語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】東芝が危機に陥った原因は「サラリーマン全体主義」 ~『東芝 原子力敗戦』~

2017年08月27日 | 震災・原発事故
★大西康之『東芝 原子力敗戦』(文芸春秋、2017/1,728円) 
 
 我々が知りたいのは、東芝の決算をめぐる泥仕合や半導体事業売却の混迷ではなく、なぜこの会社が原発ビジネスの泥沼に引きずり込まれたかだ。本書はまさにこの点に、正面から迫る。
 当初、東芝の問題とは粉飾決算のことだとされ、歴代三社長による「チャレンジ」なる用語が一世を風靡した。ところがこれは、米国原子炉メーカーのウェスチングハウス社(WH)の経営危機を隠すための、巧妙な陽動作戦だった。
 実は国際的には、すでに原発は儲からないビジネスとなっていた。原発安全規制が強まり、そのコストが嵩(かさ)む一方、シェールガスや再生可能エネルギーの価格低下が起き、原発は競争力を失った。WHは、米国企業も英国企業も手を焼いて手放した代物だった。それを東芝は、三菱重工と競って高値づかみしたのだ。
 なぜ、そんな会社を東芝は子会社にする必要があったのか。東芝を、国策としての原発輸出に引き込んだのは、経済産業省だった。WH買収は、日本の原子力産業が海外飛躍する切り札のはずだった。だが、国策は不発に終わり、開けてみればWHは火の車だった。
 著者は、少なくとも二度(2009年と、11年の福島第一原発事故後)、軌道修正のチャンスがあったと強調する。だがそれも、「これは国策だ」の大声にかき消される。東芝が代わりに取り組んだのが、「原発の将来は明るい」との強弁と、損失をなかったことにする会計操作だった。
 著者は、東芝が危機に陥った原因を、「サラリーマン全体主義」に見いだす。「チャレンジ」という名の粉飾指示に、唯々諾々と従った一般社員たち。国策と心中しつつも、その当否判断から逃げる幹部たち。だが、判断を預けられた官僚たちも、惨憺たる結果に責任を取ることはない。
 思考停止、無責任、同調主義、こんな「サラリーマン全体主義」から脱却できるか否かに、東芝再生の未来はかかっている。

□諸富徹(京都大学教授・経済学)「(書評)『東芝 原子力敗戦』 大西康之〈著〉」(朝日新聞デジタル 2017年8月27日)を引用
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【原発】千葉県の被害甚大 ~地価で推定した放射能汚染被害額3兆円~

2017年08月06日 | 震災・原発事故
 <(前略)原子力発電の費用を考える際に避けて通れないのが事故が起こった際の損害の大きさの推定である。福島第一原発の事故で発生した損害の大きさは今後の参考になるが、その一つが、放射能汚染によって発生した土地に対する損害の大きさである。避難指示区域に関しては損害の大きさが推定され、補償などにも用いられているが、放射能汚染は広域にわたっており、その全域における被害額はまだ知られていない。
 そこで筆者は、日本大学の行武憲史准教授と共に、文部科学省が作成した放射能汚染マップと国土交通省が作成した土地取引価格のデータベースの情報を接合し、放射能汚染が起こった地域における事故前後の取引価格の変動を調べることで、放射能汚染がその程度に応じて土地価格をどれだけ引き下げるかを推定した。その上で、放射能汚染が起こった住宅地の面積をそれぞれの汚染の程度ごとに求め、汚染の程度が土地価格に与える影響と掛け合わせることで住宅地に対して与えられた損害の総額を計算した。
 放射能汚染の濃度と地価下落の関係について置く想定によって住宅地の被害総額は変わってくるが、筆者らが出した推定値は3兆円となった。県別では千葉県が9,300億円と最も被害が大きく、福島県の6,900億円がそれに続いた。千葉県における放射能汚染の度合いは比較的限定的であったものの、元の地価が高かっただけに大きな被害をもたらした。(後略)>

□川口大司(東京大学経済学研究科教授)「千葉県の被害甚大/地価で推定した放射能汚染被害額 3兆円 ~数字は語る~」(「週刊ダイヤモンド」2017年8月12日号)から引用
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【神戸】市、「同じ環境で再開」希望する店主らにつけ込む ~誰のための商店街再開発か~

2017年06月03日 | 震災・原発事故
 (1)神戸市長田区で中華料理店「雲来軒」を経営していた染谷繁さん(75歳)は、震災で店を失い、仮設店舗で3年間営業し、2000年ごろに同じ長田区にある大正筋商店街の「アスタくにづか」(アスタ)5番館1階の20平米を購入した。
 分譲価格は約3,000万円。店舗はスケルトン(壁や柱のみの状態)なので内装に費用がかかった。当初は客が入ったが、最近は馴染み客も高齢で来なくなった。若い人は三宮や元町に行ってしまう。月5万円以上の管理費で赤字が続く。
 連休でもアスタの人通りはまばら。鉄人28号がそびえるJR新長田駅近くの公園がある国道2号線より北側はましだが、南側はガクッと客足が減る。

 (2)震災から4年後の1999年、新長田駅南側に最初の再開発ビル「アスタ」がオープンした商業エリアは、地下1階から地上2階までの全9棟、合計37,000平米。アーケードを歩いていては分からないが、両側は9棟の高層ビルで上階は分譲マンションだ。
 下町の風情がある商店街は、あの激震と猛火で灰燼に帰した。だが、震災から2ヵ月後の1995年3月17日、神戸市は突然、予算約2,710億円で高層ビル39棟を新長田駅南側に建設する「西日本最大の再開発計画」を発表した。
 地権者が個別に再建することを許さずに土地を買い上げ、商売を再開する人には賃貸を認めずに分譲購入を義務づけた。「同じ場所で商売を再開したい」という切実な思いに市はつけ込んだ。市は、残った床を「一般公募」したが、売却はゼロ。つまり、震災前からここで商売をしていた人しか購入していない。
 目立つ空床を隠したい市は、先に分譲購入させた人に内緒で「賃貸」に変更し、家賃をダンピングして内装費にも多額の補助を出した。145平米もの床を月額たった1万円で貸すなど、固定資産税さえ下回る滅茶苦茶なダンピングで資産価値は暴落した。
 分譲購入した人が売却しようとしても、不動産屋から「値がつかない」と言われてしまった。

 (3)2012年、店主ら52人が「住宅部分より店舗の管理費が不当に高いのは違法」として管理会社の第三セクター「新長田まちづくり(株)」(まち社)を相手に、約3億円の返還を求めて裁判を起こした。
 「マンションの居住者と最大8.69倍もの差があるのは不当。建物全体の必要経費を区分所有者の専有面積に応じて案分すべき」だと主張した。「まち社」は、必要経費を恣意的に案分して管理費を決めていた。
 しかし、2015年2月、神戸地裁は「共用部分を利用していないマンション住民にとって不利益を被る」などとして訴えを退けた。
 新長田駅から近くの地下鉄の駅まで、信号待ちのある地上を通らずに通行できる「三層プロムナード」などの共有部分はエスカレーターなどにコストがかかるが、受益者は店主たちだけではないはずだ。

 (4)一審敗訴で多くの原告が降り、現在16人が控訴審を闘う中、アスタ三番館で洋品店「PET」を経営する谷本雅彦さん(53歳)があることに気づいた。
 三番館に防災センターがあるのだが、防災費用は国道2号線から南側の店主たちが北側の分も負担させられていたのだ。
 谷本さんは、「まち社」からアスタ一番館の2011年の帳簿を見せてもらい、逆算して割り出したのだ。
 だが、こうした事実は裁判の一審ではまったく表に出なかった。「PET」の向かいのアスタ四番館で飲食店「七福」を経営する横川昌和さん(55歳)は、「『まち社』のやりたい放題は今も変わらない」と話すが、実は一番館南側では役員会で「まち社」を追放して別の民間会社に委託し直し、管理費を半額に下げさせた。
 なぜ、ほかの店舗も一致団結して「まち社」を追い出す動きにならないのか。
  「まち社」や神戸市と繋がっている人が商店振興会に結構いるから、というのが横川さんの見立てだ。「まち社」は、一部の店のみに備品類を発注するなど、搦め手から団結を阻む、というのだ。
 「七福」の売上げは震災前の4分の1。横川さんは、借金を抱えて40万円の固定資産税や7万円の管理費に苦しむ。
 谷本さんも、「管理者の『まち社』が管理会社としての『まち社』に備品などを発注し、受注している。発注者と受注者が一緒。まさにお手盛りの、利益相反行為です」と話す。 
 「管理者は住民の利益を考えなくてはならないのに、住民から法外なカネをピンハネして私腹を肥やしている」と怒るのは店主らの代理人、津久井弁護士だ。
 「防災費が、面積割で店舗がマンションの9倍にもなっていることや、国道2号線以北の分まで負担させられていることを『まち社』が隠してきたのは明らかに説明義務違反。区分所有者の面積で割るべき負担を『まち社』は『修正面積』などとごまかしている」と、津久井弁護士は話す。警備員の人件費や監視装置など防災費は管理費の半分近くを占める。
 神戸市が店舗とマンションの負担にひそかに大差をつけたのは、震災前にはなかったマンションへの入居誘致のため分譲価格を下げたかったからだ。つまり、旧来の地域住民を犠牲にして新参者を大事にしたのだ。
 
