語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】米国による日本人洗脳工作 ~占領政策における宣伝~

2016年01月31日 | ●佐藤優
 『日米開戦の真実』第2部第2章「米国による日本人洗脳工作」は、米国の対日占領政策における宣伝を論じる。

(1)上手に占領するコツ
 占領すると、それまで仇同士であった敵国人民と仲よしにならなくてはならない。誰かを悪者にデッチあげると、征服者・被征服者の双方にとってつごうがよい。
 日本を占領した米軍は、軍閥という悪者をデッチあげた。米軍は日本軍閥と戦ったのであって、決して諸君を敵としたわけではない。諸君が家を焼かれたのは日本の軍閥のためだ、云々。
 かつてイギリスと戦ったインドの藩王国、ネパール、エジプトなどを英国は徹底的に打ちのめさず、余力と名誉を保持させ、英国の世界支配システムに組みこんだ。この英国の手法を、米国は対日占領政策に巧みに取り入れたのである。

(2)神話の誕生
 GHQの指導で行われたNHK「真相箱」工作が、国民は政府・軍閥に騙されていた、という神話を作りだした。「真相箱」とは、1945年12月9日から1946年2月20日までは「真相はこうだ」というタイトルで、その後は同年12月4日まで「真相箱」で、週1回、計51回放送されたNHKのラジオ番組である。聴取者の質問にアナウンサーが答えるという形式をとっていた。
 <例>悪いのは軍閥、そのなかでも陸軍、その親玉が東条英機、国民は東条英機のアヤツリ人形・・・・という構図を提示した。
 「真相箱」がことに重視したのは、ミッドウェー海戦である。ミッドウェー海戦は、当時の日本でほとんど報じられなかった。実は手ひどい負け方をしたのだが、「真相箱」がその内容を教える。そして、大本営発表は、万事ミッドウェー海戦に係る報道のように大嘘だった・・・・という印象を日本国民に植えこむことに米国は成功した。
 <アメリカの宣伝工作終了とともに、日本人はそうした事実を忘れてしまった。宣伝であることを相手に意識させないような工作は謀略として優れている。そして、65年前に日本は勝利する見通しのない米国、イギリスとの無謀な戦争に突入してしまったというのが、われわれの「常識」になってしまった。国際情勢を客観的に認識できない無能な軍閥が、暴力と恫喝で国家権力を恣意的に支配し、その軍閥に大多数の国民が騙され、戦争に突入してしまった、と現在では多くの日本人が信じている>

(3)神話のウソ
 当時の史実に即して実証してみると、国民は相当のことを知らされていた。また、すこし努力すれば、正確な情報を入手することはさほど難しくはなかった。
 <例1>戦前・戦中に内閣情報部(1940年から情報局)が発行していた週報。誰でも購入することができたのだが、当時の国際情勢について正確な情報が記されている。
 <例2>大本営発表を基本データとする大衆向け小冊子『謀略決戦』。ガダルカナル戦後の戦況も、日本が相当守勢に追いこまれていることが見てとれる。
 戦艦大和が沈没したことも、大本営発表は隠していない。大本営発表が国民を騙した・・・・という神話は、無理がある。

(4)神話が隠蔽する歴史
 「真相箱」に代表される米国の宣伝技法は、じつに巧みで優秀だった。
 重大な失敗を犯したとき、誰も自分に責任があると認めたくないものだ。誰かに自分が騙されていた、というフィクションで自分の責任から逃れようとする。占領下の日本人のこうした心理を衝いて、米国は新しい神話を作った。そして、日本人は自ら神話を受け入れていった。
 <日米開戦の真実について、大川が『米英東亜侵略史』で解明した実証的な分析は、戦後GHQとそれに協力した日本人放送作家が作りあげた「真相箱」という神話に回収されていってしまうのである。それとともに大川周明という知識人の存在自体が日本人の記憶から薄れていくのである>

□佐藤優『日米開戦の真実 -大川周明『米英東亜侵略史』を読み解く-』(小学館、2006/のちに小学館文庫、2011)
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【保健】除菌成分で生殖異常・精子減少リスク ~消臭・除菌スプレー~

2016年01月31日 | 医療・保健・福祉・介護
  ①P&G「ファブリーズ」
  ②花王「リセッシュ」
  ③ライオン「HYGIA(ハイジア)」

 (1)①のコマーシャルでは、布団、洋服、カーペット、こたつなど、あらゆるものに吹きかけることを勧めている。
 しかし、布団やカーペットにしみ込んだ成分を吸い込んだり、子どもが舐めたりする危険性はないか?
 有害影響を示唆する研究が、2015年11月に米国で発表された。

 (2)問題の除菌成分は、「第四級アンモニウム塩」だ(①にも使用されている)。
 パトリシア・ハント博士・ワシントン州立大学らの研究で、
  (a)メスのマウスの餌に除菌成分「第四級アンモニウム塩」を混ぜて食べさせた実験で、マウスの出生率が通常の60%から10%へと激減し、生まれた胎仔の死亡率も半分くらいになる生殖異常が確認された。
  (b)オスのマウスの実験では、飼育かごの清掃に除菌成分を使うことで、精子の濃度と運動率(全体の精子の中の運動している精子の割合)が低下するという結果が出た。オスのマウスの曝露は、まさに人間での消臭・除菌スプレーによる曝露に近いとされる。

 (3)日本でも実は2006年に、東京都健康安全研究センターが実験していた。商品名は明示されていないが、「ファブリーズ」の原液を新生仔のマウスに飲ませた実験で、メスのマウスの死亡率が上がるなどの影響が出た。
 その商品に使用されている除菌成分は、2種類の第四級アンモニウム塩の混合液だ。そのうちの一つ(塩化ベンザルコニウム)は、米国の実験と同じもの。
 また、厚生労働省と環境省による有害性評価でも、生殖毒性の疑いあり(区分2)と分類されている。

