(承前)
(5)過去10年程度の投機の時代が異常だったのだ。よって、
<例>原油価格が1バレル当たり100ドルを超えるような状況に戻るとは考えにくい。また、株価が急に反発することも考えにくい。一時的にそうしたことがあっても、継続するまい。
(6)海外から日本への投資も、株式(高リスク資産)から国債(低リスク資産)へと移行している。
(a)株式市場・・・・外国人投資家は7年ぶりの売り越しになった。→2015年夏の株価下落。
(b)中長期債への対内投資・・・・増加。この結果、
①10年債の利回りは2015年夏以降傾向的に低下。
②2年債の利回りは2015年秋以降急速に低下。11月初めからマイナスが続いている。
(c)国債への資金流入額は株式からの資金流入額よりはるかに規模が大きいので、こうした投資情勢の変化は円高をもたらす。
①事実、円はすでに増価している。
②2015年9月ごろにいったん円高が進行した。その後円安に戻ったが、2015年12月から再度円高が進行している。
(7)(6)はユーロ危機の際に起こった資金移動と似ている。今回これと同じような大規模な資金の移動が起こるかどうか、まだ不明である。
ただし、規模はさておき、株価の下落、円高、国債利回り低下という方向への変化が、今後進行する可能性は十分にある。その規模が大きくなれば、日本経済の動向に極めて大きな影響を与える。
(8)問題①は、日本経済が新しい均衡に適応する準備をしているかどうかだ。
(a)もっとも重要な問題は、原油価格をはじめとする一次産品価格の下落を経済成長に結びつける政策を採ることだ。そのためには、日本銀行はインフレ目標を撤廃すべきだ。
(b)円高が進めば、国内の物価に対しては、さらに下落圧力が働く。日銀の物価目標はますます遠のく。インフレ目標の無意味さが明確になる。
(9)問題②は、一層の金融緩和を求める声が高まることだ。
(a)とりわけ危惧されるのは、株価が下落したときに、公的資金による買い支え要求が強まることだ。すでに日銀は、12月の緩和補完措置において、ETF購入の増枠を決めている。
(b)公的資金による株価支持は、これまでも行われてきた。その結果、すでに公的機関が大量の株式を保有している。株価が下落すれば、これらは巨額の損失を発生させる。
(c)年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2015年夏の株価下落で大きな損失を出した(2015年7~9月の運用損失はマイナス8兆円、利回りはマイナス5.6%)。今回の株価下落でも損失を出している可能性がある。
(d)日銀も相当額のETFを保有しているので、(c)のGPIFが抱えている問題から逃れられない。
□野口悠紀雄「リスクオフで株価下落 円高が進む可能性も ~「超」整理日記No.792~」(「週刊ダイヤモンド」2016年1月30日号)
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【参考】
「【経済】新年からの世界金融市場混乱の原因 ~リスクオフ~」
(5)過去10年程度の投機の時代が異常だったのだ。よって、
<例>原油価格が1バレル当たり100ドルを超えるような状況に戻るとは考えにくい。また、株価が急に反発することも考えにくい。一時的にそうしたことがあっても、継続するまい。
(6)海外から日本への投資も、株式(高リスク資産)から国債(低リスク資産)へと移行している。
(a)株式市場・・・・外国人投資家は7年ぶりの売り越しになった。→2015年夏の株価下落。
(b)中長期債への対内投資・・・・増加。この結果、
①10年債の利回りは2015年夏以降傾向的に低下。
②2年債の利回りは2015年秋以降急速に低下。11月初めからマイナスが続いている。
(c)国債への資金流入額は株式からの資金流入額よりはるかに規模が大きいので、こうした投資情勢の変化は円高をもたらす。
①事実、円はすでに増価している。
②2015年9月ごろにいったん円高が進行した。その後円安に戻ったが、2015年12月から再度円高が進行している。
(7)(6)はユーロ危機の際に起こった資金移動と似ている。今回これと同じような大規模な資金の移動が起こるかどうか、まだ不明である。
ただし、規模はさておき、株価の下落、円高、国債利回り低下という方向への変化が、今後進行する可能性は十分にある。その規模が大きくなれば、日本経済の動向に極めて大きな影響を与える。
(8)問題①は、日本経済が新しい均衡に適応する準備をしているかどうかだ。
(a)もっとも重要な問題は、原油価格をはじめとする一次産品価格の下落を経済成長に結びつける政策を採ることだ。そのためには、日本銀行はインフレ目標を撤廃すべきだ。
(b)円高が進めば、国内の物価に対しては、さらに下落圧力が働く。日銀の物価目標はますます遠のく。インフレ目標の無意味さが明確になる。
(9)問題②は、一層の金融緩和を求める声が高まることだ。
(a)とりわけ危惧されるのは、株価が下落したときに、公的資金による買い支え要求が強まることだ。すでに日銀は、12月の緩和補完措置において、ETF購入の増枠を決めている。
(b)公的資金による株価支持は、これまでも行われてきた。その結果、すでに公的機関が大量の株式を保有している。株価が下落すれば、これらは巨額の損失を発生させる。
(c)年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2015年夏の株価下落で大きな損失を出した(2015年7~9月の運用損失はマイナス8兆円、利回りはマイナス5.6%)。今回の株価下落でも損失を出している可能性がある。
(d)日銀も相当額のETFを保有しているので、(c)のGPIFが抱えている問題から逃れられない。
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【参考】
「【経済】新年からの世界金融市場混乱の原因 ~リスクオフ~」