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2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

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【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~

2014年12月31日 | ●佐藤優
 スウェーデンとロシアの関係が急速に悪化している。共同通信は12月15日に次のように報じた。
 <ロイター通信によると、スウェーデンの航空当局は14日、同国南部で12日、デンマーク・コペンハーゲン発ポーランド・ポズナニ行きのスカンジナビア航空1755便と、ロシア軍機が異常接近(ニアミス)するトラブルが起きていたと明らかにした。
 ロシア軍機側は自機の位置を知らせる自動信号送受信機「トランスポンダ」が切られていた状態で、スカンジナビア航空機は、航空管制の誘導で事故を免れたという。
 ロシア国防省は14日「ロシア軍機は国際法規を順守しており、民間機ルートとは安全な距離を取っていた」とニアミスを否定した。>【注1】

 スウェーデンとロシアの見解は180度異なるが、スウェーデンの主張が正しい、と推定される。ロシア軍機は、民間航空機にあえてニアミスすることによって、スウェーデンに「あんたたちのやっていることに俺たちは腹を立てている」というシグナルを送っている、と推定される。
 実は、10月中旬、国籍不明の潜水艦がスウェーデン領海を侵犯する事件が発生した。
 <「外国による海中での不審な活動」に関する通報を受け、ストックホルム(Stockholm)群島の海域で情報収集作戦を開始したスウェーデン軍は18日、活動を拡大させた。
 軍は、「信頼できる筋」からの情報に基づいて17日夕から、首都ストックホルムから東に約50キロ離れたバルト海(Baltic Sea)の海域で兵士200人以上とステルス艦、掃海挺、ヘリコプターを投入して作戦を実施していた。
 (中略)フルトクビスト国防相は「バルト海周辺で発生している領空侵犯などの事案は、われわれが従来とは違った新たな状況に直面していることを示すものだ」と述べ、「ロシアは軍事力の強化に向け巨額の投資を行ってきており…増強された軍事力の下でより多くの軍事訓練を実施している。それが(スウェーデンを取り巻く)安全保障環境に影響を及ぼしている」との見解を示した。>

 スウェーデンは中立国だ。これまでは、NATO、ロシアの双方を刺激することを避け、第三国の軍事行動についてスウェーデン政府がコメントすることは稀だった。
 今回、ペーテル・フルトクビスト国防相は、領海を侵犯したのがロシアだ、という発言はしていないが、「ロシアの軍事力強化がスウェーデンの安全保障環境に影響を及ぼしている」と述べることで、事実上、ロシアの関与を認めた。

 では、ロシアは如何なる目的のために領海を侵犯したのか。
 NATOに加盟していないスウェーデンは、ロシアにとって直接的な脅威ではない。したがって、スウェーデンの防衛能力をチェックするために潜水艦を送る合理性はない。
 スウェーデン領海内には、米国、ヨーロッパ大陸、英国などと北欧を結ぶ光ファイバーの海底ケーブルが敷設されている。海底ケーブルに特殊な機材を設置すれば、大量の情報を盗み取ることができる。
 ロシア潜水艦は「特殊な機材」の設置ないし交換作業に従事していた可能性が高い。

 【注1】記事「ロシア軍機、民間機とニアミスか スウェーデン南部で」(京都新聞 2014年12月15日)
 【注2】記事「スウェーデン軍、首都沖での大規模な情報収集作戦を拡大」(AFP BB NEWS 2014年10月19日)

□佐藤優「ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~佐藤優の人間観察 第95回~」(「週刊現代」2015年1月3・10日号)
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【ピケティ】資本主義の今後の見通し ~トマ・ピケティ(3)~

2014年12月30日 | 批評・思想
(1)「資本主義の基本法則」
 ピケティは、データの蓄積にもとづいて、資本主義の基本な運動法則と彼が呼ぶものを描き出している。

  (a)第一法則
    α(利潤シェア)=r(資本収益率)×β(資本所得比率)【注1】
  (b)第二法則
    β(資本所得比率)=s(貯蓄率)/g(経済成長率)【注2】

 【注1】α:資産のストックから得られる利益の国民所得に対する比率。通常これは「利潤シェア」ないし「資本分配率」と呼ばれるものに近い。しかし、ピケティは資本利得や家賃収入なども含めているので、それより広い概念として使用している。
     r:資本ストックに対する利益の割合。
     β:国民所得に対する総資産の割合。
 【注2】g(経済成長率)が低下し、s(貯蓄率)が増大するにつれ、β(資本所得比率)が上昇する。

 ピケティは、(a)によってr(資本収益率)が十分に低下しなければ、
   α(利潤シェア)つまり国民所得に占める資産所得の割合が上昇し、
   労働所得の割合が低下する
という資産家優位の構造を明らかにした。
 また、(b)によって19世紀のような高いβ(資本所得比率)に舞い戻ろうとする携行が生み出されるとし、その資産家優位の構図が強まるロジックを示している。

(2)格差拡大の要因
 (1)-(a)および(b)の2法則を前提に、ピケティは不平等をもたらす根本的な要因を、
   r(資本収益率)>g(経済成長率)
にあると捉えた。r(資本収益率)がg(経済成長率)より高ければ、資産保有者は資産からの所得を投資に回すだけで経済成長率を上回る所得を手にすることができる、というわけだ。
 <例>500兆円規模の経済、資産所得が200兆円、労働所得が300兆円、年率1%で成長のケース。
    ・翌年の国民所得の増加は5兆円となる。
    ・資産所得・・・・その過程で、資産所得200兆円のうち50兆円が貯蓄され(貯蓄率25%)、5%の資本収益率で運用されると、資産からの所得増加は2兆5,000億円となり、資産所得の成長率は1.25%となる。
    ・労働所得・・・・300兆円が生み出す追加所得は残りの2兆5,000億円となり、労働所得の成長率は0.8%で、貯蓄率は逆算すると16.7%となる。
    ・以上、労働所得より資産所得のほうが早く成長する。

(3)今後の見通し
 ピケティによれば、こうした理論的把握から得られる資本主義の今後の見通しは、マルクスの見通しほど破局的ではないが、新古典派が描いたハッピーエンドモデルとは大きく違う。
 21世紀の資本主義は、資産保有者優位の「世襲型資本主義」だ。
 18世紀以前は、いずれの先進国でも、資本収益率は4.5~5.0%、経済成長率は0.1~0.2%だった。
 20世紀に資本収益率が減少、経済成長率が上昇し、両者は接近した。
 21世紀には、経済成長率が低下することで両者が再び乖離し、資本収益率は4.5~5.0%、経済成長率が1.0~1.5%になる(ピケティの予想)。
 こうなると、資産保有者がますます多くの富を手にすることが容易になる。
 成長率が高く、賃金が年率5%程度で上昇する経済であれば、若い世代が自分で富を蓄積することは容易だが、成長率が1~2%程度であればそうはいかない。
 <競争が能力主義をもたらすというのは幻想であり、競争の結果、世襲型資本主義が形成される。>
 すでに世界的な規模で、超資産家が増大しつつある。さらに、産油国などのソブリン・ウェルス・ファンド(政府出資のファンド)が高い収益力を武器に台頭しつつある。その頂点に君臨するのは、米英の巨大資本やプライベートエクイティ・ファンドなど(世界経済の真の支配者)だ。
 かかるグローバルな経済の変容は、(1)による資産格差の拡大の帰結にほかならない。

