語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【政治】不可解な時期に石破派が発足 ~その行方は内閣改造で~

2015年10月05日 | 批評・思想
 (1)東京・谷中の名刹「全生庵」は、臨済宗の禅寺。中曽根康弘が現職の首相時代に座禅を組んだことで政界に知られるようになった。
 安倍晋三・首相も、第一次政権退陣(2007年)後、しばしば座禅のため全生庵を訪れた。安倍に座禅を勧めたのは山本有二・元金融担当相。山本は、第一次安倍政権樹立の核となった再チャレンジ支援議員連盟の会長だった。今年7月24日にも、安倍は山本と一緒に全生庵で座禅を組んだ。
 その山本は、全生庵で、安倍とは別に石破茂・地方創生担当相とも座禅の会を開き、石破ともじっこんの仲にある。

 (2)石破は、2012年9月の自民党総裁選において党員票では安倍をはるかにしのぎながら、国会議員による決選投票で逆転負けした。安倍からすれば最も警戒すべき存在だといえる。
 2012年の総裁選では、山本は安倍、石破のいずれの推薦人にもなっていない。
 山本の存在がクローズアップされるのは、安倍が総選挙(2012年12月)で政権交代を実現してからだ。選挙直後に安倍と石破がそろって全生庵で座禅を組んだが、この背後にいたのが山本だ。山本は高知出身。薩長同盟を実現した坂本竜馬になぞらえて安倍と石破の関係修復の調停役的な立場にあった。
 しかし、安倍と石破の間に横たわる溝は深かった。第一次政権の2007年参院選で自民党が大惨敗した際、安倍に退陣を迫った一人が石破だったからだ。安倍の石破に対する思いは推して知るべしだが、石破に投じられた圧倒的な党員票は無視できず、安倍も石破を幹事長に起用せざるをえなかった。以来、安倍にとって石破は一貫して「仮想敵」だった。

 (3)安倍による最初の内閣改造・自民党役員人事(2014年9月)の最大の焦点は、石破の処遇にあった。安倍の選択は、石破を幹事長からはずす一方、閣僚として閣内に取り込むことだった。
 このころから、山本は石破に近いベテラン議員として存在感を増した。石破を中心にした「無派閥連絡会」(2013年1月結成)の、2014年8月7日開催のとき山本は会長に就任、鴨下一郎・元環境相らと並ぶ石破側近の中心人物になった。
 「無派閥連絡会」に集まったのは、衆参合わせて29人。だが、メンバーは改造人事をめぐって考え方が真っ二つに割れた。かつて石破の最側近と言われた浜田靖一・元防衛相は、「入閣を断り、下野していつでも総裁選に出馬できる状況にしておくべきだ」と主戦論を展開した。これに対して、石破は入閣の道を選んだ。
 浜田らが危惧したとおり、結果として石破は2015年9月の総裁選に立候補できず、安倍の狙いはあたった。

 (4)石破は何を思ったか、総裁選で安倍が無投票再選した直後、9月28日、ザ・キャピトルホテル東急(国会近く)で、石破派「水月会」を発足させた。参加者は全部で20人。山本、伊藤達也・元金融担当相、田村憲久・前厚生労働相の閣僚経験者が名を連ねた。
 石破との間に距離が生じた浜田靖一は、盟友の小此木八郎、梶山弘志らと共に、「水月会」には加わっていない。

 (5)石破は、早くもポスト安倍に名乗りをあげた。
 だが、政界の大方の見方は、「なぜこのタイミングで」というものだ。
 さらに自民党内では、石破自身が派閥政治を批判する中で頭角を現してきただけに、「これまでの政治家としての歩みを否定することになる」などの批判が噴出する。
 「遅すぎて早すぎる」の声も上がる。今年の総裁選には間に合わず、次の選挙まで3年もあり、仕掛けがあまりにも早すぎるというものだ。
 しかも、参加者20人のうち当選2回以下が10人もいる。次の選挙で生き延びる保証はどこにもない。
 安倍が石破派の存在を受け入れるかどうかの問題もある。自民党の不文律は閣僚を送り込める基準は「所属議員20人に1人」で、石破派はぎりぎり1人の閣僚が割り当てられる最低限の人数しかいない。安倍が石破を徹底的に冷遇する決断をすれば、石破の入閣すら消える。自民党史上、現職首相に対する挑戦はそれだけのリスクを伴う。そこまでの覚悟と見通しを持って石破派派閥結成に踏み切ったのか。
 まずは、10月7日の内閣改造における安倍の出方が、石破派の帰趨を占う最初の試金石になることは間違いない。

□後藤謙次「不可解な時期に石破派が発足 行方を占う試金石は内閣改造 ~永田町ライブ!No.261」(「週刊ダイヤモンド」2015年10月10日号)

 【参考】
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