語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>川内村の「面白い人たち」 ~裸のフクシマ・その3~

2012年02月29日 | 震災・原発事故
 川内村の魅力は、豊かな自然だけではない。面白い人たちが住んでいるのも、魅力の一つだ、と著者はいう。
 例えば、貘原人村のマサイ・ボケ夫妻。
 貘原人村は、国道399号から荒れ果てた狭い林道を4kmほど入ったところにある。電気は、いまでも来ていない。1970年代、ヒッピームーブメント全盛期に、あるヒッピー集団がこの地に住みついた。あまり辺鄙な土地だったので、地主も長らく気づかなかった。いろいろあって、当時の村長的存在、マサイさんが土地を買い取ることになった。マサイさんたちは本気で「原人」生活を目指していたらしいが、だんだん服を着たり、車も必要最小限なら使ってよいことになったり、小学校が廃校になると聞きつけると廃材をもらってきて自分たちの家の資材にする融通性を発揮して、<そんな風にゆる~い「原人生活」を営々と続けてきた。>

 原人村には電気も電話もない。水道もない。トイレもない。ケータイは圏外。風呂もないから、冬季以外は、川で水浴びする。
 原人村の村民は一人抜け二人抜けしてマサイ夫婦だけになったが、2000年、若い女性、愛ちゃんがやってきて住みついた。
 愛ちゃんにはいろいろな伝説があって、著者の筆はノリにノルのだが、割愛。とにかく、修行して一人前の大工になり、一級建築士と結婚し、姓は大塚になり、たちまち一子をもうけ、二人目もでき、しかも旦那を説得して原人村で暮らし続けた。だんだん知名度があがり、郵便物は「福島県川内村大工の愛ちゃん」で届くほどになった。
 原発事故後、愛ちゃんの実家、岡山に避難している。放射線量の問題だけではなく、学校や保育所が再開されないままでは、子どものいる家庭は川内村で生活できない。

 ほかにも、川内村には面白い人がたくさん住んでいる。
 まもるさんは、静岡の商家の子息。親は、末は代議士という期待をこめて単純な「守」という名をつけたが、本人は親の期待をあっさりと裏切り、早稲田大学在学中にインドを放浪し、ヒッピー化して原人村で暮らすようになった。その後、いったん原人村を出て木工の技術を身につけ、川内村に戻って木工家具作家の道を歩んだ。 

 小塚さんは、「独立行政法人都市再生機構(UR、旧・住宅・都市整備公団)」を早期退職し、川内村に骨太な木造家屋を建てて自然農を始めた。
 そのままURにいれば金銭的には何不自由ない将来が約束されていたが、それを全部捨てて川内村に移住したのだ。同僚たちからは、「あいつはついに気が触れた」と宣告されたらしい。

 ニシマキさんは、日本で唯一のトライアルバイク専門誌「自然山通信」の社長兼編集長で、数年前から川内村に住みついている。
 <何にでも興味を持ちどこにでも出かけていく人で、今回の原発震災後も、「こんな経験は滅多にできるものではない」と、どこか嬉嬉として動き回っている。>

 川内村ではないが、隣の田村市(旧・滝根町)の山麓には、日本で最初の宇宙飛行士、秋山豊寛さんが住んでいた。著者宅から車で15分だ。
 彼は、TBSの退職金を全部注ぎこみ、立派な家を建てた。シイタケ栽培で年間100万円ほど売上げがあった。滝根は比較的線量が低いが、キノコは放射性物質を蓄積しやすいものの代表格だから、もはや今までどおりの生活はできない。本人も諦めているらしい。今は、群馬県鬼石町で、知人に借りた6アールの田圃で農業を続けている。

 <こういった人たちと、普段はゆる~くつき合いながらのんびり暮らしていたが、村に残った人たちとは原発震災以降はおのずと連絡も密になり、いままでより直接会って情報交換することが多くなった。/しかし、村をいい方向に持って行くにはなにせ人材が足りない。>
 
□たくき よしみつ(鐸木能光)『裸のフクシマ ~原発30km圏内で暮らす~』(講談社、2011)

   * 

 優れた報道を顕彰し、支援する市民団体「メディア・アンビシャス」(代表世話人=山口二郎・北大教授)は、メディア賞に朝日新聞で連載中の「プロメテウスの罠」を選んだ【注】。

 その「プロメテウスの罠」に、風見正博(61)という人物が登場する。
 風見は、東京都東村山市で生まれ育った。幼いころ、いじめに遭った。
 科学少年だった。科学技術に夢を抱き、猛烈に勉強した。東大を受けようとしたが、大学紛争で入学試験はない。翌年再チャレンジしようとしたものの断念。 浪人生なので絶対に受かるところにしたい、下宿の窓から田んぼが見えるようなところがいい・・・・。熾烈な戦いから逃れ、癒やしを求めた。島根大物理学科を選んだ。夢は膨らんだが、挫折。しっかり勉強して科学技術やるつもりだったが、周りはのんびりしていて自分と合わない。1年で退学した。
 科学技術が生きる実感を奪っているのではないか・・・・。
 生の実感を求め、1970年代の半ばに福島県川内村へたどり着く。山に囲まれた4ヘクタール。先に入ったグループが出た後だった。
 当時は川沿いを1時間歩かないと行けなかった。人間嫌いではなかったが、それがよかった。
 お金も少しは要るから、鶏を飼った。自給自足しながら妻と一緒に子ども3人を育てた。充実感があった。自分で引いた水道の蛇口から水が出る、それだけでうれしかった。昨年の3月11日まで、そんな生活が続いていた。
 自給自足は誰にも支配されないことだ、と信じていたが、放射能だけはどうにもならなかった。福島第一原発から25キロ。放射線値はそう高くはないものの、一帯が汚染された。自給自足が根源から覆されました。ある意味、生きるすべをすべて失った。
 昨年11月、風見は福島県川内村の村議選に立候補した。自分が当選するというよりも、既成のことに我慢できない人が投票する場所がほしいと思って。もちろん反原発を主張して。次点、57票だった。
 やっぱり議員やんなくてよかった。人を攻撃とかしたくないし。こういう暮らししてるのは、そういうことが嫌だからやってるんだし・・・・。
 薪ストーブの上に餅を乗せ、焼けたらしょうゆにつけて食べる。
 残るのが正しいのか、逃げるのが正しいのか。どこに逃げるのが正しいのか。食べ物はどうか。食べるのがいいか、食べないのがいいか。
 獏原人村のほかの住民は避難し、風見は残った。風見は、マサイと呼ばれる。

 【注】「朝日新聞「プロメテウスの罠」がメディア賞受賞

 以上、「原始村に住む:13 ~プロメテウスの罠~」(2011年2月20日付け朝日新聞)および「原始村に住む:15 ~プロメテウスの罠~」(2011年2月22日付け朝日新聞)に拠る。

 【参考】「【震災】原発>『裸のフクシマ ~原発30km圏内で暮らす~』
     「【震災】原発>30km圏内で暮らす人々の覚悟 ~裸のフクシマ・その2~
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【震災】原発>30km圏内で暮らす人々の覚悟 ~裸のフクシマ・その2~

2012年02月28日 | 震災・原発事故
 原発30km圏内で暮らし続けるということは、(a)必然的に福島第一原発(1F)で働いているか、過去働いたことのある人と触れ合うことになる。また、(b)低線量被曝の脅威の中で生活することになる。(c)そこから、ある種の覚悟が生まれる。

