語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】日本人が苦手な類比的思考 ~昭和史(10)~

2015年11月07日 | ●佐藤優
 (承前:昭和史を武器に変える10の思考術)

(10)日本人が苦手な類比的思考
 現代の中国と昭和の大日本帝国のように、一見、時代も状況もかけ離れたように見えるものに共通点を見出して分析するには、この類比的思考が必要だ。日本のインテリが最も弱いのが、この類比的思考ではないか。
 ユダヤ教にしてもキリスト教にしてもイスラム教にしても、その核心となる思考法は類比だ。ものごとの原型や規範はすべて聖書やコーランなどのテキストに書かれているのだから、世界のさまざまな現象は、それにあてはめて理解することができる、というわけだ。
 仏教は、仏典の数が多すぎるので、そういう思考法に向いていない。
 重要なのは、ものごとを判断するときに無意識のうちに類比的思考を使う人たちが世界では主流である、ということだ。彼らの内在論理を理解するためには、類比的思考の理解は欠かせない。
 いま日本人がすごく苦しんでいるのは、他者の理解が難しくなっていることだ。韓国が、中国が、米国も分からなくなっている。ましてや中東のような遠い地域の人びとの考えを日本人が理解するのは難しい。
 日本人は世界の中ではマイノリティでありながら、国内では圧倒的なマジョリティだ。だから、他人の身になって考えるという訓練ができていないのかもしれない。
 相手の内在論理を探ることは、インテリジェンスの基本だ。つまり、相手の立場に立って考え、その道筋を理解するのだ。
 むろん、相手の論理を知ること、それにどこまで付き合うかは、また別の問題だ。

 *

 平成は右下がりの時代だ。予測不能の事態はあまり起きてない。
 それに対して昭和は、未知の問題にぶち当たってばかり。日本という国が実力を試された。また、昭和は極端な時代でもあった。極端な軍国主義があり、極端な平和主義があり、極端な統制が敷かれたかと思うと、極端な新自由主義があった。
 極端から極端に揺れる中で、日本は二つの大失敗をやらかした。
  (a)高度国防国家をめざして挫折した「敗戦」。
  (b)経済大国をめざして挫折した「バブル崩壊」。
 昭和の歴史を学ぶとは、この大きな失敗から成功の種子を見つけることだ。そして同時に、成功のさなかにあって失敗の徴候を見出し、それを未然に防ぐことだ。
 「歴史を武器に変える」とは、そういうことだ。

□佐藤優「昭和史を武器に変える10の思考術」(「文藝春秋SPECIAL」2015年秋号)
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 【参考】
【佐藤優】地政学の目で中国を読む ~昭和史(9)~
【佐藤優】これから重要なのは地政学と未来学 ~昭和史(8)~
【佐藤優】近代戦は個人の能力よりチーム力 ~昭和史(7)~
【佐藤優】戦略なき組織は敗北も自覚できない ~昭和史(6)~
【佐藤優】人材の枠を狭めると組織は滅ぶ ~昭和史(5)~
【佐藤優】企画、実行、評価を分けろ ~昭和史(4)~
【佐藤優】いざという時ほど基礎的学習が役に立つ ~昭和史(3)~
【佐藤優】現場にツケを回す上司のキーワードは「工夫しろ」 ~昭和史(2)~
【佐藤優】実戦なき組織は官僚化する ~昭和史(1)~

  



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