(4)格差解消の政策
 不平等のスパイラルから脱し、普遍的利益のために資本蓄積の動きを再び制御するための理想的な政策は、資産(資本)に対する強い累進課税だ。
 資本課税(法人や個人の純資産価値に対する累進課税が想定されている)は、具体的には、
   純資産100万~500万ユーロに1%、
   純資産500万ユーロ以上に2%、
   純資産10億ユーロ以上に5~10%、
といった水準が考えられている。よって、資産比率の上昇とそれによる資産の蓄積は、ピケティにとって、不平等の拡大の結果であるとともに、財政赤字を解消し、福祉重視の「社会的国家」を再建するための資源でもある。
 併せて、高額所得に対する課税や相続税の累進性強化も必要だ。ピケティは、最適な所得税率を次のようにしている。
   年収20万ドル以上の所得には50~60%、
   年収50万~100万ドルの所得層、上位1.0~0.5%には80%以上
 さらに、そのうえで、課税強化によって金持ちの国外流出が起こるという議論は、歴史的な経験と矛盾し、企業レベルのデータとも合致しないという。
 すでに米国では、ジョゼフ・スティグリッツ「富裕者増税論」など、ピケティの議論に呼応するような、かなり体系的でリベラルな政策提案もなされている。 

□本田浩邦「現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~ピケティ現象を読み解く~」(「週刊金曜日」2014年12月19日号)
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 【参考】
【ピケティ】現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~トマ・ピケティ(2)~
【ピケティ】分析の特徴と主な考え ~トマ・ピケティ『21世紀の資本』~
【経済】累進資産課税が格差を解決する ~アベノミクス批判~
【経済】格差が広がると経済が成長しない ~株主資本主義の危険~
【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~

   
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【ピケティ】現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~トマ・ピケティ(2)~

2014年12月29日 | 批評・思想
 ピケティの議論は、歴史、理論、政策を串刺しにしたような総題な広がりをもつ。
 そして、資本主義に対する楽観的な見方(長らく通説とされてきた)に根本的な修正を迫る。次の
   (1)の「逆U字型仮説」も、
   (2)の「生産関数の理論」も、
ともに20世紀前半の平等化の過程にあった資本主義経済を角に一般化することから生まれた。
 ピケティは、両者をしりぞけ、その後の資本主義の発展の経緯に即して現代経済学が想定してきた以上に資本主義が不安定な構造をもつことを浮き彫りにした。

(1)「逆U字型仮説」(サイモン・クズネッツ)に関わる。
 (a)クズネッツは、1914年から1945年の先進国の所得分配の変化を分析し、見通しを示した【1950年代半ばの論文】。すなわち、
    資本主義は一般にその発展の初期段階において不平等を強めるが、
    ある程度の発展以降は平等化が進む。
 (b)クズネッツは、当時、長期統計の最高権威であり、米国経済学会の会長でもあった。彼の見解は、冷戦下、東西の経済体制がせめぎ合うなか、資本主義の優位性を示唆するものとされた。特に、独立を果たした途上国が社会主義か資本主義かを選択するうえで、計りしれない影響をもった。
 (c)ピケティは次のように述べて、20世紀全体をみれば所得と資産の分配の不平等はむしろ拡大し、U字型を辿っていることを実証的に明らかにすることによってクズネッツ仮説を棄却した。
   <クズネッツ曲線の実証的根拠はきわめて脆弱であり、先進諸国の所得不平等の是正は世界大戦とそれに伴う経済的政治的ショックによるものであった。>
 
(2)生産関数の理論
 (a)戦後の経済学は、資本主義的市場が資本家or企業にとっても、労働者にとっても、公正な分配を保障するものであり、双方の取り分がバランスよく増大していく・・・・と想定した。この「生産関数の理論」は、かたちを進化させて今日の経済成長理論の柱となっている。
 (b)モデル分析で用いられる「コブ・ダグラス型生産関数」【注】について、ピケティは実証的に批判する。
   <一定期間の分析への接近としては有益だが、利潤と賃金の変化を調和的に説明し、富と所得の分配の不平等の問題、資本所得比率の変化を考慮しない。> 

 【注】経済学者のポール・ダグラス(1920年代からジョン・デューイらとともに社会主義的な第三政党運動に取り組んだ)が、数学者のチャールズ・コブとともに定式化した理論。この理論を彼の市場経済にもとづく社会民主主義的な経済戦略の基礎と考えた。

□本田浩邦「現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~ピケティ現象を読み解く~」(「週刊金曜日」2014年12月19日号)
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 【参考】
【ピケティ】分析の特徴と主な考え ~トマ・ピケティ『21世紀の資本』~
【経済】累進資産課税が格差を解決する ~アベノミクス批判~
【経済】格差が広がると経済が成長しない ~株主資本主義の危険~
【経済】なぜ格差は拡大するか ~富の分配の歴史~

   

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【ピケティ】分析の特徴と主な考え ~トマ・ピケティ『21世紀の資本』~

2014年12月28日 | 批評・思想
(1)ピケティの分析の特徴
 これまで格差拡大の指標とされてきたジニ係数ではなく、納税記録【注】をもとに最上位所得層への所得の集中の実態を明らかにした。
 この手法によって、格差拡大を主導した所得分位がどの範囲の層であるかを高い精度で突き止めた。

 【注】ピケティは、世界中の共同研究者とともに、先進国および途上国の所得と資産に関する大規模な長期的データの蒐集とその綿密な比較研究を行ってきた。彼は、国際的な研究のネットワークを作り、米国・英国・仏国・独国・日本その他の先進国および主要な発展途上国の統計を集めている。特に先進国のデータはほぼ150年から200年にわたる膨大なものだ。