 (a)原発で働く人たち。
 放射性物質に近づけば被曝する。癌や白血病などの病気にかかり、命を縮める。原発の補修、燃料交換、掃除といった作業に従事する人たちは必ず被曝する。
 <とくに下請け会社の臨時雇いの現場作業員たちがひっそり死んでいく問題は、以前から一部のジャーナリストたちが取り上げていた。でも、僕を含め、多くの日本人は、そうした現実を直視しようとしなかった。(中略)/自分で選んだ職業なのだから、外野がいちいち口を出すことではない・・・・そう思って、沈黙を決め込んできた。/しかし、川内村に移り住んでからは、昨日までは元気だった人たちの何人かが急性白血病や癌で亡くなるのを実際に見てきた。ああ、こういうことなのか、と思い知った。>
 だが、村人はこの手の話をしたがらない。<原発で働いた人が後に癌や白血病で死ぬことは完全なタブーなのだ。>
 ある20代の青年は、事故後も1Fで働き続けている。<内部被曝は絶対してますよね。まあ、しようがないっすね。こういう仕事なんだから・・・・。//彼に限らず、村の若者たちに軒並み覇気が感じられないことは、以前から気になっていた。老人たちが比較的元気なのに比べると、若い世代は最初から自分の人生を諦めているようなところがある。>

 でも、小学生くらいまではしっかりしている。
 事故当時小学生6年生だった女の子は、知り合いの村議に「抗議文」を託した。どうしてよいか、わからぬまま懐にしまった村議は、昨年6月20、21日の村議会終了後、東電から派遣された社員による説明会が補償金をめぐって紛糾したとき、「抗議文」を取り出して読みあげた。<さすがに、これが読まれた直後は、場内が静まりかえったという。>
 <原発は私のすべてをうばった。私の大切な大切な故郷も仲間も学校も今までやってきたこともすべて・・・・。原発さえなければこんなに悩むことも苦しむこともなかった。原発さえなければ。なんで原発なんでつくったんだよ。川内のみんなとこれからつくりあげていくはずだった歴史もすべて。あなたは私の何を保しょうしてくれますか? 私の時間を私の仲間を私の心のすべてをうばった。あなたは私のすべてを保しょうしてくれますか? こんな思いをいだいているのは私だけではないでしょう。あの美しい川内村をあのあたたかい川内村をかえしてください。私のふるさとをかえしてください。楽しい思い出がつまった川内村をかえしてください。原発のせいで、多くの命が消えました。どれだけ私達にとって川内村が大切だったか。お金なんかじゃ、けっして保しょうできないんです。あなたを私は絶対にゆるさない。すべてをうばったあなたを。原発なんて絶対に。>

 (b)低線量被曝の中で。
 村民は低い線量とはいえ、被曝し続ける。これ自体大きな変化だが、原発事故は村の外部との関わり方も変えた。
 端的な例が宅急便だ。日本郵便とヤマト運輸はほぼ同時期に復活したが、佐川や西濃など他の運送会社はいつまでも復活する気配がない。もtもと川内村は広いばかりで家がないので、運送会社にとっては「平時」であっても大赤字エリアだ。こんな過疎地はサービス圏外にしたいところだが、クロネコがやっているので、飛脚やカンガルーが行かないわけにはいかず、いやいややっていたところに原発震災。赤字エリアを切り捨てるよい口実になった。
 クロネコは、1通80円のメール便を玄関まで届ける。震災後は、海側の配達拠点が軒並みに機能停止したので、広野町と川内町を一人で回っている。
 <これにはびっくりした。広野町と川内町の間には福島第二原発が建つ楢葉町があり、直接結ぶ道はひどい山道しかない。楢葉町は大半が20キロ圏内に入ってしまったので通過できない。もちろん、町中がすっぽり20キロ圏内に入り、海沿いの道路が壊滅したままの富岡町側から回ってくることもできない。普段でも広野町と川内村は片道1時間はかかる。それなのにこの気の遠くなるようなエリアをひとりで回っているというのだ。1通80円のメール便を届けるために。>

 (c)放射性物質に対する覚悟
 身近に原発と小さからぬ関わりがある人が少なからず居て、いまや低線量被曝の土地で暮らす著者には、幻想がない。「第5章 裸のフクシマ」でいう。
 <今回の放射能汚染は「事故が起きたから放射性物質が生じた」わけではない。放射性物質は事故が起きても起きなくても、最初から原発の施設内に存在していた。最初から存在していたものが壁の外に「漏れた」ということだ。>
 <放射性物質は、焼却することもできないし、土壌バクテリアが分解してくれるものでもない。もちろん、食物連鎖の中に組み込むこともできない。地球生態系が持っている物質循環システムに乗せられない物質だ。>
 <「除染」というのは、「拡散」か「移動」のことであって、放射能を消滅させることはできない。現人類が知りうる限り、放射能を消す技術は存在しない。>

□たくき よしみつ(鐸木能光)『裸のフクシマ ~原発30km圏内で暮らす~』(講談社、2011)

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【震災】原発>『裸のフクシマ ~原発30km圏内で暮らす~』

2012年02月27日 | 震災・原発事故
 音楽家にして作家の著者は、福島県福島市に生まれた。終の棲家とすべく越後の豪雪地帯に買った古い家を十数年かけて手を入れ、本格的な引っ越しに取りかかる直前、2004年10月23日、中越地震に被災した。同年末、福島県双葉郡川内村の新居に移った。
 本書は、いろいろな読み方をすることができる。
 (1)マスコミで報道され、インターネットで明らかにされた原発事故の真実の概観。本書を拾い読みすると、この1年間足らずの間に何度となく驚かされたニュースが記憶の底から甦る。著者は、普通に暮らす生活者が知り得たことを整理している。この点、識者のように上段に構えず、全国の大多数の普通の生活人と同じ立場に立つ。著者が何度となく受けたに違いないショックや苦々しい思いは、大多数の読者のそれと同じだと思う。
 (2)副題のとおり原発30km圏内の現場で暮らし続けている点で、他の地域の人々には見えないものを見ている。例えば、一時帰宅は「ショー」だ、と喝破する。
 (3)川内村の「面白い人たち」だ。隣近所の普通の老人たちから、ユニークな暮らしを実践する貘原人村の人たち。隣の田村市でシイタケ農業を営んでいた秋山豊寛・元宇宙飛行士も登場する。被曝後、彼らが失ったもの、あるいは被曝しつつ暮らす覚悟は傷ましい。

 (1)は例えば、日本気象学会理事長(新野宏)による日本気象学会会員に対する圧力。余計なことを言うな・・・・【注2】。
 これを著者は「噴飯もの」と評する。
 <飯舘村の人たちは、今中チーム【注1】がこの調査を行うまで、国からも県からもこうした深刻な状況に自分たちいることを知らされていなかったのだ。/一方で、国民に情報を知らせるのが仕事であるはずの気象庁や環境省などはまったく動かなかった。放射性物質はうちの管轄ではない、の一点張り。/中でも噴飯ものなのは、日本気象学会理事長・新野宏氏が気象学会員である学者たちに発した通達だ。>
 こう書いて、著者は日本気象学会理事長名の通達【注2】を引用し、評する。
 <関与しないどころか、学者たちに「勝手に調査するな。発表するな」と圧力をかけたのだ。/日本のアカデミズムはとっくに死んでいたということか。>と著者は詠嘆する。
 当時、日本気象学会理事長による露骨な隠蔽がネットで評判になったが、いま改めて政治に従属する科学者の胡乱さを痛感する人は多いはずだ。