 (5)「アスタ」では店主らに不信感を抱かせる事実が次々に出ている。〈例〉五番館に入居する特別養護老人ホームが、同館の他店舗の半分の管理費負担になていることが判明し、店主らが署名運動をして是正を求めている。
 「雲来軒」の染谷さんは、「施設は『まち社』と繋がり、五番館の会長も『まち社』と“つうかあ”なんですよ。施設では700万円の使途不明金を出している」と明かす。「アスタ」開業時から管理業務を一手に牛耳る「まち社」には神戸市職員OBなどが関わり、現在は神戸商工会議所OBが役員を務める。
 兵庫県と神戸市は、「職員1,000人を持ってきて賑わいを創出する」との名目で、この長田区に合同庁舎を建設。この計画について、出口俊一・兵庫県震災復興研究センター事務局長は「空床を使えば済むはず。税金の無駄遣い」と指摘する。

 (6)過剰開発で閑散としたら、今度はさらにハコモノを建てる。神戸市の目的はゼネコンの利益のみだ。出口事務局長は、「神戸市は『役所まで持ってきてやったんや』で問題を終わりにするのではないか」と危惧する。
 長田区で起きたことは、例えるなら一軒家に住む人が突然自治体に買い上げられ、「同じ場所に住みたければマンションを建てたから購入しなさい」と言われるのとかわらない。あの災禍で独裁国家なみの強権がまかり通ったことを忘れてはならない。

□粟野仁雄(あわのまさお/ジャーナリスト)「「同じ環境で再開」希望する店主らにつけ込む神戸市 商店街の再開発はいったい誰のため? ~阪神・淡路大震災から22年(下)~」(「週刊金曜日」2017年1月20日号)
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 【参考】
【神戸】行政が「公平性」を盾に高齢者を訴え住居追い出し
【神戸】市営住宅を造らず新庁舎建設 ~被災住民の追い出し強行~
【神戸】希望の星から転落した神戸空港 ~埋立開発行政の破綻③~
【神戸】「医療産業都市」の躓きと暴走 ~埋立開発行政の破綻②~
【神戸】生体肝移植失敗の原因 ~埋立開発行政の破綻~
【震災】神戸市長田区に見る「復興災害」(2)
【震災】神戸市長田区に見る「復興災害」(1)
【旅】復興を絵画で表現できるか ~平町公の試み~
【震災】二重ローン 得するのは銀行だけだ ~その対策~
【震災】復興のカギはパイプ役(住民の自主組織) ~神戸の過ち、奥尻の教訓~
書評:『神戸発 阪神大震災以後』
書評:『復興の闇・都市の非情 --阪神大震災、五年の軌跡』

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【神戸】行政が「公平性」を盾に高齢者を訴え住居追い出し

2017年06月03日 | 震災・原発事故
 (1)川添輝子さん(73歳)は、震災まで神戸市兵庫区で夫と理容店を営んでいた。1995年1月17日、激震で自宅兼店舗は全壊。約1年間、公園の自衛隊テントで暮らす最中、夫は脳梗塞に倒れた。建て直された店舗はテナント料が高く、理容業は断念した。
 震災2年後にJR兵庫駅前の団地キャナルタウンウエスト(キャナルタウン)の抽選に応募、4号棟に入居した。都市再生機構(UR)から神戸市が借り上げて、被災者に貸与していた集合住宅だ。
 夫は、心筋梗塞も併発、2002年に他界した。
 家賃として負担するのは月1万円だが、川添さんの年金は月額数万円。「独立している2人の子どもに迷惑をかけられない」と、未明からの弁当作りと中央市場でのアルバイトで寝る間もなく働いた。
 2010年初夏、市は「(入居から)20年の契約期限までに出てくれ」と言ってきた。仰天して入居契約書を確かめたが、そんなことは書いてない。
 「最初は出なくてはいけない、と思って斡旋された市営住宅を申込みましたが、同じ団地の人に『出なくていいはず。いっしょにがんばろう』と言われて踏みとどまりました」と川添さん。
 2016年10月31日で神戸市の借り上げ期間が終了、川添さんは翌月にほかの3人の住民とともに神戸市から提訴された。

 (2)川添さんと同様に提訴された中村輝子さん(80歳)は、震災で夫を奪われた。倒壊した木造住宅に足を挟まれた夫は、猛火に襲われた。抜け出したが、翌日、大火傷が原因で亡くなった。家は再建できず、借地の返還を求められたので、2年後に当選したキャナルタウン4号棟に入居した。
 2017年1月10日、神戸地裁で、中村さんは「去年から脊柱管狭窄症を患い(中略)新しい住居で生活を始める体力がない。(中略)今の家は私の健康の一部」と意見陳述した。

 (3)神戸市は、このほかにも、これ以前に、キャナルタウンで2016年1月30日に借り上げ期限が切れた丹戸郁江(たんどいくえ)さん(72歳)と橋本敬子さん(54歳)ら3人も提訴している。

 (4)神戸市は、借り上げ住宅の入居継続要件として、①80歳以上、②要介護3以上、などの基準を設けた。
 しかし、兵庫県は80歳以上などが条件。それどころか、同じ県内でも宝塚市や伊丹市は、無条件で終の棲家にできる。県が統一すべきところだが、井戸敏三(としぞう)・知事は「それぞれ財政事情が違う」と逃げる。

 (5)提訴したのは神戸市が早かったが、最初に借り上げ期限がきたのは、兵庫県西宮市のシティハイツ西宮北口(シティハイツ)だ。西宮市は、2016年5月、退去拒否者10人を提訴し、神戸地裁尼崎支部で公判が進んだ。提訴された中下節子さん(79歳)は、病躯をおして裁判や集会に通い続けている。
 キャナルタウンもシティハイツも、裁判の論点は改正公営住宅法の適用と、住民が入居時に20年で契約期限が切れることを知らされていたかどうかだ。
 借り上げ方式の導入で、震災翌年に改正された同法は、32条1項で、借り上げ期間が満了すれば事業主体は入居者に明け渡しを請求できる、とする。一方、25条2項に、入居者を決定した際、満了時に明け渡さなくてはならない旨を通知す義務が定められている。
 改正法が適用されなければ入居者の権利を守る借地借家法が適用される。だが、西宮市と神戸市は、改正前に入居していた人にも公営住宅法を適用させようとしている。
 しかし、「事後法」は当事者に不利益になる場合は原則として適用できない。事案は民事だが、刑事事件なら「罪刑法定主義」に悖る。

 (6)被告にされた人たちは、「もし20年後に出なくてはならないなんて言われれば、最初から入りませんでした」と声を揃える。
 神戸市や西宮市は、「募集要項に明示した」とするが、肝心の入居許可証には一切書かれず、周知の努力もしていない。そもそも20年とは、住民と両市との間の契約期限ではなく、市とUR間での契約だ。
 川添さんは、「私より年上の入居者も頑張っているし、弁護士さんたちも支援して下さっているから、頑張らなくては」と笑みを見せる。
 兵庫県内の弁護士で作る借上復興住宅弁護団(団長:佐伯雄三・弁護士)は公判が終わると報告会を設けている。吉田維一(ただいち)・弁護士が丁寧に説明し、質問を受ける。
 こうした事案で行政が持ち出すのが「公平性」だ。神戸市も西宮市も「継続入居を認めれば(先に)応じて出ていってくれた人に不公平感が生じる」とする。2013年3月の県議会で、県の住宅管理課長は「公平性の観点から(中略)強制執行もあり得」ると答弁したが、まさに実現されようとしている。
 佐伯弁護士は、「脅し同然のように追い出した自治体がそれを言い出す資格は、そもそもない」と語るが、行政側は退去拒否者に「ゴネ得」のレッテルを貼りたいのだ。