(2)ピケティやその共同研究者の考え
 研究によって、この数十年間で所得と資産の多くを集中したのは最上位1%であり、米国でそれらは現在、所得の20%、資産の30%を占め、それらが所得拡大の主因、つまり今日の経済格差の病巣であることが具体的に明らかにされた。
 (a)今日の先進国は、格差の強い20世紀初頭以前の状態から、二つの世界大戦を経て戦後の平等化された分配構造へ移行した。
 (b)所得分配の平等化は、
    技術革新、教育の普及、人口動態、移民
といった要因よりも、
    所得や資金に対する「社会的規範意識」が二つの大戦を経て大変化した
ことによって生じた。
 (c)米国において(b)は、
    戦時経済下の賃上げの許可制、最高税率が90%超の累進課税率の強化
などの制度的変化となって現れた。
 (d)かかる平準化された所得分配の状況は1960年代まで維持された。
 (e)1970年代以降、再び経済格差が強まり始めた。なぜなら、ここでもまた、
    教育、技術格差
というよりも、むしろ格差を抑え込んできた
   ①戦後の所得分配をめぐる社会的規範意識
   ②①を支えた歴史的条件
が衰微し、それによって政策的変化が起こったからだ。
 (f)米国や英国では、高額所得層に対する累進税率の引き下げによって企業の重役報酬が桁外れに跳ね上がった。かくて、上位集中型の新たな所得と資産の格差が生まれた。
 (g)20世紀半ば以降の平準化された所得分配は例外なのであった。現在の格差拡大の傾向は、第一次世界大戦以前のトレンドへの回帰を示す。
 
□本田浩邦「現代経済学を刷新する巨大なインパクト ~ピケティ現象を読み解く~」(「週刊金曜日」2014年12月19日号)
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【特定秘密】保護法の時代錯誤と官僚任せ ~米国との大きな違い~

2014年12月27日 | 社会
 米上院情報特別委員会は、「CIAの秘密情報活動」に関する調査報告書を公表した。国家の安全保障にかかわる「秘密情報」であっても、国民の知る権利が優先されることを示したのだ。
 同報告書は、ブッシュ政権下の「テロとの戦い」において、拘束したテロ容疑者への拷問の有無を解明するため、国務省やCIAなどに保管されていた多数の資料を収集、分析したものだ。
 特に「諜報活動報告書、内部メモ、Eメール、インタビュー記録、契約書といった600万枚以上にのぼるCIA資料」に基づいて過酷な尋問の実態を明らかにした。その6,700ページにわたる報告のうち、今回525ページ分が公表された。

 「イスラム国」のテロの脅威が増す中、公表をめぐって激しい議論の応酬があった。
 しかし、上院情報特別委員会の設置理念が、反対意見を押し切った。
 同委員会は、「米国の情報諜報活動が、合衆国憲法と法に準拠していると保証するため、絶えず用心深く監視する」ことを使命としている。
 調査を指揮したダイアン・ファインスタイン委員長は、12月9日に公表した理由を説明した。すなわち、先の中間選挙の結果、「来年1月に上院のリーダーシップが替わる。そうなれば、この報告書が公表される見込みは薄くなる。5年半かけて調査したこのレポートを出すには時間制限があった」。

 もとを辿れば、この委員会の理念は、米国の独立戦争の際に謳った政治宣言の一つに基づく。つまり「出版の自由」に関する権利」である。
 <(この権利により)権力を乱用する役人どもは自らを恥ずかしく思うようになり、職務執行のうえでもっとも誠実かつ公正なやり方をとるようになるのである。>【注1】
 英国の圧政を撥ね退けた理念が、まさに「出版の自由」だった。

 米国との比較において、特定秘密保護法(2014年12月10日施行)は不安を残す。
 外務省、防衛省など19の行政機関の長が指定した「特定秘密」について、日本では、充分な監視が行き届く仕組みとなっていない。
 一応、内閣府に設置した「独立公文書管理監」が、不正な秘密指定や同法の運用についてチェックすることになっている。しかし、その権限は限られている。秘密指定の資料を強制的に提出させることはできない。
 加えて、初代の「独立公文書管理監」は法務官僚であり、事務局スタッフも各省からの出向者だ。・・・・政府の一員による監視では、独立性が担保されていない。

 かつて、沖縄返還をめぐる日米両政府間の密約を西山太吉・毎日新聞記者がスクープしたことがあった。
 しかし、政府は密約の存在を否定し続け、西山記者は、外務省の女性職員をそそのかして機密電報を入手したとして逮捕、起訴された。最高裁で有罪が確定した。その裁判において、
 <どういう形で申し合わせがあったかわかりませんが、政権中枢や外務省関係者は明白に虚偽の証言をした。検察の調べに対しても、上から下まで虚偽の供述を重ねていたのです。国家権力は、場合によっては、国民はもちろん、司法に対しても積極的に嘘を言う。そういうことが端無くも歴史上、証明されたのが密約事件です。歴史の中で、あそこまで露骨に事実を虚偽で塗り固めて押し通したものはありません。国家の秘密をめぐっては、こういうことがあるんだ、と検察官、裁判官も、事実として認識すべきです。>【注2】

 特定秘密保護法は、情報の漏洩者に重い刑罰をかけることで、秘密を法の壁の中に閉じ込めるものだ。
 しかし、その前提として、秘密が、日本国憲法と法に準拠して公正に指定されていることを保証する必要があるはずだ。国民の信頼を確保するためにも、やはり国会にこの法律の運用をチェックできる特別委員会を設置するべきではないか。
 国民の代表に、特定秘密を検証させることもなく、官僚が決めたことを絶対視させる仕組みは、民主主義社会にあって、時代錯誤でしかない。

 【注1】奥平康弘『「表現の自由」を求めて -アメリカにおける権利獲得の軌跡-』(岩波書店、1999)
 【注2】記事「(インタビュー)秘密法、密約事件の教訓 元検事総長・松尾邦弘さん」(朝日新聞デジタル 2014年12月10日) 

□岩瀬達哉「米国とあまりに違う! 時代錯誤で官僚任せの「秘密情報」の扱い方 ~ジャーナリストの目 第234回~」(「週刊現代」2015年1月3・10日号)
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 【参考】
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~


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【古賀茂明】官僚の暴走 ~経産省と防衛省~

2014年12月26日 | 社会
 衆議院選挙で与党が大勝した。静かに待っていた官僚たちが、いっせいに利権拡大へと蠢き始めた。
 なかでも注目すべきは、経産省と防衛省だ。
 12月14日、投開票。
 12月15日、電源開発(Jパワー)が、建設中の大間原発(青森県)について、原子力規制委員会へ適合性審査の申請を行うと事前発表。
 12月16日、正式に申請。

 Jパワーは、経産省の最優良天下りの一つだ。選挙中の申請を抑え、与党大勝を受けて直ちに申請するように差配したのは経産省だ。
 この申請には二つの意味がある。 
 (1)完成後最低40年、延長すれば60年は存続する。つまり、60年以上にわたり原発ゼロは実現しない、という宣言なのだ。今後の新・増設の先駆けになる。
 (2)大間は日本初のフルMOX燃料の原発だから、この原発が完成すれば、再処理を止めるのは難しくなる。再処理は、死に体となった核燃料サイクル計画の根幹を成す。その死守宣言にもなっている。
 