 (1)は、また例えば、事故収束のめどもまったく立たない時期に登場した「地下原発議連」がある。このブログでも昨年6月9日に取り上げた【注3】が、著者は「さすがに驚き呆れ果てた」。
 <さすがに驚き呆れ果てたのは5月松に突然出てきた「地下式原子力発電所政策推進議員連盟」(地下原発議連)なるグループだ。/地上に作ると危ないから、原発は地下に作ればいいんだね、という趣旨の会らしい。>
 <最初にこの話を聞いたときは、与太話だろうと思った。(中略)/ところが、ジョークではなかった。>
 <会長は平沼赳夫(たちあがれ日本)。顧問には、谷垣禎一、安倍晋三、山本有二、森喜朗(以上、自民党)、鳩山由起夫、渡部恒三、羽田孜、石井一(以上、民主党)、亀井静香(国民新党)。事務局長に、山本拓(自民党)・・・・という顔ぶれ。>
 <この会の立ち上げを歓迎しよう。政界をリードしてきた人たちはことごとく頭がおかしいということを日本国中に知らしめることになったからだ。/彼らは本気でこんなとんでもないことを考えているのだろうか。(中略)/要するに、原発そのものより、日本の政治のほうがはるかに危険だったのだ。>
 これまた、自分が「地下原発議連」の懲りない面々と同じ日本人であることを恥じた人は多いはずだ。

 【注1】今中哲二・京大原子炉実験所助教が率いるチーム。
 【注2】2011年3月18日付け日本気象学会理事長(新野宏)通知、日本気象学会会員各位あて。
 【注3】「【震災】原発>非常時冷却システムを撤去していた勝俣恒久・東京電力会長

□たくき よしみつ(鐸木能光)『裸のフクシマ ~原発30km圏内で暮らす~』(講談社、2011)
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【震災】原発>東電の売却すべき保有資産1,400億円 ~天下り社長~

2012年02月26日 | 震災・原発事故
 東京都は、東京電力の一方的な値上げに対して、子会社168社のうち都内の24社を調査し、一等地にあるオフィスから移転して東電が所有する自社ビルを売却すれば100億円が捻出できる、とした【注】。
 <例>「東京リビングサービス」。想定月額賃料833万円、年間約1億円。東電グループの社宅や福利厚生施設の管理、運営委託を受けた子会社で、ホームページによれば「東京電力グループのお客さまにはパッケージ旅行の割引販売」を業務としたりもする。東京都港区の六本木交差点から脇道に入り、坂を下って徒歩3分、右手に見える地上6階建てのグレーのビルに入居する。1階はコンビニ、その横に広々としたエントランス。コの字型のビルは、中央部に中庭、上層階には植木で囲まれたバルコニーが設けられ、意匠に凝った造りだ。利便性の高い地で、坂をさらに下れば六本木ヒルズだ。

 東電東電の子会社・関連会社は、送電・変電設備などの保守といった本来業務に近いものもあるが、所有不動産の管理、福利厚生サービス、電柱の広告集めなど様々で、そうしたファミリー企業には東電本社の幹部の天下りポストが張りめぐらされている。
 東電不動産(中央区京橋・想定月額賃料2,432万円)や東電用地(荒川区日暮里・想定月額賃料202万円)の社長は、元は東電本社の執行役員だ。これら「天下り」先の子会社が、事務所を一等地に置いているのだ。
 電気料金値上げの前に、「天下り」社長たちの報酬もコスト削減の対象になる・・・・はずだ。しかし、子会社は本社と異なり、非上場企業なので、役員報酬さえ開示されない。

 東電グループが保有する超高額物件は、少なくとも19件、資産査定額の総額1,400億円もある。
 <遊休資産の例1>「三田中学校仮校舎跡地」13,000平米。資産査定額283.1億円。港区三田、JR田町駅から徒歩10分。
 <遊休資産の例2>「千住資材センター」60,000平米(東京ドームの2まわりほど)。足立区千住桜木、JR来た千住駅から徒歩15分。
 このほか、自社利用ビル、賃貸オフィス、賃貸住宅、娯楽施設、宿泊・保養施設と多岐にわたる。
 「FISH・ON! 王禅寺」(神奈川県川崎市、資産査定額0.5億円)は、50,000平米の敷地に4つの池が設置され、ナイター施設が完備。都心から車ですぐ行ける。釣り好きには有名なスポットだが、電気事業とは無関係なことを東電総務部広報も認めている。

 政府の「東京電力に関する経営・財務調査会(第三者委員会)」は、原則3年以内に時価ベースで2,472億円の不動産(具体的な物件は非公表)の売却を実施すべし、と最終報告をまとめた。年に824億円のペースだ。
 だが、今年度中に売却されるのは152億円だけだ。
 不動産売却が原則3年以内、とは、例外もある、ということだ。変電所を移して物件を売却することも可能だが、第三者委員会は正面から検討していない。そんな中で「値上げは権利」と言っても、国民は納得しない。【岸本博幸・慶應大学大学院教授】

 【注】「【震災】原発>東電にメスを入れる東京都 ~電気料金値上げ~」および「【震災】原発>東電にメスを入れる東京都(その2) ~子会社の整理~

 以上、武富薫と本誌取材班「電気料金値上げの前に、東京電力はこのグループ保有資産「19物件1,400億円」を売却せよ」(「SAPIO」2012年3月14日号)に拠る。
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【震災】原発>東電社員議員による東電防衛&利益誘導

2012年02月25日 | 震災・原発事故
 東京都立川市は、2010年度に競輪場の電気をPPSに切り替えて電気料金を3割削減し、その後小中学校など市の施設で次々に切り替えていった。
 これをモデルに、東京都世田谷区は、1月23日、区の施設の電気を東電以外から購入できる競争入札制度の導入を発表した。PPSが参入すれば、2011年度比で2,000万円削減、東電が17%の大口顧客向け電気料金値上げに踏み切れば削減効果は1億円を超える。

 立川市がPPS利用を広げるため、電力供給契約の見直し方針を打ち出した2010年夏、東電社員が市の担当課を訪れた。我が社の二酸化炭素削減の取り組みを聞いてくれ・・・・。
 同行した大石富巳夫・市議(民主)は、東電によるレクチャーの間ほとんど発言しなかったが、最後まで同席した。そして、12月議会で質問に立った。二酸化炭素削減は重要、入札の参加資格に「環境配慮の要件」を加えよ、環境配慮の要件を満たさない業者を排除せよ、云々。
 PPSは火力発電が多く、料金面を除けば圧倒的に東電に有利な制度を求めたのだ。
 翌2011年2月、一定の環境配慮を参加資格とする入札が実施された。その結果、市がそれまで契約していたPPSは除外され、東電は残った(東電は最終的に入札を見送った)。
 大石は、1979年、東電武蔵野支社に入社後、東電労組支部委員長などを経て2006年に市議に初当選。2010年には東電労組が作る政治連盟から800万円の寄付を受けていた。
 東電本社は、大石が現職社員と認めた。

 東電社員議員は、立川市のほか、少なくとも東京、神奈川、埼玉、栃木、福島、新潟、山梨の10都道府県の市町村議員19人が確認されている。
 いずれも東電管内で、大半が前記の政治連盟から数十万~1,000万円超の寄付を受けている。
 各議会議事録には、自社の防衛ないし利益誘導と目し得る発言が散見される。
 「太陽光や風力発電の供給安定性は非常に低い」
 「原発の建設は3,000億円だが、太陽光発電システムは6兆、7兆円」
 「原発を含めたエネルギー教育を推進せよ」

 議員は、会社から給料をもらっている。ただし、議長などに就任して会社の仕事ができなくなると、休職になる。東電議員はOBを含めて30人ほど。【内情を知る社員】
 総括原価方式では、人件費も料金に含まれる。電気料金から社員議員の給料が支払われる仕組みだ。

 社員議員は、主に労組幹部から転身する。立候補に当たって労組と政策協定を結び、選挙や資金面で支援を受ける。
 議員になってからは、時間外手当や夜勤手当などがなく東電からの給料は下がったが、議員の報酬(約1,000万円)があるので、所得は前より上がった。【首都圏の社員議員】

