。これを飲む健康法が大ブームになった。
 当時は、大きな容器に手作りする家庭が多かった。わが家でも一時期作っていたようだが、茶色い液体の中に、クラゲのようなゼリー状の物体が浮いていて、飲みたいとは思えなかった。
 実際の健康効果はどうだったのだろうか。75年に出た論文では、発酵の過程で砂糖(ショ糖)が分解され、ブドウ糖や麦芽糖などの還元糖が増えることや、ビタミンCが増えることが報告されている。
 海外のコンブ茶は、瓶入り飲料として販売されている。酵素、乳酸菌、アミノ酸、ポリフェノールなどが含まれ、抗酸化作用が高いとされている。

□南雲つぐみ(医学ライター)「「コンブ茶」 ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2018年2月23日)を引用
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【社会】アマゾンと日本企業の物流との間には「大学生と小学生」の差がある

2018年02月25日 | 社会
 (1)翌日配送や、1時間以内配送など、驚くべき配送スピードを実現し、高い顧客満足度を維持するアマゾン。ユーザーから見ると、生活を便利にしてくれるありがたい存在だが、アマゾンと直接取引をしている企業には、そのビジネスのやり方が「冷酷だ」と映ることも多いという。
 日本でもアマゾンが通販ビジネスのサービスレベルを圧倒的に引き上げ、他の企業はそのレベルについていこうと必死になっている・・・・そんな構図が見える昨今だが、なぜアマゾンはこのような強さを発揮できるのだろうか。俗に言うような冷酷さが、アマゾンの本当の姿なのだろうか。そして、日本企業は、アマゾンに対抗することができるのだろうか。

 (2)林部健二(現・株式会社鶴代表)は、アマゾンジャパンが設立された翌年の2001年に同社に入社し、10年ほど、サプライチェーン部門とテクニカルサポート部門の責任者を歴任した。そこで見えたアマゾンの強さの秘密と、日本企業がアマゾンに対抗する術を、ここで紹介する。より詳しくは、林部著『なぜアマゾンは「今日中」にモノが届くのか』(プチ・レトル)が参考となる。

 (3)まず、アマゾンの物流面での強さは、その特異な「物流戦略」にある。
 アマゾンでは、一般の会社に比べて物流の重要度が非常に大きい。それは物流への投資の大きさに表れている。アマゾンの2016年12月期の業績を見ると、売上高15兆9,431億円(2016年12月28日時点の為替レートで計算)に対して、その13%をFulfillment(フルフィルメント、物流関連)費用にあてている。
 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会の「2016年度物流コスト調査報告書」によると、日本の小売業の売上高に対する物流コストの比率の平均は4.85%であるから、アマゾンの物流コストがどれほど大きいかが分かる。

 (4)この物流に対するコミットメントが、人材の面にも表れている。アマゾンでは、MBAを取得した人間が倉庫管理者に就いていることが多い。物流を管理するには、物流のことだけがわかればいいのではなく、経営がわかり、システムがわかる人材が必要であるとの考えがベースにある。その視点で、優れた人材を物流にあてているのだ。

 (5)その他、EDIと呼ばれるシステムで他の取引企業とデータ連携し、製造業並みのサプライチェーン管理を行っていることや、独自の需要予測システムによる購買管理、注文から納品までフルフィルメントパスを最適化する仕組み、需要予測やEDIと連動した在庫管理、Kivaというロボットを活用し、フリーロケーション(商品ごとの保管場所が決まっていない保管形式)を前提とした倉庫管理などが、アマゾンの物流の高いサービスレベルを作り上げている。そのどれか一つが欠けるだけで、このサービスレベルは維持できなくなるだろう。
 また、その物流戦略のベースにあるのが、「アマゾン式ロジカル経営」とでも言うべき、数値に基づく経営だ。KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)、オペレーション、システムの3本柱が、このロジカル経営を支えている。KPIを定めている会社は多いが、アマゾンほど厳密にレビューし、オペレーション改善に活かしている会社を見たことがない。
 KPIをレビューするための週次経営会議と、そこでのアクションプランに基づくオペレーション改善が、アマゾンのオペレーションをどんどん最適化していく。そしてそれ以外にも、社内に根付いているオペレーション改善の意識と、それを具体的なタスクに落としていくための課題管理票のシステムが、日々の高速なPDCAを実現している。

 (6)さらに、アマゾン独自の要求と、日々変わるオペレーションに柔軟に対応するシステム開発を可能にするため、内部で開発者を抱え、あらゆるシステムを内製化している。アマゾンのビジネスにおけるシステムの重要度を表すかのように、エンジニアの地位も待遇も、社内では非常に高いのが特徴的である。
 アマゾンが取引企業に「冷酷だ」と見られることがあるのは、このように、あくまで数値に基づいてロジカルな判断を行うからだ。というのも、アマゾンの判断基準はあくまで「最終的に顧客のためになるかどうか」「アマゾンの利益になるかどうか」だからだ。
 アマゾンの利益になれば、「安さ」という形で顧客に還元できるので、それも最終的には顧客のためになる。つまり「顧客至上主義」がアマゾンのビジネスのベースにある。そのビジネスのやり方は、日本企業の商慣習である「昔からお世話になっているから」といった浪花節的な判断基準とは相反する。だから反感を買うこともあるのだ。