 (7)阪神・淡路大震災では、被災マンションをめぐり、建て替え派と補修派の住民同士が訴訟沙汰になった。裁判は致し方なかったかもしれない。
 だが、今回は高齢の被災住民を自治体が「被告」に仕立てたのだ。「被告なんて呼ばれたら、それだけで恐ろしくて寝られません」と川添さん。
 借り上げ住宅問題にくわしい出口俊一・兵庫県震災復興研究センター(神戸市長田区)事務局長は、「訴えられた住民は、精神的苦痛などからも、神戸市長(久元喜造)や西宮市長(今村岳司)を被告にして反訴すべきだと思いますよ」と強調する。
 
 (8)20年期限を通知していなかったことについて、神戸市は「震災のどさくさだったから」(矢田達郎・前市長)などと弁明したが、それだけではない。「迅速な復興」を誇示したかった行政は、「被災の象徴として報じられる仮設住宅を一刻も早くなくす」をスローガンに震災5年目で実現。仮設などから拙速に借り上げ住宅に入居させて「一件落着」とした。
 戦後最大の大都市災害である阪神・淡路大震災での住宅不足解決の「苦肉の妙案」は大失敗だったが、今後、次々と「20年の期限」を迎える西宮市や神戸市は、自らの失敗を隠蔽して住民を提訴していくのだろうか。
 西宮市のルネシティ西宮津戸(つと)では、2017年11月末に借り上げ期限が切れる。松田康雄(69歳)・入居者連絡会会長は、「西宮市は年齢による継続入居許可すらなく、904歳を超える女性が怯えています」と怒る。
 現在、全国の都市は建設費や維持費のかかる自前の公営住宅をなるべく持たずに、「非常時は民間の借り上げで間に合わせる」政策へと舵を切るが、出口事務局長は「東北では民間から借り上げる“みなし仮説住宅”を大量に設けたが、早くなくしたい自治体と入居者の間でこじれるのでは」と心配する。
 「復興」誇示の陰で被災者が置き去りにされないように、東北の被災地でも監視すべきだ。

□粟野仁雄(あわのまさお/ジャーナリスト)「行政が「公平性」を盾に高齢者を訴え住居追い出し ~阪神・淡路大震災から22年(上)~」(「週刊金曜日」2017年1月20日号)
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【原発】「凍土壁」による汚染水対策の破綻、もう打つ手なし ~東電の惨状~

2016年09月22日 | 震災・原発事故
 (1)凍土壁を採用した理由は二つあった。
   ①遮水能力が高い。
   ②現場での施工がやりやすい。
 しかし、①が破綻している。・・・・8月18日に開かれた原子力規制委員会の特定原子力施設監視・評価検討会で、外部有識者の橘高義典・首都大学東京大学院教授は、居並ぶ東京電力の担当者に向かってたしなめるように、そう言った。
 2011年3月11日の福島第一原発事故直後の収束作業でも、喫緊の課題と言われ続けている汚染水問題への対応は、安倍晋三・首相ですら「場当たり的」というほど後手に回っている。現在、国費345億円を投じた凍土遮水壁の凍結作業が進んでいるが、東電が予測していた効果とはほど遠い状況が続いている。
 にもかかわらず、東電はデータの一部だけを抜き出して「効果が出始めている」などと説明している。
 橘教授の発言には、そうした東電の姿勢に対する苛立ちが混じっていた。

 (2)事故発生直後には、海に高濃度の汚染水が流出していることが判明したにもかかわらず、東電は汚染水を貯蔵するタンクをすぐには発注しなかった。東電と政府は、タービン建屋地下に大量に溜まっている汚染水の移送先を確保するため、別の建屋に溜まっていた比較的濃度の低い1万立米以上の汚染水を海へ放出するという異様な処置でその場をしのいだ。
 2011年7月、東電と政府は、セシウム除去装置を稼働することで、年内に汚染水の「全体量を減少する」という目標を工程表に明記した。しかし、東電はその2ヵ月後に、原子炉建屋に地下水が毎日400立米流入して、汚染水を増やしていることを認めた。この時点で、汚染水は増え続けることが明らかになり、全体量を減らすことは困難になった。
 同年12月16日、政府は「(汚染水対策の)目標が達成された」として、「事故収束宣言」を行った。しかし、その「目標」は、「全体量の減少」から「建屋内の増加抑制」にすり替えられていた。政府も問題を先送りにしたのだ。

 (3)ところが、2013年7月には、汚染水の海洋流出が続いていることが判明。東電と政府の認識の甘さが表面化した。専門家から「流出が続いている」という指摘があったが、東電は詳細な調査を行わないまま流出を否定。このため、東電への非難が高まり、政府は汚染水対策に税金を投入することを決定した。そこでまず手をつけたのが凍土壁だった。
 そもそも原子炉建屋に地下水が流入してできる汚染水の流出を防ぐための遮水壁は、2011年6月に計画が発表されるはずだった。政府が東電の本社に設置した「政府・東京電力統合対策室」は、汚染水の溜まっている建屋を遮水壁で取り囲み、地下水と隔離する計画を立案。同月14日には、東電が計画を発表するはずだった。しかし、東電は費用がかさんで債務超過になるのを恐れ、発表直前に撤回。政府はそれを了承した。
 それから2年後、2013年4月、資源エネルギー庁は増え続ける汚染水に対処するため、「汚染水処理対策委員会」を設置。5月30日までに3回の会合を開き、凍土方式の遮水壁の採用を決めた。これはもともと東電の事業だったが、汚染水の海洋流出公表をはさみ、税金による事業に変わっていた。
 しかし、凍土壁の構築は、当初から難航。福島第一原発事故現場の作業を監視する規制委員会の検討会の委員らは、原子炉建屋とタービン建屋を取り囲むように設置された「サブドレイン」(地下水を汲み上げる井戸)によって地下水量を減少させ、建屋への流入を減らすことができると考えていた。同時に、凍土壁によって建屋周辺の水位が下がると、汚染水が建屋の外に出てくるのを懸念していた。更田豊志・規制委員会委員はたびたび「凍土壁は不要ではないか」と発言している。このため凍土壁後事認可には長居時間を要し、2015年上期に凍結を開始するという計画は、結局1年遅れの2016年3月末に実施されることになった。
 その間、汚染水の海洋流出を止めるため、東電は護岸部分に設置していた鉄製の遮水壁を2015年10月末に閉合。遮水壁で行き場を失う汚染水は、護岸付近で汲み上げて濃度を確認した後、海に放出する予定だった。
 だが、実際には汚染度が高く、タービン建屋に戻すしかなかった。その量は多い時には1日300立米にもあり、汚染水全体の増加量は1日500立米に増えた。海に出ている汚染水を止めると貯蔵しなければならず、さらに汚染水が増える結果になった。

 (4)一方、2016年3月に凍結が始まった凍土壁も、いまだに明確な効果が見えてこない。東電は当初、凍土壁と「サブドレイン」の運用によって地下水の建屋への流入量が1日あたり350立米から150立米に減少すると想定。護岸からの汲み上げ量は1日100立米と想定されているから、汚染水全体の増加量は250立米になると皮算用していた。
 さらに東電は、2016年8月18日の検討会で、凍土壁は海側が99%、山側が91%が0度以下になっているとし、護岸への地下水流入量が減少するとの見方を示した。この効果により、今後は汚染水の汲み上げ量が1日70立米になると数字を下げて予測した。
 だが、東電が公表している汚染水のデータでは、凍土壁が凍結を始めた4月以降の護岸付近からの汲み上げ量は1日あたり186立米、想定の2倍以上になる。更田委員は「70立米を(護岸からの汲み上げ量の)目安とするなら、効果が見られない」と指摘した。(1)の橘高教授から「破綻しているのなら代替策が必要なのではないか」という意見も出た。

 (5)汚染水全体の増加量は、
   2016年1月から3月31日まで:430立米/日
   同年4月1日から8月25日まで:450立米/日 
とほとんど変わらない。他方、昨年の汚染水全体の増加量は1日あたり500立米なので若干減少しているが、その要因が凍土壁なのか、それとも2015年9月に始まった「サブドレイン」の運用によるものかは判然としない。
 さらに東電は、建屋への地下水流入量が従来は1日あたり200立米だったが、2016年7月には170立米になったとも説明。しかし、7月は降雨量が前月比で8分の1程度だったため、減少の理由を凍土壁だけに求めるのは難がある。
 検討会の議論を受け、朝日新聞は<福島第一の凍土壁、凍りきらず有識者「計画は破綻>【注】と報じたが、東電は8月19日にホームページで反論を掲載。今後は「さらに効果が現れる」と主張した。
 また東電の社内分社で、事故後の廃炉・汚染水対策を担当する福島第一廃炉推進カンパニーの増田尚宏・プレジデントも8月25日の会見で、「9月末には凍土壁の効果が確認できる」との見通しを示した。
 しかし、東電は今のところ、目論見がはずれた場合の代替策を準備していない。会見で増田氏は「サブドレインがある」と説明しているが、以前から運用している対策を代替策というのは筋が通らない。