 現職社員であり、給料まで出ているとは驚きだ。多額の寄付金もあり、一体何に使っているのか。電力会社は総括原価方式で、いくら人件費を出しても懐が痛まない。国が原発推進の見返りに料金設定を好きにやらせてきた結果だが、公共料金は「第二の税金」だ。普通の企業とはわけが違うのだから、襟を正すべきだ。【布施哲也・「反原発自治体議員連盟」代表】

 東電労組が作る政治連盟の収支報告書には、金銭感覚の麻痺を窺わせる支出が頻出する。
 「意見交換会」が開かれた会場には、一流料亭の「なだ万」や高級中華「聘珍樓」、銀座のパブなどがある。1回の支出額は10万円前後が多い。
 政治連盟の原資は、社員からの会費で、2010年分の収入は2億6,000万円。これも電気料金の一部だ。 

 以上、大場弘行(本誌)「電気料金値上げの裏 東電社員の「利益誘導」」(「サンデー毎日」2012年3月4日号)に拠る。
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【震災】原発>東電にメスを入れる東京都(その2) ~子会社の整理~

2012年02月24日 | 震災・原発事故
 東京都が東京電力の一方的な値上げに対し、その収支にメスを入れる仕儀となったのは、(a)都が第3位の大株主であるという理由だけではなく、(b)都の莫大な負担増(17%の値上げで77億円)、(c)都内の中小企業の否応なき負担増という理由もある。
 勝手に負担増を強いる東電には利用者側の視点がまったくない。国が東電の傲慢を許容するならば、国も国民の立場に立っていない。

 都が東電の子会社を調査したところ、例えば社員の福利厚生の会社は六本木のど真ん中にあり、家賃は想定月800万円だった【注1】。
 東電は、原発事故起こし、福島をはじめ、その周辺地域に放射性物質をバラマキ、それでいて<東京電力福島第一原発から飛散し、落下した放射性物質(セシウムなど)は東京電力ではなく、土地所有者のものである>とうそぶいて賠償を拒否した【注2】。
 そして、実は不良債権(不良資産)化した原発を抱えているのが真の理由で債務超過に陥りつつあるのだが【注3】、表向きは「燃料費上昇」を口実に、自由化部門の値上げは「電気事業者の権利だ」と宣言した【注4】。その権利の一例が、握って放さない子会社の贅沢というわけだ。 

 都は、東電の子会社168社の全貌を情報開示するよう求めている。役員の数や就任前の肩書き、平均年収を明らかにするよう要請している。
 子会社には、だぶついた人員や東電からの天下り役員が配置されている。

 東電は、都が訊いたことしか答えない。都庁に10人も説明に来るが、子会社のリストの数が少ないことを指摘されて始めて、「他に出向の役員がおります」と言い出す。

 東電は、企業年金を10年間で1,036億円削減というが、初年度はたったの13億円だ。公的資金が入って立ち直ったら、結局、削減は立ち消える可能性がある。「大勢いるOBの3分の2の同意を取らないと決められない」と、震災から1年経てもこの調子だ。身の削り方が甘い。

 【注1】「【震災】原発>東電にメスを入れる東京都 ~電気料金値上げ~
 【注2】「【震災】原発>賠償を拒否する東電側の理屈 ~裁判~
 【注3】「【震災】原発>賠償・除染の費用を出せなくなる東電 ~債務超過~
 【注4】東電は独占企業であり、競争がないから、自由化市場は全体の3.5%。選ぶ自由が全然ない。PPSが電力を売ろうとすれば、東電に配電網の託送料(利用料)を支払わねばならず、これが電気料金の2割を占め、高い。おまけに、原発に係る電源開発促進税が、そのうちの2割含まれている。PPSは火力しかないにも拘わらず。しかも、PPSには罰金が科せられる。<例>40万kWの発電所を夏期たった5時間止めただけで8,000万円。新規参入を妨害する措置だ。

 以上、大場弘行(本誌)「電気料金値上げの裏 東電社員の「利益誘導」」(「サンデー毎日」2012年3月4日号)のうち猪瀬直樹・東京都副知事の談話「埋蔵金見つけ、人件費を削れ」に拠る。
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【震災】原発>東京電力を待ちかまえる除染費用・賠償費用

2012年02月23日 | 震災・原発事故
(1)除染費用
 (a)日本経済研究センターの試算・・・・年間0.96兆円
  除染で発生する廃棄物の処理費用は、六ヶ所村の低レベル放射性廃棄物処理費用をベースに算定。汚染された廃棄物を片づけて封じ込めるのは一緒だ、と考えるのだ。
  表土を深さ5cmまで削り取り、非生活圏の森林もすべて除去したときに出る土壌・廃棄物2,800万立米で計算すると、その額は年間9,600億円となる。

 (b)伴英幸・原子力資料室代表・・・・28兆円
  国が目標とする年間1mSv以下にするには、これだけかかる。試算は、原子力委員会に提出した。
  「除染費用について認識が甘いまま、東電存続への議論が進んでいる」

 (c)実例・・・・郡山市薫小学校
  昨年8月、県の線量低減化活動支援事業から補助金給付を受けたが1団体50万円なので、高圧洗浄機1台しか買えない。みかねた洗浄機メーカーが利益を度外視した価格で提供してくれ、ようやく20台までそろえることができた。しかし、作業を業者に委託する予算は、もう無い。結局、保護者たちが週末に作業にあたることになった。
  洗浄機1台が1日に除染できるのは20~30mに限られる。2月までに除染が終了した通学路は、全体のわずか3分の1だ。しかも、1月以降は積雪のために作業は休止。汚泥の仮置き場もなく、周辺の側溝に放置したままだ。

(2)賠償費用
 「エネルギー・環境会議コスト等検証委員会」が昨年12月にまとめた報告書によれば、5兆円。
 この数字は、昨年10月に「東京電力に関する経営・財務調査委員会」が廃炉費用と損害賠償費用として算定した5兆円が基になっている。コスト委員会は、このほかに、除染費用0.8兆円を追加した。
 ただし、廃炉費用に係る「経営・財務調査委員会」の試算は過小という声が専門家から上がっている。原子炉解体だけが廃炉ではなく、出てきた放射性廃棄物の最終処分まで含めて廃炉というからだ。メルトダウンした燃料取り出しの技術開発には莫大な費用がかかる。
 除染についても、中間貯蔵施設や最終処分関連費用などが十分に見込まれていない。
 加えて、生命・身体的損害に関するコストが天文学的な数字になりそうだ。海外では、被曝による死者や疾病の被害を10兆から100兆円のレベルで見積もっている。
 ちなみに、東電に会社更生法を適用した場合、確定済みの損害賠償債務も免責される。焼け太りだ。破産せよ会社更生法適用にせよ、社債権者が被災者より優先弁済される。

 以上、倉沢美佐/井下健悟/鶴見昌憲/山田雄大/麻田真衣/長谷川愛/風間直樹/高橋由里(本誌)「東京電力 偽りの延命」(「週刊東洋経済」2012年2月18日号)に拠る。
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【震災】原発>東京電力をどう処理するか ~電力確保と被災者救済~

2012年02月22日 | 震災・原発事故
(1)竹森俊平・慶應大学教授
 東電は、試算をすべて売却し、賠償責任を可能なかぎり果たしたうえで破綻させるべきだった。有用な資産のみ買収し、賠償・廃炉(「レガシーコスト」)から自由になった新会社が電力事業を担うのが最善だ。
 原子力損害賠償支援機構は、東電を生かすでもなく殺すでもない生殺しの仕組みで、最悪だ。
 電力不足問題は、電力会社が火力発電所やスマートグリッドに積極投資しないかぎり解決できない。批判の矢面に立ちリストラを要求されている会社が、最も投資を要求されている。このジレンマが続くかぎり、東電は優秀な人間を集められないし、十分な投資もできない。