 (7)アマゾンは商品カテゴリを増やし続けており、今や小売企業で通販を行う企業のほとんどは、アマゾンと競わざるを得ない。特に物流の面で、アマゾンの強さに対抗していく必要がある日本企業も多いだろう。
 では、日本企業はアマゾンの真似をすべきなのだろうか。否。
 「アマゾンと他の日本企業の物流システムの現状は、大学生と小学生ほども差がある」
 アマゾンの物流の強さは、アマゾンが20年以上かけて毎年莫大な投資をしながら作り上げてきたものであり、一朝一夕に真似できるものではない。同じ土俵に立っても勝ち目がないとするならば、アマゾンの真似をするのではなく、別の戦い方をすべきである。
 それはアマゾンにはない、自分たちだけの強みは何かを考えることだ。それを見つけ、磨いていくことができれば、全ての顧客をアマゾンに持っていかれることはない。

□林部健二(株式会社鶴代表)「アマゾンと日本企業の物流には「大学生と小学生」の差がある」(「週刊ダイヤモンド」2017年1月27日号)
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【南雲つぐみ】口中調味 ~健康なご飯~

2018年02月25日 | 医療・保健・福祉・介護
 ご飯とおかずを一緒に口の中に入れて、よくかむことでより複雑な味わいを楽しむ方法を「口中調味」という。伝統的な和食では、普通に行われてきた食べ方だ。おいしいお総菜を食べると「ご飯が食べたい」と感じるのは、この味を舌が知っているからかなのかもしれない。
 日本食には欠かせない米飯が、パンやパスタ、うどんなど他の主食と違うのは、塩分をまったく含んでいないこと。このため、口中調味ができるし、例えば刺し身と煮物の間にご飯を食べることで、それぞれの味を新鮮に感じることもできる。漬物やみそ汁は塩分が強いといわれるが、ご飯をある程度食べることで、全体の塩分を調節することもできるのだ。
 最近は「ベジタブルファースト」といって、まず野菜だけを食べ、そのあと肉や魚、ご飯などの炭水化物は最後に食べる方法も勧められている。あまり糖質を吸収しない食べ方ができるという。
 もし、ご飯抜きでおかずだけを食べる、ご飯の代わりにパンを食べるなら、味付けはかなり薄味を心掛ける必要がある。

□南雲つぐみ(医学ライター)「口中調味 ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2018年2月16日)を引用
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【佐藤優】悪はどこから入りどこから去っていくのか ~『なぜ私たちは生きているのか』~

2018年02月24日 | ●佐藤優
 <19世紀ロシアが生んだ天才ウラジーミル・ソロヴィヨフは、大川周明、西田幾多郎にも影響を与えました。主著は『神人論』と『三つの会話』です。著作集の『三つの会話』(『ソロヴィヨフ著作集<5>三つの会話--戦争・平和・終末』刀水書房)に収録されている「反キリストに関する短編物語」は、黄禍(こうか)論の根っこになった作品なので、興味のある読者は読んでみてください。あらすじを簡単に紹介すると、19世紀の終わり、極東の島国日本が欧米の文物を模倣し急速に技術力をつけるとともに帝国主義的な拡張をし、まず朝鮮半島、そして中国への侵略を開始する。その結果、中国からモンゴルを支配することになり、東京からモンゴルのカラコルムに遷都して新モンゴル国をつくり、中国人モンゴル人と一緒に世界最終戦を西側世界に対して仕掛けていく。ロシア、東欧は日本の占領下に入り、ついにヨーロッパで決戦が行われるのですが、そのときにキリストの生まれ変わりという若者が現れるんです。そして新モンゴル軍を打ち破り、全ヨーロッパの皇帝となるのだけれども、実はこの若者は反キリストだった。それで反キリストの支配に対して、ローマ教会のペトロ教皇とプロテスタントの神学者パウロ教授、ロシアの山奥の修道院にいるヨハネ長老が連合して戦い、反キリストを叩き潰すんです。
 フョードロフもソロヴィヨフも、永遠の命を得ていくことに目的を置いているキリスト教であり、これはヨハネ福音書のラザロの復活と通じます。それに対して、マタイ福音書、マルコ福音書、ルカ福音書は、神の国に入ることを目的としている。キリスト教徒としてなぜ生きているのかという、目的が違う。それですから、ラザロの復活の話は、ヨハネ福音書にしかありません。【注】>

 【注】<ヨハネ福音書は、他の三つの福音書とは編集方針が違っており、グノーシス的な考えが色濃く出ています。ちなみに聖書は、ヨハネとかマルコとかいった個人の作品ではなくて、教団が編集委員会方式でつくっているものです。ヨハネ福音書は、特殊な神学的な立場を持っていたヨハネ教団がつくったものです。>【本書Ⅲ章の「破壊的な悪の力を包むには」】