 (6)東電は2011年中に汚染水を処理すると宣言していた。それがいまだに増え続け、処分の目処はたたない。しかも2016年8月には、凍土壁の一部が溶ける事態も起きている。
 田中俊一・規制委員会委員長は海洋放出の必要性を唱えているが、東電は放出を否定する一方で、タンクを永久に造り続けるわけにもいかないと認めている。
 汚染水問題は解決の糸口が見えない。 
  
 【注】記事「福島第一の凍土壁、凍りきらず 有識者「計画は破綻」」(朝日新聞デジタル 2016年8月18日)

□木野龍逸「破綻した「凍土壁」による汚染水対策 もう打つ手なしの東京電力の惨状」(「週刊金曜日」2016年9月16日号)
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【原発】“反東電知事”を潰した原発包囲網 柏崎刈羽再稼働で蠢く麻生vs.菅 暗躍した“原子力モンスター・システム”

2016年09月16日 | 震災・原発事故
 (1)泉田裕彦・新潟県知事(53)は、これまで事あるごとに東京電力がめざす柏崎刈羽原発の再稼働への動きに立ちふさがってきた。
   2007年7月 中越沖地震。被災した東京電力柏崎刈羽原発について「廃炉もあり得る」と発言
   2013年7月 東電が事前相談なしに柏崎刈羽原発の新規制基準への適合審査を申請すると決めたことを批判
 柏崎刈羽原発は、現在6、7号機が原子力規制庁の新規制基準への適合審査を申請中。今秋にも規制庁が「ゴーサイン」を出すと目されている。
 しかし、泉田氏は「再稼働の前に福島第一原発事故の検証・総括が必要」という考え方で、県として独自に安全性を判断するまでは再稼働を認めない姿勢を貫いていた。原発再稼働を国策とする安倍政権、東電にとって最大の障壁とみられていた。
 そんなキーマンが、再稼働をめぐる攻防を目前にした時期に、新潟県知事選(9月29日告示)への立候補表明を撤回した(8月30日)【注1】。

 (2)いったい何が起きているのか。
 原発再稼働については、実は自民党内が慎重派と積極派に分かれている。前者の代表は菅義偉・官房長官で、泉田氏が主張していた防災対策の整備などの手順をしっかり踏むべきという立場。後者の代表が麻生太郎・財務相で、反対論はねじ伏せてでも早く再稼働すべきだという立場。財務省は電力関連の税収さえ入ればいい。国に意見する泉田氏は以前から麻生氏周辺に目をつけられており、今年に入ってから猛烈な「泉田降ろし」が展開されていた。【新潟県政に詳しい関係者】
 2016年2月には4選出場を早々に表明したのだが、この頃から周辺では包囲網が粛々と敷かれていた。
 5月には県市長会と県町村会が、泉田県政の問題点26項目を指摘した文書を提出。この時、市長会の会長を務めていた森民夫・長岡市長(当時)はその後、泉田氏の対抗馬として県知事選への出馬を表明する。
 当初、泉田氏の対抗馬には大越健介・NHK前キャスター(県立新潟高校出身)など複数の有力者の名が挙がったが、皆、断ったそうだ。森氏は2004年にも知事選への出馬を模索したが、泉田氏が自公の推薦を得たため断念したという因縁がある人物で、以降もたびたび機をうかがっていた。県内の自民党原発再稼働推進派を口説き、出馬にこぎつけたと聞く。【前出関係者】
 7月にはかねて“反泉田”的論調とされる新潟日報(県内で6割のシェア/日に45万部)がフェリーの購入をめぐる県出資企業のトラブルについて、泉田氏の責任を問う報道を本格化させた。連日のように大きく紙面を展開する同紙に呼応するように、県議会最大勢力である自民党は調査委員会を設置。8月5日には議会閉鎖中にもかかわらず委員会を開き、泉田氏や担当の県庁職員を呼び、計12時間以上、“疑惑”を追求した。
 泉田氏に、さらに追い打ちが浴びせられた。泉田県政の後見人と言われた自民党重鎮の県議、星野伊佐夫・県連会長が失脚。7月の参院選で新潟の自民党候補が敗れた責任論が党内で噴出し、星野氏は8月6日に辞意を表明したのだ(後任は長島忠美・衆議院議員)。
 星野氏は田中角栄・元首相直系の古参議員で「越山会の三羽ガラス」と呼ばれた一人。他のベテランが政界から去り、星野氏に権力が集中する中で、泉田氏を守ってきた。県市長会、町村会の文書の件も星野氏の件も要は地元の権力闘争なのだが、新潟日報はいずれも知事サイドに厳しい視点で報じた。同社の小田敏三・社長は以前から泉田氏には批判的で【注2】、今回の「泉田降ろし」キャンペーンは特に凄まじかった。【自民党新潟県連関係者】
 8月10日には、森民夫氏が満を持して出馬を表明。泉田氏との一騎打ちの構図が生まれると、県医師会など4団体が早々に森氏推薦を表明。自民党も割れて分裂選挙になるとの見方が出ていた。

 (3)真綿で首を絞められるような包囲網に屈し、泉田氏が撤退したように見える。
 しかし、事実は違う、という。3選の実績で県民からの支持率は高く、情勢調査でも4選に挑んでも十分に勝算はあったというのだ。泉田氏も「必ず勝てる。情勢が厳しいから撤退するという判断はしていない」と記者団に語っている。
 本当の原因は何か。
 原発再稼働を望む勢力からのプレッシャーが日増しに強まる中で、仮に知事選で勝っても、その後も手を替え品を変え「泉田降ろし」の策謀が続くことは想像に難くない。それだけでなく、最悪、家族に危険が及ぶ事態まで想像されるような状況だったようだ。知事は巨大な利権で政官財がつながる「原子力モンスター・システム」に完全に包囲されてしまった。相当悩んだ末の決断だったようだ。【前出の県政に詳しい関係者】
 現在の東電は実質、経産省の管理下に置かれている。国は何としても柏崎刈羽原発を再稼働させて、少しでも東電に注ぎ込む資金を減らしたい。事故を起こしたのと同じ沸騰水型原子炉の再稼働はまだなく、ここで先例をつくる意図もあるのだろう。知事交代となれば、公共事業の大盤振る舞いと引き換えに、再稼働を認めさせることになろう。【飯田哲也・環境エネルギー政策研究所長】

 【注1】記事「「原子力防災、選挙の争点に」 泉田・新潟知事、出馬撤回の理由語る」(朝日新聞デジタル 2016年9月8日)
 【注2】泉田氏は、撤退表明後に、後援会ホームページ上に公開した文書の中で、<東京電力の広告は、今年5回掲載されていますが、国の原子力防災会議でも問題が認識されている原子力防災については、(中略)重要な論点の報道はありません>と、同紙と東電との“蜜月”を指摘している。

□「“反東電知事”を潰した原発包囲網 柏崎刈羽再稼働で蠢く麻生vs.菅 暗躍した“原子力モンスター・システム”」(「週刊朝日」 2016年9月16日)
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 【参考】「【原発】泉田裕彦・新潟県知事は語る ~立候補撤回の真相~
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【原発】泉田裕彦・新潟県知事は語る ~立候補撤回の真相~

2016年09月16日 | 震災・原発事故
(1)“モノ言う知事”の突然の撤退表明の経緯
 今回、新潟日報が報じている県出資会社の子会社によるフェリー購入問題の核心は、現場レベルが騙されたものと受け止めています。それでボロ船を掴まされて、出資金がその目的を果たさなくなる可能性がある。私は最終的な責任者です。責任はあります。ただ、だいぶ前から事実に反した記事が出ており、記者会見までやって記事の訂正を求め、八つも九つも訂正要請文書を出した。窓欄(新潟日報の投稿欄)の投書の回答も書いたので載せてくれといくら頼んでも載らない。会見で抗議しても効果がない状態になっています。
 今回の知事選では、森民夫・長岡市長が県庁内で立候補表明をしましたが、庁舎の管理責任がある県広報担当職員が、会見を主催する県政記者クラブの代表幹事社である新潟日報社から立ち会いを拒否され、録音も禁じられたそうです(新潟日報は否定)。県庁の中ですよ? 一方で、会見後、対立候補の表明があったとしてコメントは求めてくる。表明の中身がわからないとコメントなどできませんよね。このような環境の中、選挙戦で県民の皆さんに訴えをきちんと届けるのは難しいと判断しました。私の言葉が県民に伝わるのであれば、立候補の撤回はなかったかもしれません。