 (4)動物実験で有害影響が出た量と、製品使用による曝露量を比較するためP&Gに「ファブリーズ」の除菌成分の含有量を尋ねたが、非公開とのこと。
 しかし、米国で販売されている「ファブリーズ」は0.13%という情報があり、それをもとに計算すると、商品に書いてある布団へのスプレー回数の目安(15回)で噴霧される量の0.8%以上を飲み込むと安全とはいえない量になる。
 妊娠中の母親、赤ちゃん、若い男性は、消臭剤・除菌製品の使用は要注意だ。
 「車用ファブリーズ」は、エアコン送風口から出るミストをそのまま吸い込むので特に危ない。

 (5)③は、ホームページに「ジアキルジメチルアンモニウム塩」と表示されている。同じく第四級アンモニウム塩の一種で、高用量で生殖毒性が指摘されているが、①の成分より危険性は低い。
 ②は、ホームページにも「除菌剤」としか表示していない。花王に問い合わせたところ、具体的な成分名は「非公開」のよし。情報を公開せず、一方的に信じろ、という態度である。

  ①P&G「ファブリーズ」:除菌剤(第四級アンモニウム塩)=塩化ベンザルコニウム・アルキルジメチル・ベンジンアンモニウム塩【有毒性3】/塩化ベンザルコニウムには生殖毒性の疑いあり(区分2)
  ②花王「リセッシュ」:除菌剤(第四級アンモニウム塩)=回答拒否【有毒性3】/成分名を答えないという企業としては最悪の対応
  ③ライオン「HYGIA(ハイジア)」:除菌剤(第四級アンモニウム塩)=ジアキルジメチルアンモニウム塩【有毒性2】/一部のジアキルジメチル・アンモニウム塩に高用量で生殖毒性(発癌性はデータなし)

□植田武智「「ファブリーズ」の除菌成分で生殖異常・精子減少のリスクが!」(「週刊金曜日」2016年1月22日号)
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【詩歌】西脇順三郎「菫」

2016年01月30日 | 詩歌
 コク・テール作りはみずぼらしい銅銭振り
 であるがギリシャの調合は黄金の音がする
 「灰色の菫」というバーへ行ってみたまえ
 バコスの血とニムフの新しい涙が混合されて
 暗黒の不滅の生命が泡をふき
 車輪のように大きなヒラメと共に薫る

□西脇順三郎「菫」(『Ambarvalia』、東京出版、1947)
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 【参考】
【詩歌】西脇順三郎「皿」
太陽
【詩歌】西脇順三郎「雨」
【詩歌】西脇順三郎「天気」
【詩歌】西脇順三郎「カプリの牧人」 ~シシリアの伝説~
書評:『後方見聞録』
【T・S・エリオット】荒地 ~5 雷神の言葉~
【T・S・エリオット】荒地 ~4 水死~
【T・S・エリオット】荒地 ~3 火の説教~
【T・S・エリオット】荒地 ~2 将棋~
【T・S・エリオット】「荒地」 ~1 埋葬~

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【本】水木しげるが選ぶゲーテの賢言 ~『ゲゲゲのゲーテ』~

2016年01月30日 | 批評・思想
 (1)戦前、戦中、のん気な少年時代を過ごした水木しげるは、徴兵年齢が近づくにつれ、死の恐怖に耐えるべくニーチェやショーペンハウエルなどを読んだ。一番しっくりきたのがゲーテで、岩波文庫版全3巻の『ゲーテとの対話』は、暗記するほど読み込み、応召してからも雑嚢の底にしのばせ、ラバウルまで持っていった。戦地で読む余裕はほとんどなかったが、いわばお守りであった。復員後、結婚してからも売れない漫画家時代、折々にゲーテの格言を壁に貼っていた。心の支えとなっていたのだ。
 今や、水木サンの80%はゲーテだと水木しげるはおっしゃる。「水木サン」とは水木しげる自身による自称である。「私は・・・・」と言わずに、「水木サンは・・・・」と言うのだ。

 (2)本書は、水木しげる蔵書の傍線だらけの『ゲーテとの対話』の中から、93の「賢言」を水木しげるが選び、「賢言」のいくつかには水木しげるの短いエッセイを付す。93という数字は、2015年現在の水木しげるの満年齢にちなむ。「賢言」とは、格言・箴言・警句の総称と理解してよいだろう。
 ただし、読みやすさを考えて、水木しげるが愛読した亀尾英四郎・訳ではなく、現在も購入できる山下肇・訳の岩波文庫全3巻から引用されている。
 「賢言」は、4つに分類される。
   ①ものを創り出すこと
   ②働くこと・学ぶこと
   ③生きることはたいへんです
   ④死の先にあるもの
 これら「賢言」集の前に水木しげるへのインタビュー、後に水木夫妻へのインタビューが置かれる。「賢言」に付されたエッセイとあいまって、水木しげるの中でゲーテがどう消化されてきたかがよく分かる。そして、水木漫画の世界を支える生命観(死後の世界を含めて)や人生観の骨格も窺える。

 (3)選ばれた「賢言」は、例えば次のようなものだ。
 <例1>「①の22 天才とはなにか」
   ほかの人びとには青春は一回しかないが、
   この人びとには、反復する思春期がある。

 (水木しげるのエッセイ)
 <ゲーテのような天才的人間というのはいつまでも若く、精気がみなぎっているんです。私はベビィの頃から胃がいいものだから、なんでも美味しく食べられるんです。軍隊で野戦へ行っても、なんでも食べられました。だから、90歳を超えても健康でいられるわけです。
 ゲーテも徹頭徹尾、健全でたくましい人物でした。高齢で、重職にもついていたというのに、70歳を過ぎてから16、7歳の娘に結婚を申し込むんです。すごいですよ>

 (所見)
 「ベビィの頃」とは少年時代の水木しげる的言いまわしだ。
 また、「賢言」において、「反復する思春期」に傍点がふってある。
 ゲーテが天才だったことは疑いを入れないし、「反復する思春期」があったことも歴史的事実だ。
 しかし、凡人には「反復する思春期」がゼロというわけではない。
 プチ天才が、世の中にいくらかはいると思う。