 同じ16日、関西電力が老朽化した高浜原発1、2号機(福井県)について、原則40年とされる運転期間を例外的に60年に延長するための特別点検の模様を報道機関に公開した。これにより、例外的60年運転への風穴が開くことになる。
 翌17日、原子力規制委員会は、高浜原発3、4号機適合性審査について、事実上の合格書となる審査書案を公表した。
 川内原発(九州電力)と違い、30km圏内の周辺自治体が反対する姿勢を示す中でGOサインが出た(重要)。高浜が稼働すれば、日本中の原発再稼働に道が開かれる。

 同じ17日、経産省は、ある作業グループを開催した。
   古い原発を廃炉にする際、資産だった原発が、逆にマイナスの資産(解体作業を必要とする)に転化する。
   このコストに耐えられない(経営破綻する)、と関電などが訴えた。
   そこで、負債と化した廃炉原発を資産として計上し続ける粉飾決算を認め、
   会計規則を変えることによって、
   その償却コストを消費者に転嫁する検討を行っているのだ。
 破綻状態にあるのだから、消費者へのつけ回しの前に、株主や銀行の責任を問うべきだ。呆れ果てた「暴走」だ。

 経産省に劣らぬ「暴走」をしているのが防衛省だ。
 12月18日、計理装備局長が主催する会議を開いて、武器輸出推進のために国民の税金を投入する方針を打ち出した。
   2014年4月、安倍政権は、これまで禁止されていた武器輸出を解禁した。
   武器産業は潜水艦だ、空対空ミサイルだ、と威勢はいいが、慣れない商売だけに様々なリスクが伴う。
   そこで、武器輸出促進のために、企業への補助金や低利融資の予算を獲得しようと動き出す、というのだ。
 その先には、政府開発援助(ODA)を使って、病院や学校を作る代わりに、途上国に武器を買わせようという目論見まである。

 安倍政権は、次の二つを成長戦略の柱としている。
   ①原発輸出
   ②武器輸出
 ②への税金投入により、武器産業が肥大化し、日本経済にとって大きなウェイトを持つ「第二の公共事業」が生まれる。防衛産業と強く結び付いた政治家や天下り拡大を狙う官僚が企業の意見を代弁して圧力をかける。
 米国のように、防衛産業の振興や地域の武器工場維持のために社会保障予算よりも軍事予算が優先されることにつながる。

 戦争ができる国になる・・・・どころではない。
 世界中で戦争が起きることを望む国になってしまう。
 安部総理の暴走を利用して、安部総理の暴走を超えるスピードで、官僚たちが暴走する。
 「国家の暴走」が、止まらなくなってきた。 

□古賀茂明「国家の暴走が止まらない ~官々愕々第137回~」(「週刊現代」2015年1月3・10日号)
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 【参考】
【古賀茂明】安倍政権が、官僚主導によって再び動き出す
【古賀茂明】自民党の圧力文書 ~表現の自由を侵害~
【古賀茂明】自民党が犯した最大の罪 ~自民党若手政治家による自己批判~
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走 ~傾向と対策~
【古賀茂明】解散と安倍政権の暴走
【古賀茂明】文書通信交通滞在費と維新の法案
【古賀茂明】宮沢経産相は「官僚の守護神」 ~原発再稼働~
【古賀茂明】再生エネルギー買い取り停止の裏で
【古賀茂明】女性活用に本気でない安部政権
【古賀茂明】【原発】中間貯蔵施設で官僚焼け太り
【古賀茂明】御嶽山で多数の死者が出た背景 ~政治家の都合、官僚と学者の利権~
【古賀茂明】従順な小渕大臣と暴走する官僚 ~原発再稼働~
【古賀茂明】イスラム国との戦争 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】「地方創生」は地方衰退への近道 ~虚構のアベノミクス~
【古賀茂明】【原発】原子力ムラの最終兵器
【古賀茂明】【原発】凍らない凍土壁に税金を投入し続けたわけ
【古賀茂明】【原発】勝俣恒久・元東電会長らの起訴 ~検察審査会~
【古賀茂明】安倍政権の武器輸出 ~時代遅れの「正義の味方」~
【古賀茂明】またも折れそうな第三の矢 ~医薬品ネット販売解禁の大嘘~
【古賀茂明】「1年後の夏」に向けた布石 ~集団的自衛権~
【古賀茂明】法人減税で浮き彫りにされる本当の支配者 ~官僚と経団連~
【古賀茂明】都議会「暴言問題」の真実 ~記者クラブによる隠蔽~
古賀茂明】集団的自衛権とワールドカップ
【古賀茂明】野党再編のカギは「戦争」
【古賀茂明】電力会社の歪んだ「競争」 ~税金をもらって商売~
【原発】【古賀茂明】規制委員会人事とメディアの責任
【古賀茂明】医師と官僚の癒着の構造
【古賀茂明】電力会社「値上げ救済」の愚 ~経営難は自業自得~
【古賀茂明】竹富町「教科書問題」の本質 ~原発推進教科書~
【古賀茂明】安部総理の「11本の矢」 ~戦争国家への道~
【古賀茂明】理研は利権 ~文科官僚~
【古賀茂明】「武器・原発・外国人」が成長戦略 ~アベノミクスの今~
【古賀茂明】マイナンバーを政治資金の監視に ~渡辺・猪瀬問題~
【古賀茂明】東電を絶対に潰さずに銀行を守る ~新再建計画~
【古賀茂明】「避難計画」なき原発再稼働
【古賀茂明】「建設バブル」の本当の問題 ~公共事業中毒の悪循環経済~  
【古賀茂明】安倍政権の戦争準備 ~恐怖の3点セット~
【原発】【古賀茂明】利権構造が完全復活 ~東日本大震災3年~
【古賀茂明】アベノミクスの限界 ~笑いの止まらない経産省~
【古賀茂明】労働者派遣法改正前にすべきこと
【古賀茂明】時代遅れな、あまりにも時代遅れな ~安部政権のエネルギー戦略~
【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~
【古賀茂明】若者を虜にする「安部の詐術」 ~脱出の道は一つ~


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【宗教】クリスマスとは何時のことか ~新興宗教の土着化~

2014年12月26日 | 神話・民話・伝説
 (1)キリスト教において、「降誕を記念する祭日」。「イエス・キリストの誕生日」ではない。文献上、イエス・キリストの誕生日に係る記録はない(3世紀初頭のアレキサンドリアでは誕生日は5月20日と考えられていた)。