(2)原発再稼働は「福島原発事故の検証と総括なしに議論できない」
 県内には柏崎刈羽原発がありますが、ヨウ素剤の配布や地震・原発事故の複合災害時の避難などで不備は明らかです。現状の原子力災害対策指針で対処できない事態がいっぱいある。この問題を会見で訴えたり、政府も今春から対処を始めたところでした。
 ところが、今回のフェリー購入問題が報道されて以来、原発に関する議論はかき消され、フェリー問題だけが議論の対象となってしまった。私が立候補したままでは県民の生命、安全、健康をどうするかを語る選挙にならない。2月に立候補表明したときは、これほどひどい環境ではありませんでしたが、知事選が近づくほど、そして私が勝つ可能性が高まるほど、状況が悪化しました。今後も何があるかわからない。

(3)別のメディアを通した訴えは
 地元メディアは記者クラブ制度の中での調和を優先されるのか、概しておとなしくされています。県のホームページで見解を出しても、ほとんど県民に伝わらない。アクセス数はあっても3千ぐらい。やはり毎日約45万部を超える部数を持つ県紙、新潟日報の力は大きい。
 皮肉なことに、今回「撤退する」と表明してから急に全国区のメディアから注目され、追いかけられ、ようやく問題も報じていただけるようになった。ローカルテレビの生放送にも出られました。「撤退を撤回して」との声もどんどん来ています。「頼むから戦ってくれ」と。ただこのまま選挙戦に突入したとしても、毎日、船の問題に関する記事が出るだけになってしまいませんか? 訴えが届かない中で、県職員も疲弊している。未明まで懸命に準備し、答弁しても、翌日には「県が虚偽答弁か」などと報道される状況です。私が知事であることで、周囲に余分な負荷もかかっている。

(4)原発の安全性などの問題
 周囲に迷惑をかけてしまうので私はやらないほうがいいでしょう。まだ罠があるかもしれない。あれだけ原子力防災を一生懸命言っている知事のところで、ヨウ素剤の備蓄がされていなかった等、本来はあり得ない事態も起きているぐらいです。新潟日報は県では法で定められた福祉計画が上層部の意向も影響して作られていないと指摘しました。私は福祉サービスがこのままだと足りないので、検討しましょうよ、と確かに言いました。でもそれっきり上がってこなかった。仮に知事が「作るな」と指示したならば、ふつう職員は責任解除するために起案を回しますよ。今回はこういうことになったので作らないことにしますと、起案を回してハンコをとりますよ。それもやっていない。こういうことが次々起きる。そのたびに職員に負荷がかかり、本来議論すべきところも議論できない。一人だったら闘ったと思いますが、もう限界。周りの人を巻き込むのは避けたいと思う。

□「独白 泉田裕彦 立候補撤回の真相 新潟ホワイトアウト?」(「週刊朝日」 2016年9月16日)
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 【参考】
 記事「「原子力防災、選挙の争点に」 泉田・新潟知事、出馬撤回の理由語る」(朝日新聞デジタル 2016年9月8日)
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【災害】食を試食、やっぱりカレーが最強

2016年09月03日 | 震災・原発事故
 (1)災害時、何とか助かったら、次に必要なのは食生活などの健康管理だ。熊本地震の際、
   電気復旧まで約1週間、
   ガス復旧まで約2週間、
   水道復旧まで1ヵ月以上
かかった地域もある。満足に調理できない状況下における食生活はどうすべきか。

 (2)以前は3日分を家庭備蓄で、というのが通説だったが、内閣府が2013年5月に出した「南海トラフ巨大地震について(最終報告)」では1週間分以上の家庭備蓄が望ましいとされ、それが常識になりつつある。どういうものを何日分備えればよいか。
  (a)初期には人命救助が優先されるので飲み物すら手に入らないことがある。最初の3日分の食料と飲料はリュック型の非常持ち出し袋に入れておく。持ち運びやすく、軽量の非常食があればいい。食欲がなくなるので、遠足に行く気分で好きな者を備えて。【奥田和子・日本災害救援ボランティアネットワーク理事/甲南女子大学名誉教授】
   ①おなかの足しになるもの(スナックバーやアルファ化米など)
   ②心がホッとできるようなもの(菓子や果物の缶詰など)
   ③ゴミが出しにくいので、個別包装で食べきれるもの

  (b)4日目以降は食欲も回復し、健康にも気遣いが必要となる。だが、まだライフラインが復旧しないので、(a)と同じように煮炊きせずに食べられる災害食があるとよい。主食だけでなく、野菜や肉、魚などおかず系の缶詰なども用意して、多少は栄養バランスを組み立てておきたい【奥田理事】。特に不足しがちな野菜類は、積極的に自助で備えておくべきだ【同】。

 (3)「AERA」編集部で災害食を試食した。
  (a)湯が簡単に手に入らない状況を想定し、アルファ化米に水を注ぐ。湯だと約15分で済むが、水だと約60分。だが、味はよい。
  (b)水も手に入らない状況を想定し、アルファ化米の白飯を①市販の茶や②トマトジュースで戻してみた。①は水で戻すより香ばしく美味しい。②は「リゾットみたい」。
  (c)圧倒的人気だったのは、温めずにそのまま食べられるグリコの「常備用カレー職人」、3袋入りで350円(税別)。通常の温めるレトルトと味わいは変わりなく、食べやすい。長期保存用の缶入りパンにかけたり、味付きのアルファ化米にかけたり、災害食の加工食品っぽさが苦手という人も、「カレーをかけると何でも食べられる」。

 (4)買ってきた災害食は、一度味見をしておいたほうがよい。
 食べてみて好きじゃないと思ったら備蓄から外したほうがよい。じっとしていても目に涙が浮かぶ状況下で、まずいものは食べられない。【奥田理事】
 家庭備蓄の場合、「ローリングストック法」がよい。専用の災害食を用意するのではなく、賞味期限が6ヵ月程度の普段食べている好物や飲料を多めに買っておき、定期的に古いものから食べていく。食べた分だけ買い足し、常に新しい非常食を備蓄する方法だ。

□柳堀栄子(編集部)「災害食を編集部で試食 やっぱりカレーが最強」(「AERA」 2016年9月5日号)
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【原発】は仮処分で1勝すれば止まる(2) ~福島原発告訴団~

2016年04月14日 | 震災・原発事故
 (6)福井地裁・高浜原発3、4号機運転差し止め仮処分決定(樋口英明・裁判長、2015年4月14日)や今回の大津地裁決定【注1】にしてもそうだが、原子力規制委員会の再稼働許可が下りていないと保全(保護して安全であるようにすること)の必要性がないと裁判所が判断するのは、「共通ルール」みたいになってきている。その証拠に、高浜原発3、4号機に原子力規制委員会の再稼働許可が下りる前の大津地裁決定(2014年11月27日)では、脱原発弁護団の仮処分申し立ては却下されている。
 だから、今後は原子力規制委員会の再稼働許可が下りた原発に対し、どんどん仮処分の申し立てをしていく。
 直近では、福島第一原発事故5周年の節目の日である3月11日に、すでに再稼働許可が下りている四国電力伊方原発3号機の運転差し止め仮処分を広島地裁に出した。この仮処分申請は、同原発1~3号機の運転差し止めを求める本訴と同時に行われた。

 (7)ここにきて、司法を舞台とした仮処分申請が非常に有力な手段であることがわかってきたわけだが、政治の舞台では、自治体の首長たちが原発の再稼働に反対し始めている。そうやって再稼働する原発を1基でも減らし、また、再稼働を先送りにさせている間に、自然エネルギーを増強していく、というのが河合弘之・弁護士の戦略だ。
 自然エネルギーは儲かる・・・・ということに気付けば、大企業も中小企業も、一斉になだれこんでくる。そんな自然エネルギーのブレイクスルーを河合弁護士ら市民の力で引き寄せなければならない。それができれば、ドイツみたいにかっこよく、凜として脱原発できる。
 ドイツが脱原発に踏み切れたのは、ドイツ国民とドイツ経済界が自然エネルギーを信用しているからだ。日本でもそこまで持っていければ、市民たちは勝てる。