(2)荒井聡・参議院議員
 東電の再建は、どういう形にすれば福島の被災者への賠償が十分な水準でスムーズに行われるかを中心に据えるべきだ。
 会社更生法にせよ、破産にせよ、法的整理が行われると、社債権者が被災者より優先弁済を受けることになる。
 かといって、国が賠償を引き受けるのは、財政当局が納得しないし、法制化にも時間がかかる。その間、賠償が滞る。
 東電が前面に出て政府が後方からバックアップする原賠機構のスキームは、既存の法律、制度の枠組みを前提に、被災者救済策にもっとも資する。

(3)奥村宏・会社学研究家
 組織が肥大化した大企業は時代の状況にもはや適合できなくなっている。大きすぎる会社は分割する以外にない。
 東電は抜本的に解体すべきだ。発送電分離だけでは肥大化はなくならない。発電部門では、各地の火力・水力発電所を独立させ、新会社へ払い下げるか、自治体による公営とせよ。発電網、送電網も地域別に独立させ、新規参入を促すべきだ。
 国有化するなら、法的に破綻させるべきだ。りそな銀行のときのように、減資もせずに公的資金を投入するな。議決権のない株式取得も、タダでカネを差し出すようなものだ。

(4)橘川武郎・一橋大学大学院教授
 東電のエリアに、なるべく安い電気をなるべく安定的に供給する仕組みを作ることがいちばん大事だ。経営者を交代させるため、一時国有化には反対しない。しかし、最終的には民間が担うのがふさわしいし、その担い手は現在東電で働いている人たちだ。
 高い系統運用能力(需要と供給を瞬間ごとに調整して安定的に電力を送る)をもつ現場の力は残さなければならない。
 原子力は電力会社から切り離したほうがいい。2050年ごろには世界の原発はゼロになる。必要なのは、長い目で見た「リアルな原発の畳み方」だ。
 原子力比率が10数%しかない中部電力は、浜岡原発を切り離せば天然ガス中心の会社に生まれ変わる。24%が水力の北陸電力は、志賀原発を切り離せば、再生エネルギー会社として特徴を出していける。電気事業者が「原子力からの名誉ある撤退」をしていく道を作ることが求められる。

(5)河野太郎・衆議院議員
 今のスキームより、破綻処理後にいったん国有化し、発送電分離、地域独占・総括原価方式の見直しなどを行ったうえで、再上場させ、資本回収を行うほうが国の持ち出しが少ない。
 解決のメドがつかない使用済み核燃料や核燃料サイクルの件を含め、原発のリスクは国が引き受けざるをえないだろう。
 今後の原発政策は、例外抜きに40年経たものは廃炉とし、原発再稼働についてはストレステストだけでなく、経営陣の総退陣や社外役員制度の導入など、ガバナンス改善も条件とすべきだ。
 信頼を失った原子力安全・保安院の役割を新設の原子力規制庁が担うことになるが、経産省につぐ原発推進派である環境省より、もっと独立性の高い組織にすべきだ。

(6)久保利英明・弁護士
 会社更生法を適用すべきだ。実質倒産だが、事業は継続する再建型だ。裁判官の管理下、資産売却や整理解雇など厳しいリストラが求められる一方、必要資金が不足すれば担保権よ優先する「共益債権」にすると裁判官が金融機関を説得してくれる。燃料購入代金なども同様だ。
 組織的対応ができれば、早期回収につながる。他方、個人や中小零細企業など弁護士にたどり着けないところに対しては、東電は一方的な自社作成の請求書対応で、安く済ませようとしている。大体、加害者が被害請求の枠組みを決めるなど許されることではない。
 かかる変な話は、すべて東電を破綻処理しなかったことから生じている。
 更正法を適用すれば、債権者が裁判所の決めたごく簡単な債権届出書を提出すれば審理は進む。更生管財人の下に弁護士を大量動員して審査を行い、権利が認められればすぐに確定する。判決文と同様の効果があるから、今の原発ADRのように東電がごねるから進まない、ということにはならない。
 それで賄えない分は、国が全面的に出てきて被害者救済を行うべきだ。もし国が動かないなら、十分に国家賠償請求訴訟を行える。

 以上、倉沢美佐/井下健悟/鶴見昌憲/山田雄大/麻田真衣/長谷川愛/風間直樹/高橋由里(本誌)「東京電力 偽りの延命」(「週刊東洋経済」2012年2月18日号)に拠る。
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【震災】原発>医療界の原子力ムラ ~放射線医療総合研究所~

2012年02月21日 | 震災・原発事故
(1)独立行政法人「放射線医療総合研究所」の役目
 放医研は、1957年に設立された。当時、広島・長崎の原爆や第五福竜丸被曝事件(1954年)などによる被曝対策が急務となっていた。以来、放射線の人体環境の研究、放射線医療技術の開発などを業務としてきた。被曝した労働者らの緊急医療の拠点でもある。今や年間予算140億円。800人に近い人員を擁する。
 開所式には、中曽根康弘・科学技術庁長官(当時)が出席した。正力松太郎と並ぶ「原子力平和利用」の旗振り役だ。
 設立前年に、原発立国に向かう原子力3法が施行され、放医研の役割は決まっていた。
 医療の側面から原発推進の一翼を担う運命を負った。【放射線医学界の重鎮】
 1980年代ごろは、原発周辺の放射性物質の濃度を測って研究するだけで科学技術庁から叱られ、放医研の幹部が謝りに行った。【放医研関係者】

(2)福島第一原発事故後の放医研
 断固、原発推進を維持している。
 (a)児玉龍彦・東京大学教授が低線量被曝の危険性を示すために国会で引用した「チェルノブイリ膀胱炎」の研究論文を、放医研のホームページで全否定している。
 しかし、反論の根拠は研究結果に基づいていない。また、反論文は無署名だ。関連する論文の検討も行われていない。要するに、学術論争への行政的圧力なのだ。

 (b)2月2日、文部科学省の放射線審議会で、昨年12月に厚生労働省が発表した食品の暫定規制値見直し案に、異議を申し立てた。
 審議会で酒井一夫・(放医研)放射線防護研究センター長いわく、「世間に迎合するように2分の1にするのか」。現行の500Bq/kgを100Bq以下へ引き下げ、乳児用品と牛乳はその半分以下に引き下げることは「厳しすぎる」、というのだ。
 ちなみに、酒井が1999年から約7年間在籍した「電力中央研究所(電中研)」は、運営費の大半を電力9社などが賄っている。そこで、酒井は、100mSv以下の放射線は健康にとって有益、という研究を行っていた。
 電中研には、電力会社のメリットになるような研究が多い。研究は、調べる前から結果が見えている。「ひもつき」が少なくない、と言われている。【放医研関係者】

(3)原発マフィア
 放医研のトップ、米倉義晴・理事長の過去にも電力会社との接点が浮かぶ。
 2004年4月、画像診断に係る「関西PET研究会」の座長を務めたが、主催は関西電力病院。スピーカーとして関電とその子会社の担当者も登壇した。
 米倉は、関電幹部が役員・評議員を務め、出資もしている「若狭湾エネルギー研究センター」と共同研究している。原発銀座と呼ばれる地域の電力会社が関わる団体と連携しているのだ。
 前記「研究センター」の理事には、日本原子力発電の関連会社「原電事業」社長、日本原子力研究開発機構理事、元経産相中部経済局部長、北陸電力役員らが名を連ねる。事務を取り仕切るのは、原発施策を協力に推進した県の元原子力安全対策課長だ。中期事業計画を実質的に決める作業グループのメンバーは、資金提供者である5者・・・・関電、北陸電力、日本原子力発電、日本原子力機構、福井県だ。
 2009年発行の「放医研NEWS」には、米倉が古川康・佐賀県知事とがっちり握手する写真が載っている。「九州国際重粒子線がん治療センター」の運営に係る協力協定を結んだ際の光景だ。
 前記「治療センター」は、玄海原発のプルサーマル実現の見返り、と言われている。2009年12月に玄海原発3号機でプルサーマル原発が全国に先駆けて実用化され、その5ヵ月後に寄付発表があった。
 放医研も無関係ではない。原子力安全・保安院が2005年12月に開いた住民説明会に、放医研名誉研究員が講師として参加し、安全性を説明していた。原子力ムラが原発立国を推進し、医療界が住民の不安をなだめて後押しする、という構図なのだ。