 (2)12月25日を降誕祭とする風習は、遅くとも345年に西方教会で始まった。ミトラ教の冬至の祭を転用したものと推定されている。

 (3)ユダヤ教の暦、ローマ帝国の暦、およびこれらを引き継いだ教会暦の1日は日没から始まり日没に終わる。よって、クリスマスは12月24日の日没から始まり、25日の日没にて終わる。すなわち、24日の昼間は「クリスマス・イヴ」ではなく、24日の日没以降がクリスマス・イヴである。

 (4)カトリックの影響の強いイタリア、ポーランド、フランス、スペインなどでは、クリスマスは12月25日に始まり、1月6日の公現祭(エピファニア)で終わる。

 (5)オランダやドイツの一部地域などでは聖ニコラウスの日(12月6日)に、子ども達はプレゼントをもらう。

 (6)北欧のユール(クリスマスのこと)は、聖ルチア祭(12月13日)から始まる。

 (7)エルサレム総主教庁、ロシア正教会、グルジア正教会、コプト正教会(非カルケドン派教会)はグレゴリウス暦の1月7日(ユリウス暦の12月25日に当たる)に降誕祭を祝う。

 (8)正教会のうち、ギリシャ正教会、ブルガリア正教会などではグレゴリウス暦の12月25日に降誕祭を祝う。

□Wikipedia「クリスマス」
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 ※左から順に
  ジョルジュ・ルオー『ミセレーレ』6我らは苦役囚ではないのか?.j
  ジョルジュ・ルオー「キリスト」
  ジョルジュ・ルオー「ヴェロニカ」
  ジョルジュ・ルオー「聖顔」

            



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【佐藤優】戦争の時代としての21世紀

2014年12月25日 | ●佐藤優
(1)池上彰・佐藤優『新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方』(文春新書、2014) 
(2)橋爪大三郎『これから読む聖書創世記』(春秋社、2014)
(3)林典子『キルギスの誘拐結婚』(日経ナショナルジオグラフィック社、2014)

 (1)は、ユニークな国際情勢概説書だ。21世紀を戦争の時代という視座から読み解いた。
 <核兵器が登場したときに、「これで通常戦争はなくなるのではないか」と喧伝されました。しかし依然として、通常戦争は通常戦争として行われています。核はあまり戦争の抑止力になっていないのです。>
 この指摘が、事柄の本質を突いている。
 池上彰が実践している次の情報収集の技法は、誰にでも実践でき、効果がある。
 <私は新聞は毎日10紙を紙で読んでいます。切り抜きをする時間まではないものですから、とりあえず必要なところをペリッと破って、ファイルに入れて持ち歩きます。>

 (2)は、社会学者が現代聖書学の成果を踏まえた上で書いた。分かりやすく、優れた旧約聖書入門だ。
 アダムとエバが、神による禁止に違反して、「善悪の木の実」を食べたときの解釈が秀逸だ。
 <人(アダム)の回答は、責任逃れである。第一に、妻が木から実を取って私に与えたので、食べた、と言う。自分の責任を素直に認めず、妻のせいにしている。第二に、その妻は、あなた(神)が自分に与えたものだとつけ加え、神にも責任の一端を転嫁している。(中略)妻も責任逃れをする。神ヤハウェは、今度は妻に、「なんということをしたのか」と、言葉を向ける。妻は、ヘビに欺かれて食べました、とヘビのせいにする。
 このように、神の命令に背いただけでなく、その過ちを素直に認めないで言い逃れをする、という二重の咎を犯している。おそらく神には、後者のほうが重大であるかもしれない。>
 著者には難解な内容を、本質を変化させずに分かりやすく言い換える力がある。
 こういう形で、神学的思考が読書界に広がることを歓迎する。

 (3)は、気鋭の写真家(林典子)による衝撃的な写真集だ。
 <約540万人が暮らすキルギスで、人口の7割を占めるクルグズ人。その女性の約3割が誘拐により結婚していると、地元の人権団体は推定している。以前からの知り合いの男に誘拐されることもあるが、2、3回会った程度の顔見知りや一度も見たことのない男から、突然誘拐されるケースもある。
 (中略)誘拐結婚は、現在のキルギスでは違法とされているが、なかなかなくならない。警察や裁判官も単なる「親族間のもめ事」とし、犯罪として扱うことはほとんどないそうだ。>
 著者は、極端な文化多元主義の立場を排し、誘拐結婚を人権侵害と捉える。

□佐藤優「戦争の時代としての21世紀 ~知を磨く読書 第81回~」(「週刊ダイヤモンド」2014年12月27・2015年1月3日号)
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 【参考】
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 
【佐藤優】独裁者の「再選」が放置される理由 ~バッシャール・アル=アサド~
【佐藤優】経済と政治を行き来する新大統領の過去 ~ペトロ・ポロシェンコ~
【佐藤優】安倍首相とイスラエル首相「声明」の意味 ~ベンヤミン・ネタニヤフ~
【佐藤優】ロシアが送り込んだ「曲者」の正体 ~ウラジーミル・ルキン~
【佐藤優】ロシアは日本をどう見ているか ~日本外相の訪露延期~
【佐藤優】ウクライナ衝突の「伏線」 ~オレクサンドル・トゥルチノフ~
【ウクライナ】危機の深層(2) ~ブラック経済~
【ウクライナ】危機の深層(1) ~天然ガス~
【ウクライナ】エネルギー・集団的自衛権・尖閣問題 ~日本外交のジレンマ(3)~
【ウクライナ】米国の迷走とロシアの急成長 ~日本外交のジレンマ(2)~
【ウクライナ】と日本との歴史的関係 ~日本外交のジレンマ(1)~
【佐藤優】ウクライナ危機と米国が陥った「恐露病」
【佐藤優】プーチン政権がついに発した「シグナル」の意味 ~ロシア外交~
【佐藤優】プーチンは「世界のルール」を変えるつもりだ ~クリミア併合~
【ウクライナ】暫定政権の中枢を掌握するネオナチ ~クリミア併合の背景~
【佐藤優】北方領土返還のルールが変化 ~ロシアのクリミア併合~
【佐藤優】ロシアが危惧するのは軍産技術の米流出 ~ウクライナ~
【佐藤優】新冷戦ではなく帝国主義的抗争 ~ウクライナ~~
【佐藤優】クリミアで衝突する二大「帝国主義」 ~戦争の可能性~
【佐藤優】「動乱の半島」クリミアの三つ巴の対立 ~セルゲイ・アクショーノフ~
【佐藤優】ウクライナにおける対立の核心 ~ユリア・ティモシェンコ~
【ウクライナ】とEU間の、難航する協定締結に尽力するリトアニア
【佐藤優】ロシアとEUに引き裂かれる国 ~ウクライナ~

        
   