 <例2> 「②の26 仕事について」
   一事を明確に処理できる人は、
   他の多くのことでも役に立つ

 <例3> 「②の31 最高のものから学ぶ」
   趣味というものは、中級品ではなく、
   最も優秀なものに接することによってのみつくられる

 <例4> 「②の45 質問の善し悪し」
   目的を尋ねる質問、つまり、
   なぜという質問はまったく学問的でない。
   だが、どのようにしてという質問ならば、
   一歩先に進めることができる。
    【注】「なぜ」と「どのようにして」には傍点。

□水木しげる『ゲゲゲのゲーテ 水木しげるが選んだ93の「賢者の言葉」』(双葉新書、2015)
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【詩歌】西脇順三郎「皿」

2016年01月29日 | 詩歌
 黄色い菫が咲く頃の昔
 海豚は天にも海にも頭をもたげ
 尖った船に花が飾られ
 ディオニソスは夢みつつ航海する
 模様のある皿の中で顔を洗って
 宝石商人と一緒に地中海を渡った
 その少年の名は忘れられた
 麗(うららか)な忘却の朝

□西脇順三郎「皿」(『Ambarvalia』、東京出版、1947)
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 【参考】
太陽
【詩歌】西脇順三郎「雨」
【詩歌】西脇順三郎「天気」
【詩歌】西脇順三郎「カプリの牧人」 ~シシリアの伝説~
書評:『後方見聞録』
【T・S・エリオット】荒地 ~5 雷神の言葉~
【T・S・エリオット】荒地 ~4 水死~
【T・S・エリオット】荒地 ~3 火の説教~
【T・S・エリオット】荒地 ~2 将棋~
【T・S・エリオット】「荒地」 ~1 埋葬~

  映画「グラン・ブルー」
 
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【食】明太子やたらこも癌リスクを高める ~亜硝酸Na、タール系色素~

2016年01月29日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)ハムやソーセージなどの加工肉を食べると大腸癌になるリスクが高まる理由は、
   発色剤として添加されている亜硝酸Naが
   食肉に含まれるアミンと反応して
   発癌性のあるニトロソアミン類に変化するため。
 明太子、たらこ、イクラの場合も、製品が黒っぽく変色するのを防ぐ目的で亜硝酸Naが添加されている。魚卵にはアミンが多く含まれているため、ニトロソアミン類ができやすい。
 よって、明太子、たらこ、イクラを食べ続けると、加工肉と同様に癌になるリスクが高まる。

 (2)(1)を裏付けるデータは、津金昌一郎・国立がん研究センター「がん予防・検診研究センター」長らが行った疫学調査。
  (a)調査・・・・塩蔵魚卵を食べる頻度を①「ほとんど食べない」、②「週に1~2日」、③「週に3~4日」、④「ほとんど毎日」に分類し、それぞれのグループの胃癌発生率を調べた。
  (b)結果・・・・①を1とすると、②が1.58倍、③が2.18倍、④は2.44倍に達した。つまり、塩蔵魚卵をたくさん食べている人ほど胃癌発生率が高くなるという比例関係になっていた。塩蔵魚卵は胃癌の発生率を高めるのだ。
  (c)考察・・・・塩分濃度の高い食品は粘液を溶かし、胃粘膜が強力な酸である胃液によるダメージをもろに受ける。その結果、胃の炎症が進み、ダメージを受けた胃の細胞は分裂しながら再生する。そこに食べ物などと一緒に入ってきた発癌物質が作用して、癌化しやすい環境を作る。【注】

 (3)(2)-(c)で指摘された発癌性物質の一つは、亜硝酸Naが変化してできたニトロソアミン類。これは酸性状態でできやすいため、胃酸が分泌される胃の中でできやすいからだ。
  (a)ニトロソアミン類は10種類以上ある。いずれも動物実験で発癌性が認められている。中でも代表的なN-ニトロソジメチルアミンの発癌性は非常に強く、わずか0.0001~0.0005%を餌や飲料水に混ぜてラットに与えた実験では、肝臓や腎臓に癌が認められた。
  (b)よって、亜硝酸Naが添加された塩蔵魚卵を頻繁に食べていると、胃の中でニトロソアミン類が発生し、その影響で癌ができやすくなる。
  (c)ニトロソアミン類の発生を防ぐために、酸化防止剤のビタミンCが添加されているが、十分には防げない。

 (4)着色された明太子やたらこに含まれるタール系色素(赤色102号、赤色106号、黄色5号)が発癌を助長している(推定)。化学構造や動物実験の結果から、発癌性の疑いが持たれているのだ。
 特に赤106(赤色106号)は、発癌性の疑いが強く、外国では使用がほとんど認められていない。
 なお、イクラの場合、着色されておらず、亜硝酸Naも添加されていない製品が多いので、表示をよく見て選ぶとよい。

 【注】津金昌一郎『がんになる人ならない人 -科学的根拠に基づくがん予防』(講談社ブルーバックス、2004)

□渡辺雄二「「明太子」や「たらこ」でもがんになるリスクが高まる ~新買ってはいけない 第216回~」(「週刊金曜日」2016年1月22日号)
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 【参考】「【食】「加工肉」の危険性に改めて目を向ける ~発癌性~
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【詩歌】西脇順三郎「太陽」

2016年01月28日 | 詩歌
 カルモジインの田舎は大理石の産地で
 其処で私は夏をすごしたことがあった
 ヒバリもいないし 蛇も出ない
 ただ青いスモモの藪から太陽が出て
 またスモモの藪に沈む
 少年は小川でドルフィンを捉えて笑った