□高橋巖×佐藤優『なぜ私たちは生きているのか シュタイナー人智学とキリスト教神学の対話』(平凡社新書、2017)の「Ⅲ宗教--善と悪のはざまで」の「悪はどこから入りどこから去っていくのか」から一部引用
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 【参考】
【佐藤優】現代人は悪に鈍感 ~『なぜ私たちは生きているのか』~
【佐藤優】見えるお金が見えない心を縛る ~『なぜ私たちは生きているのか』~
【佐藤優】生活のなかに植え付けられた資本主義 ~『なぜ私たちは生きているのか』~
【佐藤優】プロテスタンティズムと資本主義は関係ない ~『なぜ私たちは生きているのか』~
【佐藤優】個別主義・全体主義・普遍主義 ~『なぜ私たちは生きているのか』~
【佐藤優】ルター派教会とナチズム ~『なぜ私たちは生きているのか』~
【佐藤優】キリスト教は「絶対他力」の宗教 ~『なぜ私たちは生きているのか』~
【佐藤優】『なぜ私たちは生きているのか シュタイナー人智学とキリスト教神学の対話』目次
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【南雲つぐみ】梅の香り ~酢酸ベンジル、ベンズアルデヒド、etc.~

2018年02月24日 | 医療・保健・福祉・介護
 2月の陰暦のでの別名は「梅つ月」。酷寒で梅の開花は遅れ気味だが、各地で梅が見ごろを迎えている。
 香りの専門家による分析によれば、梅の花の香りのもとになっているのは、酢酸ベンジル、オイゲノール、ベンズアルデヒドなどの成分だ。このうち、酢酸ベンジルは白梅の花、ベンズアルデヒドは紅梅に多く含まれているという。オイゲノールはどちらにも含まれるそうだ。(サクラとウメの花の香り」堀内哲嗣郎著、フレグランスジャーナル社)
 白梅と紅梅で、もしどちらかの梅園のほうが好みなら、色だけでなくその香りが自分に合っているのかもしれない。
 なお、酢酸ベンジルは、アロマセラピーに使う精油ではイランイランやジャスミンなどにも含まれている。リラックスや鎮静の目的で使われる香りだ。ベンズアルデヒドは、モモやアンズの香気のもとにもなっている成分で、香水の材料として広く使われている。
 オイゲノールはタイムやクローブ、シナモンなどスパイスにも多く含まれている。

□南雲つぐみ(医学ライター)「梅の香り ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2018年2月21日)を引用
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【佐藤優】現代人は悪に鈍感 ~『なぜ私たちは生きているのか』~

2018年02月23日 | ●佐藤優
 <いまの時代は既成のアカデミズム、特に大学がポストモダン的な作業に没頭してしまい、近代実証主義の枠から外れたことを扱うことが苦手になっていますね。人間の体験知のごく一部だけが守備範囲なので、超越的なものである見えない世界を扱えなくなってしまっている。この章のテーマは宗教ですが、超越的なものに接するところには、必ず宗教が出てきます。
 たとえば、われわれ人類は、ほかの動物を殺して、その命を得ることで生きています。菜食主義者も生態系に影響を与えているわけですから、何も殺さずに人間が生きていくことはできないのですが、ふだんは無自覚なまま生活をしています。恋愛をするにしても、相手にDVされることがあるかもしれないし、ストーカーに殺されることがあるかもしれない。いい意味でも悪い意味でもそういう超越的なものに遭遇する可能性があるにもかかわらず、意識することなく暮らしている。
 これは、現代のわれわれが悪のリアリティに鈍感になっているからではないかと思います。西洋の正統的な学問は、アウグスティヌスの強い影響下にあります。アウグスティヌスは、悪を「善の欠如(privatio boni)」ととらえ、スイスチーズの穴のように、善が入っていない部分が悪だというふうに考えていました。これでは、悪自体が見えなくなってしまう。人間には当然ながら悪の部分があるので、アウグスティヌスの考え方でいくと、人間も見えなくなってしまいます。>

□高橋巖×佐藤優『なぜ私たちは生きているのか シュタイナー人智学とキリスト教神学の対話』(平凡社新書、2017)の「Ⅲ宗教--善と悪のはざまで」の「現代人は悪に鈍感」から一部引用
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 【参考】
【佐藤優】見えるお金が見えない心を縛る ~『なぜ私たちは生きているのか』~
【佐藤優】生活のなかに植え付けられた資本主義 ~『なぜ私たちは生きているのか』~
【佐藤優】プロテスタンティズムと資本主義は関係ない ~『なぜ私たちは生きているのか』~
【佐藤優】個別主義・全体主義・普遍主義 ~『なぜ私たちは生きているのか』~
【佐藤優】ルター派教会とナチズム ~『なぜ私たちは生きているのか』~
【佐藤優】キリスト教は「絶対他力」の宗教 ~『なぜ私たちは生きているのか』~
【佐藤優】『なぜ私たちは生きているのか シュタイナー人智学とキリスト教神学の対話』目次
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