語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【後藤謙次】日本が直面する「ABCリスク」 ~英EU離脱で顕在化~

2016年07月03日 | 社会
 (1)ブレグジットが今やリグレジットになった。
 ブレグジット:Britain(英国)+Exit(離脱)=Brixit(新語)
 リグレジット:Regret(後悔)+Exit(離脱)=Regrexit(新語)
 英国は国民投票(6月23日)でEU離脱を選択した。しかし、国民の間に「こんなはずじゃなかった」という大きな失望感が広がっている。
 このリグレジットがもたらした影響の拡大は、全世界に広がる。

 (2)国民投票の結果は6月24日昼過ぎに出た。緊急の関係閣僚会議が開かれたのは18時過ぎだ。
 この間に東京市場は荒れに荒れた。円相場は一時的にせよ1ドル=100円を突破、99円ちょうどまで急騰。日経平均株価(終値)は前日比1,286円安の14,952円まで急落した。
 政府高官によれば、政府はもしもの場合に備えて準備だけはしていた。政府対応の優先順位が決定されていた。①金融安定化、②為替対策、③英国に進出する1,000社超の日本企業への支援。
 このうち①に関して、首相官邸を中心に財務省、経済産業省、金融庁、日本銀行が緻密なシナリオを描いていた。この結果、円相場は1ドル=100円の壁を“死守”している。
 しかし、「円安・株高」をベースに構築していたアベノミクスの路線転換を真剣に考えるタイミングが訪れたのかもしれない。政府関係者の中にも、これまでにない声が出始めた。
 「円安という前提条件が変わってきているのではないか、為替依存型の体質から脱却する必要がある」
 今回の英国ショックと、リーマンショックの間には本質的な違いがある。リーマンは一時的な資金ショートが引き金になったが、ブレグジットの影響は今後も様々な局面で同期的にボディーブローのようにネガティブな効果として表面化してくる。

 (3)英国のEU離脱に関して、その時期をめぐって他のEU加盟国との間にあつれきが生じている。独仏伊の有力3ヵ国は首脳会談を開き、なるべく早い時期に離脱通告を出すよう英国に求める声明を出した。ずるずると通告が遅れれば、その間に他のEU諸国の離脱を招く「離脱ドミノ」の恐れがあるためだと見られている。この点でも、日本政府の思惑、見通しとは大きくかけ離れている。
 日本政府内では、EUの基本条約リスボン条約によって離脱通告から2年間の猶予があることを楯に、「事態の静観」に比重を置いていた。しかし、現実に起きているのは、EU側からすれば「即刻除名」。さらに離脱ドミノの兆候がEU内部ではなく英国内で表面化していることだ。
 スコットランドの独立運動が再燃しそうだし、ウェールズもEU残留の動きを示しているという。
 1,000社超の日本企業が進出している英国の異変は、日本経済にも深刻なダメージを与えかねない。

 (4)日本経済は、年初来、「ABCリスク」に直面している」と言われてきた。A(米国)、B(英国)、C(中国)だ。
 米国は利上げによる景気後退、中国は急速な構造改革による不況、そして英国がはじけたが、ドル供給による金融の安定以外には具体的な決定打に乏しい。
 逆に、中国、ロシアはG7の混乱に乗じるかのように、先手を打つ。6月下旬にはタシケント(ウズベキスタン)、北京(中国)と場所を変え、わずか3日間に2度もプーチン・ロシア大統領と習近平・中国国家主席が首脳会談を行い、G7を牽制した。
 「いかなる国も自国の領域外でえ自国の法律や価値観を基に振る舞うべきではない」
 ロシアはウクライナ問題でG7の経済制裁を受けており、その中心にいたのが米英だ。一方の中国は南シナ海をめぐる海洋進出で米国の「航行の自由作戦」と向き合っている。
 英国のEU離脱派、中露両国から見れば、ヨーロッパ分断の大きな契機となり、間接的に米国と中露とのパワーバランスに影響を与える。
 ブレグジットは、経済だけでんく、安全保障問題にも影を落とす。
 「アベノミクス」と「地球儀を俯瞰する外交」という安倍の内政、外政の2本柱が試練に直面している。

□後藤謙次「予期せぬ英EU離脱で顕在化 日本が直面する「ABCリスク」 ~永田町ライブ!No.298~」(「週刊ダイヤモンド」2016年7月9日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【後藤謙次】甘利大臣辞任をめぐる二つのなぜ ~後任人事と直後のマイナス金利~
【政治】不可解な時期に石破派が発足 ~その行方は内閣改造で~
【政治】震災後2度目の統一地方選 ~異例なほど注力する自民党本部~
【政治】安倍が描いた解散戦略の全内幕 ~周到な準備~
【政治】安部政権の危機管理能力の低さ ~土砂災害・火山噴火~
【政治】「地方創生」が実現する条件 ~石破-河村ラインの役割分担~
【政治】露骨な安倍政権へのすり寄り ~経団連が献金再開~
【政治】石原発言から透ける政権の慢心 ~制止役不在の危うさ~
【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~
【政治】「新党」結成目前の小沢一郎の前にたちはだかる難問
【政治】小沢一郎、妻からの「離縁状」の波紋 ~古い自民党の復活~
【政治】国会議員はヤジの質も落ちた



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。