□西脇順三郎「太陽」(『Ambarvalia』、東京出版、1947)
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 【参考】
【詩歌】西脇順三郎「雨」
【詩歌】西脇順三郎「天気」
【詩歌】西脇順三郎「カプリの牧人」 ~シシリアの伝説~
書評:『後方見聞録』
【T・S・エリオット】荒地 ~5 雷神の言葉~
【T・S・エリオット】荒地 ~4 水死~
【T・S・エリオット】荒地 ~3 火の説教~
【T・S・エリオット】荒地 ~2 将棋~
【T・S・エリオット】「荒地」 ~1 埋葬~

  映画「グラン・ブルー」
 
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【神戸】「医療産業都市」の躓きと暴走 ~埋立開発行政の破綻②~

2016年01月28日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)理化学研究所の発生・再生科学総合研究センター(CDB、現・多細胞システム形成研究センター)の小保方晴子・ユニットリーダー(当時)が発見したとされる「STAP細胞」は、理研自身によって「ES細胞由来」=新発見ではないとされた。不正研究とされた小保方氏は依願退職し、野依良治・理研理事長も辞任した。
 小保方氏は、博士論文でも米国立衛生研究所のホームページから「コピペ」していた。ホームページならすぐ分かる。研究者として不正だとの認識が皆無だった証左だ。
 博士号を取り消された小保方氏は、早稲田大学を提訴した。 しかし、
 「早大理工学部がそういう教育をしていたのでは?」【菊池誠・大阪大学サイバーメディアセンター教授】
 「メディアを過剰意識した結果のあだ花が小保方さんのSTAP細胞です。生体肝移植失敗と小保方さんのスキャンダルは無関係だと思っている人は多いが、実は同じレベルでの問題」【西田芳矢・兵庫県医師会副会長】
 両者の底流にあるのは、「稼ぐ先端医療」だ。小保方「STAP細胞」の研究も再生医療への活用が目標だった。

 (2)国立大学や科学研究の国立機関は、1990年代後半から独立行政法人化し、各機関は研究成果をメディアに取り上げさせることに汲々とし始める。
 発表するほどでもない成果も、研究者が得意気に記者発表する。メディアが取り上げてくれれば勝ち。
 文部科学省の査定もメディアへの露出度に影響され、予算も左右される。
 事実、CDBはSTAP細胞をアピールし、巨額プロジェクト予算の格闘を狙っていた。しかし、不正研究の影響で獲得しそびれたどころか、2015年度の予算要求は45%も削減する羽目になった。
 まさに「あだ花」だったが、研究者が短期契約で成果を求められる現状も不祥事につながる。

 (3)生体肝移植の相次ぐ失敗に批判が強まるなか、田中紘一・神戸国際フロンティアメディカルセンター(KIFMEC)理事長は、2015年9月24日、生体肝移植を再開すると発表した。
 手術失敗後、10人の外部専門委員の評価委員会は「おおむね体制は整った」と説明。
 10月6日、田中理事長はKIFMECにおける10例目を執刀した。「患者は安定し、別の病院に転院させた」としたが、詳細は明らかにしない。
 ところが、2ヵ月後(11月27日)、KIFMECは突然、「診療を停止する」と発表した。患者が激減し、経営難に陥っていたのだ。
 「スタッフの大半は解雇。入院患者はすべて転院し、外来の患者も含め、再開時期は未定」【代理人の弁護士】
 その後、KIFMECは、医師を派遣していたシンガポールの診療所を閉鎖。技術協力を予定していたインドネシアの内視鏡診療支援も中止した。
 神戸市が期待した生体肝移植の海外展開は、雲散霧消した。
 実は、田中理事長は、KIFMEC向かいにある国際医療開発センター(IMDA)という医師の訓練センターも経営していたが、こちらも1年で倒産した。

 (4) オープンから1年も経たないうちに危機に陥ったKIFMECのことを、神戸市は「民間病院の経営について市があれこれ言えない」【石野竜一郎・医療産業都市・企業誘致推進本部担当課長】と頬かむりするだけ。
 「経済産業省の補助金を受けてビルを建て、医療関連の研究室やオフィスにしたが、経営破綻で結局は神戸市が買い取った。すべて税金で穴埋めされている。KIFMECも土地は神戸市が安く貸している」【前田博史・共産党神戸市委員会事務局】
 「神戸市が『権威だ、権威だ』と田中氏を引っ張ったのが大失敗。経営能力などゼロでしょ。結局、税金で尻ぬぐいさせられている」【県医師会のある幹部】
 神戸市は、2013年度の予算でも7,100億円のうち、ポートアイランドの医療産業都市に数十億円をつぎこむ。
 「市は、医療産業都市に200社以上の医療関係機関が来ていると宣伝しますが、入れ替わりが激しい。最初の3年間は半額の家賃補助があるため、各企業は研究室を借りたりするが、3年で出ていく。一時的に補助金に乗っているだけです」【前記、前田氏】
 「出ていく会社も多いが、それ以上に入ってきている」と神戸市の前記、石野課長は反論するが。

 (5)大きくイメージダウンした医療産業都市。
 神戸市が次に救世主とするのが、高橋政代・理研多細胞システム形成研究センター・プロジェクトリーダーだ。高橋氏は、iPS細胞をはじめて臨床で使う「加齢黄斑変性」の治療を行う。2015年10月に発表した途中経過によると、患者の視力が進展しているように報じられた。
 「簡単に視力が上がるとは思われない。iPS細胞は癌化しやすい。目なら癌が外からも分かりやすく、すぐ除去できる。だから目から始めている」【ある眼科医】
 文部科学大臣賞を受賞した高橋氏は、「秋の園遊会」にも招待された。理研や神戸市は、早急に「科学スター」をつくりたいのだ。

 (6)TPPによって「薬漬け国民」を狙う米国の思惑は、日本の皆保険制度を崩して巨大製薬企業や保険会社を参入させることだ。
 「医療問題は直接TPPのテーブルにあがっていませんが、日本の薬価協議会に介入している米国が高く売ることを拒否された場合、TPPのISDS条項で『日本の規制で損害を被った』と米国の企業が日本政府を訴えることができます。負けたら薬価は高騰し、ここから皆保険が崩れる」【堤未果・ジャーナリスト】
 前回のアベノミクスの3本目の矢は、混合診療(保険外診療)の導入と医療ツーリズムと言われる。
 神戸市は、医療産業都市を国家戦略特区として規制から免れる場に変え、混合診療(保険適用外)の場として米国へ差し出すのか?