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【本】著者が語る『アベノミクス批判 四本の矢を折る』

2014年12月24日 | 批評・思想
 (1)本書【注】を書いた動機は三つある。
  (a)自分自身の興味・・・・①株価は必ず上がるし、②為替は動く。そう見て、外国人投資家(市場を動かす主因)を注視していた。その結果、2012年10月から大量の買い入れが入り始めた。さらに、2012年末には、財務省による表に出ない為替介入があった(調べて分かった)。つまり、株価上昇や円安は、安倍政権の経済政策とは無関係だ。それを明らかにするのが本書の目的の一つ。
  (b)マクロ分析による政策科学(人口減少の影響を考慮したもの)によって論じる。これが本書の理論的新しさだ。
  (c)後述。→(6)参照。

 (2)アベノミクス主導者やアベノミクス賛同者は、理論あるいは現実を知らない。
 <例>金融政策・・・・利子率が下がったときに投資が増えるかが大きな問題だが、結論は実証されている(英国「オクスフォード調査」や、それを範にした日本の経済企画庁(現・内閣府)の調査)。それを知らないとすれば、まったくの不勉強だ。

 (3)要するに、安倍政権の政策は、財政では何もできないから(税金が取れないから)、金融で何とかしろ、ということだ。
 だが、結果は、外国人投資家を儲けさせただけだ。

 (4)安倍首相は経済成長に固執している。
 しかし、政策科学を適用すれば、この先日本は、縮小均衡になるのが明らかだ。
 それに合わせて早く準備しなければ、企業も、地方も、国も危ない。
 成長などということを論じている場合ではない。

 (5)そもそも、鉄が鉄を呼ぶような成長は、その国において1回限りだ。
 日本では1960年代がそうだった。
 米国のIT革命も、また今もっとも技術革新の可能性が高い医療も、有効需要に波及しない。
 今後も成長はあるだろう。しかし、それは輸出か、公共投資によるもので、長続きはしない。そういう好機があったら、蓄えて縮小に備えるべきだ。
 ちゃんと対応すれば、日本はけっこうよい社会になる。

 (6)安倍首相は、日中国交回復のころの先人の英知を捨てて、反中路線を採り、集団的自衛権で武力による紛争解決の道を進もうとしている。
 日本にとって決して良いことではない。
 日中国交回復のお手伝いを少しやり、経緯を知る者として、そのことを言っておきたい。

 【注】伊東光晴『アベノミクス批判 四本の矢を折る』(岩波書店、2014)

□伊東光晴「著者が語る『アベノミクス批判 四本の矢を折る』」(「週刊ダイヤモンド」2014年12月27・2015年1月3日号)
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【経済】アベノミクスこそ我々の危機 ~災害リスクのレジリエンス~

2014年12月23日 | 社会
 アベノミクスは、異常気象災害に対するレジリエンス(柔軟な回復力)を問わない。
 金融と財政のエンジンをフルパワーに設定して、実体経済に刺激を与えようとするアベノミクス(今までにない経済実験)は、年金積立金さえもリスクにさらす賭けに出ている。

 12月3日付け「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」の創刊5周年記念特別企画の1本に、記事「アベノミクスのジレンマ -破壊的再生か安楽な衰退か」【ジェイコブ・スレンシンジャー・アジア経済主席特派員・中央銀行担当エディター】があった。ストレンジャーはピュリツァー受賞歴のある論客。彼は年金積立金運用の改革について、こう書いている。
 <日本のリスク回避からリスク負担への急転換は、130兆円の資金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GRIF)にも拡大した。あまり慎重でない国でさえ、保守的に扱う傾向がある老後の支えだが、GRIFは今や安全だが低利回りの国債の比率を減らし、より利益性は高いが値動きの激しい株式の比率を増やしている。>

 上記の高リスク・高リターンのアイデアと関連して、イギリス王立協会(現存する最古の科学学会、1660年創立)が、11月27日、レポート「異常気象に対するレジリエンス」を発表した。いわく、1980~2004年までの異常気象のコストは1.4兆米ドルに達した。この被害の4分の3には保険が掛けられていなかった・・・・。
 コストは年々加速して拡大している。今世紀半ばには海岸の大都市だけでも年間1兆ドルほどの被害を受けるかもしれない。今「利益性は高い」と評価された投資先は、こうした異常気象にレジリエンスがなければブラックホールのような損失を被る危険性が高いのだ。
 レポートが指摘するように、金融システムと会計基準は今も異常気象のコストを無視し続けている。

 投資のリスクを計算して判断するアナリストや組織はGRIFのような資本の配分決定に対してかなりの影響を及ぼすはずだが、すでに世界中でますます悪化しているリスクについて彼らはあまりに無知だ。
 信じがたいのは、王立協会の警告について和文記事が1本もないことだ。
 対照的に、王立協会のレポートは国連国際防災戦略事務局(中国の北京にある)等の組織が合同で設置したプログラム「災害リスク統合研究」で12月3日に発表された。

 中国に遅れをとるものの、同レポートの内容については日本でも発表される(来年1月14~16日、東京大学本郷キャンパス、イベント「防災・減災に関する国際研究のための東京会議 -災害リスクの軽減と持続可能な開発を統合した新たな科学技術の構築へ向けて」)。
 この国際会議が、危ない矢を次から次に放つアベノミクスこそ我々の危機であることを理解し、真の危機に取り組む好機となるか?

□アンドリュー・デウィット「アベノミクスこそ我々の危機 災害リスクのレジリエンスを問え」(「週刊金曜日」2014年12月12日号)
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 【参考】
【政治】「第三の矢」の実態 ~アベノミクスの末路~
【官僚】年金で利権を拡大 ~年金積立金管理運用独立法人(GPIF)~

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【食】移転先の土壌、ヒ素汚染残して開場 ~築地市場~

2014年12月22日 | 社会
 築地市場(東京都中央区)の移転先、豊洲市場(予定、同江東区)の土壌対策を進めてきた都は、2014年11月27日、有識者でつくる技術会議(座長:矢木修身・東京大学名誉教授)に汚染土壌の除去、浄化などの工事完了を報告した。
 「世界で類を見ない」【矢木座長】
 「都として安全性が確認できたと認識する」【岸本良一・東京中央卸売市場長】

 対策工事の結果として、豊洲市場(予定)の地で操業していた東京ガス工場由来の汚染物質は、現時点で環境基準を下回る。だが、ヒ素は環境基準の10倍を超える地点があるのに、ガス工場建設前からの「自然由来」として、そのまま残された。

 豊洲市場予定地は、いま土壌汚染対策法の「指定区域」になっている。指定解除するには、対策工事後にモニタリング調査を行い、基準値以下の状態を2年間保たねばならない。
 都は、11月27日、11月から201か所の井戸で調査を始めた、と明かした。
 だが、地下水の移動などにより、操業由来の汚染が基準値以下を2年間保てるか否かは不明だ。