 (8)原発を動かしながら、徐々にフェードアウトさせていくのではなく、原発はもう動かさない。事故を起こせば破局的損害を破局的損害を招く原発は、即、全部止める。
 自然エネルギーに移行していく過程のつなぎは、発電効力を高めたコンバインドサイクル発電や天然ガス(LNG)のコージェネレーションだ。石炭、石油、天然ガスといった化石燃料を、改良された最新技術で使いながら、なるだけ早く自然エネルギーに移行していく。
 そのため「原動力」となる3作目の映画を、河合弁護士らは制作中だ。タイトルは「自然エネルギー 未来からの光と風(仮題)」だ。

 (9)放射能汚染を太平洋に垂れ流し続ける「公害犯罪処罰法違反」の疑いで書類送検された東電と新旧役員32人に対し、福島地検は3月29日、「立証が困難」として不起訴処分とした。
 東電は汚染水管理を怠り、汚染水タンクから高濃度の放射能汚染水を漏洩させる一方、地下水や海洋いんまで汚染を拡大させた。
 しかも抜本的な汚染水対策を講じると1,000億円の費用がかかり、東電が債務超過に陥って経営破綻するとして、意図的に汚染水対策が先送りにされたことを示す証拠まであった。
 海洋汚染はれっきとした事実だ。原因企業も特定できている。それなのに、誰も海洋汚染の責任を取らなくていいのか。
 今回の不起訴処分は、東電を助長させ、「何をやっても許される」という慢心を与えるだけだ。検察の責任は重大だ。

 (10)福島原発告訴団【注2】が、東電と役員らを同法違反の疑いで福島県警に刑事告発したのは2円前の2013年9月3日だった。
 申立人が、6,000人以上に達したこの告発は、正式受理されたものの、捜査は2年間にわたり、ダラダラと続けられた。そして、2015年10月、同県警はようやく書類送検した。
 今回、福島地検が公表した不起訴理由を見ると、福島沖の海水や海産物から検出される放射能は、2011年3月の大事故発生時に漏れ出した放射能なのか、それともその後の過失によって漏れ出した放射能なのか区別がつかないので、公衆の声明に危険を生じさせたかどうかを立証するのは「困難」だという。
 すべてがこの調子だ。はじめに「不起訴」の結論ありきで、屁理屈を並べたものでしかなかった。
 むろん、福島原発告訴団は、処分を不服として、福島検察審査会に対して、審査を申し立てる。

 【注1】
【原発】画期的な大津地裁の仮処分決定
【古賀茂明】【原発】再稼働の愚 ~事故頻発~

 【注2】
【原発】「5年目のフクシマを忘れないで」集会
【原発】福島原発告訴団の第2回総会/ふくしま集団疎開裁判の二審判決
【原発】福島原発告訴団、地検に東電本店の強制捜査を申し入れ
【原発】福島原発事故に係る集団訴訟の現在 ~2013年2月~
【原発】集団告訴団14,586人の「次の標的」 ~NHK、東大の学者~
【原発】集団告訴第二陣、ただ今7,600人 ~受付締切は10月末~
【原発】紫陽花革命が大手メディアを揺さぶる ~正しい報道ヘリの会~
【原発】「さようなら原発」17万人集会の記録
【原発】福島県民、東京電力を集団告訴 ~勝俣東電会長の逃げ切りを阻止~ 

□河合弘之/聞き手・まとめ:明石昇二郎「脱原発弁護団全国連絡会共同代表/河合弘之弁護士に聞く 仮処分で1勝すれば原発は止まる」(「週刊金曜日」2016年4月8日号)
脱原発弁護団全国連絡会
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 【参考】
【原発】は仮処分で1勝すれば止まる ~河合弘之弁護士に聞く~

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【原発】は仮処分で1勝すれば止まる ~河合弘之弁護士に聞く~

2016年04月14日 | 震災・原発事故
 (1)2016年3月9日、大津地裁が関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止め判決を下し、原発が再び稼働できなくなった。【注】
 動き始めたばかりの高浜原発3号機を止められたことには、非常に大きな意味がある。今後の戦略を考える上でも、非常に重要だ。
 動いていない原発を「動かすな」という裁判所命令と、動いている原発を「止めろ」という裁判所命令では、世論や電力会社に与える心理的影響もまったく違う。
 今まで「動かす前に止めよう」「再稼働させないことが勝負だ」と言ってきたが、今回の運転差し止め仮処分決定で、動いてからでも仮処分を勝ち取れることがわかった。スピードは大事だが、「再稼働されたら終わりだ」などと思わなくていい。諦めなくていいし、焦る必要もない。

 (2)電力会社としては「動かしてしまえばこちらのものだ」とばかりに、再稼働を既成事実化してしまおうと考えていたのだろうが、それが今回の仮処分で通用しなくなった。さらに、動かしたばかりの原発を止めるとなれば、手間や費用が余計にかかる。
 だから、電力会社は仮処分がかかっている限り、枕を高くして眠れない。
 今回の差し止め仮処分決定では、原発立地県外の裁判所で仮処分を申し立てるのが大変有効であることがわかった。
 その地域の社会や経済の真ん中にいる裁判官は、そうしたものからの影響と無縁ではいられない。そこに原発があれば、影響を受けてしまうし、遠慮も働く。
 でも、県外であれば、事故が起きれば被害だけ受ける「被害地元」なので、私の故郷をどうするつもりだという思いに、裁判官も共感できる。特に大津は、市民も裁判官も皆、美しい琵琶湖を見ながら暮らしているわけだ。要するに、「被害地元」にある裁判所での申し立てが大変重要であることがわかった。
 最初の裁判所で1敗しても、次の裁判所で1勝すれば、原発の運転は差し止められるのだということが、事実として広く世間に示されたことも大きい。1回目は負けても、別の裁判所で改めて勝負できる。
 一方、電力会社は全勝しなければならない。

 (3)もうひとつ、仮処分の申し立てのいいところは、短期にやることができることだ。そのため、裁判所が策動しにくい。最高裁が介入しづらい。
 今まで、何百人もの原告で本訴を行い、何年もかけ、いいところにまで訴訟を持って行っても、最後の段階になって「国や電力会社が負けそうだ」と最高裁が察知すると、裁判官を替えられ、負けたことがある。
 ところが、短期間で結論を出す仮処分では、裁判官を替えにくい。スピードの速い仮処分は、その動向も察知しにくい。
 ただ、今後は、関西電力が大津地裁に申し立てた仮処分決定への異議(異議審)と執行停止の審理で、最高裁が人事介入してくる可能性がある。
 大津地裁での異議審は、運転差し止め仮処分決定を出した山本善彦・裁判長が担当することが決まった。裁判官の少ない地方の裁判所では、同じ裁判官が異議審も担当することが多い。
 異議審では、山本裁判長と右陪席の裁判官が引き続き担当して、左陪席の裁判官だけ替わる。山本裁判長の任期はあと1年あるので、常識的に考えれば、山本裁判長たちがその任期中に異議審の決定を行う。人事異動のルールは、基本的に3年に1度とされているからだ。
 しかし、裁判長クラスとなると、「玉突き人事」という例外がある。誰かの昇格人事に合わせ、玉突き式に早めに異動するケースだ。最高裁がそれを装って、山本裁判長をはじめとした大津地裁の合議体を替えてくる恐れがある。
 そうされる前に、脱原発弁護団全国連絡会は今、最高裁に対して「そんな策動をするなよ」という声明を出し、牽制することを考えている。

 (4)八木誠・関西電力社長/電機事業連合会会長が、3月18日、「上級審で逆転勝訴した場合、(仮処分を申し立てた住民への)損害賠償請求は検討の対象になりうる」と、電事連の定例記者会見で語り、動揺を露わにした。脅しだ。角和夫・阪急電鉄会長/関西経済連合会副会長に至っては、「なぜ一地裁の裁判官によって、国のエネルギー政策に支障をきたすことが起こるのか」「こういうことができないよう、速やかな法改正を望む」と、さらに踏み込んだ発言をしている。
 角関経連副会長の発言は、本当に軽蔑すべき言いぐさだ。無知蒙昧のかぎりだ。司法と三権分立の原理をまったく心得ていない。行政が行き過ぎた時、誰が止めるのか。司法だ。
 八木関電社長の発言は、スラップ訴訟(恫喝訴訟)をやるぞ、どいう脅かしだ。社会的責任がある大企業の経営者として、あるまじき態度だ。
 福島第一原発が証明しているように、原発は本当に危険だ。きちんとした証拠に基づいて申し立て、それを裁判所が認めた結果、出た決定だ。