 (7)「神戸市は国の特区指定を利用して医療を儲けの場に変えた。野村総合研究所に見積もらせ、田中氏を呼ぶことやKIFMECで事故があれば市民病院を使うことなどを構想した。専用ジェットでサウジアラビアの富豪などが家族やドナーを連れてきて保険外手術を受け、宿泊もしてくれる。市議たちは公費でサウジアラビアなどに視察に行っている。背景には三井物産をはじめ、大手企業が絡む。計画されているiPS細胞がらみの目の治療拠点『神戸アイセンター』も利権だらけ」【武村義人・兵庫県保険医協会副理事長】
 地元に恩恵はあるか。
 「市は『最先端医療を神戸に集積することで市民に高度な医療を提供し、神戸を経済活性化できる』などと宣伝してきたが、参入しているのは大阪の武田薬品工業、東京の日立製作所など神戸市以外の大企業や米国の企業などで、市民は恩恵にあずかっていない。医療産業と社会保障としての医療とは違うはずだが、特区の規制緩和で市場原理を持ち込み、混合診療まで導入することは社会保障としての医療の否定と金による医療差別の容認」【出口俊一・兵庫県震災復興研究センター】
 震災後、医療産業都市と並び、神戸市が掲げた創造的復興の柱が、市民の大反対を押し切って建設された神戸空港だ。

□粟野仁雄(ジャーナリスト)「「医療産業都市」の躓きと暴走 ~破綻した“神戸市の埋め立て開発行政”②~」(「週刊金曜日」2016年1月22日号)
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 【参考】
【神戸】生体肝移植失敗の原因 ~埋立開発行政の破綻~

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【詩歌】西脇順三郎「雨」

2016年01月28日 | 詩歌
 南風は柔らかい女神をもたらした
 青銅をぬらした 噴水をぬらした
 ツバメの羽と黄金の毛をぬらした
 湖をぬらし 砂をぬらし 魚をぬらした
 静かに寺院と風呂場と劇場をぬらした
 この静かな女神の行列が
 私の舌をぬらした

□西脇順三郎「雨」(『Ambarvalia』、東京出版、1947)
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 【参考】
【詩歌】西脇順三郎「天気」
【詩歌】西脇順三郎「カプリの牧人」 ~シシリアの伝説~
書評:『後方見聞録』
【T・S・エリオット】荒地 ~5 雷神の言葉~
【T・S・エリオット】荒地 ~4 水死~
【T・S・エリオット】荒地 ~3 火の説教~
【T・S・エリオット】荒地 ~2 将棋~
【T・S・エリオット】「荒地」 ~1 埋葬~

 正義の女神ディケ、全能の神ゼウスとテミスの間に生まれた娘
  

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【経済】外国人投資家は株式から国債へ ~世界金融市場混乱(2)~

2016年01月27日 | ●野口悠紀雄
 (承前) 

 (5)過去10年程度の投機の時代が異常だったのだ。よって、
 <例>原油価格が1バレル当たり100ドルを超えるような状況に戻るとは考えにくい。また、株価が急に反発することも考えにくい。一時的にそうしたことがあっても、継続するまい。

 (6)海外から日本への投資も、株式(高リスク資産)から国債(低リスク資産)へと移行している。
  (a)株式市場・・・・外国人投資家は7年ぶりの売り越しになった。→2015年夏の株価下落。
  (b)中長期債への対内投資・・・・増加。この結果、
   ①10年債の利回りは2015年夏以降傾向的に低下。
   ②2年債の利回りは2015年秋以降急速に低下。11月初めからマイナスが続いている。
  (c)国債への資金流入額は株式からの資金流入額よりはるかに規模が大きいので、こうした投資情勢の変化は円高をもたらす。
   ①事実、円はすでに増価している。
   ②2015年9月ごろにいったん円高が進行した。その後円安に戻ったが、2015年12月から再度円高が進行している。

 (7)(6)はユーロ危機の際に起こった資金移動と似ている。今回これと同じような大規模な資金の移動が起こるかどうか、まだ不明である。
 ただし、規模はさておき、株価の下落、円高、国債利回り低下という方向への変化が、今後進行する可能性は十分にある。その規模が大きくなれば、日本経済の動向に極めて大きな影響を与える。

 (8)問題①は、日本経済が新しい均衡に適応する準備をしているかどうかだ。
  (a)もっとも重要な問題は、原油価格をはじめとする一次産品価格の下落を経済成長に結びつける政策を採ることだ。そのためには、日本銀行はインフレ目標を撤廃すべきだ。
  (b)円高が進めば、国内の物価に対しては、さらに下落圧力が働く。日銀の物価目標はますます遠のく。インフレ目標の無意味さが明確になる。

 (9)問題②は、一層の金融緩和を求める声が高まることだ。
  (a)とりわけ危惧されるのは、株価が下落したときに、公的資金による買い支え要求が強まることだ。すでに日銀は、12月の緩和補完措置において、ETF購入の増枠を決めている。
  (b)公的資金による株価支持は、これまでも行われてきた。その結果、すでに公的機関が大量の株式を保有している。株価が下落すれば、これらは巨額の損失を発生させる。
  (c)年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2015年夏の株価下落で大きな損失を出した(2015年7~9月の運用損失はマイナス8兆円、利回りはマイナス5.6%)。今回の株価下落でも損失を出している可能性がある。
  (d)日銀も相当額のETFを保有しているので、(c)のGPIFが抱えている問題から逃れられない。

□野口悠紀雄「リスクオフで株価下落 円高が進む可能性も ~「超」整理日記No.792~」(「週刊ダイヤモンド」2016年1月30日号)
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 【参考】
【経済】新年からの世界金融市場混乱の原因 ~リスクオフ~