 以上、大場弘行(本誌)「医療界の原子力ムラ」(「サンデー毎日」2012年2月26日号)に拠る。
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【震災】原発>東電にメスを入れる東京都 ~電気料金値上げ~

2012年02月20日 | 震災・原発事故
 電力料金を上げる前に説明を尽くせ。
 1月26日、東京都は、東京電力、原子力損害賠償支援機構、経済産業省にあてて、電力料金値上げに対する緊急要望書を提出した【注1】。ポイントは、明確な情報開示、中小企業に対する配慮など4つ。

 東電によれば、現行料金算定の前提である2008年度に比べて6,800億円増加する。
 だが、「燃料費等は火力燃料費、核燃料費、購入電力量など」とあるだけで、内訳がない。【猪瀬直樹・東京都副知事】
 経営合理化による2012年度のコストダウン額を1,934億円としているが、昨年10月の緊急特別事業計画で東電は10年間で2.6兆円のコスト削減を掲げているから、単純計算すれば2,600億円のはずだ。【猪瀬副知事】

 東京都は、2.7%を保有する東電の第3位の株主だ。また、その年間電気代は380億円【注2】で、今回の値上げによって80億円弱のコスト増となる。
 根拠不明な値上げは認めない。【猪瀬副知事】
 かくて、都は東電の資産を「仕分け」した。東電の有価証券報告書には社名のある40社【注3】以外は「その他128社」としか記されていない【注4】。そこで、住所が記載されている都内24子会社を調査し、賃貸料を試算した。その結果、整理すれば、ビル売却額80億円+賃料削減20億円=100億円が削減できる、と都は算定した【注5】。
 <例1>変電所のない自社ビルは売却し、賃料の安いエリアに移転する。
 <例2>東電の社宅や福利厚生施設の管理、運営委託を受けた子会社(従業員1,007人)【注6】は六本木駅から徒歩2分のビルに入居する必要なし。
 <例3>群馬など4県にまたがる尾瀬の山林・土地の管理を行う子会社(同104人)【注7】の本社がなぜ東京にあるのか。

 【注1】記事「ふざけるな!東電のウソ 「値上げの原因は燃料高」は口実 ひた隠す埋蔵金」(「週刊朝日」2012年2月24日号)によれば、昨年12月、何度も東電に資産売却計画んどの開示を求めた。だが、出てこない。猪瀬副知事は、首都圏の自治体とつくる「9都県市首脳会議」の代表として、資源エネルギー庁長官と面会し、値上げ根拠の詳細を情報開示するよう要望した。
 【注2】前掲誌によれば、年間83万kW。
 【注3】前掲誌によれば、うち1社は昨年7月に清算、別の3社は2社に統合。
 【注4】子会社168社のうち、会社名を公表したのはわずか40社のみ、ということだ。情報開示への意識の低さを示す、と前掲誌は評する。
 【注5】前掲誌によれば、猪瀬副知事いわく、「氷山の一角だけで100億円以上出てくるとわかった。まだまだ『埋蔵金』は出てくるに違いない」。
 【注6】前掲誌によれば、「東京リビングサービス」。想定賃料833万円。
 【注7】前掲誌によれば、「尾瀬林業」。日暮里の高層ビルに入っている。想定賃料202万円。

 以上、コラム「東京都、値上げに憤激!」(「週刊東洋経済」2012年2月18日号)に拠る。
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【経済】消費増税は不要 ~これだけある財源~

2012年02月19日 | 社会
1 政府の説明
 年金、介護、医療の高齢者3経費の不足額は、2011年度で10兆円。これが、2015年度には13.4兆円になる。その穴埋めのため消費税を増税する。消費税1%当たり2.7兆円、5%で13.5兆円だ。2006年度の水準に戻せば、当面は増税不要だ。

2 消費増税に代わる財源
(1)バラマキ政策を削減【①】
 一般会計予算は、2006年度の81兆円台から、2012年度は96.7兆円に拡大。消費増税に相当する14兆円ほど膨らんでいる。
 (a)形を変えて残る子ども手当・・・・2兆2,857億円(うち国庫負担1兆3,283億円)。
 (b)整備新幹線未着工3区間(北海道・北陸・九州)計画復活・・・・総事業費3兆3,000億円。従来まで国土交通省が示していた2兆7,500億円から拡大。
 (c)八ツ場ダム建設再開・・・・総事業費4,600億円。
 (d)東京外環道着工・・・・総事業費1兆2,820億円(道路1m当たり7,900万円、世界一「高い」道路)。

(2)国家公務員人件費を削減【①、②】
 5.3兆円の2割に当たる1.1兆円を削減。

(3)独立行政法人の民間化【①】
 独立行政法人全体に計上されている年間3兆円を削減。

(4)特別会計の埋蔵金を一般会計に移行【④】
 2010年度の特別会計291兆円には、国債整理基金30兆円、財政投融資19兆円、外国為替資金その他余剰金など、50兆円の埋蔵金がある。まず埋蔵金を吐き出してから増税すべきだ。

(5)金持ち優遇の税制を改正【③】
 (a)所得税の最高税率の引き上げ・・・・かつて75%だったが、今は37%に引き下げられている。消費税導入直前の税率65%と皮革すると、減税額の合計は2兆2,250億円。消費税の1%相当だ。消費税導入以降現在までの26年間の累計は30兆円近くある。消費税12%相当分だ。
 (b)租税特別措置の廃止で国・地方の合計28兆1,105億円の税収増・・・・①2011年度分をみると、企業が株式を発行した場合、額面を超えた発行差金(時価との差)は非課税だが、それを廃止すれば3兆9,320億円の税収増となる。②大企業が株を持つ子会社からの配当金の80%は益金に入れなくてよいが、これを廃止すれば4兆815億円だ。

(6)富裕税を賦課【⑤】
 日本の個人金融資産は総額1,400兆円だ。その大部分を所有しているのは400万人程度の富裕老人たちだ。1,400兆円の個人金融資産に、家や土地などの資産を合わせると8,000兆円を超える。それらに対し、1%の富裕税をかければ、概算でも80兆円の税収になる。生活資産は課税免除にしても、40兆円ぐらいにはなるはず。現在の日本の税収40兆円に匹敵する。
 富裕税は、恒久財源となり得る。富裕税は、フランスなど一部先進国で導入されている。
 日本では、1990年以降、高額所得者の所得税率や相続税の最高税率が大きく下げられる一方、配偶者特別控除や定率減税が廃止されるなど、中間層以下の負担が増えた。現在の閉塞感を打破するためには、ある程度の痛みは必要だが、痛みを受けるべきはこれまでいい思いをしてきた富裕層だ。

3 意見を出した人
 ①岸博幸・慶應大学教授
 ②岩瀬達哉・ジャーナリスト
 ③富山泰一・不公平な税制をただす会事務局長/税理士
 ④菊池英博・日本金融財政研究所所長/経済アナリスト
 ⑤武田知弘・経済ジャーナリスト/元大蔵官僚