 (5)しかも、今回の決定文を見ると、
「主張及び疎明を尽くすべきである」
「根拠、資料に基づいて疎明されたとはいい難い」
「相当な根拠、資料に基づき主張及び疎明をすべきところ--十分な資料はない」
「十分な主張及び疎明がされたということはできない」
「主張及び疎明は尽くされていない」
 と「疎明」という言葉が何度も登場してくる。
 「疎明」は裁判用語の一種で、裁判官が「そうだ」と確信するには至らないまでも、係争事実の存否について一応「確からしい」という推測を裁判官が得られる状態、あるいはそのために当事者(ここでは関電)が裁判所に証拠を提出する行為のことだ。
 決定文は、その「疎明」が足りないので、原発の運転を差し止める、と言っている。疎明が足りないのは誰のせいなのか。疎明を尽くさなかった関電自身のせいだ。文句があれば自分に言え、ということだ。
 八木発言については、住民側弁護団と脱原発弁護団全国連絡会の連名で、発言の撤回を求める抗議文を出した。仮処分を申し立てた住民にしてみれば、心穏やかでいられないからだ。
 ただし、今回のケースで裁判所が住民に対し、関電の損害を賠償するとう命じることなど、まずあり得ない。嘘だとわかっていながら仮処分を申請したり、偽造した証拠を出したり、偽の証言をして勝ったというような、裁判官を騙すという違法行為がないと、認められないだろう。
 しかも、本件では4回も審尋が行われ、その際の口頭弁論で激しいプレゼンテーションの応酬をやっているのだ。およそ1年をかけ、十分な審理を経た上で裁判官が出した結論が、今回の運転差し止め仮処分決定なのだ。

 【注】
【原発】画期的な大津地裁の仮処分決定
【古賀茂明】【原発】再稼働の愚 ~事故頻発~

□河合弘之/聞き手・まとめ:明石昇二郎「脱原発弁護団全国連絡会共同代表/河合弘之弁護士に聞く 仮処分で1勝すれば原発は止まる」(「週刊金曜日」2016年4月8日号)
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【震災】始まっていない「新しい生活」 ~震災復興~

2016年03月18日 | 震災・原発事故
 「災害が風化するっていうでしょ。
 公害だけでも足尾、水俣・・・・。
 広島、長崎、福島・・・・。
  次はどこだろう」

□永六輔「無名人語録 393」(「週刊金曜日」2013年3月1日号)
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 *

   
 ①古川美穂『東北ショック・ドクトリン』(岩波書店 1,836円)
 ②除本理史/渡辺淑彦・編著『原発災害はなぜ不均等な復興をもたらすのか』(ミネルヴァ書房 3,024円)
 ③斎藤誠『震災復興の政治経済学』(日本評論社 2,376円)

 (1)「集中復興期間」が終わるからといって5年を節目と呼んでいいのか。被災者にとっては、復興の実体としての新しい生活はまだ始まってさえいない。
 東北の復興で、これまでに25兆円もの資金を投じながら、自宅に戻れない人、自宅を確保できない人が20万人もおり、震災関連死が3,400人にのぼるとは、どこかがおかしい。復興予算の大半がハード事業に費やされ、被災地外でも1兆円以上が使われたが、当の被災地では被災者救済のまともな事業がなされているのだろうか。
 「創造的復興」というスローガンのもとで、東北では何が起こっているのか。
 ①は、被災地で繰り広げられる遺伝子研究、水産特区、空港民営化、カジノ構想などを鋭くえぐり出す。 ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』が暴いた、戦争や災害の混乱に乗じて暴利をむさぼる「惨事便乗型開発手法」が、まさに東北の地で展開されている、と告発する。

 (2)東京電力の原発事故による被災者の行く末は、津波被災地以上に見通し不透明だ。
 国・東電は除染を行い、線量を下げ、避難指示を解除することによって、帰還=賠償終了へと導こうとしている。こうした中、被災者はどんな状況に置かれているのか。
 個々の被災者は様々な事情を抱え、生活再建は極めて複雑だが、起きている事態は要するに、
   不均等な「復興」であり、
   被災者の分断だ。
 ②は、大学研究者と被災者を支援する弁護士集団の共同作業による著作で、原発被災者・被災地が置かれている複雑な現状を多面的に描く。

 (3)津波・原発被災地のいずれにおいても、明るい未来は見えない。このままのやり方でいいのか、それとも、復興の枠組み自体に問題があったのではないか。
 そうした疑問に真正面から立ち向かっているのが③だ。著者は、3年間の共同研究を通し、
   震災当初におけるいくつもの錯誤と、
   科学的根拠なく拙速に重要政策を決定した誤りが
この間の復興の根底にあること実証していく。ほぼ公表された客観データのみを駆使しながら。
 主要論点は、
  (a)津波被害を過大評価し、過大な復興予算を組むことによって、実際のニーズに比べて大掛かりな防潮堤やかさ上げ道路の建設、過剰な産業用地や農地、宅地を生み出す集団移転事業などが行われた。
  (b)原発事故における初動対応の誤りとそれによる被害の深刻化を過小評価したことが今日の混迷を招いた。
 復興途中に生じた政権交代が復興政策にどのように関連したかも説得力を持って分析している。専門書だが、重要な論点を含み、読む苦労にお釣りがくるほどの収穫がある。

□塩崎賢明(立命館大学教授/神戸大学名誉教授)「(ニュースの本棚)震災復興 始まっていない「新しい生活」」(朝日新聞デジタル 2016年3月6日)
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【震災】激震の神戸で地震に気づかなかった人、知らなかった人

2016年01月12日 | 震災・原発事故
 神戸市東灘区に住む主婦(66)は、「グラグラッときて、ドドンという轟音」を聞いた。
 「やっぱり高速道路が落ちよった。渋滞しすぎたんや。危ないと思うてたとおりや」
 家は倒壊した阪神高速神戸線から200メートルほど。
 部屋の片づけをしながら、かの主婦は考えた。
 「やっぱり、高速道路が落ちたらこのくらいにはなるな」
 30分後に駆けつけた、近所に住む息子さんにも、
 「やっぱり渋滞で高速道路が落ちたやろ。私が心配してたとおりやろ」
といきまく。
 息子がいった。
 「おかあさん、地震でどっかに頭、打ったんか」
 「地震てなんや」

□週刊朝日・編『デキゴトロジー RETURNS』(朝日文庫、1995)
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【原発】20mSv/年、フレコンバッグの山 ~被災者切り捨ての避難指示解除~  

2015年08月02日 | 震災・原発事故
 (1)「避難指示解除は、原発事故の加害者が被害者を切り捨て、責任放棄を狙ったものです。避難を早く終わらせて賠償を安くあげようとしているのです」
    期日:2015年7月11日(土)
    場所:福島市
    行事名:「第3回福島を忘れない!全国シンポジウム」
    主催者:反原発自治体議員・市民連盟 
において、佐藤八郎・飯舘村会議員は、怒りを露わに100人の参加者に訴えた。

 (2)「避難指示解除」とは、安倍政権が6月、福島県内の
    「避難指示解除準備区域」
    「居住制限区域」
の避難指示を2017年3月までに解除する方針を定めたもの。
 これに伴って県は、「帰還困難区域」の外の避難者への
    住宅無償提供を2017年3月で打ち切り、
政府も、
    精神的損害賠償を2018年3月で終了させる。

 (3)「区切りの2017年3月」まで1年8ヶ月。それまでに、避難指示を解除される被災地は、「人が暮らせる場所」になるのか。
 飯舘村の場合、2014年春から環境省による除染作業が実施されているが、村の総面積のうち75%は山林、10%は河川・ため池で、計85%は除染計画がない。
 「田んぼや宅地を除染しても、山林は手つかずだから、また線量が上がる。そんなところに戻ってこいというのです。飯舘村は人類史上初めてのモルモットになる」【佐藤村議】
    「放射線管理区域」(放射線業務従事者以外の立ち入りを制限)・・・・5mSv/年
    飯舘村・・・・20mSv/年(チェルノブイリ居住基準の4倍)
 そんな飯舘村に住め、と安倍政権はいう。まさにモルモットだ。

 (4)飯舘村には、いま至るところに、除染汚染物のフレコンバッグを5段積みにした巨大な黒い山ができている。
 田んぼの土を表面から5cm剥ぎ取り、宅地も除染したというが、「そこだけ息ができる」という程度。フレコンバッグがいつ中間貯蔵施設へ運ばれるかも目処が立っていない。この黒い山の前で、誰が営農を再開するのか。【佐藤村議】