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【経済】新年からの世界金融市場混乱の原因 ~「リスクオフ」~

2016年01月27日 | ●野口悠紀雄
 (1)2016年の世界金融市場は、波乱の幕開けとなった。
 中国株の下落がきっかけになっているのは間違いない。ただし、「中国株の下落だけが原因で、それにつられて世界の株価が下落している」ということではない。
 これは、より広く、投機資金の「リスクオフ」によってもたらされているものだ。その根本には、米国の金融正常化がある。

 (2)投機は、「一定量の資金をさまざまな対象に投資するだけではない。
 短期資金を借り入れて、投機の総額を膨らませて投資する(「レバレッジド投資」)。投資のリスクは増大するが、期待収益率は引き上げることができる。
 金融緩和下においては、短期資金の借り入れが容易になり、その結果投機の総額が増大する。
 米国では、リーマンショック後も金融緩和策が継続されたため、投機は米国住宅価格バブル崩壊後も終わることなく、世界中のさまざまな対象を求めて動いてきた。欧州の住宅、原油、その他の一次産品、国際商品、新興国の株式、新興国の通貨等が対象になった。先進国においても、株式が投機の対象になった。
 ところが、米国の金融緩和政策の終了が示唆され始めた2013年5月ごろから、この動きに変調が生じた。わけても2014年10月に米国が金融緩和の終了を宣言したことで、大きな変化が起こった。
 金融緩和が終了すると、
  →短期資金の調達が困難になる。
  →投資資金の総額が減少する。
  →それまで原油や新興国などに投資されていた資金が回収される。
  →原油価格などの一次産品価格が大幅に下落し、新興国の株価や通貨も下落する。
  →資源や新興国への投資のリスクプレミアムが高まる。
  →危険資産から安全資産への移動がさらに加速される。
 以上は「リスクオフ」と呼ばれる現象だ。
 ただし、これは投資家の戦略がリスクテイクからリスク回避に変わったため生じるのではなく、投資対象のリスクプレミアムが上昇したために生じる現象だ。
 その動きが先進国株価にも及んできている。

 (3)リスクオフの動きは、
  (a)2011年から2012年ごろにかけても顕著に生じた。このときには、南欧国債から資金が逃避し、その利回りが急騰した(「ユーロ危機」)。流出した資金は、日独米の国債に流入し、その利回りを大幅に下げた。日本では円高が引き起こされた。
  (b)2015年夏以降生じている現象は、基本的には(a)と同じ性格のものだ。米国の金融正常化によって、米国の住宅価格バブル以降ほぼ10年間にわたって続いた投機の時代が、いまようやく終了しようとしているのだ。

 (4)(1)の中国の株価下落(今回の世界経済混乱の原因)の背景は次のとおり。
  (a)中国はリーマンショック後に大規模な景気浮揚策を行った。それによって経済成長率を落とさずに済だが、他方において不動産価格のバブルという副産物をもたらした。そのバブルが崩壊し、中国経済は困難な状況に陥っていた。
  (b)長期的観点から見ても、工業化の進展に伴い、これまでのように安い労働力で輸出競争力を維持することが困難になってきた。
  (c)このような意味で中国経済は大きな転換点にあったのだが、中国政府はそうした問題を隠蔽するために、隠蔽するために2015年春から積極的な株価引き上げ策を取った。ところがそれが破綻し、6月ごろから株価の急激な下落が始まったのだ。
  (d)現在の株価下落は、(c)の延長線上にある。それと米国金融正常化の影響と、どちらが重要であるかは判断が難しい。
  (e)明らかなことは、いま生じているのは、一時的な現象ではないことだ。
   ①しばらくすれば元に戻るというものではない。
   ②米国の場合は、明らかに新しい均衡に向かっての動きだ。
   ③中国の場合も、中国政府がしばしば強調する新しい均衡を求めての動きだ。

□野口悠紀雄「リスクオフで株価下落 円高が進む可能性も ~「超」整理日記No.792~」(「週刊ダイヤモンド」2016年1月30日号)
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【詩歌】西脇順三郎「天気」

2016年01月26日 | 詩歌
【詩歌】西脇順三郎「天気」

 (覆された宝石)のような朝
 何人か戸口にて誰かとささやく
 それは神の生誕の日

□西脇順三郎「天気」(『Ambarvalia』、東京出版、1947)
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 【参考】
【詩歌】西脇順三郎「カプリの牧人」 ~シシリアの伝説~
書評:『後方見聞録』
【T・S・エリオット】荒地 ~5 雷神の言葉~
【T・S・エリオット】荒地 ~4 水死~
【T・S・エリオット】荒地 ~3 火の説教~
【T・S・エリオット】荒地 ~2 将棋~
【T・S・エリオット】「荒地」 ~1 埋葬~

 

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【佐藤優】の「反省」 ~モスクワ大使館の裏金作り~

2016年01月26日 | ●佐藤優
 『野蛮人のテーブルマナー』【注1】は、「KING」誌に連載の「ビジネスを勝ち抜く情報戦術」が3分の1、残り3分の2が鈴木宗男との対談および河合洋一郎との対談という構成になっている。
 対談で河合洋一郎はいう。

---(引用開始)---
河合 それにしても今回の本『反省』【注2】、面白かった。「深く反省しております」と言いながら、すべてを暴露する。大笑いさせてもらいました(笑)。
佐藤 これでもだいぶ、手加減しているのですよ。
河合 すばらしい反省の仕方ですよ(笑)。
---(引用終了)---