 そもそも「自然由来」の環境基準を上回るヒ素が残されたから、2016年の新市場開場後も「指定区域」は解除されない。
 この点を都の担当者は認めた。しかし、と強調する。「『指定区域』が残ることと安全性とは別。技術会議が提言した地下水官吏システムで安全は保てる」
 だが、「土壌汚染対策法の指定区域に生鮮食品を扱う市場を開くなんて論外だ」【中澤誠・東京中央市場労働組合書記長】。

 「土壌汚染対策法では、2年間のモニタリングを通して、汚染が生じていない状態の確認も含めて『土壌汚染の除去』としている。除去が未完のまま工事をして、誰が責任をとるのか。汚染が検出されても全井戸の6割は建造物の下で、汚染箇所を特定する追加調査も対策も物理的に不可能だ」【水谷和子・一級建築士】

□永尾俊彦「築地市場、移転先の土壌めぐり ヒ素汚染残して開場」(「週刊金曜日」2014年12月12日号)
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 【参考】
【選挙】石原都政で何が失われたか ~福祉・医療・教育・新銀行破綻・汚染市場~
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【格差社会】の病理と倫理 ~万人の健康を蝕む過剰ストレス~

2014年12月21日 | 社会
 真面目にこつこつ働ているにもかかわらず、基本的な生活を成り立たせることができないワーキング・プア。
 医療費を支払うこともできず、自らを蝕む疾患を放置せざるをえない人々。
 成長期に必要な栄養すら賄えず、ふらふらになりながら日々の生活を送る子どもたち。

 こうした困難な状況に置かれている人々にのみ目を向けていると、格差社会の隠れた病理に気づかず、やり過ごしてしまっているかもしれない。
 格差の拡大は、貧困状態に陥っている人々ばかりだけでなく、以外の人々にも、目に見えない仕方でその生命をじわじわと蝕んでとのいる可能性があるからだ。

 そうした研究の端緒となったのは、リチャード・ウィルキンソン・経済史家/社会疫学者の研究だ。その後、社会における格差の大きさと、その社会の健康状態の悪さ(死亡率などで示される)との間に創刊関係があることを示す複数の研究が現れてきた。
 その中に日本を対象とした研究もある。
 <例>所得格差は健康に影響を与える(有意な相関関係)。所得格差を示すジニ係数が0.3より上がった場合、人々の死亡のリスクが上がる。2007年における日本のジニ係数は0.314だが、それによる過剰死亡の数は2.3万人であると推計される。【近藤尚樹・東京大学大学院医学系研究科教授】

 格差社会の中の貧しい層の健康状態が悪化することは容易に想像できる。だが、格差の負の影響はそれにとどまらず、豊かな人の健康をも削り取る。格差社会はすべての人の健康にとって悪いものなのだ。
 格差が拡大している社会は、自らと他者との生活状況の差がより目につくものとなり、それゆえにこそ自らの「ランク」を意識せざるをえないという感覚が昂進している社会だ。そのような状況下では、格差社会の中で有利な立場にいる人も、自らの自負心を守るため自らの価値を示し続けようと過剰なストレスに曝されざるをえない。こうしたストレスこそが、社会の中で有利な立場にいる人に対しても、その健康状態を損なう影響を及ぼす。

 格差の問題を、社会的に不利な立場の人固有の問題として捉えるのではなく、共に社会を形作る私たちすべての問題として捉える態度が望まれる。
 前記R・ウィルキンソンは、格差は健康に悪影響を及ぼすだけでなく、治安や人々相互の信頼等、私たちが安心して社会生活を営んでいける基盤そのものにも影響が及ぶ、と指摘している。
 格差の問題は、すべての人にとっても問題であり得る。そのようには思えないほど、格差が社会に対してもたらす病理は目に見えにくい。そうした見えにくい病理を前に、それでもなお、私たちが共に社会を作る人への想像力をたくましくする倫理こそ、今問われているのだ。

□伊東俊彦「格差社会の病理と倫理 すべての人の健康を蝕む過剰ストレス」(「週刊金曜日」2014年12月12日号)
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書評:『まつを媼百歳を生きる力』

2014年12月20日 | ノンフィクション
 伊藤まつをは、明治27年生、平成5年没。享年98歳。
 岩手師範学校を卒業後教職に就き、17年後に辞して農業に専念した。七男二女がある。

 媼(おばば)が76歳のとき刊行した自伝『石ころのはるかな道』(講談社、1970)に感激した石川純子は、媼を訪れ、23年間にわたる付き合いがはじまった。
 多年の聞き書きをまとめたのが本書である。
 二部構成で、前半は東北の寒村に生きた女性の一代記である。後半は、回想もまじるが、話題は表現力豊かな高齢者が伝える老いの諸相が主になる。

 読者は、まず、ペスタロッチに学んだ理想主義的な生涯に驚かされるだろう。
 粘り強い実践力に裏打ちされているのが特徴だ。生活改善に率先して取り組み(台所に井戸を掘り、膳を飯台に替えた)、農村の女性の地位向上に尽力した(婦人会を率い、文化無尽で女性の自由になる資金をつくった)。教員時代の教え子が多数地域にいたから、影響力は大きかったらしい。
 老いては、亡夫の日記抄の刊行ほか、次々に仕事を見つけて、充実した日々を過ごしている。

 長寿の秘訣は「希望が絶えないことだ」とは媼は喝破する。
 他方、五感ことに聴覚、視覚、触覚の衰えを正確に自覚し、ボケの可能性に思いをいたす(亡くなる直前まで明晰であった)。
 ボケは、今日では認知症と言い換えられているが、まつを媼はボケでいっこうに気にしなかったらしい。それだけの土性骨がある。

 ところで、夫君は何をしていたか。
 政治をしていた。
 20代で就いた村会議員をふりだしに、戦前は村長、戦後は町制移行に伴う初代町長を勤めた。
 家庭では亭主関白、暴君に近かったらしい。頑固も頑固、媼の生活改善に対する最大の壁は夫だった。
 しかし、彼の80年間の日記には糟糠の妻に対する深い愛情に満ちている。明治人は日常における愛情の表現が不得手だったらしい。

 聞き書きだから方言が混じって、かえって媼の人となりをよく伝える。
 「宇宙」と一体化したかのような純な魂、柔軟かつ老いてなお滾々と湧く活力、そしてたくまざるユーモア。
 本書は、女性の女性による女性のための本だが、男性にも魅力はつきない。

□石川純子『まつを媼(おばば)百歳を生きる力』(草思社、2001)
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【古賀茂明】安倍政権が、官僚主導によって再び動き出す

2014年12月19日 | 社会
 12月14日に投開票の総選挙ほど、「解散の大義」と「争点は何か」が議論された選挙も珍しい。
 完全に虚を衝かれた野党からは、解散に対する恨み節「大義論」として噴出した。「解散は望むところ」であるはずの野党が、「大義がない」としつこく言い募ったのは、選挙にちっとも自信がなかったからだ。