 (5)葛尾村では、飯舘村より1年早く2013年に除染が始まり、来春、2期工事が終わる。
 この村も一面フレコンバッグの山だ。1期工事だけで70万袋になった。
 投入された除染費用は、550億円。さらに廃棄物仮設焼却施設の建築・運営・解体で380億円かかる。【松本靜男・葛尾村会議員】
 合計930億円。全村480世帯だから、1世帯当たり2億円近く。それが安心して営農できる新しい農地の確保や営農資金に回されれば各農家の未来を拓くが、大半がゼネコンの「帰還利権」に消えていく。
 政府の方針を受けて、葛尾村は来春の村民帰還を目指しているが、「帰ってくるとしてもお年寄りだけでしょう。このフレコンバッグの前で営農できますか」【松本村議】。

 (6)フクシマで被災者切り捨てが進む一方、九州電力は7月10日、川内原発1号機の再稼働に向けて、原子炉に核燃料を装着する作業を終えた。
 地元の鹿児島県と薩摩川内市では、「再稼働による経済活性化に期待が高まっている」とメディアは報じた。
 「原発事故が起きたらどういうことになるか。再稼働に賛成する川内原発周辺の人には、ぜひここに来て現実を見てほしい」【菅野清一・川俣町会議員】

□山口正紀「被災者切り捨ての避難指示解除 ~人面とメディア 第787回~」(「週刊金曜日」2015年7月24日号)
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【原発】日本食品輸入規制強化の波紋 ~台北~

2015年06月03日 | 震災・原発事故
 (1)台湾は、5月15日から、東京電力福島第一原発事故を受けた日本産輸入食品に対する規制を強化した。
   (a)輸入するすべての食品について、都道府県別の産地証明を提出する。
   (b)一部の商品については、放射性物質の検査証明を提出する。

 (2)台湾は、2011年の東日本大震災発生後、原発事故が発生した福島を含めて、茨城、栃木、群馬、千葉の5県の産品について輸入を制限してきた。
 原発から4年経った今、なぜ規制を強化したのか。
 台湾当局の定める規制値は、370Bq/kgで、日本の100Bq/kgよりも緩やかだ。これまで日本から輸入した食品について「規制値を上回った」という報道はなかったはずだ。
 しかし、今年3月、前記5県で生産・製造された食品の一部が、産地などを明示せずに輸入されたことが明るみに出た。これが今回の措置の呼び水となった。台湾当局のもとに、消費者団体などから規制強化や検査徹底を求める声が寄せられたのだ。

 (3)「産地偽装は食品を輸入する台湾側業者がやったこと」【日系流通業者】という指摘もある。日本側は、今回の措置に対して、
    「科学的根拠に基づかない一方的な措置。極めて遺憾」【菅義偉・官房長官】【注】
    「世界貿易機関(WTO)への提訴も含め検討」【林芳正・農林水産相】
と、撤回要求、報復関税措置のほのめかしなど、強く反発している。

 (4)5月14日付け産経新聞は「日本食品全て輸入停止」と報じたが、事実と異なる。全面禁輸措置ではなく、台湾当局が求める証明書を提出すれば輸入できるのだ。さらに、台湾当局は「一次産品については検疫証明にある都道府県名の記載を証明として受け入れ、加工食品についても商工会議所の証明書に自治体名を表記したものでも認める姿勢を打ち出している。
 また、馬英九・総統は、5月18日の記者会見で、短期的措置であるとの見方を示している。「産地偽装は科学的問題ではなく法的問題。ともに協力して真相を究明し、再発防止のめどが立てば規制を解除する」と。

 (5)措置の影響で生鮮食品などの通関の遅れが見られるが、「騒ぎの大きさに比して、日本と台湾との経済関係に与 える影響は限定的」と地元経済紙記者は指摘する。
 日本の一部には、中台関係の緩和と拡大を進める馬英九を「親中反日」と決めつけ、今回の措置もその文脈で解釈しようとする者もいる。しかし、台湾当局や消費者団体の関係者によれば、「特定の国、自治体、企業、団体などをターゲットにしたものではない」とのこと。
 米国の食品医薬局(FDA)は5月から日本産食品に対する輸入規制をさらに厳格化している。日本政府がこの件で米国に反発したという報道はない。台湾にだけ譲歩を求めるのはおかしい。【ある反核団体の幹部】

 (6)昨年台湾で食の安全をめぐる騒動が頻発し、世論が食の安全にこれまで以上に敏感になっていることが、今回の措置の背景にある。廃油などを再利用したラード製品が、大手業者を通じて大量に流通していた・・・・という一連の事件は、ラードを日常的に使う台湾の消費者に大きな衝撃を与えた。
 監督不行き届きを指弾された政府の信用は大きく傷ついた。昨年11月の地方統一選挙で与党が大敗した要因の一つとも指摘される。

 (7)福島原発震災が発生し、竣工と実用化を控えた台湾電力公司の第四原子力発電所の安全性が不安視されるなど、台湾における反核世論の高まりを前に、当局は受け身の対応に終始した。
 これまでの流れから当局としても以上の課題について民意の趨勢に沿う以外に選択肢がなく、そこで下された回答の一つが日本からの食品輸入に対する規制強化だった。
 今のところ、当局の措置を正面から批判し、反対する声は、台湾国内からはほとんど出ていない。

 【注】菅官房長官は「科学的根拠」などと言っているが、そんなものは無い。「【原発】韓国をWTOに提訴した日本の愚 ~日本産の輸入停止~」参照。

□本田善彦(台北在住フリージャーナリスト)「日本食品輸入規制強化の波紋@台北 ~浮躁中国 81~」(「週刊金曜日」2015年5月29日号)
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 【参考】
【原発】韓国をWTOに提訴した日本の愚 ~日本産の輸入停止~

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【原発】韓国をWTOに提訴した日本の愚 ~日本産の輸入停止~

2015年06月02日 | 震災・原発事故
 (1)東京電力福島第一原発事故後、韓国は2013年から福島を含む8県の全水産物の輸入停止措置などをとってきた。その韓国政府に対して、日本政府は、科学的根拠に乏しい不当な規制だ、として、世界貿易機関(WTO)に提訴した(5月21日発表)。
 事故以来、汚染水は絶えることなく海洋に流れ出ている。これを止める有効な手段を東電も日本政府もとっていない。かかる状況下の日本のこうした対応に、韓国では反発が高まっている。
 そもそも、「科学的根拠に乏しい」とする日本の主張自体に根拠がないのだ。

 (2)日本政府は、食品の放射性物質規制基準として、「1キログラム当たり100ベクレル(Bq)」という基準を定めている。この基準値を下回る水産物が安定的に捕れていることなどが政府のいわゆる「科学的根拠」のひとつだ。
 基準値は、毎日食べても年間の限度線量1ミリシーベルト(mSv)を超えないことを目安に定められている。これを毎日食べ続ければ、内部被曝だけで年間の限度量に達する。
 放射線には、ある線量以下であれば安全だ、という境界の線量はない。基準値未満だからといって、食べ続けても安全だ、ということにはならない。
 リスクは、線量に比例して増加する、という「閾値なし直線(LNT)モデル」が国際放射線防護委員会(ICRP)をはじめとする国際機関の合意事項となっている。
 にも拘わらず、ICRPは年間の公衆被曝線量限度を1mSvとしている。
 ただし、放射線リスクを過小評価している、と批判されるICRPモデルに従って計算しても、1mSv/年を10,000人が被曝した場合、その仲の1人が癌になる。

 (3)1mSv/年と決めたのはなぜか。
 核エネルギーを発電に使えば、放射性物質が日常的に環境に排出され、放射線による健康リスクが高まる。これを限りなくゼロに近づけようとすると、コストが莫大で採算が合わない。ICRPが採用した“妥協案”はリスクを一定量は我慢し、コストを安くすることだ。
 つまり、リスクと社会的コストとの兼ね合いで1mSv/年とした。
 「科学的根拠」ではない。

 (4)WTO協定と連動する国際条約では、WTO加盟国の輸入・輸出制限について、「公徳の保護、人、動物等の生命又は健康の維持等を目的とした一般的例外」を認めている【1994年の関税及び貿易に関する一般協定(GATT)20条】
 にも拘わらず、日本政府は、輸入規制を強化した台湾をWTOへ提訴する意向も示した。
 だが、一方で、
   ・福島を含む10都県の全食品や飼料の輸入停止措置をとる中国
   ・14県の水産物を含む食品に対して輸入停止措置をとる米国
などには口をつぐんでいる。
 これに係る問いには、外務省は答えようとしない。

□崎山比早子・高木学区メンバー+渡辺睦美(編集部)「韓国をWTOに提訴した日本の愚」(「週刊金曜日」2015年5月29日号)
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