   *

 佐藤優の極めてレトリカルな「反省」のしかたは、『交渉術』【注3】の「7 私が誘われた国際経済犯罪」でも見られる。

 佐藤がモクスワ大使館に赴任したのは1987年8月だが、そのころ、各国の(したがって日本も)大使館員はウィーンで大量のルーブルを仕入れ、モスクワに運んだ。当時、1ルーブルの公定レートは250円、ウィーンの銀行では45円前後なのであった。ソ連は、自国通貨の持ち込み、持ち出しを厳禁していたのだが、外交行嚢に入れることでチェックを免れたのである。
 日本大使館員は、この裏金組織を「ルーブル委員会」と呼んだ。「ルーブル委員会」のからくりは次のようなものであった。
 大使館員が外交特権をもちいて免税で私用車を買う(外交官1人あたり2台まで保有できる)。市価300万円の車を200万円程度で。2年くらい経ったころ、「ルーブル委員会」の責任者である総括参事官の承認を得て、たとえばモスクワ在住のアフリカの外交官に売却する。3万ルーブル(公定レートで750万円)くらいで。
 くだんのアフリカ人外交官が支払うルーブルは、ウィーンで購入したものだ(したがって実際に支払う金額は150万円)。その後、この外交官は外交特権を使って車をトルコに持ちだし、中東の自動車シンジケートに250万円で売却する。中東は自動車に係る関税が高いので、新車の定価が300万円の2年物の中古車を250万円で購入しても、市場で300万円以上で販売することは可能だった。十分商売になった。
 車を売却した代金は、「ルーブル委員会」に預けられる。管理者は、総務担当の書記官であった。
 大使館員がルーブルが必要になると、「ルーブル委員会」から千ルーブル単位で購入するのだ(公定レート250円、「ルーブル委員会」の闇レート100円)。千ルーブルを購入した場合、トランスファー用紙にスウェーデン・クローナ建てで約10万円の金額を書き、書記官にわたす。トランスファー用紙には、車を販売した大使館員の名前と口座番号が書かれていた。

 「ルーブル委員会」の闇レートによって、大使館員は二つの面で裨益した。
 第一、支出が相当削減された。
 第二、経済的利益を得ることができた。

 ただし、佐藤自身は第二点の経済的利益を得ていない。1995年3月まで7年8か月の長期にわたってモスクワに勤務したからだ。ソ連崩壊後、ルーブルの公定レートと闇レートとの差はほとんど無くなった。
 第一点については、佐藤は得た利益を列記していう。「当時は、これで得をしたと私も思っていたが、これは明らかに違法行為だ。感覚が完全に麻痺していた。国民のみなさんにお詫び申し上げる。深く反省している」

   *

 佐藤優はかく語りき・・・・。彼はクリスチャンであるにも拘わらず、その言説はニーチェの偶像破壊を思わせる。
 「反省」している、と述べているのだから、誰も文句をつけるわけにはいかない。
 敢えて断罪するなら、「ルーブル委員会」の責任者である小西正樹・総括参事官(後のジンバブエ大使)以下、当時の大使館員全員を断罪しなくてはなるまい。
 佐藤は、ひとたび外務省から切って捨てられた人物である。他の大使館員を道連れに断罪されても、何の痛痒もない。困るのは、佐藤とは別の御仁である。
 しかも、佐藤は曲がりなりにも「反省」している。反省していない「塀の外の面々」は、佐藤から一方的に事実を暴露されるしかなく、莫迦みたいな立場に置かれている。佐藤に暴露された当事者は、何か言い返したくても言えばヤバイ状態に陥るから、悶々となって、茹で蛸のように赤くなるか青くなるしかない。
 河合洋一郎ならずとも、呵々大笑せざるをえない。

 【注1】佐藤優『野蛮人のテーブルマナー -ビジネスを勝ち抜く情報戦術-』(講談社、2007/のちに『完全版 野蛮人のテーブルマナー』、2014)
 【注2】鈴木宗男/佐藤優『反省 私たちはなぜ失敗したのか?』 、アスコム、2007
 【注3】佐藤優『交渉術』(文藝春秋、2009/のちに文春文庫、2011)

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【欧州】北欧も難民入国規制強化へ ~形骸化するシェンゲン協定~

2016年01月26日 | 社会
 (1)「私の欧州は戦争から逃れる人を受け入れ、私の欧州は壁を作らない」
 2015年9月6日、難民問題が深刻化しているさなかに、ロベーン・スウェーデン首相は誇らしげに明言した。連立与党(スウェーデン社会民主労働者党+緑の党)は、自分たちを戦争と恐怖から逃れる人たちへのビーコン(光明)と自画自賛した。
 ところが、この首相発言によってスウェーデンは難民に寛容だとのイメージがさらに広がり、年末にかけて予想をはるかに上回る数の難民が一度に押し寄せた。
 同国は急遽、2016年1月4日以降はデンマークからの入国者すべてにチェックを課すことを決めた。もうこれ以上、難民を受け入れることはできないと。
 スウェーデンの難民受け入れは、人口100万人当たり8,365人で、2位ドイツの3倍以上だ。
 2015年秋以降、1週間に1万人もの難民要請が殺到しているが、国家保安と秩序を保つため、2016年は10分の1(1,000人)にまで減らす計画だ。
 2015年11月、難民急増で臨時国境を作らざるを得ない状況に追い込まれたのだが、今回のデンマークとの国境検査は、臨時ではなく最低3年間は続く。

 (2)これを受けて、間髪を入れずにラスムセン・デンマーク首相が、スウェーデンの動きがデンマークへの難民を増加させるようなら、ドイツ国境での入国管理を復活させると発表した。  

 (3)(1)や(2)は、今まで難民に比較的寛容だった北欧でも、難民拒否のドミノ倒しが始まったことを示す。
 右翼政党が与党の座にいるノルウェーは、既に「欧州において最も厳しい」難民入国の措置をとる政策案を2015年暮れに発表した。ノルウェーでは、2015年は前年に比べ3倍以上の35,000人が難民要請を出している。

 (4)2016年新年早々、EUは慌ててスウェーデン、ドイツ、デンマークと話し合いを続け、お互いの協調を引きだそうと懸命だ。
 1月4日、スウェーデンもデンマークも欧州委員会に対して(1)、(2)の新政策を報告した。欧州委員会は、両国がEUのシェンゲン協定【注】に抵触していないかを調べている。