 一方、安倍政権も実は、「アベノミクスはうまく行ってない。このままではジリ貧だ。野党が準備不足のうちに奇襲攻撃をかけよう」という本音を隠さねばならなかった。
 そこで展開された安倍政権の「大義」論は、コロコロ変わっていった。

 (1)「消費税増税延期は3党合意を覆すものだから国民の信を問うのは当然」
 ・・・・しかし「3党合意に基づく消費税増税法案の景気条項には、景気回復未達成の時には増税を延期すると書いてある」と反論されて、完敗。

 (2)「税制は民主主義の根幹だ。増税を延期するのだから、国民の信を問うのは当然」
 ・・・・安倍総理のブレインは、「代表なくして課税なし、そんなイロハもわからないのか」と、税制を変えるなら選挙で国民の代表を選びなおす必要があると語った。しかし、この言葉は、選挙で議会に代表を送る権利がなければ課税は不当だ、という米国の独立戦争時の標語なのだ。使い方が奇妙だ。逆に、「そんなことも知らなかったのか」と切り返された。
 しかも、「集団的自衛権行使容認の閣議決定のときには実質憲法改正なのに国民に信を問わなかった。憲法は民主主義の根幹ではないか」とという致命的な批判を受けて、この議論も、たちまち轟沈した。

 (3)安倍政権の大義論は選挙の争点論にシフトし、主張されたのが、「アベノミクスを進めるのか、止めるのかを問う」。
 ・・・・しかし、「アベノミクスの第三の矢を止めているのは安部総理自身だ」という批判を誘発し、舌がもつれてしまった。

 (4)最後に安倍総理側近が持ち出したのは、「今回の選挙は“財務官僚と自民党内守旧派族議員の連合”対“改革派安部総理”の戦いだ」。
 ・・・・これは、(a)TPP参加決定、(b)医薬品ネット販売解禁、のパターンだ。「悪者」の抵抗を演出し、「最後に安部総理のリーダーシップで“改革”が決まった」と大本営発表する。が、しばらくすると、全く看板倒れの結果が出て終わる。

 姑息きわまる。
 そもそも、安部総理は官僚と戦っているのか? 
 ノー。
 安部総理は、就任早々公務員改革を封印した。坂篤郎・前日本郵政社長(元財務省)の天下りを糾弾するパフォーマンスはやったが、①普通の役人の天下りは完全に野放し。②4月には、東北復興予算の財源として7.8%削減していた公務員給与を元に戻し、③10月には、月給0.27%、年間ボーナス0.15か月分の引き上げを決めた。
 ④増税で対立しかねない財務省には好きなだけ国債を発行させて、彼らが一番喜ぶ利益(公共事業の配分)を増やし、⑤自民党の分厚い公約集には、各省の予算要求項目がズラリと並ぶ。
 アベノミクス第三の矢の規制改革も、本気度はゼロ。官僚への配慮で溢れかえる。

 これだけお粗末な大義論、争点論だったが、選挙が終わってから省みれば、自民党にとっては、全く問題なかった。
 障害物競走で、必死に障害をクリアして、何とかゴールに辿り着き、振り返って見たら、野党は池に落ちたり、怪我をしたりで、遙か後方にいた、という状況だ。
 税も予算も、すべて官僚によるお膳立ては済んでいる。それに乗っかれば、補正予算や来年度予算の成立もさほど遅れることはない。
 組閣と同時に、官僚主導の安倍政権が再スタートする。

□古賀茂明「官僚主導の安倍政権 ~官々愕々第136回~」(「週刊現代」2014年12月27日号)
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【経済】小企業や家計の赤字=大企業の利益 ~トリクルダウン(2)~

2014年12月18日 | ●野口悠紀雄
 (承前)

 (8)(4)~(7)に見られるように、大企業の利益増大と株価の上昇によって一部の富裕層が利益を受けたのだが、その恩恵は小企業や雇用者には及んでいない。
 この理由は、円安が経済の量的拡大をもたらしていないからだ。
 仮に「経済の好循環」とイメージされている姿が起こるのであれば、トリクルダウンが生じる。すなわち、
   企業の売上が増加する。
   →それに比例して生産と売上原価が増加する。
   →雇用がえるし、賃金も上昇する。
   →消費が増える。
   →企業の生産活動がさらに拡大する。

 (9)(8)の場合には、
   利益の増加率=売上の増加率
となるから、売上高営業利益率は不変だ。
 しかし、いま生じているのは、円安による円表示の売上高だけの増加だ。この場合には、営業利益率が急上昇する。法人企業統計で製造業大企業を見ると、営業利益率は、
   2012年7~9月期 2.87%
   2014年7~9月期 4.61%
 大きな技術進歩があったわけでもないのに、短期間のうちにこれほど急上昇するのは、利益増が実態面の変化を伴っていないことを意味する。実際、製造業小企業での同期間の営業利益率は、
   2012年7~9月期 2.05%
   2014年7~9月期 2.26%
になっただけだ。

 (10)大企業と小企業の違いは、輸送用機械器具製造業の場合に典型的な形で見られる。
 大企業では、2014年7~9月期の営業利益は2012年7~9月期の1.82倍(額では3,744億円)になった。
 それに対して、小企業では同期間中に営業利益が13.2%も減少したのだ。

 (11)円安が企業利益を増やすメカニズムは、全てをドル建てで考えてみると分かりやすい。
  (a)日本製品の輸出価格はほぼ不変なので、輸出数量も不変。したがって、ドル建ての輸出売上高はほぼ不変だ。つまり、いつになってもJカーブ効果が発生しない(Jカーブ効果が生じるのは、輸出ドル建て価格が低下するからだ)。
  (b)日本人の賃金はドル建てでは低下する。
  (c)売上高が不変で賃金コストが下がるから、自然に利益が増える。
  (d)(c)を言い換えると、日本の労働者は貧しくなっている。=トリクルダウンとは逆のプロセスだ。
  (e)生産が増えず、従って雇用が増えない。大企業の利益のメカニズムがこうしたものである以上、今後時間がたってもトリクルダウンが生じることはない。

 (12)(11)のような事態が政治的に放置されるのは、不思議なことだ。有権者は、円安で貧しくなる人の方が多いからだ。
 政治制度が正常に動いていれば、円高を求める声が圧倒的になるはずだ。
 しかし、日本には円安のメカニズムを正確に理解する政治勢力が存在しない。日本の悲劇だ。

□野口悠紀雄「トリクルダウンはなぜ生じないか? ~「超」整理日記No.738~」(「週刊ダイヤモンド」2014年12月20日号)
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 【参考】
【経済】円安で小企業や家計は赤字 ~トリクルダウンはなぜ生じない?~
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