 以上、奥野幹浩/藤後野里子(本誌)「消費税の必要なし 目からウロコの財源はこれだ」(「サンデー毎日」2012年2月26日号)に拠る。
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【震災】原発>高レベル放射性廃液400立方メートル in 東海村

2012年02月18日 | 震災・原発事故
 3・11、東海第二原発は津波の襲来を受け、危機一髪だった。地震直後に自動停止したが、東電からの送電は停止。非常用発電機は3台あったが、うち1台(北側に配置)は冷却用の海水ポンプが水没して使用不可能になった。2台(南側)は使えたが、津波を防ぐための側壁は、なんと2日前に完成したばかりだった。
 村上達也・東海村長がこの話を聞いたのは、大震災から約2週間後だ。

 南側に完成した新しい側壁は、高さ約6m。古い側壁は4.9m。襲ってきた津波は、5.3mだった。北側の側壁は、配管部分がまだ開いていた上に、古くて低い側壁の部分が残っていた。
 この側壁工事には、紆余曲折があった。
 政府の地震調査研究推進本部が地震と津波の危険性を警告したにも拘わらず、内閣府の中央防災会議は無視。日本原子力発電が新しい側壁の工事にとりかかったのは、政府とは別に調査していた茨城県が想定した津波の高さに従ったからだ。

 村上村長が、完全に政府を信用しなくなったのは、事故後3ヵ月へた昨年6月18日だ。海江田万里・経産相が原発の安全宣言を発し、運転再開のゴーサインを出した時だ。
 「これはだめな国だと思った。解決への道筋さえできていないという時に原発を再開すると言う。こんなばかな国に原発を置かれてはたまったものではない。国に完全に不信感を抱きました」

 完全な不信感のはるか前に、不信感の芽生えがあり、不信感の増幅があった。1997年3月11日の東海村の動力炉・核燃料開発事業団(動燃、現・日本原子力研究開発機構(JAEA))の再処理施設内の火災事故があり、その再開申し入れを受けることになっていた日の前日(1999年9月30日)に発生したJCOの臨界事故があった。JCO事故で表面化したずさんな核燃料官吏体制に、原子力への不信感が増幅された。

 いま村上村長が懸念することが、一つある。
 東海村にあるJAEA核燃料サイクル工学研究所の再処理施設にたまった高レベル放射性廃液だ。約400立米ある。六ヶ所村の再処理工場にたまった廃液約240立米に比べて、格段に多い。
 廃液が海に漏れた場合、北半球の海域に及ぼす影響は甚大だ。人類の生存に関わるのではないか、と言われている。

 村上村長は、以下のように語る。
 再処理施設は、原発と違って、どこをどう押さえたら安全か、はっきりしない。安全確保が不十分だ。
 再処理施設どころか原発54基をこんな地震列島に集中立地させたこの国の政府は、原理原則がなく、自分の頭で考えて方向転換できない。戦前、日中戦争の泥沼に入っていった時と同じだ。
 今、原発を止めたらエネルギーの確保はどうするか、という議論の立て方をしている。それは違う。原発政策は福島から出発しなければならないはずだ。地域社会のあり方も、避難している市町村を考えねばならない。明確な救済策を出さない政府には、不信感しかない。

 以上、佐藤章(編集部)「東海村村長の「脱原発」」(「AERA」2012年2月20日号)に拠る。
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【震災】原発>メディアで異変、脱原発世界会議、ふくしま集団疎開裁判

2012年02月17日 | 震災・原発事故
(1)価値の転倒
 メディアの世界で異変が起きている。
 (a)NHK・・・・原発の爆発直後から「放射能汚染地図づくり」シリーズを放送し、陸と海にホットスポットがあることをいち早く報じた。政府の無策を先取りして批判した。これまでのテレビでは考えにくい手法だ。
 (b)朝日新聞・・・・①事故の収束のめどが立っていないなか、「プロメテウスの罠」シリーズで、関係者の生々しい証言をほぼ同時進行で伝え始めた。この種の記事は、事故発生から何年かへて書かれるのが通例だ。②「原発とメディア」では、原発報道の在り方を検証するために、先輩記者も俎上にのせている。身内の批判をもっともしたがらないマスコミとしては、「戦争と新聞」に連なる試みだ。
 インターネットの匿名性と双方向性に対抗する組織ジャーナリズムには、匿名性を捨てる覚悟が求められる。(a)(b)は、いずれも登場人物・制作者の署名性を賭金に、社会的リスクを負おうとしている。これこそスクープの本質であり、署名はあくまで将来にわたる責任を明記する行為だ。
 福島原発周辺の「グレーゾーン」の住民は、出るべきか残るべきか、猶予のない選択を迫られている。その決断にあたり、マスメディアにもソーシャルメディアにも区別なく情報の質を求められているのだ。価値の転倒が起こるのは、当然のことだ。

(2)付随的損傷
 今回の原発事故は、決して「想定外」の偶然ではなく、戦後の歴史を弄んできた者たちが引き起こした必然だ。このことを、どのメディアもはっきりさせるところから始まらなければならない。
 その証拠となる事実をどれだけ集められるか、がジャーナリズムに問われる。
 依拠すべき基準は、無差別な放射線を浴びた原発周辺の住民、わけても子どもや妊産婦など社会的弱者の救済だ。彼らは、大きな災難の付随的損傷( collateral damage )を受けている。「巻き添え」を食っている。
 世界もまた、福島第一原発から出た放射能の巻き添えを食っている、と感じ始めている。1月14、15日、パシフィコ横浜で、「脱原発世界会議」が開催され、20ヵ国以上、1,000人以上が参加した。マスコミは、「原子力村」構成員と袂を分かたなければ報道主体たりえないことが明白になった。しかし、大手新聞、テレビともども、世界会議開催をニュースとして伝えるのみで、ここで何が提起され、どんなムーブメントが始動しつつあるか、という観点で報じたものはほとんどなかった。これでは、当分の間マスコミは「原子力村」の住民登録を抜くことはできまい。

(3)ソーシャルメディアの挑戦
 Our Planet-TV (通称アワプラ)が、(2)の世界会議を2日間にわたりオープンスタジオと各分科会から USTREAM で精力的に生中継した。
 なかでも興味深かったのは、井戸川克隆・双葉町長の話だ。2つ、直言している。(a)子どもたちを救うためには、バスを借り切ってそのまま永田町に乗りつけ、首相官邸の地下室に籠城したらどうか。<これは、小説のように荒唐無稽だが、現職の町長の口から聞くと妙なリアリティをもって迫ってくる。>(b)原子力安全委員会のメンバーが、企業から金をもらって何が悪い、と開き直ったことに対して、<「彼らは犯罪者であり加害者である」と言明し、そういう人間たちは「自分の目の前から消えてほしい」と吐き捨てたのである。>
 <あまり前例のないこれらの発言は、「脱原発世界会議」という開かれた場の雰囲気と、ソーシャルメディアの新たな位置取りが引き出したものと言えるかもしれない。>

(4)はじめに結論ありき
 野田佳彦・首相が「収束宣言」を出した2011年12月16日、「ふくしま集団疎開裁判」が、福島地裁郡山支部で却下された。それ以前も当日も、朝日新聞やNHKはこの裁判を報じていない。
 前記裁判は、14人の子どもたちが原告だ。郡山市に集団疎開を求めるのは、国が基準とする年間被曝量1mSv以下の条件を満たしていない地域(チェルノブイリ基準では避難指定地区)で通学しているからだ。憲法を根拠に、子どもの権利条約の精神を背景としている。
 しかし、郡山市は「不知」の立場をとり、裁判所は全市3万人の児童を非難させることは困難だ、と判断のハードルをわざわざ高めた上で訴えを却けた。
 原告団は、ただちに控訴。さらに、「世界市民会議」で、2月後半に「世界市民法廷」を開く計画を明らかにした。この市民法廷には米国のノーム・チョムスキーが支援を表明している。
 しかし、この分科会にもマスメディアの姿はなく、画期的な裁判の動きはまだ一般に知られていない。
 メディアは、世論調査では「脱原発」がおよそ70%だ、と伝えながら、自らは「原発廃止」を言い出さず、結果的に国の「なし崩し」政策を支持している。