 (5)シェンゲン協定を破っているのはデンマークだけではない。
 実は、2015年からノルウェー、スウェーデン、ドイツ、フランス、オーストリアが入国管理を行うことのできる「例外的な一時措置」を適用し、国境での難民入国チェックを一部再開している。これは6ヶ月間国境を立ち上げることができる措置だが、「臨時」が「永久」に変わっても誰も驚くまい。

 (6)シェンゲン協定創設国の一員だったオランダは、地域を再度安定させるために2015年末に協定の範囲を縮める案を発表した。協定は1985年にフランス、ドイツ、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクによって成立したが、オランダはこれにスウェーデンとオーストリアを加え、フランスを除外する「ミニ・シェンゲン」協定を提唱した。
 EUではこの案は評判が大変悪かったらしいが、シェンゲン協定もEU同様、拡張しすぎたために本来の趣旨やもたらされるメリットが失われている。 
 
 【注】<シェンゲン協定>
 <欧州連合(EU)の経済統合の土台であり、人や物、サービス、資本などの移動の自由を定める。域内では、パスポート検査など国境審査を廃止している。現在、EU加盟国28カ国のうち英国などを除く22カ国が協定に参加。EU加盟国以外ではスイスやノルウェーなど4カ国が加わっている>【記事「「移動の自由」協定、EU内に見直し論 内相理事会で検討へ」(朝日新聞デジタル 2016年1月25日)】

□竹下誠二郎(静岡県立大学経営情報学部教授)「スウェーデンよ、お前もか 北欧も難民入国規制強化へ 形骸化するシェンゲン協定」(週刊ダイヤモンド」2016年1月23日号)
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 【参考】
 <パリの同時多発テロや難民の大量流入を受け、欧州での国境を越えた「移動の自由」を定めるシェンゲン協定を見直す動きが浮上している。欧州連合(EU)は25、26両日、オランダで内相理事会を開き、国境審査を一時的に再開する期間の延長などについて検討を始める見通しだ。
 「難民が急増する春まで2カ月しかない。今後6~8週間以内に明らかに数を減らす必要がある」
 EU首脳会議の議長を務めるオランダのルッテ首相は20日、仏ストラスブールの欧州議会で演説し、難民を減らすために新たな手段を講じる必要があるとの考えを強調。オランダは昨年11月のパリのテロ後、周辺国を含む限られた地域で国境審査を再開する新たな仕組みを政府内で検討しており、場合によっては、内相理事会に提案する構えだ。
 シェンゲン協定の詳細を定めた規則では「公共政策や治安への深刻な脅威がある」場合、最長6カ月間、国境審査を再開できる。欧州委員会によると、この規則に従い、現在もフランスやノルウェーなど計7カ国で国境審査を導入している。25日からアムステルダムで始まる内相理事会では、一時的審査の期間を最長2年に延長する案を軸に調整を始めるとみられている。
 ただ、シェンゲンの見直しについてはEU内から警戒の声もある。20日、ユンケル欧州委員長は欧州議会で演説し、「(加盟国の)経済は影響を受け、単一通貨が必要なのか疑問が広がり、単一市場も、移動の自由もなくなってしまう」と訴えた。(ブリュッセル=吉田美智子)>【前掲朝日新聞デジタル記事】
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【詩歌】西脇順三郎「カプリの牧人」 ~シシリアの伝説~

2016年01月26日 | 詩歌
 春の朝でも
 我がシシリアのパイプは秋の音がする
 幾千年の思いをたどり

 *

【注解】
 牧人の思いになって書いた詩。現実の季節感と古代への思いが混じり合って、不思議な音となる。そんなパイプ、あるいは角笛/葦笛を思い出せばよい。
 カプリ島は、地中海の、南伊のソレント半島の先端にある。冬は温暖、夏は猛暑もなく、ストラボン『世界地誌』によれば、ローマ皇帝の別荘があった。
 シシリヤのパイプ(Sicilian shepherd's pipe)は、パーンの笛シューリンクスのことだ。シューリンクスは、アルカディアのニンフ。パーンに追われて拿捕されかけた時、ラードーン河岸で葦に身を変えた。風にそよぐ葦。そこからパーンはシューリンクス笛を創り出した。
 パーンはこのシューリンクス笛をダプニスに教え、ダプニスはシューリンクス奏者、かつ、牧歌の発明者となった。
 ダプニスは、シシリアの羊飼、ヘルメースとニンフの子(あるいはヘルメースの愛顧をうけた者)。ニンフたち、神々に愛された。ニンフのエケナイス/ノミアー(「牧場の」の意)は彼を愛し、忠実を誓わせたが、シシリア王の娘が彼を酔わせて交わったので、彼を盲目にした(殺したとも伝えられる)。盲しいたダプニスは、自らの悲しみを歌い、岩から身を投げた(岩と化したとも、へルメースによって天上に連れ去られたとも伝えられる)。
 シューリンクス伝説とダプニス伝説に共通しているのは、どちらも愛を拒否したということである。愛を拒否する者は、愛の神アプロディーテーの呪いを受け、悲惨な最期を遂げる(ギリシア神話の基本的モチーフ)。
 こうした幾千年の思いをたどれば、パイプに秋の音がする。

 以上、主として「古代ギリシア案内 [補説]ギリシア詩から西脇順三郎を読む 西脇順三郎の「カプリの牧人」」に拠る。

□西脇順三郎「カプリの牧人」(『Ambarvalia』、東京出版、1947)
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 【参考】
書評:『後方見聞録』
【T・S・エリオット】荒地 ~5 雷神の言葉~
【T・S・エリオット】荒地 ~4 水死~
【T・S・エリオット】荒地 ~3 火の説教~
【T・S・エリオット】荒地 ~2 将棋~
【T・S・エリオット】「荒地」 ~1 埋葬~

  「青の洞窟」Grotta Azzurra」:イタリア南部・カプリ島にある海食。カプリ島の周囲の多くは断崖絶壁であり、そこには海食洞が散在している。
 

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