 以上、神保太郎「メディア批評第51回 (1)「脱原発世界会議」が映すメディアの現在、(2)問われつづける政権交代の意義」(「世界」2012年3月号)のうち「(1)「脱原発世界会議」が映すメディアの現在」に拠る。
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【経済】「消費増税は社会保障に充てる」という説明のトリック

2012年02月16日 | ●野口悠紀雄
 増税するためには、国民を納得させることだ。そのためには、説明にウソや誤魔化しがあってはならない。ところが、これまで増税の必要性に係る理由として挙げられてきたものの中には、ウソや誤魔化しがきわめて多い。
 その一例が、「消費税の税率引き上げによる増収分は、社会保障に充てる」だ。「素案」(2012年1月)では「消費税収を全額社会保障4経費(年金・医療・介護・少子化)に充てる」としている。

 税率を当面10%に引き上げる理由について、「成案」(2011年6月)は次のように説明している。
 基礎年金、高齢者医療、介護の3分野の支出は2015年度で合計26.3兆円だが、消費税収入は13.5兆円であり、12.8兆円不足する。よって、それを埋めるために増税が必要で、消費税率でいうとほぼ5%だ。

 この説明は、品のない言い方をすると、ペテンだ。経済学の問題ではなく、論理学の問題だ。
 消費税増税を2015年度までに行わないと仮定すれば、「成案」のいわゆる不足分12.8兆円は他の財源(国債発行収入を含む)によって手当される。
 2015年度に5%増税し、12.8兆円の追加収入を得たとすれば、それまで3経費に充てられていた財源のうち12.8兆円が余る。それは自由に使える収入だ。例えば国債減額に使えるし、そうなるだろう。
 実は、これが増税がもたらす唯一の実質的な効果だ。増税は、国債減額のために行うのだ。しかし、この場合においても、「消費税増税分は3経費に充てた」という説明は間違いではない。消費税収が3経費の範囲内に収まっているからだ。
 しかし、浮いた12.8兆円は、国債減額に充てず、ムダな経費を増やすことにも使うことができる。その場合においても、「消費税増税分はは3経費に充てた」という説明と矛盾しない。要するに、消費税収が3経費を超えないかぎり、どんな財政運営をしたところで、「消費税増税分はは3経費に充てた」という説明が可能なのだ。
 言っても言わなくても結果に差をもたらさないルールは、無意味だ。
 ちなみに、使途の限定化や目的税化は、可能なことは可能だ。例えば、このたび新たに需要ができた復興に係る支出だ。社会保障3経費は、すでに存在し、しかも消費税以外の財源によって手当されている経費だから、以上述べたようなペテンになるのだ。

 ただし、「消費税収を社会保障に限定する」という主張は、一つだけ実質的な効果をもつ。増税分を地方交付税に充てない、という点で。
 それならば、そうとハッキリ言うべきだ。これを実現するためには、地方交付税法や予算総則を変える必要がある。なぜ変えるか、の説明に「使途を社会保障に限定するため」では答にならない。トートロジーだからだ。

 勘ぐれば、「増税分を社会保障に充てる」のは、「社会保障費が今後増えれば、それに応じて増税する」意図かもしれない。実際、「成案」は、将来的には社会保障給付費に係る公費の全額を消費税で賄うことを意図しているらしい。これは、大変危険なことだ。社会保障費の増大に伴って、際限のない増税が許容されてしまうからだ。のみならず、社会保障費抑制の努力がなくなる。
 社会保障について、本来必要なのは、制度を見直して支出を抑制することなのだ。

 赤字削減のための増税、地方交付税にまわさない増税・・・・本音を言わないから、トリック/ペテンなのだ。

 以上、野口悠紀雄『消費増税では財政再建できない ~「国債破綻」回避へのシナリオ~』(ダイヤモンド社、2011)の第1章第3節に拠る。
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【震災】原発>創価学会の「脱原発」 ~政界再編成への波紋~

2012年02月15日 | 震災・原発事故
 池田大作・創価学会名誉会長の提言が、創価学会機関誌「聖教新聞」1月26日および27日に掲載された。
 東京電力福島原発は、<未曾有の被害をもたらしました。>
 <原子力エネルギーを依存する現代社会のあり方や、巨大化する科学技術のあり方に対し、重大な問いを投げかけました。>
 <仮に事故が生じなくても放射性廃棄物の最終処分という一点において、何百年や何千年以上にもわたる負の遺産を積み残していくことの問題性>、<最終処分問題については、まだ根本的な解決方法がないことを決して忘れてはなりません。>
 <深刻な原発事故が再び起こらないと楽観視することは果たしてできるでしょうか。/日本のとるべき道として、原子力発電に依存しないエネルギー政策への転換を早急に検討していくべきです。>

 もともと学会内には、原発に対して推進派と反対派がせめぎあっていた。福島第一原発事故を受けて、公明党は生活重視や人間と自然の調和などを掲げているのに原発推進では選挙を戦えない、とする声が強まり、原則主義の青年部や婦人部の主張が通った。【創価学会の内部事情に詳しい関係者】

 ただ、創価学会が「脱原発」の動きを強めると、原発政策を進めてきた公明党の自民党との距離感が問題になる。
 公明党は、1999年以来、自民党と深い関係を築いてきた。創価学会の信者は827万世帯。参議院選挙(2010年)では比例区で764万弱の票を獲得し、得票数は民主党、自民党、みんなの党に次ぐ4位。この票が、小選挙区で自民党候補を支えてきた一因だ。

 池田提言で、公明党は自民党と組むことができなくなる。中長期的には、政界再編に影響する可能性がある。学会票喪失は困るはずだが、自民党には危機感がない。自民党本部職員のレベルも低下しつつある。政権奪取へのシナリオがまったく描けていない。【ベテラン政治記者】

 これまで公明党は、太陽水素系エネルギー社会をめざし、それまでの過渡的エネルギーとして原子力発電を容認してきた。しかし、今回の重大な原発事故を直視し、原子力発電に依存しない社会への移行に、今こそ取り組むべきだ。思いきった省エネルギーの推進、再生可能エネルギーの導入、化石燃料の高効率化を推進しつつ、段階的に原発を縮小していくべきだ。今後、原発の新増設は、基本的には行うべきではない。核燃料サイクルも、実現性、安全性、経済性はもちろん、外交、安全保障的観点を含めて、慎重に再検討すべきだ。【井上義久・公明党幹事長、昨年9月15、衆議院代表質問】
 この主張は、池田大作の「早急に」の受け取り方次第で加速する。あるいは、再稼働への批判を強める動きにつながる。
 消費税増税に公明党の理解を得たい民主党の原発政策にも影響する可能性も出てくる。

 「もう原発は嫌だ」という人々の声をどう政治化していくか。これが今後の課題だ。脱原発を打ち出している宗教団体は既にあるが、創価学会も明確にした意義は大きい。政党の合従連衡といった戦略レベルではなく、脱原発の流れをさらに強める契機になるのではないか。【鎌田慧・ルポライター】

 以上、伊田浩之(編集部)「池田大作創価学会名誉会長が脱原発を提言 「早急に検討」が投げかける波紋」(「週刊金曜日」2012年2月10日号)に拠る。
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